第十五話 「6月1日 “鏡”が写し運命 後編」
「もみじ、引き寄せろ!」
「うん!」
もみじは杖を思いっきり振り下ろす。するとにょきにょき生えた二つのツルのうち一つが一気に本体の動きを封じ込める。ナイス! もみじ! もう一方は俺を乗せ、偽物のほうの頭上に向かっていく。
「いいぞ! このまま続けよう!」
「うん! 力が尽きないように調節するね!」
今回、もみじには出力を最小限にしてもらい、ツルを二つのみ成長させた、いつもなら大量に成長させるのだが。作戦はこうだ、俺が偽物を“鏡”を破壊せずに倒す。そうすることで“鏡”を残したままにするのだ。そして力先輩曰くその残った“鏡”を利用して先輩を説得するらしい。
俺は“念動”を発動させ、周りに多数のかけらを纏わせたままもみじが伸ばしたツルを駆けあがる。
「さんざん面倒かけさせやがって! くらえ!」
“影”の弱点は特にないが、なるべく長くダメージを与える為、頭上から足元までに飛び道具を貫通させるという戦法が主に効くのだ。ツルの頂上、俺はかけらたちに“直撃加速”をかけ、脳天に飛ばしていく。それは見事に決まり、偽物の“なりかけ”に悲鳴(?)を上げさせるまでに至った。でもどれだけ当ててもなかなか消滅しない。さすがに本体よりかは耐久は低めらしいがもともと硬い“鏡”を壊すのが最適解であることからもわかる通り、やはり偽物はしぶとい。
また“念動”をかけようにも地上に降りなきゃいけないし、ってええ⁉ 急に偽物が俺がいるツルを揺らし始めた。いやいやちょま、ちょっまてよ…………あ
「あああああ!」
ふっ、振り落とされた! そのまま俺の身体は地上に向かって落ちていく。あ、まずい死ぬ…………
「危ない!」
「おわっ!」
空中で何者かにキャッチされる。ん? この展開前にもあったような…………
「大丈夫ですか、晴翔先輩! く……っ」
「高跳⁉ お前出てきて大丈夫だったのか⁉」
俺を抱えて着地したのは、絶賛入院中のはずの高跳叶飛だった。いや、大丈夫なわけないだろ、頭に包帯巻いたままだし。
「晴翔!」
そして向こうからかけてくる女子生徒が一人……てさくらかよ! なんで入院組がそろいもそろって。
「さくら、どうして」
「ほら」
「は?」
彼女はなぜか俺の目の前に自身の手を出す。いやだからなんで。
「能力、返して」
「あ」
そうだ、こいつの“治癒”借りっぱなしだった! 確かにオート回復はなかったら今頃お陀仏になるくらいには役に立っていたが、本人が言うなら返さなければいければいけない。俺バージョンじゃほかの人を癒せないからな。
「ほいよ」
「!、~!」
俺が手を握るとなぜか顔を真っ赤にして悶えだすさくらさん。あれ? 大丈夫か?
しかしそれも束の間。手が輝きだし、それが収まる。きっと彼女に“治癒”の能力が戻ったはずだ。
「高跳君、頭触れるね」
「はい…………」
さくらの手が優しく高跳の頭を癒していく。そしてしばらくそのままにすると、彼は自身の包帯を外し傷のあと一つもない頭を出した。そして彼は笑いかけると俺らに礼を言った。
「晴翔先輩にさくらさん有難うございます!」
「よし、これでフルメンバー万全だな!」
そう俺が言うと、さくらはこちらと向こうに見える“なりかけ”と偽物をちらちら見ると、俺に話しかけた。
「あれが、鏡美さんの…………」
「ああ、奪わなきゃ」
「協力するよ。あそこに見えるのが本物で、いま向こうに合流しようと動いているのが偽物、よね」
「うん、俺らももみじと合流しなきゃ、本物を食い止めているのはアイツ一人だけだもんな」
二人はうなずくと俺と共に偽物の向かうほうへ走った。
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「お? さくらと高跳も?」
「ああ、私が呼んだ」
オレ、念動力は向こうに見える人影について木ノ原先生と話した。
「アイツらもうだいじょーぶなんか? なかなかの傷のはずなんやが」
「正直かなり無理してきてもらっている。でもあんな感じならもう大丈夫だろう」
「なるほど“治癒”か」
オレはタロットカードに仕込みを入れながら、こころ先輩に今起こったこと、晴翔がさくらに“治癒”を返却してそれで高跳を治したことを話した。
「はえー、便利な能力やなあ…………」
「高跳は一発の火力ならここにいるメンバーのうち最もでかい。いい戦力だろう?」
「そうっすね」と適当に答えるオレ。仕込みはもうすぐ完成する。その間オレは鏡美と出会った日の事を思い出していた。
『オレがサイキック部に…………』
『そう、あなたの能力はきっと役に立つわ、だからぜひ入ってほしいの』
一年生の夏、夕陽に彩られた教室の中で、当時マジで陰キャボッチだったオレはクラスメートではない美少女に話しかけられていた。その頃の鏡美は少しクールなとこはあれど、人並みに笑い、人並みに泣いたりする普通の少女だった。その笑顔に触れたオレは少しずつ変わっていった。当時つけていた丸眼鏡もいまはコンタクトで、硬い印象すらあった制服は着崩した。自分で言うのもなんだが今の垢抜けは彼女の影響にあった。
確かにあの時彼女に話しかけられなかったら今のオレはないだろう。そう、オレは紛れもなく彼女によって運命が変わった人間のうちの一人なんだ。
だから、その本人には“運命”を悪く見ないでほしい。その為にいま、オレはアイツの運命を、変えて見せる。
硬い決意のまなざしでオレはアイツに向き直った。
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「大衝撃!!」
「直撃加速×念動!!」
二つの衝撃が偽物を襲う。瞬く間に衝撃波が周りにこだまし、偽物は一気に消し飛んだ。
「やった! で、これからどうすれば…………」
さくらがきょとんとしているが、それは俺にもわからん。いわれているのは「偽物を倒すこと」「でも“鏡”は破壊しないこと」の二つだけ。
「一応、もみじに加勢を」
「それなら大丈夫だ! こちらの準備はできたぜ!」
向こうから力先輩の声が聞こえた。どうやら準備とやらが完成したようだ。彼はタロットをシャッフルしながら“なりかけ”に話しかける。
「鏡美、占うぞ!」
その声にびくっと反応する“なりかけ”。先輩はその後しばらくシャッフルすると地面に2枚の裏向きのカードを並べた。
「右が鏡美、左がほかのメンバーの運勢です」
そして彼は右のカードをめくる。そこには正位置の「悪魔」
「鏡美のカードは正位置の「悪魔」このままではあなたはその悲惨な運命に束縛されてしまいます」
その後左のカードもめくる。そこには逆位置の「戦車」
「部のメンバーのカードは逆位置の「戦車」このままでは挫折が襲い掛かるでしょう」
「つまりかがみ先輩を開放しないと、わたしたちは行き詰ってしまうってこと?」
もみじが不安そうに震える。それをそっと抱きしめるさくら。
「力がどんな作戦を立てたのかわからないけど、見守るしかないわね」
そして力先輩はこころ先輩にたずねている。
「かがみはどんな状態ですか?」
「警戒状態やけど、占いには関心を示している感じや。占い主のアンタの希望なら素直に聞くかもしれへんで」
うなずいた彼は、そのまま“なりかけ”に呼びかけた。
「このカードを鏡に写してみてください」
その指示に素直に従う“なりかけ”はその通りに“鏡”越しにカードをみる。そこには左右の位置が逆になったカードが。
「あなたが挫折すると、メンバーが運命に束縛される。このようにオレたちの運命は相互に関係しているのです。…………今度はこのカードをそれぞれ横向きにします」
彼が自分の身体ごとカードを横向きにする。それ自体ではカードの位置は変わらない。
「この状態のままで、鏡写しに見てください」
従った“なりかけ”がまた同じように見ると、カードの上下、つまり正位置と逆位置が逆になったカードの絵柄があった。
「鏡美は逆位置の「悪魔」この運勢の場合、あなたは呪縛から解放されます」
「メンバーは正位置の「戦車」あなたの開放によって、彼らは勝利し、前進します」
彼は占いの結果を淡々と話す。その様子を見て、高跳が思わず「あっ」と声を上げた。
「なるほど、“鏡”写しにタロットカードを見ることによって正位置と逆位置を入れ替えているのですね!」
感心する俺ら。そして力先輩の言葉はだんだん強まっていき、その結果を告げる。
「俺らの運命は関連している! お前が幸せならオレたちもその幸せを感じられる! 幸運も不幸も連鎖するんだ! 助け合えば、きっと不幸な運命もこんな風に幸運に書き換えることだってできる! だから不幸を決めつけるな! 幸運を信じろ! 眼先の結果だけにとらわれず、その未来を変えるんだ。お前は今までたくさんそうしてきただろう⁉」
その言葉に“なりかけ”はうろたえ、暫く身体をよじった後、硬直し始めた。
「今だ! 晴翔! 奪い取ってやれ!」
「はい! さくら!」
俺はオート回復するため、さくらの手を握る。それに少し困惑した様子の彼女だったが、意図を読み取ったのか、赤くなりながらもこちらの手を握り返した。
そして俺の手が確かに彼女の能力を奪ったことを確認すると、「さんきゅな」と一言告げると、顔を真っ赤にした彼女を横目に、もみじのツルをよじ登った。そして頂上に達すると“なりかけ”に飛び込む。
「鏡美先輩、居てくださいよ…………」
深く深く“影”の中を潜っていく。オート回復が効いているようであまり痛みは感じない。そして俺はその中に一人の女性の姿を見つける。
「いたっ! ……っ、よいしょっと」
俺は彼女の手を握る。そっと思いを込めるように。
「先輩、もう一人で無理しなくていいんです。助け合って、サイキック部として、みんなで手を繋いで運命を少しずつ変えていきましょう」
「………………………私なんかが、救われていいの?」
声を確かに発する鏡美先輩。俺はその様子に驚きながらも、語りを続ける。
「はい、占いにも出てたじゃないですか。あなたが救われなきゃ、何も始まらない」
「あんなインチキ占いが?」
「それでも、力先輩なりの“運命の変え方”なんですよ、たぶん」
「たぶんって……っ、ふふ」
確かにほほ笑んだ鏡美先輩。きっとそれが本当の人格なのだろう。
「笑った顔、かわいいと思いますけどね」
「……っ、なにいって」
「その顔、みんなに見せてあげたいです」
黙り込む鏡美先輩。戸惑っているようにも見える。しかし彼女はしばらくすると、満面の笑みを浮かべながら、こう言った。
「しょうがないわね、そこまで言うならついていくわ」
「よかった……っ」
その時まぶしい輝きが俺らの手から放たれた。
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「ぐっすりですね、鏡美先輩」
高跳が鏡美先輩の頬をつんとつつく。
「やめろ、こいつは疲れているんだからな」
やれやれと首を振る力先輩。その背が負ぶっているのはほかでもない鏡美先輩。
「ほんと似ての掛かる後輩やな~」
「まったくだ」
「でも私だったら確実に耐えられなかったもん、あの中で話すとか……」
もう時間は夜真っただ中。月明りとビルの光が照らす街の歩道で、七人の話は弾む。誰もが安らかな、笑顔を咲かせながら。
“生徒総会”まであと25日
~続く~
ついに長かった鏡美編が終わりました!
次は生徒会長の彼女が活躍する……かも……。
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