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第六話 「5月25日 “正義の翼(ジャスティス・ウィング)” 前編」

「やはりサイキック部は悪! 正義の名のもとに制裁を加える!」

「違う違う! 俺が殺したんじゃない!」


 なんだよこいつ! しかもサイキック部を目の敵にしてるし……それに正義翼だと?


 俺の記憶が正しければ、正義翼という男はこの世界の中で10本指に入るほどの強さを持つ能力者だったはず。それがどうしてここに……?


「君がいない間、サイキック部の調査をしていたんだ。特別警察委員として、ね」

「それって……」


 さっきまなるさんが言ってたことじゃないか! まさかこいつ……


「サイキック部には以前からこの都市や学園の暗部と何かしらの接点があった、という噂があってね。もともと上部は相手にしなかったんだが、数か月前にサイキック部が廃部に追いこまれたりなんだリで怪しい動きが多かったから僕を潜入捜査させたんだよ。」

「俺がいない間にそんなことが……」


 全く知らなかった。先輩たちや先生、先に退院したもみじが日替わりでお見舞いに来てくれたが、そんなこと一ミリも聞いていない。


「調査中、アイツらなかなか尻尾を見せないせいで本当に癪だったんだよ。でも……今僕は確信に至ったんだ。君が、僕のバディ、弐重玖保まなるを殺したという証拠でね!」


 静かな口調で、でも強い怒りが見え隠れしている。その気迫に俺は一瞬押されそうになった。


「だ、だから! 俺はやってない! 一部始終を見ていたのか⁉」

「いや、僕がここにたどり着いたのはさっきさ。さっきまで武笠学園で調査していたからね。でも、誰が見ても一目瞭然じゃないか。僕の身近な人物であるまなるの死体の横にサイキック部の君がいた、これは動かぬ証拠! 君はサイキック部について多く知ってしまった彼女を始末したんだろう?」


 ゆっくりと、確かな歩みで俺に近づいてくる翼。険しい表情の彼の口調はどんどん荒くなってくる。


「よくも……まなるを! 絶対に許すことなどできない悪だ! キサマは!」


 そのまま彼は右手に片手剣を生成する。くそっ、やるしかないのかよ!


「なら、俺がお前を倒して! その後にゆっくりと潔白を証明してやるよ、来い!」


 明らかに無謀な戦いだが、今の俺にはそれしか道がない。こいつと言い合っても押されてしまうし、こいつの“固有能力”の性質上、逃げても追いつかれるのは確実だ。俺はいつものように剣を構えると、翼と向かい合う。今に自分には“治癒”がある。最悪持久戦で決めれるかもしれない。


「そうか、君が僕とね。勝てる確率なんてほぼないと思うけど、いいのかい?」

「ああ、かかってきやがれ」


 俺は翼に向かって剣を振り下ろした。それを彼はもちろん剣でいなす。そして俺も同じように彼の斬撃を剣で受け止める。


「へえ、なかなかやるじゃないか!」

「っ、驚いたか?……これでも反射神経には自信があるのでね」

「本当に……癪に障るぐらいにね!!」


 翼はいったん俺との距離を取ると彼の“固有能力”を発動させた。彼の背中から大きな“翼”が生えた。


「本気で来やがったな!」

「本気じゃないけどね! でも君は確か“固有能力”がないらしいじゃないか。ならこれで十分」


 彼の翼がはためき、その瞬間こちらに向かって暴風が起きた。そして俺は飛ばされ、砂利だらけのところに転がってしまう。


「ぐっ……」

「この程度か? 笑わせてくれる! どうやってまなるを殺したのか疑問だが、ここで消えてもらおう! ……って、あれ?」


 翼が見た光景。たぶんそれは傷だらけのはずの俺がけがを治しながら立ち上がるものだった。翼が驚愕の表情を浮かべたのが目に見えた。すこし気持ちの良い瞬間だ。


「どうゆうことだ! 君は、そんな……!」

「どうやら今のお前は一昔前の情報で動いてるみたいだな! しかも、これだけじゃないぜ!」


 俺は地面の石をいくつかわしづかみすると、さっきの“化け影”戦のように彼の“翼”に投げつけた。それは空中で急加速して翼の“翼”に接近する。


「これは……ふんっ!」


 残念なことに石たちは羽の羽ばたきで勢いを消されてしまったものの、彼の表情は崩れたままだ。


「二つの能力を持ち合わせている……だと?」

「ああ、俺の能力は“手を握った相手の能力を自分の能力にできる”能力なんだ。詳しくはわからないがな。てことはまなるさんと仮に戦っていたとしたら、彼女の手を握ることなんて不可能だろ?」

「確かにそうかもしれないが、それは発動条件が君の言った通りの場合だ。信用に値しない君の言葉をそうやすやすと信じるほど僕が馬鹿だとでも思ったんじゃないか? そうだろ?」

「違う! そんなこと」


 やっぱり話し合いじゃ通じないみたいだ。でもどうする? もう使える能力全部使い切った気がするのだが。と俺がもたもたしている間に翼の準備は完了していたようで、彼は翼を広げると、俺に向かって滑空しながら剣を振り下ろしてきた。


「くらえ! “正義の剣ジャスティス・ソード” !!」

「っ! まずい!」


 俺は回避が間に合わず、腕に斬撃を入れられた。


「ぐっ、うう……」


 腕が、切り落とされている! 俺は激しい痛みに耐えながらも“治癒”が一瞬で効いたらしく、瞬く間に腕が再生した。え? 強すぎん? “治癒”⁉


「ほう?思ったよりも強力な能力みたいだね、それ」

「あんなダサいネーミングの技に負ける俺じゃないからな!」


 まさか直撃加速ストライク・ジェットなんて名付けたのこいつじゃないよな? と疑い始めた俺に向かって翼がまた話し始める。


「そんな能力なら、かなりの消耗戦になりそうだね。でも僕はそんなのに付き合っている暇はないんだ。だから、君には特別に僕の“もう一つの能力”を見せてあげよう」

「 “もう一つの能力”?」


 まさかこいつも“複数能力持ちマルチスキル”なのか⁉


「これがそうだ!」


 とたんに翼の周りに閃光が走り、まるで彼が天から舞い降りたような神々しさを演出していた。


「これが“正義”だ!」

「 “正義”⁉」


 確かに彼は“正義そのもの”だ。そう思わせるような説得力が彼の姿にあった。なんなんだ? この能力は!


「この能力は後付けのものでね、『悪だと認識した相手と戦うとき、自身のあらゆる能力がばいになる』という、どちらかというとサポート寄りの能力なんだ。でもこれほど僕にあう能力はないと思わないかい?」

「……確かに、すぐ“正義”だとか“悪”だとか決めつけるお前らしい能力だな」


 にしても、あらゆる能力が倍だと⁉ つまり走力とか筋力とか知力とか……たまったもんじゃねえ!


「さあ、そろそろ終わりにしようか」


 翼がさっきよりも明らかに速い速度で接近してきた。俺の反応は間に合わなかった。さっきよりも重い一撃を入れられ、どこかが取れる事はなかったが腹を一気に切られた。


「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「おや? まだ息があるようじゃないか」


 ひどい痛みが襲ってくる。もう死んじまったほうがましなくらいのものが。しかし“治癒”能力のお陰で何とか全回復できた。


「でもそのままじゃ、いつか粒子が切れるぞ」

「はあ、はあ。……くっ、確かにな。現にもう切れそうな気がしてきたぜ」


 だんだん意識がもうろうとしてきた。迎えが近いのかもしれない。思ってたより燃費悪かったんだな、この能力。


「……そうだね、ならこれでどうだい? 僕と取引してみないか。本当は君を今すぐにでもあの世に送りたい気分だが、今回は見逃してやろう」

「へー。気が利くじゃねえか」

「ただし、君がサイキック部のことすべてを話してくれるのなら、ね」


 やっぱそう来たか。大体こういう感じだもんな、命惜しくて情報漏らしちゃう奴。


「でも、お前が思っているようなものじゃないぜ。例えば……そうだな、力先輩のパンツはくまさん、とか」

「ふざけているのか? キサマ」

「だって、俺が知っている最高機密情報なんてこれくらいしか」

「ふざけるなといっただろう! まなるを殺しといて、挙句の果てにこんなふざけたこと言いやがって!」


 確かに不謹慎だったかもしれないな。余計怒らせてしまっただけのような気がする。今のこいつに攻撃されたらさすがにひとたまりもないだろう。 “治癒”を使ったところで粒子を使い切って消滅してしまうだけだ。


「……僕は聞いているぞ。 “プロジェクト パーフェクト・ワールド”についてね」

「……っ」

「心当たりあるだろ?」


 こいつ、なんでそれを! こいつに仕事を任せた上部が流したのか⁉


「反応があるっていうことは、君はやはり“鍵”を知っているんだね」

「それを聞いてどうするつもりだ! サイキック部とは関係のない話だぞ」

「さあ。興味を持ったからね。それによってもしかしたら、願いをかなえられるかもしれないからね」


 こいつの願い? どうでもいい。そんなことのために教えてやるものか!


「……っ!」


 俺はさっきと同じように意思を掴むと投げる体勢になった。狙いを精密に狙えるように片眼をつむる。


「また“直撃加速ストライク・ジェット”かい? 本当に鬱陶しいからやめてくれるかな、その能力はまなるのものなんだ! キサマのような奴が使う力じゃない!」

「今の所有者は、俺だ」

「ほんとに殺すよ? いいんだね」

「やれるものなら……やってみろっての!」


 俺は、()()()()()()()()石を思いっきり投げた。その時“翼”をはためかせ始めた翼は驚いて尋ねてきた。


「っ⁉ 何が目的……まさか!」

「その、まさかだよ!」

 

 投げた石はどんどん加速していきついには、その先にあった古びたコンクリートの壁に直撃した。同時に俺は鼻と口を隠し、反対側を向いた。コンクリートから粉じんが舞う。そしてこの風向きと翼が起こした風の方向を考えれば、


「まずっ……ああー! 眼が……っ」


 俺は翼が目を押えてる間に逃げることにした。あまりまぶたは開けられないが、覚えたとおりに戻れば……


「小癪な!」


 翼が“翼”で一気に舞っている粉じんを取り払う。くそっ、思ったより復帰が早い!


「僕の仲間を殺した上に逃げるのか! 卑怯者!」

「やっぱり、一筋縄じゃだめか……」


 俺と正義翼は再び向かい合う。こちらは体力も“能力粒子”も限界に近い。でも“あの事”は“目的”は絶対に知られないように、サイキック部のみんなに顔合わせられるように。今、やるしかない。


“生徒総会”まで残り31日


~続く~

 

 



次回は番外短編です。

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