第十四話 「6月1日 “鏡”が写し運命 前編」
――鏡美先輩を、取り戻そう。
そう決心し、前を向く俺たち。その目線の先には鏡美先輩の“なりかけ”が叫ぶように暴れながら、周辺を破壊し始めた。
「鏡美、苦しんでる……っ。このままじゃ直ぐ手遅れになるで」
苦虫を嚙み潰したような顔で睨むこころ先輩。力先輩がそんな彼女に一言。
「そんな顔しているとせっかくの顔が台無しですよ」
「っ…………うっさいだまれ通報するぞこのロリコン野郎」
「す…………すいません…………ぐすっ」
さすがにこの状況でネタに乗るほどの精神は、さすがのこころ先輩でも持ち合わせていないようだ。でも一瞬頬を赤らめたような…………気のせいか。
「あっ見て! かがみ先輩が!」
もみじの声で正面を再び向くと、そこでは“なりかけ”はタロットカードのケースを破壊するために、槍をふるった。まずい、たぶんあれが鏡美先輩のトリガー、破壊されてしまうと鏡美先輩を説得する難易度が一気に上がってしまう。
「早く!」
「はい! えいっ!」
俺は手に持った石に“直撃加速”をかけ、槍に直撃させた。向こうからだと予想外の攻撃だったようで“なりかけ”はぐらっと体勢を崩すとその場に倒れこんだ。
「今にうちや! 力!」
力先輩はこころ先輩の指示のもとタロットカードのケースのほうに走り、回収に成功。そのうちにこころ先輩が“読心術”を発動し、鏡美先輩の心をさらに探っていく。
「…………ずっと一人で戦い続けてきて、共闘するときも相手に心情を見透かされることを恐れ、冷たくなってしまった。突き放してしまった。そうアイツの心は叫び続けてるんや…………」
「それって…………」
「鏡美は…………誰も寄せ付けずに自分だけで悲しみを背負う。だからサイキック部のみんなにはつらい思いをしてほしくない。そう叫んでいる」
「『不幸は私だけが背負う』って、『悪い運命は私にだけ降りかかるようにする』って。そしてもう一つ」
「『冷たくしてて、ごめんなさい』」
黙り込んでしまう俺ら。そうだったんだ、鏡美うつしは、サイキック部部長は…………いつも俺らのことを心配してくれていた。俺らに襲い掛かる不幸をその一身に背負おうとした。先輩は…………きっと、俺らの事を大切に想ってきたんだ。でも俺らは気付けなかった。そんな俺らに、鏡美先輩の心を救う力なんて…………
「あきらめんな!」
そう叫ぶ力先輩。鏡美先輩と同じ年月サイキック部を支えた彼は、俺らに対して、真剣な目で訴える。
「鏡美の心情がどうした! そんなんでいちいち落ち込んでちゃ、アイツを救うことなんてできねえ!」
「だから、どうしろと……っ」
「なら、俺らが証明すればいい。なに、簡単な話だ。アイツの…………鏡美のそのめんどくさい心情を、全て否定してやるんだ、この戦いで!」
「否定? どうゆーこっちゃ?」
「だから、アイツを縛る足かせ、アイツの心情『不幸は私だけが~』とか『悪い運命は~』とか、そんなバカバカしいもんが、通用しないってことを俺たちが教えてやるのさ!」
「どうゆうことですか! 俺たちも不幸になるという事?」
「う~ん、惜しい!」
さっきから何言ってんだこの人。でも何かを訴えたいということは分かる。きっとそのことをすれば鏡美先輩を説得できるのだろうという直感もある。はてなな俺たちを横目に、力先輩はニヤッとすると、手に持っていたそれを俺らの前に差し出した。
「タロット…………」
「これを使うんだ。これで俺はアイツの運勢を占う」
「え? でもちから先輩って……あのせんのめいさん?みたいになんか力があるわけではないですよね…………?」
もみじが首をかしげる。当然の疑問だ。鏡美先輩に対して、占野命さんみたいな能力もない力先輩が占ったって…………
「なるほど、その考えは一理あるかもしれん」
「先生⁉」
背後からさっそうとこちらに並ぶように来た木ノ原先生は、なんと力先輩の意見に賛成しているようだ。そのまま先生は、いまだ理解できていない三人を見て「はあ…………」とため息をつくと、だるそうに言葉を発した。
「あのなあ…………もう少し単純に考えてみろ。あのような奴がさ、誰が占ったとか判断できるわけないだろう」
「あ」
先生が指さした先“なりかけ”が再び破壊活動を始めた風景を見て、俺ははっとした思いになった。確かにあの状態はいわば“暴走”。冷静なわけがない。さくらの時と同じだ。あの状態で誰がこうで…………とか判断できていたら、あんなに暴れることもないだろうし、俺らに躊躇なく攻撃することはないだろう。
「きっとあの状態では常時無意識というか…………本能のままに、という感じだと思うんだ。そして“なりかけ”の動きを止める“トリガー”は、その“暴走”の原因に関連のある物事を深層心理で確認し、一瞬自我を取り戻すことによって引かれるのだろう」
「つまり、その“原因”に関連すればするものは程、硬直は長くなる、と」
「ああ、だからこいつを使って占うんだ。そうすりゃタロットカードを一瞬見ただけであんなんなったアイツなら、相当な隙を見せるに違いない。その隙にお前が、晴翔がアイツの中に入って奪ってやれ」
確かに、その方法ならいけるかもしれない。でも
「どうするんや、アイツに確実にその占いを見せる方法は」
「そこなんだけどな、晴翔、もみじ。アイツと戦って時間稼ぎしてくれないか。そのうちにオレ、こころ先輩、木ノ原先生は占いの準備をする。この作戦に“読心術”は必須なんだ。そうなるとまともな戦力はお前らしかいないんだ」
「わっわたし⁉ わたしたちが引き寄せるの⁉」
もみじががくがく震えだしている。確かに彼女はさくらや高跳とかとチームを組んでしか戦っていない。それがいきなり二人で、しかも分身とかしたりする敵と戦うなんて、不安を感じるのもいいとこだろう。実際俺も少し怖い。俺は彼女の肩に手を置き、話す。
「俺もいるし、大丈夫だ。大丈夫、ダメそうだったら離脱してもいい」
「すまない、拘束の力も使えるお前が頼りなんだ。それに、この作戦の本筋に関わっているんだ、ふたりの共闘は」
どういうことだ? 先輩にたずねようとしたが、木ノ原先生がはっと気づき俺たちに呼びかけたことによってさえぎられてしまった。
「来るぞ、しかも分身した!」
見ると“なりかけ”はすでに二体に分身していた。勿論左右対称なので槍を持つ手でどちらが偽物かはわかるが。
「もみじ、行くぞ! お前は本体の足止めを、俺は偽物の相手をする!」
「うん!」
俺ともみじはそれぞれの標的にとびかかる。
「頼んだで、かわいい後輩たち」
背後で、そんな声がした気がした。
“生徒総会”まで残り25日
~続く~
少し予定より遅れてしまいすいません。
面白かったら広告下のいいね!と★評価よろしくお願いします!
短編「生徒会長の苦悩!」もよろしくお願いします
ブクマ登録も!