第十八話 「6月7日 二人の“天才”~たけ×きのウォーズ編~ episodeⅡ」
爆弾魔が、翼の仲間……………………
信じられない。だってあの翼だぜ? ちなみに翼はこの都市でも有名な能力者なわけで、たぶんこの兄妹も知っているはずだ。
「爆弾が……仲間……」
「うわっ! 危なっ」
相当なショックなのか重二先輩が倒れこむが、とっさの判断で颯太が受け止めてくれた。
「う、すまない」
「大丈夫です。しかし、これはいったい………………」
そりゃたけのこ過激派には今の状況は厳しすぎるだろう。爆弾魔に加勢する翼なんて、俺らでも意味不明なわけなのに。
「どうするアニキ、ここは巻いて」
「アニキぃ⁉」
もうやめて! 重二先輩の(精神的)ライフはもうゼロよ!
「いや、やめておこう。ここで下手にやってしまえば後処理が大変だ」
「そうっすか、事情説明すれば大丈夫っすよね?」
「たぶん」
何やらこしょこしょ話しているが、にしても翼を「アニキ」ねぇ。この人性格は悪くないだろう。
「もしかしてこの人が連日爆破してる人?」
「そうだよ。最近は僕らがサポートしているけどね」
「ん? 『僕ら』?」
『そうなの、私も手伝ってるの!』
うおっ、携帯から突然声が⁉
「誰だ?」
「お前までもか……。まさか部署内で知らなかったのオレだけ…………?」
重二先輩が頭を抱える。今の様子から考えて、この人って
「翼、まさかこの人は」
「ああ、僕たちと同じ部署で情報担当の……」
『ここでは“スノボー”と呼んでなの』
またしても携帯から声が! どうやらこの“スノボー”という人は翼の所属する特別警察委員会の中央第八区支部に所属しているみたいだ。そして声の感じからして女の子っぽく、語尾の「~なの」が印象に残る。
「ははは、どうやら彼女はコードネームとかにあこがれててミッション中は“スノボー”って呼ばなきゃいけないんだ。まあ中学生だしそうゆう年ごろなんだよね」
『まるで人を“ちゅーにびょー”呼ばわりしないでなの! もうスマホ使えないようにしてやるなの』
「やめてよ! 君が言うと本気に聞こえるから!」
「重二先輩、見た感じこの人って」
「ああ、こいつは“天才”なんだ。情報操作のね」
“天才”、“能力粒子”を使って一時的に超能力を発現させるのではなく、素で超能力に匹敵する力を持つ者を一般的にそう呼んでいる。俺も何人かであったことはあるが、この都市ではかなりレアな存在だ。
「こいつにかかればどんな情報もちょちょいとハッキング、改ざんだってお茶の子さいさいってやつだ」
「じゃあ、どんなセキュリティも突破できるってこと?」
重二先輩の言葉に感心した様子を見せる香澄。そんな様子に音声だけの“スノボー”が「えっへんなの!」と誇らしげな声を上げる。
『この通話もみんなのスマホをハッキングして流しているの! ちなみにデータはこちらから丸見えなの!』
「「丸見え……っ⁉」」
俺と颯太が思わず「ひっ」と声を出す。なるほど、颯太も“漢”だな。そうに決まってる。
『ちなみに二人のスマホになんかいかがわしいものが見つかったので消去したの』
「「するなぁ!」」
時はすでに遅し、われらが秘蔵コレクションは消え去ってしまったらしい。となりの香澄から注がれる目線が冷たくて怖い。
「お兄………………」
「ごめん! 俺には香澄がいるというのに!」
なるほど、この二人ブラコンシスコンか。放っておいたら許されない関係になりそう……。
俺は悲しみに耐え、話している翼と爆弾魔に訊くことにした。
「ところで、なぜここに? 連日の爆破と何か関係が?」
それに加えて、横から重二先輩も口を開ける。
「最近は証拠になるものも少なくなったり、防犯カメラもほとんど使い物にならないと聞いたが、それはお前らの仕業なんだな?」
「うん」『はいなの!』
「そんな元気に…………はぁ、おいそこの爆弾魔。名前は?」
「はぁ⁉ あんたに言う筋合いなんか」
「僕の先輩なんだ、悪い奴じゃないから」
爆弾魔の耳元でささやく翼。それを素直にうんうんと聞いたと思ったら、そのまま一言。
「小上馬満だ」
「よし逮捕な」
「え」
「ちょ、先輩!」
「翼、お前何やっているのかわかっているのか? 建物を爆破だぞ⁉ しかも機密情報が詰まった行政のものを! “ぼたん”! お前も同罪だぞ!」
「先輩! そこでその名前はやめてほしいの!」
“ぼたん”…………? この娘の本名かな。
「とりあえず、事情だけ! 事情だけでも聞いて欲しいです」
「事情が何だろうが、お前らがやっていることは」
『この都市は、能力者を使って何やら怪しいことをしているみたいなの』
「怪しいこと……?」
颯太は少し興味を持って聞き返した。しかし重二先輩は引き下がらない。
「なんだよ“怪しいこと”って。そんなふわっとしたもので………………」
「アニキ、言ってもいいんすか?」
「うん、信頼できる人たちだから。知らない人ふたりいるけど」
翼に目線を向けられる風吹兄妹。俺は二人のことを説明することにした。
「この二人は、武笠学園生徒会の人なんだ」
「そうか、王野さんの……。ならいいや」
「会長と知り合いなの?」
「ああ、この前璃々奈と一緒にこいつと戦ったことがあるからな」
訊いてきた香澄に俺はこの前のことを話す。翼と初めて会い、殺しあった時のことを。それを聞いていた重二先輩は驚きの声を上げる。
「は? 翼に殺されそうになった? そんなことアイツがするはず……っ」
「事実です、先輩」
『ほんとに何も知らないっぽいなの』
「またオレは蚊帳の外かよ!」
「なんてこった」と頭を抱える重二先輩。それに対し改まったように口を開く翼。
「ちょうどいい、それにも関係することなんだ」
『この都市は、能力者の研究を恐ろしいことに使っているの。それが“プロジェクト・パーフェクト・ワールド”なの』
隣で二つほどはっと息をのむような音が聞こえた。
「なんだそれ」
はてなを浮かべる重二先輩に対して、俺はその言葉で確信に至った。
“プロジェクト・パーフェクト・ワールド”完璧な世界。俺と、そして璃々奈の“目的”。潰すべきもの、この都市に来た理由。こんなところで触れるとは思わなかった。
「詳しく聞かせてくれ。お前が“複数能力持ち(マルチスキル)”になったのもその影響なんだろ?」
「うん。そして彼」
翼は横にいた満を指して
「彼も、それの被験者なんだ」
「なんだって⁉」
『そうなの、小上馬満。彼はかつてこの都市の研究所でひどい思いをしていたことがあるみたいなの』
そんなにひどい研究を……? 隣には黙って聞いている風吹兄妹。その表情は今まで見たこともないほど曇っていた。
「ああ、奪われるもん全部奪われてな。ひどいもんよ。だからこいつでこの都市の闇を全部潰したいんだ。行政と研究所が共同で管理しているシステムを、な」
彼の手にある爆弾。素人目に見てもそれはかなりの出来で、彼の信念を感じる力作だった。
『満は“模造”の“天才”なの。これは私の技術をくわえた特製品なの!』
「特製品、ねぇ。というかなんで二人はここにいるんだ? ロビーだぞ」
『それは……あっちょうどできたの! ぽちっとなの!』
ずっと聞こえたキーボードの音が、エンターキーをたたいたような高い音で一旦やんだ。
『これでこのビル全体の警備システムを全部無効化できたなの! 防犯カメラの映像は平常時のものをずっと映し続けるようにしといたの!』
「よし、満行くぞ!」
「はいっす!」
スノボーことぼたんが話し終わったのと同時に走り出す二人。しかしそれを見ていた重二先輩が急に手を伸ばしたかと思うと、二人は体勢を崩して倒れこんだ。重心を移動させたらしい。
「先輩⁉」
「すまんがまだその満とやらが信じられんし、お前がやっていることも納得いかない。俺っちにはつらいが、二人にはしっかり牢獄に」
「そうゆう問題じゃない」
「お兄……?」
突然声を上げた颯太。全員の目線が彼に集まる。彼は意を決したように香澄と目線を合わせ、優しくうなずく。
「実は俺たちも“プロジェクト・パーフェクト・ワールド”の被験者だったんだ」
「いままで誰とも話さなかったんだけどね」
「「「『⁉』」」」
二人も被験者だったなんて……俺は想像もしなかった事実に絶句した。
“生徒総会”まで残り18日
~続く~
外伝「サイキッカーブレイブズ!」もよろしく!(最新話同時投稿)
次回「6月7日 都市の闇~たけ×きのウォーズ編~ episodeⅢ」は明日投稿!
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