第十六話 「6月3日 璃々奈の決心 ~たけ×きのウォーズ開幕編~」
「はーい、今日の生徒会始めまーす」
私はいつも通り開会のあいさつをするが、なんか空気がおかしいような………………。
「ちっ」
「お兄、抑えて抑えて……」
「………………(ムスッ)」
なんか今日仲悪くない?
私は王野璃々奈。学校の花、生徒会長を務める最強美少女!(きゅるん♪)今日は定期的に開かれる生徒会の日、特別棟2階にある生徒会室で日々討論(?)が繰り広げられるのだが、今日はなんだか皆さんピリピリしていらっしゃるようで……?
「みんなどうしたのかな………………?」
「たぶん、これだと思うけどな」
副会長の四里鳥水鳥先輩は、机の上に置いてあったあるスナック菓子を指さした。
「これが? 私が買ってきたんだけど、お気に障ったの?」
私は某きのこの形をしたチョコレートとクラッカーの菓子が入った箱を手に取る。そこにガン付けした同学年の風吹颯太は荒い声を上げた。
「なんできのこなんだよ! 俺はたけのこ派なのに! これ以上の屈辱があるか!」
「お兄、抑えて。気持ちはわかるけど…………」
颯太を抑える彼の妹で一年生の風吹香澄。でもあなたもたけのこ派なのね。そんな私たちに対して四里鳥先輩は諭すように声をかける。
「まあまあ、みんな。どっちもおいしいんだし、ここは僕がたけのこのほうも買ってくるから」
「そうじゃないんだ! 確かにどちらもおいしいことはわかるさ……でもなあ! 一番の屈辱は、生徒会長が、ここの頂点と言えるような人物が、きのこ派という事なんだよ!」
「え、ええ………………」
頭を抱えてうなる四里鳥先輩。よほど困った状況なのだろう。そこに追い打ちをかけるように颯太は更に畳みかける。
「ええい、もう解散だ、解散! きのこ派がいる生徒会なんていらない!」
「そこまでなの⁉ 香澄さんもなんか言って」
「お兄! その調子だよ!」
「香澄さんも過激派かよ! ねえ、会長」
「いいでしょう、解散です」
「ふえ⁉」
四里鳥先輩が素っ頓狂な声を上げる。本当に申し訳ないがこちらだってきのこ派として黙ってはいられない。こうなれば総力戦で……っ。
「いやたけのこきのこ問題で解散する生徒会聞いたことないよ⁉」
「でも私だってきのこのプライドが」
「「こちらだって、たけのこの誇りが」」
「いやいや、だから!」
間に割って入る四里鳥先輩。でも私たちの想いは止められないっっ!
「でも、いいの? 会長このままじゃできませんよ“生徒総会”」
「…………っ、それは……ダメ」
そうだった、ここで解散してしまったら“生徒総会”に間に合わない。それ自体は延期ということでできるのだが、その総会にはもう一つの“目的”がある。そう、都市上層部による襲撃計画だ。
きっと攻めてきた場合、学園中が大混乱となる。そこで生徒たちを自然な流れで誘導し、体育館に集めることで混乱を避ける。それが今回の“生徒総会”の無駄に壮大な“目的”だ。学園の中に内通者がいるかもしれないので、教師には伝えていないし、きっと防げなかった場合最悪の結果だってあり得るのだ。だから失敗できない。
そのため、学園の生徒たちを守り、あわよくばサイキック部の活動を完全停止させることを目指す私にとってそれは避けたいことなのだ。
「どうすればいいの…………?」
「仲直りしましょうよ、ほらまだ遅くない」
「ふん! 今頃遅いんだっつーの!」
「そうだそうだー」
「だから……っ」
「せっかくだし、勝負つけたほうがいいんじゃね?」
全員の目線が、部屋の入口付近の壁によりかかるキザそうな男性教師のほうに集まる。騎漸多羅尾、生徒会の顧問だ。なんかめんどくさい奴がめんどくさいタイミングで登場してしまった。彼はかけていたサングラス(なんかちょっと高そう)を外すと、私たちに向けて言い放つ。
「いいねえ、生徒会解散をかけたBattle。せっかくだし、これで決めよう」
「「「「それって……っ」」」」
その時、生徒会室が驚きのような感情に溢れた。
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「あー、めんどくせー! 全っ然わかんないんだけど!」
放課後の学生寮にて俺、世界晴翔の部屋にある机に突っ伏す力先輩。「はあ……」とため息を吐くと、向かいにいる鏡美先輩に話しかけた。
「数学むずくね? まるで異国の言葉なんだけど」
「ちゃんと日本語よ……、呆れるわ、まさか基本問題すらも解けないなんて」
「ま、力先輩なんてそんなもんですし」
「ああ? さくら、もう一回言ってみろよお!」
「お姉ちゃん、さすがに言いすぎだよ……っ。事実だけど」
「姉妹そろって…………オレと学年違うだろ」
「落ち着いてください、気持ちわかりますから……」
「なにい⁉ 入試主席だったじゃねーか! そんな奴に底辺の気持ちなんか……っ」
わーわーと騒がしい、でも楽しそうな風景。もし“生徒総会”で無事に勝てたら、この風景が部活で毎日見れるのかなあ、と内心満たされたような気持ちになる。
「ん? なにニヤニヤしてるんだ? 晴翔、お前もオレをそんな目で……っ!」
「違いますってば………………ふふ」
「ほら笑ってる!」
だってこんなこと久しぶりだから、だなんてさすがに恥ずかしくて言えないが。俺は英単語とのにらめっこを再開した。そう、来週の初めから中間テストなのだ。ということで今回はサイキック部みんなで試験勉強である。
「つーか、部室使えないのめんどいんだが」
「いいじゃないですか、寮だとそのまま帰れるし」
「にしても物置ねえ」
鏡美先輩が溜息を吐く。ともかく俺らの元部室は現在の正しい使い方てことで物置に使われているのだ。そんなわけで俺の部屋が当分その役割になってしまうわけで。
「晴翔、ほんとアンタには悪いと思ってるけど……ほかの部屋には色々と、ね」
「さくら、大丈夫だよ。気にすんな」
そう、俺以外の部屋は、なんと言うか少し問題ありなのだ。鏡美先輩はタロットカードのコレクション(命さんの)とかギター(かなでさんの)とかによってほとんど場所がないし、さくらともみじの部屋は二人部屋なのでスペースなし。高跳はどうやら<リライブ>のグッズばかり。力先輩に至っては壁や天井に幼女の盗撮写真………………おまわりさんこいつです。
「でも図書館に大人数が一度に行くのも、ね」
「そうなんだよなあ」
まあみんなで勉強したところでそんなに効率が上がるわけでも、むしろ駄弁るせいでなかなか進まないのが事実なのだが。でもせっかくみんなが集まれたんだし、もし“影”が現れても召集に時間をかけなくていいしで、こうなるわけだ。俺たちの本分あれだしな。
「まあ、一通りやったしさ。休み時間としよーぜ」
「さっきしたばっかでしょう……」
そう言いながらも、力先輩の質問攻め(教えてもすぐ忘れられてしまう)に答えたのか鏡美先輩もぐったりしている。
「じゃあ、ここらで一旦」
俺が呼びかけようとしたその時、廊下のほうでドタドタ……と音がした。だんだん近づいてくるようだ。おなじみのやつだ。きっと璃々奈が泣きついてくる流れ…………あ。
「だめだーーーー!!」
そうだ、俺と璃々奈の関係はみんなには秘密だったのだ。しかも表面上敵同士だし。俺は困惑するみんなを置いて玄関に向かう。後で悩みは聞くから、と断ればきっといったん帰ってくれるはず。彼女が入ってくる前にこちらが外に出て止めなきゃ、とドアノブまで行ったが時すでに遅し。
鍵はすでに開錠。外開きに開けられ、そこから金髪ロングの少女がすごい勢いで入ってきてそのまま俺に抱き着いてきた。
「ハルちゃん~! 大変なのおおお! このままじゃ、このままじゃ生徒会がああああ!」
「あのですね、璃々奈、その……っ」
背後から視線が集まる。恐る恐る後ろを向くと、まんまると見開いた眼をしていらっしゃる5人。そりゃ、仲間の一人が急に敵の主将に抱き着かれたらそうなるな。これはまずいですよ! 璃々奈はん!
「でね、でね……………………え?」
璃々奈も向こうの景色に気付いてしまったようだ。整った顔を思いっきり赤く、その後青くするわが幼馴染。その様子に対して鏡美先輩が一番に話しかける。
「どうゆう事かしら? なんか見た感じ王野璃々奈がカギ開けて入ってきたようなんだけど。それに『ハルちゃん』『璃々奈』なんて相当仲いいようですけど」
「そのう、あの、私たち…………」
「あなたたち、何者なの?」
急に冷たく突き放すような目線を俺たちに向けてきた鏡美先輩、怖いなあ。説明しようとするが、この状況だ。咄嗟に言葉が出てこない。璃々奈も同じようで俺の腕に抱き着いたままブルブルしている。お願いだから放して、さすがにこれ以上の誤解はまずい。
「晴翔、お前まさか……っ」
「アンタ生徒会のスパイ⁉」
「わたしたちの情報(?)流してたの?」
「先輩、あんまりです。幻滅です……っ」
「違う違う! 俺たちはそんなんじゃなくて……っ」
「そうよ、私たち……っ」
「「幼馴染だもん!」」
「「「「「え?」」」」」
言ってしまった。どうしよ、考えてみりゃ“幼馴染”だからって“生徒会のスパイ”ではないことの理由にならない。むしろ可能性が上がったまである。
その後俺たちはみんなに一時間半にわたる説明(ただし“目的”のことは伏せて)をしなければならず、何とか空も暗くなったころに釈明完了になったわけなのだが。
「で、あなたが今回カレシさんにお願いしに来たのは?」
「カレシじゃありません!」
いや、全然とけてないわ誤解。鏡美先輩からそうゆう関係だと思われている。だめだこりゃ。
「でも、お前今回ほんとになんで来たんだ?」
「それがね………………」
璃々奈はコホンと咳払いすると俺たちの前で話し始める。たけのこきのこ戦争の事、それで生徒会のがピンチなこと、最悪“生徒総会”を開けなくなって襲撃の時に被害を出してしまうかもしれないことを。
「しょうもな……っ」
「でも私のきのこハートが許せなくって! ……うう」
「それで学園の存続が? みんなの安全が? 笑わせてくれるわ」
先輩二人に軽蔑される璃々奈。救いを求めるように俺を涙目で見つめるが、どうしようもない。そんなとき、もみじが急に険しい顔になったと思ったら立ち上がりこういった。
「わかります、璃々奈先輩! わたしもたけのこユーザーとして許せないことあります!」
「敵だけどいいこと言うわ若葉もみじ! あなただけが頼りよ!」
「僕だって、きのこ派として譲れないもの、ありますんで」
今度は高跳が立ち上がる。その様子に先輩とさくらは観念したように頭を抱える。
「で、璃々奈。どうすんだ? 全校生徒で投票でもするのか?」
俺はその決着方法とやらについて尋ねる。それに対してなぜか誇らしげに胸を張る璃々奈。
「いえ、そんなめんどくさいことでは決めないわ。決めるのは、ここサイキック部と生徒会」
「それだけで?」
さくらの言葉に「うん!」と答えた璃々奈は続けて言う。
「今週末、体育館にて!」
どこからか唾をのむような音が聞こえた。
「たけのこきのこドッジボール対抗戦を開催するわ!」
訪れる静寂。
「「「「「「………………は?」」」」」」
………………………………は?
“生徒総会”まで残り22日
~続く~
今回からはコメディー回!
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