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6.5話 「5月25日 さくらの独白」

 ――あたしは、ずっとアイツに、世界晴翔に。サイキック部のみんなに。迷惑ばっかりかけっぱなしだった。ずっとずっと、あの時から――


「は? サイキック部に入りたい?」

「そ、入りたいの」


 ふいにあの時の記憶がよみがえる。一年前の4月。同じクラスだったけどあまり話さなかった一人の男子、世界晴翔。そしてサイキック部についての()()()()を知り、それ目当てで彼に話しかけた、愚かな自分。


「お前みたいなミーハーが来るところじゃない」

「それでも、あたし……かなで先輩と同じ部活になりたいの!」

「ほう? 先輩に向かってタメ口とは……」

「いいんじゃないか? アタシには大歓迎だけど」

「私はいいわよ、念動君。かなでがOKするなら」

「やったあ!」


 その放課後、あたしはさっそくサイキック部に突撃。しかし案の定というべきか、力先輩には入部を大反対された。確かにあの時のあたしは、能力も覚醒してなかったから戦力不足だったっていうのもあるけど。でもあれも先輩なりの気遣いだったのだな、と今更ながら気づいた。あたしのあこがれの先輩で人気バンド『リライブ』のボーカル、ひびきかなで先輩。結局あたしは彼女と写さんの許可をもらい、入部することになったわけだけれど。


 その後のあたしは、手に入れた青春を楽しみつくした。確かに“影”と戦わなければいけないという縛りこそあるけれど。でもそんなときは先輩に任せて自分は後方支援だけ。なんて、今は考えるだけで恥ずかしくなるような戦法をしていた。


 そんな自分の弱さに甘えまくったあたしは“極限の心理状態を乗り越える事”で起こる能力の覚醒もできないまま5か月もの時間が過ぎてしまった。そんな自分のせいで、あの日あたしは、最悪の結果を招いてしまったのだ。


「かなで! かなで! しっかりして!」

「うそだろ……? 響が……⁉」

「先輩……っ。やだっ……やだ!」


 その日あたしたちはいつも通り“影狩り”していた。ただしその日二つのイレギュラーが発生していた。一つはその日用事があった晴翔と()()()()()()()が不在だったこと。もう一つは今回の“影”が恐ろしく強かったこと。と言ってもフルメンバーで挑んだら簡単に勝てる程度で、その時も普通の黒が濃い“影”だったら先輩たちの力で圧勝できた、はずだった。


 しかし、その“影”はあたしたちとすこぶる相性が悪かった。その敵には“念動”でも浮かすことができないほど重く、そしてかなで先輩の能力“音破操作”も“影”が彼女の聴力を早々に奪ってきたため発動できず、あたしもその時まともに戦えなかったのでまともに戦えるのは写さんのみだった(しかもその時写さんはまだ“鏡”による複製ができなかった)。


 そんな写さん一人では猛攻を受けきることはできず、そして隙を見事に突かれ“影”の渾身の一撃が飛んできたのだ。このままでは写さんがきれいに食らってしまって死んでしまう。その時、あこがれの先輩、誰にでも優しくて、ライブの時にはきりっとしていて、でも日常ではかなりぬけていて。でも“影”と戦っているときはやはりかっこいい……あたしの“ヒーロー”が痛みに耐えながらも、写さんの前に立ち、身代わりになったのだ。


 そして、彼女はもともと負っていた深い怪我もあったことで、一瞬にして。


「先輩……」


 あの時、あたしの能力が覚醒していれば、先輩を生き延びさせることができたのかもしれない。なのに、あたしが今まで努力してなかったから、先輩を死なせてしまった。


「ごめん、あの日……」

「いいから! あたしなんかに近づかないで!」


 あたしは馬鹿だ。葬式の後、手を差し伸べてくれた晴翔を突き放してしまった。


「あたしなんて……あたしなんて……」

「待てよ! さくら!」


 あたしは逃げた。晴翔から、サイキック部から、不甲斐ない自分から。――その先には……


「さくら……」

「やだっ! だめ! 晴翔まで……」


 “影”が発生していた。晴翔はそいつと戦い、なんとか退けたものの、ひどい重症を負ってしまい、まさに虫の息だった。その様子があまりにもかなで先輩の最後に似ていて、つらかった。


「あたしは……なんで、こんなにも弱くて醜いの? 今までずっと弱くて、ずっと迷惑かけて……っ」


 だめだ、もう涙を抑えきれない。また、あたしは失っちゃうの……?


「そんなこと……ない」

「っ! 晴翔⁉」

「さくらは……弱くない、醜くもない」

「だって……だって……」

「ずっと、居てくれたから」


「ずっと一緒に“影”と戦ってくれたから」


「違うよ! あたしずっと戦わなくてみんなに」

「逃げなかっただけ、怖がらなかっただけ、自分からサイキック部に飛び込んでくれただけ、かっこよかったんだよ。君が」

「それは、晴翔だって」

「俺、怖かったんだ、今まで。逃げたかった時もあった……それだけでも君のことがかっこいいと思うよ」


 晴翔はあたしのことを守ってくれて、そして傷だらけになっても私のことを励ましてくれて。その姿が完全に一致したのだ。その瞬間、彼はあたしの、もう一人の“ヒーロー”になった。


「晴翔……」


 意識が途切れた晴翔の傷口に手を当てる。するとだんだん、彼の傷が癒えていった。


「これが、能力の……」

「……っ、さくら?」

「っ、晴翔⁈」


 思わず晴翔を抱きしめてしまったあたし。あの後すぐにお互い離れたものの、あたしは、自身の“覚醒”を確信した。


 あたしは、この力で彼を助ける。助けてくれる“ヒーロー”を癒す“ヒーロー”になりたい。


 ――その覚悟からしばらく、サイキック部は廃部。あたしたちは離れ離れになった。


 そして、その一か月後、高跳叶飛と出会った。場所はライブハウス、あたしたちはどちらも『リライブ』のファンだった。彼が能力者であること、武笠学園に進学するということを知ったあたしは彼を誘い、妹のもみじとともにチームを組んだ。


 そのあと、時々晴翔たちと協力しながら“影”を倒していった。


 ――そして、今に至るわけだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あたしはゆっくりまぶたを開ける。目に映ったのはここ数日入院している病室。そしてとなりで座りながら眠っているわが妹。彼女はあたしの目覚めを何やら察すると、目を開けた。


「あ、お姉ちゃん」

「もみじ…………」

「なんかうなされていたから心配だったんだよ」

「ごめん、心配させちゃったね」

「ううん、私のことは気にしないで」


 本当によく出来た妹だ。いつもあたしの心配をしてくれている。


「そういえば今日って」

「うん、はるとの退院日だよ」

「そっか、あいつ……」

「お姉ちゃんと叶飛くんはまだだけどね」


 あたしは覚悟を決めたはずなのに、アイツに嫌われたと思い込んで、その隙に“影”に取り込まれ、みんなを傷つけてしまった。しかも、あの後病室で目覚めたあたしは気付いたんだ。


 能力が消えていることに。


「ねえ、もみじ。あたしって…………いらない子かな?」

「⁉ お姉ちゃん! なんでそんなこと言うの⁉」


 案の定というべきか、怒られてしまった。そんな声を聴いて、肩を落としてしまったあたしに対して、もみじは諭すように、言葉を紡ぐ。


「お姉ちゃんの能力がなくなっても、それがお姉ちゃんのすべてじゃないよ。」

「でも、あたしは」

「はるとならこう言うんじゃないかな、『君は君だ』って能力なんて関係ないって」


 …………ははは、なんで同級生のあたしよりこいつのほうが晴翔の理解が深いのだろう。すごく悔しい。そうだ、たぶん彼ならそう言うにきまってる。絶対に存在を否定するようなのと言わないからな、アイツ。


「……あれれ~? お姉ちゃん、お熱っぽいけど~」

「う、うっさい!」


 くそっ、不覚にも惚れ直してしまった。


「覚えてろ! 絶対にすぐに治して一緒に戦ってやる! 土下座して待ってろ!」

「ヒューヒュー! お姉ちゃん、さっすがー!」


 冷やかしてくる妹をよそに、あたしはもう一度あたしなりの“覚悟”を決めたのだった。


 ――そのころ、彼が死闘を繰り広げているとはつゆ知らずに。


“生徒総会”まであと31日


~続く~

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