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第三話 「5月15日 さくらと忍び寄る“影” (前編)」



「なんだこの量!」

「多すぎだろ……」


 向かった先の比較的静かな郊外。俺らを待ち構えていたのは“影”の大群だった。一体一体の濃さは薄い代わりにわらわら寄ってくる。うえっ、きも……。


「くそっ、一気にたたくぞ、晴翔!」


 先輩が目を閉じ念じ始めた。今回の能力使用対象は大量なので先輩は少し能力の“溜め”ないといけない。俺はそれを邪魔しないように、近寄ってくる敵を片っ端からたたき切っていく。しかしあまりにも大勢の“影”たちに剣一本で時間稼ぎできるわけもなく


「ぐっ、まずい……!」


 やや押され始めた。まずい、このままじゃ先輩もろとも飲み込まれてしまう。こんなところで全滅なんて最悪だ。さくらにも謝れてないし、しかも大切な“目的”すらも果たせないまま終わってしまう。そんなのなんて嫌だ。しかしそんな俺の心の叫びはとどかず、だんだん視界が黒く……染まって……

 

 いきそうになったとき、突如“影”たちの目当たりのところが赤く光った。そして奴らは急に歩みを止め、そしてあろうことか同士討ちを始めたのだ!俺は一瞬何が起こったのか理解が追い付かなかったが、やがて一つの答えにたどり着くと少し呆れを含んだ溜息を発した。


「よし、準備完了したぞ。てあれ? なんかやりあってね?」


 先輩のチャージが完了したようだ。しかし案の定といっていいのか、困惑していらっしゃる。


「そんなこといいですから、やっちゃってください!」


 俺は必死に先輩に呼びかける。すると同時に“影”たちの目の色が戻り、再びこちらに寄ってきた。


「わかった! はあっ!」


 先輩が“念動力サイコキネシス”を発動する。すると大量の“影”が一気に浮いてどんどん高度を上げていく。そして高度100メートルあたりまでいったところで先輩が拘束を解く。それがこの量を上げることができる限界だからだ。


 空中拘束が解除された“影”が次々と地面にたたきつけられる。しかし“影”は粒子の集まりの為、そこまで落下ダメージを受けるわけでもない。ただ、体型を崩したことにより地面でしばらく動けなくなっている。


「今のうちに一気にたたきましょう!」

「よし、やるぞ!」


 俺は剣を、力先輩は短剣を生成する。そう、俺たちはこれが狙いだった。俺たちは動けなくなったた“影”にとどめを入れていく。そうしていくたびに俺らの持つ粒子タンクに“影粒子”がたまっていく。


 この“影粒子”というものは“影”から直接採取できる粒子でこのままでは人体に悪影響を及ぼしてしまう。これを提出すれば、都市側が浄化して“能力粒子”としてみんなに供給されるのだ。特に俺らのような“影”狩りは優先的に粒子がもらえるほか、学園に対して都市から報酬が与えられるみたいだ。それもあってか武笠学園は学費が安いことで有名らしい。


 しかし倒しても倒してもきりがない。倒れている“影”を消滅させるのに2,3発与えないといけないし、まずもともとの数が多すぎる。そうこうしているうちに“影”のやつら、だんだんもぞもぞ動き出したし……


「先輩! 次もよろしくお願いします」

「だめだ、さっきので大分消耗しちまった。次はほんの数体しかできねえ」


 そんな!俺はそんなに粒子を消費したことがないが、たしかに“固有能力”は燃費が悪いように感じる。もみじもあの戦闘の後ぐっすりだったし、さくらは“治癒”すると沸点が低くなるような……それはもともとか。とりあえずさっきのが先輩のフルパワーだったようで次は同じように出来ないらしい。


ゆら……もぞ……


 まずい、起き上がり始めた。俺は後ろをさっと見たが“頼みの綱”はもうすでに帰ってしまったようだ。くそっ、アイツ……。なんて言ってる場合じゃない。俺はできる限り“影”を処理したが進行に間に合う訳もなく“そいつら”はさっきよりも勢いよく寄ってきた。


 ぐっ、夕暮れも近い。もし間に合わなかったら昨日のようにこいつら全員が“化け影”になってしまう。そうなってしまったら一巻の終わりだ。なんとかしないと。


「晴翔、逃げろ!」


 先輩が叫ぶが今走っても絶対追いつかれるだろうし、なんなら都市中心部への侵入も許してしまうかもしれない。今逃げるのはかえってリスキーだ。


「どうしたら……」


 しかし、その時急に何かが“跳んだ”ような風圧が俺らに届いた。そしてー


「先輩たちには指一本触れさせません! “大衝撃ビックバン・インパクト” !!」


 “跳躍”の能力者、毎度おなじみ高跳叶飛が跳躍からの落下衝撃で一気に“影”を吹っ飛ばした。


「はると、ちから先輩、遅れちゃってごめん!」


 そのあと少し遅れてもみじがやってきた。はあはあと息を切らしているので相当走ってきたのだろう。しかし、さくらはなぜかそこにはいなくて俺は周りを一瞬見たがもみじによって「お姉ちゃんは遅れてくるよ」と説明されたのでほっとした。昨日のことを引きずってて元気がないんじゃないか心配だったからな、原因俺だけど。さくらが追い付いたら今度こそ謝ろう。


「よーし、強力プレイだね! まずはわたしが! えーい!」


 もみじが杖を振りかざし、得意の“植物成長”で残っていた“影”をどんどん拘束していく。


「僕が跳躍しているときに種もまいておいたんですよ」


 と、高跳とかゆう有能後輩がめちゃくちゃドやってやがる。さすがチーム、連携に無駄がない。


「よし、もみじちゃんの限界が来る前に畳みかけるぞ!」


 先輩の指示で俺ら男三人が一気に“影”を片付けていく。そして、夕暮れの直前。俺たちは“影”殲滅に成功した。


「やったー! えへへへ」


 今回はもみじが限界を迎えることなく終わらせることができた。本人は今回の活躍をべた褒めされてデレッデレだ。かわいい。まあ、厳密にいえば一気に“影”を倒しながら種まきした高跳や、先輩も称賛されるべきだが……俺?雑魚処理しかしていないのでそこまでではないな、うん。

 

「あれ? さくらは?」


 いくら遅れてくるって言っても遅すぎる。俺がひそかに焦っていると、もみじの携帯にピロリンと一件の通知。それを見るともみじは申し訳なさそうにそっと口を開いた。


「お姉ちゃん、今日結局帰ったって。謝ってる。」


 俺はそのメールを見せてもらったが、そこには結局今日は帰宅するという事、そして来れないことに対しての謝罪がそっけなく書かれていただけだった。俺は一瞬寒気を感じた。もしかしたら自分のせいで、さくらを、いままで思ってたよりも傷つけていたんじゃないかと。


 結局そのあと白けてしまったので戦勝祝いをする気にもなれず、おのおの帰路に就いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 帰り道の途中、寮の近隣の公園。俺はひとりの人影を見つけた。ちょうど今、さくらの次に会いたかった人だ。俺はそいつの好きなジュースを近くの自販機で購入すると、そのベンチに腰掛ける彼女の頬にあてた。


「ちべたっ! て……()()()()()⁉ どうして……」

「どうしてって……寮近いしさ、()()()


 俺は自分の分のジュースのキャップを外して一飲みすると、武笠学園生徒会長で“精神操作マインドコントロール”の能力者、そして俺の幼馴染である王野璃々奈の隣に腰掛けた。


「……くれるの?」

「ああ、さっきのお返しだ」

「そっか……ばれてたか。じゃあ、遠慮なく」


 璃々奈はそっとジュースを受け取ると、ぐぴっと一飲みした。


「ぷっはー! やっぱり安定しておいしいよねこれ!」

「ほんと、どっかのおしとやか生徒会長がすることじゃないな」

「こんなことするのハルちゃんの前だけなんだからね!」

「……っ!」

「へへ、惚れちゃった?」

「なわけねーだろ」


 いや、まあ一瞬ドキっとしてしまったが……つかなんだか安っぽいラブコメみたいで寒いわ。ちょっと冷めすぎだな俺。なんか自分に対してうんざりしてきた。もしかしたらさくらといいこいつといい異性相手への選択肢を間違えてばっかな気がする。


「……すまねえ、ちょっと傷ついちまったか?」

「まあ私たちの付き合いだし、そんなに気にしないよ」


 そうか、まあ俺たち十数年の仲だもんな。こうやってからかわれるのもいつものことだったし。今回は久しぶりだったから少し戸惑ってしまった。さくらの事もあるしな。

 

「もみじたちを呼んだのもお前だろ?」

「うん」

「つか“精神操作あれ”って“影”にも効くんだな」

「うん。自分でも少しびっくりだったよ」

「……てことは、やっぱり“影”にも心があるってことなのかな」

「…………そう、かもね……」


 やはりお互い黙り込んでしまう。この話題は俺たちにとっての地雷だからだ。


「やっぱり、やめてよ“目的”なんて」


 この手の話題になると毎回彼女の口から出る言葉。


「こんなの()()()も望んでないよ」

「それでも、やらなきゃいけないんだ。たとえ自己満でも」

「そう……なんだ。ぶれないね、ハルちゃんは」


 ふと璃々奈のほうを見ると、彼女はどこか遠くのほうを見つめているようで、ぼうっとしてて。でもその様子が整った顔をさらに引き立てていて……うわっ、恥ずかしい。やっぱやめだ。俺は引き込まれそうになった目をそらした。


「でも、そんなことさせない」


 となりに座っていた璃々奈が急に立ち上がる。その声は、その顔は、覚悟を決めたような雰囲気を醸し出していた。


「……生徒会長としてか?」

「うん。それもあるけど……」

「あるけど?」

「…………………ううん、なんでもない」

「そっか」


 それがきっと璃々奈の戦う理由、サイキック部を廃部に追い込んだ理由。俺にもわかる気がする。でも、だからこそ。


「やっぱり敵なんだな、俺ら」

「そうみたいだね」


 こいつが生徒会長である限り、よほどの心変わりがないと彼女は、王野璃々奈は。サイキック部の復活を、俺の“目的”達成も、きっと反対して俺らの前に立ちはだかるだろう。


「付き合ってくれてありがとね、私もなんだか自信がわいてきた。……今までやってきたことは無駄じゃなかったって、思えたから」

「そうか、それは何より。……俺もだ」

「じゃあね、また今度。……ジュースありがと」

「礼はいらねえよ」


 璃々奈は俺に笑いかけると暫く離れていき、そして立ち止まった。


「……6月25日」

「は?」

「次の“生徒総会”。その時に決めましょう」

「それはご丁寧に」


 再び彼女は歩き出し、見えなくなるまで俺は見送った。


「一か月ちょっとか、先輩に連絡しないと」


 俺が携帯を取り出すとメッセージアプリを開き、力先輩を選択……しようとしたら急に着メロが鳴り出した。なんだと思い、画面を見るとそこに書かれてあったのは若葉もみじという名前。……え?もみじ?なんで急に。


「もしもー」

「はるとっ! 大変! お姉ちゃんがっ……」


 俺が携帯を耳にあてると、もみじらしくない切羽詰まった声が聞こえてきた。


「さくらがどうした!」

「とにかく、来てっ! あ、場所は学校! 体育館!」


 学校? 体育館? なんで? もう暗いのに、さくらがそんなところに?しかし、俺にわかるのはそれがただ事ではないことだけ。それもとんでもなく、いやな予感だ。


 さっき別れたばっかりの璃々奈を呼び戻すのも面倒なので、俺はひとりすっかり暗くなった街を駆けた。


生徒総会まで、あと41日


~続く~



さくらちゃん……? どうなってしまうのか。

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