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第十三話 「6月1日 “鏡”が写し絶望 後編」

 力先輩から“念動”の能力を奪った俺は、ほか四人の困惑顔を横目に手に入れた能力を発動する。


 とたんに周りの石やコンクリートのかけらが浮かび上がる。これが“念動”…………。しかし、俺がいくら力を入れても、先輩のように数メートルも持ち上げることができなかった。せいぜい一メートルちょっと。

 

 なるほど、これが俺バージョン“念動”の弱体化。見た感じ『一気に上に持ち上げることはできない』ようだ。たしかに先輩の使い方をそのままするのは効果がない。でも、俺の持っている能力の“直撃加速ストライク・ジェット”と組み合わせれば。


「晴翔! どうするつもりなんだ!」

「先輩、見ててください。これがたぶん、俺の能力の正しい使い方です!」


 俺は“念動”で持ち上げた物体たちにそのまま“直撃加速ストライク・ジェット”をかける。するとそれらが一気に加速しながら“鏡”に向かっていく!


 そして複数の物体が直撃した“鏡”は割れて崩れ“なりかけ”の分身がひとつ崩れ去る。


「な、なにが起こっとるんや⁉」


 そう言って驚愕しているこころ先輩に対して、木ノ原先生は「なるほど……っ」と冷静に分析すると、続けて今起こったことを解説し始めた。


「晴翔が“能力奪取”によって手に入れた“念動”は本家に比べ、高く持ち上げる力が足りない。それに対し“直撃加速ストライク・ジェット”は『“能力粒子”が触れた物体を加速させながら標的に直撃させる』能力。そして“念動”は“能力粒子”によって物体を持ち上げるから、そのまま持ち上げた多数の物体に“直撃加速ストライク・ジェット”をかけて飛ばすことが可能、みたいだな」

「はい、もしかしてと思ってやってみたのですがドンピシャでした」

「は⁉ そんな使い方ありなのかよ!」


 きっとこれが“能力奪取”の真髄。弱体化した能力同士を組み合わせ、本来とは違った効果を発揮する能力。そして今回のように使えば、本来よりも効率的に強力な効果を発揮できる。俺は手ごたえを感じて小さくガッツポーズすると、力先輩のほうに向き合った。


「先輩! この能力借りていていいですか⁉」


 さすがに本人に確認しないとまずいだろう。そんな俺に対して先輩は一瞬悩んだような顔を見せたものの、その後にこっと笑いかけた。


「いいぞ、存分に使え! でも、条件がある!」

「条件?」

「その能力は証拠を残さずにロリのスカートを除くために必須だから、終わったらさっさと返せな!」

「お巡りさんこの人です」

「すいません調子乗りました」


 もうこんな使い方してるなら俺が一生奪ったままにしとこうかな…………。


「ふたりとも! ゆ、ゆだんしちゃだめ! 来るよ」


 そんなもみじの言葉によって俺たちは少し漫才気味になっていた会話から現実に戻された。そうだった、鏡美先輩を取り戻さなくちゃ!


 俺は何度もさっきのように“鏡”を破壊していく。それと共に分身も一つ二つと減っていき、ついには本体のみとなった。


「よし! 後は手を握って能力を奪えば」


 しかし“なりかけ”は急に咆哮すると、手にもった槍を振りかざし、俺たちを吹き飛ばす。


「ぐはっ……」


 俺たちは近くの柱に飛ばされ、強く打ち付けられる。何とか俺はオート回復で、ほかのメンバーは受け身を取っていた為、奇跡的に軽傷で済んだ。早めに起き上がった力先輩はつぶやく。


「いってーな……っ、ん? 晴翔、なんか落ちたぞ?」

「はい? ……あ」


 気付くといつの間にか懐からタロットカードがポロリと落ちていた。それは風になびかれ“なりかけ”にむかっていく。そしてそれは振り回されたままの槍に切り裂かれ…………、なかった。


 それを視界にとらえた鏡美先輩の“なりかけ”はぴたりと硬直し、そしてうずくまる。


 そんな様子に俺らは疑問を感じていると不意にこころ先輩が「あっ」とつぶやく。それに対して先生が怪訝そうに尋ねた。


「どうかしたのか?」

「こりゃ、大発見や。今なら鏡美の心、読めるで」

「そうなんですか⁉ どんな感情ですか?」


 俺の問いに対してこころ先輩は「チョイっと待ってな…………」としばらく目を閉じるとやがて話し始めた。


「どうやらそのカードは占野命っていう、アイツの後輩のものらしいんや。でもそいつ死んじまって……、それで自分はもう人を守れないっちゅー感情にとらわれたみたいやな」


 こころ先輩は鏡美先輩の感情から彼女の過去を読み取り、俺らに伝える。その内容は思っていたよりもひどいものだった。


「……っ、つまりアイツ、二度も仲間を失って自棄になってたのかよ」

「もっと早く……気付いてあげられれば…………」


 力先輩と木ノ原先生は後悔の念を吐き、うなだれる。俺もその事実を知らずに鏡美先輩と向き合おうとした自分を恥じた。何も知らないくせに、わかった気になって…………。俺は最低だ。俺は自身の手を固く握り下を向く。いつの間にかその場は重い空気に支配されていた。


「みんな! 落ち込まないで!」

「「「っ!」」」


 そんな空気を破ったのは意外にも、もみじだった。彼女は勇気を振り絞るように胸の前で手を握ると、ひとつひとつ告げていく。


「わたしはね、みんなみたいにかがみ先輩の事あまり知らないから、落ち込む気持ち正直あまりわからない! でも、でもね……っ、落ち込んだままじゃ、先輩の事助けられないよ! それじゃみんなもっと落ち込んじゃうし、何より……っ」


 そこまで告げた植物好きの彼女は、一呼吸おいて、そして今まで見たこともないような、確かな決意に満ちた顔でこういった。


「お姉ちゃんとかなとくんが、もっと落ち込んじゃうよ!」


 俺はその瞬間、確かな震えを感じた。そう、二人はいまだ入院中。そんな中俺らが先輩を救えなかった場合、きっと絶望させてしまう。特に鏡美先輩と一年間共に過ごし“治癒”の能力者であるさくらの受ける精神ダメージは恐ろしいものになってしまうだろう。何の罪もない二人に、これ以上の絶望なんて味合わせたくない。


「そうだ、鏡美を救えないオレたちが、アイツらに見せられる顔なんてねえ……っ」


 みんながだんだん顔を上げていく、力先輩も、こころ先輩も、木ノ原先生も。もみじのような決意の顔と共に。


「あーしたち“影狩り”のスペシャリストやから、こんなところでへばるわけにゃいかないわけよ!」

「私も目が覚めた。そうだな、顧問として生徒のために何もできないんじゃ、教師失格だしな」


 そうだった、こんなとこであきらめるなんて俺たちらしくないからな。いままでたくさんの戦いを乗り越えてきたんだ。俺も、覚悟決めなきゃ。これはサイキック部の戦い。俺の“目的”の為にも、絶対に鏡美先輩を取り戻すんだ!


「みんな! 行きましょう!」


 向き合おう、先輩の過去に。立ち向かおう、俺たちの“運命”に。


 迫りくる夕陽の中。決意を新たに、少年たちは“なりかけ”と向かい合った。


“生徒総会”まで残り25日


~続く~

次回、鏡美編完結!

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