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11.5話 「6月1日 鏡美の独白」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「せんぱーい! 起きてくださいよー」


 ここは…………どこなのだろう。私は眠っていたのだろうか、さっきまでの事を思い出せない。でも、今聞こえている声が誰のものだかはよく分かった。その後も何度も繰り返されている声に多少イラつきを感じた私は返事してみることにした。しょうがない、安眠は断念しよう。


「せんぱーい?」

「なに? 眠いのだけれど」

「あっ、起きました! 見てほしいものがあるのです!」


 私が顔を上げると、私の睡眠を破壊した張本人、占野命せんのめいがにやにやしながら私をのぞき込んできた。


「何の用? 休日はゆっくりしたいのだけれど」

「そんなオヤジみたいなこと言わないでくださいよ。先輩はまだピッチピチの16才じゃないですか」

「そうね」


 相変わらず冷たい態度をとってしまう自分。そんな自分が大の苦手だった。サイキック部のみんなに対してもそう、最近できたルームメイトのこの子にも。


「で、見てみてください! 先輩の今日の運勢!」


 そういいながら、彼女はベッドに広げたタロットカードを某すしチェーンの社長のように、腕を広げて見せてくる。


「見てください! 今日はいい日です!」

「えっと…………Ⅹって確か…………」

「『運命の輪』ですね。今日は幸運日になるでしょう」

「ならいいわよ、休日だもの」

「それでも念には念を! です!」


 ほんとに勢いのいい後輩だ。でもその性格に救われたこともあるのは事実。正直感謝してもしきれないぐらいだ。


 数か月前、私は同級生の響かなでを亡くした。あの時は“影”との戦闘中だった。つまずいてしまった私に対する攻撃をかばったのだ。しかも、更に不幸なことにその時の部長だった結城こころ先輩は責任を問われ、強制引退させられたのだ。私のせいで、二人が不幸にあってしまった。あの後、私は新部長として恥じないように己を律し、ふるまってきた。周りから見れば冷たくなってしまったかもしれない。もしかしたら前よりも悪印象になっているかもしれない。その考えに私は常に苦しめられてきた。


 そして2か月前、彼女がここに引っ越してきた時も、私は冷たく当たってしまった。でも彼女はそんなことを気にしないみたいに明るく私に近づいてきてくれたのだ。今のように、毎日私の運勢を占って。


「私の占いは確実に当たるんですから!」


 えっへん、と笑う命。その表情に少し危なっかしそうな感じを見つけて不安になってしまったが、大丈夫だろうと自分に言い聞かせると、私もつられて笑ってしまった。


「あっ、先輩笑ったー!」

「あら? そんなことしてないわよ? 幻聴じゃないの?」

「表情が急に変わった! 先輩二重人格だったんですか⁉」


 笑いを抑えるように表情を変えたが、彼女を余計に心配させてしまったらしい。それに少し申し訳なさを感じたものの、やはりそれもおかしくて。


 彼女の能力は“運命”。占いが確実に当たるというものだ。もちろん自分で結果を変えることができない為、ランダムに出た結果がそのまま反映されるのだが、いままでそこまで悪い結果は出ていない。彼女の占いはもともとの運命が反映されているので、占うに越したことはないそう。


「でも、運命なんて頑張れば変えられるって教えてくれたのは先輩ですし」

「? どうしたの急に」

「いえ……っ、なんでも」


 確かに昔彼女を定められた運命から救い出すことがあって、それから彼女の考えが「運命は絶対」から「運命は変えられる」に変わったことがあったが。


 でもなんでさっき彼女はそんなこと言ったのだろう。まるで目の前に変えなければいけない運命が待ち受けているわけでもないのに。


 私はどこかつっかえるような感覚に悩まされたものの、その後いつもの休日の過ごし方で時間を消費していった。


 ――そして気が付けば昼3時、私たちの携帯に一つの通知が入った。


「なるほど、中心街近くの高架下に“影”発生、ね」


 今はまだ強さを測定できてないようだが、わざわざ部のみんなを招集する必要もない。そう判断すると、私はベッドから立ち上がり、命に声をかけた。


「それじゃあ、行ってくるわ」

「…………そう、ですか」

「ん?」


 いつもならここで「気を付けてくださいね! 今回幸運日ですし!」と元気な返事をくれるはずなのに。今日はなんだか歯切れが悪い。運勢悪い日ならなんとなくわかるが。


「あのっ」

「どうしたの?」

「私も行って、いいですか?」

「…………どうして?」

「いえ、見学」

「だめよ」


 肩を落とす命。どうしたのかしら、急に。彼女の“固有能力”は戦闘向きではなく、それゆえに彼女自身が戦う理由もなければ、戦地に赴く必要もない。それなのに、なぜ今日急に同行したがるのか。


「そう…………ですか」

「ええ、あなたには危険すぎる」


 それに、もう私はかなでのような犠牲を生みたくない。私は最低限の準備をすると、すぐさま寮から飛び出した。


 ――しかし、敵は思っていたよりも強敵だった。いや、まず冷静に対処していれば簡単に倒せるレベルなんだが。その時の私は今朝からの命の様子に気を取られていて本調子をなかなか取れず、劣勢に立たされた。やはり部に声をかけておいたほうがよかったのでは、そう思ったのが一番の失態だった。


 私が与えてしまった一瞬のスキ。それは“化け影”にとって完璧な間だった。やつはすぐさま私に対して口(と思われるもの)を開き、そこからエネルギー砲を放った。それはあまりにも速くて、私が鏡でワープするにしても明らかに間に合わないほどだった。


「幸運日だっていうのに…………」


 私は死を悟り、目をぎゅっと閉じた。しかし、待ってもなかなかエネルギー砲は私に達していない。私はそれを不審に思い、そっとまぶたを上げるとそこには


「先…………輩……!」

「命⁉」


 エネルギー砲をまともに食らい、大やけどを負っていた命の姿があった。私は倒れている彼女のもとに走りよると、震える手をその身体に当て、叫んだ。


「どうして…………あなた…………」

「先輩…………本当に、申し訳ありません」


「私は…………嘘をついてました」


「嘘⁉」


 彼女は、今消えてしまいそうなほどのかすかな声で、言葉を紡いでいく。


「先輩の、占いの結果。あれ、嘘なんです。先輩が起きる前、私なんども占いをやり直したのです。でも、出てきたのは…………」


 彼女の口から次々と大アルカナの名とその意味が告げられる。正位置のⅫ“自己犠牲”、ⅩⅥ“破滅”、そして逆位置のⅩ“誤算、不運”。最悪の結果だ。


「まさかあなた、それを…………」

「はい…………いけないことですけど、Ⅹを正位置にしました」


 私を励ますように、わざと占いの結果を偽造したっていうの?


「どうして」

「最近先輩“影”退治頑張っているじゃないですか。それを自分の占いで邪魔したくなくって」

「それでも、あなたが、犠牲なることなんて…………」

「いえ、私も満足です。証明…………できましたから」

 

 そこまで話しているうちに“化け影”は技の反動による束縛から解放され、私たちに対して巨大な触手でつぶしにかかってきた。


 私は命を抱えると“鏡”を生成、その中に入ってあらかじめ生成しておいたほかの“鏡”へ移動する。


「けほっ、けほっ」

「やめなさい、余計傷が」

「先輩…………言ったじゃないですか、『運命なんて変えられる』って。『縛られる必要なんてない』って」

「それが……っ、なんになるのよ」

「変えましたよ、先輩の運命。破滅を回避したんです」

「っ!」


 私は絶句した。この子は…………


「運命は…………変えられます…………だから、私の力なんてもう、いらないですね…………」


 そして、私の腕の中には、今息を引き取った少女がいた。


「“不幸”は…………変えられなかったじゃないの…………」


 私は、泣いた。かなでの時は流さなかった涙を、流した。


「私は…………私のせいで…………」


 後輩まで失ってしまうなんて。能力者としても、サイキック部部長としても、人としても失格だ。私がいたせいで、私のせいで。


「許さない、この運命も、私自身も」


 怒りに満ちた私はそのまま“化け影”を瞬殺した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ――あれ? ここは…………


 いつの間にか、私は回想に浸っていたそうだ。その証拠にさっきまで感じていた幻想の体温は感じない。そうだ、私はあの後結城こころ先輩に会って、そして“影”と…………あれ? 何してったけ?


 しかし、次の瞬間、自分に何が起きているのかを確信した。まとわりつくような黒。そのかすかな隙間から、夕焼けに染まった前方の景色が見える。そこには数人の、仲間の姿。


「そうか…………私は」


 さくらに続き、影の“なりかけ”となった私は消えゆく意識の中、もう一度目を閉じた。


“生徒総会”まで残り25日


~続く~

鏡美先輩の過去編もいつかやります!

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