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第五話 「5月25日 “直撃加速(ストライク・ジェット)” 」

 ――あれから10日が経った。その間俺が何していたかというと


「退院、おめでとうございます」

「いえ、こちらこそ。今までありがとうございました」


 入院していた。今俺は担当の看護師さんにお礼を言って外に出るところだ。


 あの夜、俺が倒れたとき。正直死を覚悟しきれていなかった。でもその思いがどうにかなったのかは知らんが次の朝俺が目覚めたとき、なんと身体のどこにも怪我がなかったのだ。あまりにも不思議で……だってあのとき俺は確かにひどい怪我をしていたし、さくらは能力を使ってなかったし、寝ている間にさくらが能力を使ったんかなと思ったらその時はまだ彼女の意識は回復していなかったというわけで。


「謎すぎるだろ。しかもしばらくしてお見舞いに来てくれたみんなは『俺が勝手に回復していた』とか言うし……」


 深く考えすぎても仕方ない。俺は自動ドアのところまでたどり着くと、ウイインと開いたドアから流れ込む外の空気を吸った。


「やっぱシャバの空気はうめーぜ!」


 俺はずっとあこがれていたセリフを吐き出すと満足してそのまま歩きだし――


 ドン!


「いたっ!」

「くそっ、周り見やがれ小僧!」


 走ってきたおじさんにぶつかり、挙句の果てに怒られた。理不尽だ!


「その人! 泥棒です!」


 後ろから走ってきた女性が叫ぶ。え? アイツ泥棒なの? にしてはあまりにも“そのまんま過ぎる”ってゆーか……


「ちっ」

「あっ、待て!」


 再び逃げたおじさんを俺はとっさの判断で掴んだ。ふう……我ながら素早い判断。惚れ惚れするぜ。


「くそっ、どけ! さもないと」

「やだね! って……」


 おじさんがポケットから取り出したものを見た俺は愕然とした。彼が握っていたのは長さ15センチぐらいのナイフだった。それは入念に研がれたような輝きを放っていた為、素人の俺が見ても本物だとすぐに分かった。治安わりーなこの町。


「こいつがどうなってもいいのか!」

「くっ……」


 おじさんが俺を人質に取り女性に脅しをかける。病院出たばかりなのに、ひどすぎるよお……


「さっさと放しなさい! 今なら軽い罰で済むわ!」

「う、うるさい! おらは今すぐ金が欲しいんだ!」


 おじさんの手が震えている。どうやら深い事情がありそうだ。


「むぐ、むふう」


 口を押えられてなかなか声が出せない。


「うるさい小僧だ、ほら! 見逃せ!」

「こうなったら無力化するしか……でも人質が」


 見た感じ、女性は見覚えのある学校の制服を着ているため学生っぽいが……無力化? なんか物騒だな。


「な、なんだよ! こいつが死んでもいいのか!」


 おじさんがナイフを振り回してる。めっちゃアブねーなおい! でもそのおかげで隙だらけだ。俺はおじさんの脇腹を肘で殴ると、よろめいたその身体を引きはがし、自由になった。俺は向こうで驚愕の表情を浮かべる彼女に叫ぶ。


「ほら、早くやれ!」

「えっ、ええ……犯人を無力化します!」


 彼女は制服からゴムボールを取り出すと犯人に向かってそれを投げた。は?そんなんで無力化なんて……ん?

 

 そのボールはだんだん加速していき、まるで弾丸のような勢いでおじさんの腹に直撃した。


「ぐはっ……」


 おじさんは一瞬で倒れこんで身動きを取らなくなった。どうやら気絶したみたいだ。


「ええ、保護をお願いします、はい」


 女性は連絡を取っている。俺はそれが終わった後、溜息をした彼女に話しかけた。


「さっきの力って……」

「え?」

「え?ってさっき犯人に使った力って」

「……一般人への情報開示は違反なのですいません」


 女性は目をそらし口を閉ざす。なるほど、やはりさっきのは能力か。


「俺も、能力者だから」

「へ?」


 俺は周りの人がこちらを向いていないことを確認すると剣を生成して見せた。


「ほら」

「本当だ、しかも粒子が濃い。なかなかの能力をお持ちなんですね。とりあえず非戦闘時の武器生成は銃刀法違反なのでお縄ですよ」

「いやそれは勘弁!」


 俺は剣を消去すると彼女にもう一度たずねた。


「で、さっきのは」

「 “直撃加速ストライク・ジェット”です」

「ストライク・ジェット……っふ」

「笑わないでください! これつけたの私じゃないので!」


 あまりにも……なんか、ふふふ。あ、なんかこの人めっちゃ怖い目でこちらを見つめてきたんですけど。俺はお縄にかかってしまう前に話題を変えることにした。


「その制服って確か」

「ええ、私は皆坂みなさか学園の生徒なんです。あなたも見た感じ学生っぽいですが」


 皆坂学園か。あそこはいわゆるお嬢様学校とよばれる名門私立高校だったはずだ。


「俺は武笠学園の二年だ」

「武笠学園……?」


 訝しむような眼で俺を見つめる彼女。何か知っているようだ。


「どうかしたか?」

「いえ、なんでも」

「ところで、君かなりこういうの手慣れている感じあるけど」

「こういうの?」

「ほら、さっき犯人を捕まえたりしたときさ、なんか無力化とかなんか連絡とったりとか」


 この人なんか学生にしてはまるで警官みたいな動きからな。何かしらの組織にでも入っているのでは? と考えてしまう。連絡に使っていた機器も特別仕様っぽくて耳につけてたし。


「そうですね……とりあえず場所変えましょう。ここは目立ちすぎますので。ちなみに犯人はそのうち迎えが来ますので」

「ああ、俺もそう思っていたところだ」


 確かに倒れたおじさんの横で高校生男女が話しているのめっちゃ不審だしな。おまけにここ、病院の前だし。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そんなわけで俺たちは人があまりいない喫茶店に場所を移した。ちなみに犯人はもう引き渡し済みだ。


「特別警察委員?」

「そう」


 俺の目の前で直径50センチぐらいのビッグパフェプリンアラモードを貪る彼女――弐重玖保にじゅうこぼまなるさんは俺が聞いたことあるようなないような名を出してきた。


「この都市、あんまり国の機関を置いていませんの。警察とかですね」

「確かに見たことないな。パトカーとか」


 俺がこの都市に越してきたのは高校入学時の1年ちょっと前。それから今までサイレンの音を聞いていない。かといってこの都市の治安がいいと言えばそうでもなく、俺も何度か犯罪に巻き込まれたことが……。あれ? ここ治安悪くね?


「この都市ではさっきのような普通の犯罪から超能力の絡む特殊事件もあるでしょう? それにはさすがに警察でも対抗できません。そこで私たち特別警察委員の出番なんです」

「でもなぜ君のような学生まで? 危険じゃないのか?」


 最も俺が言える事ではないんだが。


「これはさすがに知っていると思うんですけど、能力者は現在15歳から25歳までしか確認できていません。そしてその中でも強力な能力が使えるのはひとつまみ。しかもこの都市の治安の悪さで……そりゃ学生に頼らざる負えませんから」


 そうか、確かに俺たちのような“影狩り”もそんな扱いだもんな。ここ、表向きは平和な科学先進都市だけど、その裏にはたくさんの学生たちの犠牲がある。そう考えると元々思っていたが闇深そうなんだよな……触れたくないが、いつかは“目的”のために近づかないといけないことだしな。


「ところであなた、武笠学園の生徒でしたよね?」

「ああ、それがどうしたんだ? さっき引っかかっていたっぽいが」

「ええ、こんなことを聞くのもなんですが」


「……サイキック部って知ってますか?」


「⁉」


 思わずコーヒーを吹き出しそうになってしまった。俺はその様子を不審がるまなるさんに対して何事もなかったかのように落ち着いた様子を見せると、彼女はゆっくりと話し始めた。


「サイキック部に関して最近調査してまして、このことは私もあまり知らないことなんですけども。私の元バディといいますか、その人がかかわっている捜査なんです」

「で、サイキック部がどうしたんだ? あそこはすでに廃部したぞ」


 俺はもしもこの人たちが敵だった場合を考え、素性は明かさずに話すことにした。自分が関わっていることを他人事のように言うのは正直難しいが。


「ええ、しかし最近サイキック部だった人たちの行動が活発になっているといいますか、そんな感じなんです。そして彼らは何か学園や都市の暗部と接触しているとのうわさもありまして。それを知った生徒会長が廃部に追い込んだとかなんとか」

「廃部に追い込んだことばれてるのか」


 璃々奈は「証拠なんてないから、私がしたことなんて誰もわかるはずないわよ!」とか言って調子乗ってたけど、やっぱばれてたんだ。それにあいつは闇だとか暗部だとかそんなの多分知らなかったと思うし、廃部に追い込んだのもそんな理由じゃない気がする……ようなしないような。


「あなた、このこと知っているのですか? 実際操られていた方たちは記憶にない、とのことでしたが。それなのに知っているっていうのは……もしやあなた関係者?」


 あ、やべ。早々にぼろ出ちまった。どうしよう、もうなんかここで釈明したほうがいいんじゃないのかな。よし、言うか!


「そう、俺こそがサイキック部員の一人だ!」

「さらっとすごいこと言いましたね! というかわざわざそれ言う⁉」


 まなるさんはガタっと椅子を鳴らして立ち上がったが、その後マスターの穏やかに見守るような目線と目が合うと「すいません」と言って席に着いた。


「ここから先は本当に機密事項だらけになりそうですので、人が本当にいないところで話しましょう」

「まあ、それはいいんだが……」

「どうかしましたか? 何かご不満でも?」


 俺は彼女が食べるビッグパフェを指さす。


「太るぞ」

「このスプーンがあなたの脳をずっきゅんと貫通しますよ♡」

「すいませんごめんなさい許してください」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方も近い、人が全くいない街角の公園。そのベンチで俺らは話の続きをすることになったが……


「「……………………。」」


 いや気まずっ! そりゃ人のいない公園で男女が二人っきり。しかも並んで座っているのが余計に「付き合いたてカップル」みたいな雰囲気を醸し出している。いや璃々奈は幼馴染だし慣れているしノーカンっすよ。この人とは今日知り合ったばっかりだし。


「ところで……その……サイキック部についてですが」

「ああ……そんな話、だったな」

「えっと、暗部とかとのつながりっていうのは……」

「俺の知っている感じそんなことはないはず……だが……」


 そう、俺たちになんも怪しいことなんてないはずだ。さくらは“影狩り”しかしてないし、俺、力先輩はサイキック部立て直しに動いているし、木ノ原先生は……怪しいけど俺れを巻き込むようなことはしないはずだ。となると残りは鏡美先輩。確かにときどき“影狩り”したりこの前のようなときに戦っていたりお見舞いに来たりとかはあったけど、基本的に何やってたかは謎のままだ。うーん、思ったより潔白を証明できないな……


「やはり、何かしらあるんですね!」

「いや、まだなんも言ってないだろ」

「私の直感が訴えています!」

「直感で物事決めんな! それでも警察の代わりか⁉」


 なんだろう、この人ちょっと疲れる。元バディとかって人大変だったんだろうな……


「やっぱりサイキック部は黒だと! 思います!」

「ちげーっつの!」

「嘘だ! そんなの」


 ピピピピピピ、と二人の携帯が同時に鳴った。


「これって“影”!」

「場所は……近くみたいです! いったん休戦で急ぎましょう!」

「いや俺ら戦ってねーから」


 言いながらも俺たちは走り出す。夕陽の時は近い。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ここか!」


 俺らは日光がかなり入ってくる工事現場にたどり着いた。そこには、黒が少し濃い“影”が暴れていた。


「弱くも強くもない個体ですね。ふたりがかりだとすぐに倒せますね」

「タイムリミットには気をつけろって……あ」


 まずい、夕陽だ。そうこうしているうちにもうリミットは過ぎていたみたいだ。


「ああ! あなたがぼうっとしてるから!」

「はあ⁉ お前が言うなよ! ちっ、やるぞ」


 俺は剣を、まなるさんはゴムボール……ではなく粒子で形作られた球を握ると“化け影”に攻撃を仕掛けた。


「これでもくらえなのです! “直撃加速ストライク・ジェット” !!」


 まなるさんが投げた球はそのままぐんぐん加速して“化け影”に確かなダメージを与えた。俺も何度か切りかかる。やはりこの前ほどの強さはないようで、相手も少しずつだがよろめいたりしている。


「これは、いける!」

 

 まなるさんが手ごたえを実感して喜びに浸っている。


「……やっぱその名前、気に入ってるじゃん」

「うっさい」


 ぎろりと睨まれる俺。だって、あんなに技名のように叫んでたじゃんかよ! と目線同士が火花を散らしていると“化け影”が再び体勢を取り戻してきた。


 また身構える俺たち。しかしそれに対して“化け影”が行ったことは、


「あいつ……! まさか」


 暴れだしたのだ。手(と思われるもの)を振り回し、周りを破壊し始めた。そしてこの場所が場所で、めちゃくちゃ鉄骨とかが落ちてくる。


「危ない!」

「きゃあ! ……はあはあ、ごめんなさい」


 危うくまなるさんが鉄骨の下敷きになるとこだった。間一髪押し出せたが……


「くっ……いったあ……」

 

 膝がめちゃくちゃすりむいている。まじで退院当日にケガするとか最悪だよ。ところがなんと、その傷がみるみるうちにふさがっていくではないか! て、え? 


「治ってる」

「不思議……あなたもしかして“治癒”能力の人?」

「いや、それはまた別の……」


 とここまで話したところでまた動き出す“化け影”。夜もだんだん近くなってきた。


「手遅れになる前に倒そう!」

「ええ!」


 俺たちは速攻をかけることにした。相手に隙ができたら即攻撃を叩き込んでいく。俺が危ないときはまなるさんが能力で無理やり相手をよろめかせていく。この作戦は有効で、どんどん相手の体力を削っていくのがすぐに分かった。


「いけるぞ、これ!」

「はい! 畳みかけていきましょう!」


 しかし、そううまくいくものではなかった。やつはおもむろに鉄骨を掴んだ。


「?」

「武器にするつもりか? だとしてもよけて行けば問題な……」


 なんと、そいつはそれを投げたのだ、まなるさんに向かって。


「はっ……」

「まなるさん!」


 間に合わなかった。鉄骨はまなるさんの身体に突き刺さり、彼女に致命傷を与えた。


「まなるさん! しっかり!」

 

 俺はまなるさんの手を掴んで呼びかける。そうだ! “治癒”を使えば! 


 俺は傷の部分に手を当てて念じたが“治癒”は発動しない。どうして……さっきは何だったんだよ!

そして、俺は彼女が絶命したことを確信すると泣き叫んだ。今日一日の付き合いだったのに、昨日まではほぼ他人だったのに、でも彼女と話すのは実は心地よかった、そう感じていたのだろう。俺は()()失ってしまったのだ、大切な人を。


 そうしていると、握っていた手が急に光が発した。あの時と同じ……まさか!


 俺は敷き詰められていた石をいくつか掴むと念じながら“化け影”に向かって投げつけた。するとなんとそれは急加速を繰り返し、超スピードでダメージを与えたのだ。


「これは確かに…… “直撃加速ストライク・ジェット” !!」


 俺が自分の能力に確信を持った、その時だった。俺の能力はきっと“手を握った相手の能力を自分の能力にする能力”だ。そして“治癒”が他人に使えなかったことから、もしかしたら自分の能力にするのは“所持した能力は元のものより劣化する”とかかもしれない。俺は怒りと悲しみと……そして興奮のままに“化け影”に攻撃を仕掛けた。


 どうやら俺バージョンの“直撃加速ストライク・ジェット”は能力粒子系のものを飛ばせないみたいだ。しかしこの場ではあまり関係ない。俺は落ちていたハンマーなどを投げていき、そして夜になる寸前“化け影”を消滅させた。


「まなるさん……」


 俺はまなるさんの亡骸に身を持っていくと少しずつ、嗚咽を交えて話した。


「まなるさんの能力のお陰で、俺、勝てたから……だから」

「おい、キサマ」


 後ろから不意に声がした。俺が振り向くとそこには……また別の学校の制服と思われるものを身にまとった男子学生がいた。


「まなるを……よくも!」

「は?」

「しらばっくれても無駄だ!」


 まさかこいつ……俺が殺したとでもおもっているのか?


「いや、だから俺は……」

「国立武笠学園高等部、二年B組出席番号14番。世界晴翔」

「⁉」


 なんでこいつ知ってるんだ?ただ者じゃない……!


「おまけにサイキック部! やはり……やはりサイキック部は()だったんだな!」

「なんだよ! サイキック部が悪だなんて!」


 こいつ、何を知ってるんだ?


「やはり悪は正義の名のもとにおいて滅さなければならない! この僕、正義翼せいぎつばさによって!」


 正義……翼⁉ そいつって確か……⁉


~続く~

第一章中盤もクライマックス!

ぜひ感想、ブクマよろしくおねがいします!

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