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第九話 「5月28日 本物の“正義”」

「はあ⁉ 正義翼を倒しただと⁉」

「ちょ、声大きすぎですよ! 先輩」


 放課後、昼下がりの部室で、俺は三日前のことを力先輩と木ノ原先生の話していた。


「さすがだな、しかも能力まで覚醒してしまうなんて」


 木ノ原先生には当日璃々奈が連絡したようだが、詳細については初めて聞くらしい。


「で、このことを知ったのはオレらが初なんだよな! ビッグニュースだしほかにも言おうぜ!」

「だから、こいつはそのことを周りに話せないから私たちに言ったのだろう? それを言いふらしてどうする」


 興奮する先輩に先生が突っ込む。まあ俺も「実はあの正義翼を倒したんだぜ!」と自慢したくなるが、そんなことさすがに出来ない。というか璃々奈がいなきゃ死んでたし、あれは勝ったのかどうかも微妙だし、まず普通の人は信じてくれないし、それに…………


「このことがお偉いさんの耳に届いてしまったら、この学校で無差別に粛清が始まっちゃいますから」

「そうだった! くそー、まだサイキック部も復活してないのに、やべーのに巻き込まれちまったんだった!」

「だから、声大きいって!」


 念のため、力になってもらうためにこの二人の話したが、ちょっと人選ミスったかなあ…………さくらと叶飛はまだ入院中でもみじも毎日お見舞い、鏡美先輩は放課後直ぐどっか行っちゃうし、かといって俺と璃々奈だけじゃあれだしな。しかも表向きは璃々奈とサイキック部は敵同士、あー人間関係って難しいな。ちなみに先生には璃々奈のことを伏せるように言ってある。


「つか、あの後正義翼はどうしたんだ?」

「それは…………」


 俺はその後の事を思い出してみた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 25日、夜。工事現場


「…………なんですって⁉ 武笠学園に襲撃⁉」

「そうだ」


 璃々奈の驚愕に翼は淡々と答えていく。まさかもともと襲撃するつもりだなんて。


「日時はいつなの?」

「それは…………」

「答えなさい」


 ひい! ちょっと怖いっすよ璃々奈はん! その蔑むような目線なんて……っ、人によっちゃご褒美だけれども。


「……っ、あ! ちがうからハルちゃん! 私の素は優しい大天使だから!」

「いやなんも言ってないけども」


 急に弁解し始めたぞこいつ。でも俺は知っているぞ、こいつが本当は尋問好きなドS気質だってのをな!


「君たち、なんか緊張感ないよね」


「「あ、なんかごめん」」

 

 尋問相手に謝る俺たち。そんな様子を見た翼は「ふふっ」と小さく微笑んだ。…………え?


「いや、なんか二人って仲いいんだなって。さすが幼馴染だね」

「ていうか私そんなこと言ってないんだけど! あなたどれくらい知っているの⁉」

「観察対象について事前に調べるのは常識じゃないか。ならここで言ってあげてもいいよ」

「「いやいや、遠慮しときます」」

「ほんとに息ぴったりだね! ほんとは生き別れの双子だったり⁉」

「「それはないない」」

「もう怖くなってきたよ!」


 なんか面白がるどころか怖がり始めた翼。でも、こいつ自身も緊張感なくね⁉ さっきまで殺しあっていたとは思えないよ……


「あれ? そういえば何話してたっけ?」

「そうだ! 襲撃計画についてだよね」

「忘れんなよ!」


 なんかコメディーっぽくなってきて俺まで怖くなってきた! なにこれ路線変更⁉


 でも、翼と素で話し合ううちに、こいつもやっぱり俺らと同じ学生なんだな、と感じ始めてきた。


「えっと…………どこから話せばいいのかな」

「とりあえず初めからお願い」


 俺たちが固唾をのんで見守る中、翼は一つ一つ語り始めた。


「僕はもともと普通の特別警察委員だったんだ」


 普通の特別ってなんだよ、と突っ込みたいがやめておこう。


「でもある時上層部に目をつけられて、引き抜かれたっていうのが正しいのかな。その後の僕は特別扱いというか、今までよりも凶悪な事件に携わるようになってきたんだ。そして僕はあいつらに、二つの“力”をもらったんだ。…………その銃と“正義”の能力を、ね」


 つまり彼が“複数能力持ちマルチスキル”になったのは上層部とかかわりを持ってからというわけで。……っ、まさか。


「…………どうやって二つ目の能力を手に入れたんだ? 原則一人が持てる“固有能力粒子”は一種類だけだろ?」

「ちょ! ハルちゃん⁉」


 俺だって複数の能力を持っているように見えるが、実際は一つの能力にまとめられている。それに比べて彼は独立した能力が一つの身体に共存している。固有能力の複数持ちなんて…………前例がない。


「それについては僕でもわからないよ。いつのまにかだったんだ。しかも能力が能力だから自覚するのもなかなか後のことでね」

「でも、本来ありえないこと、世界の理を無視したことなのは間違いない」

「ハルちゃん……っ」


 そうだ、やっぱり。本当に世界の理を捻じ曲げて、彼にもう一つの能力を与えたのだとしたら。


「プロジェクト パーフェクト・ワールド……っ」

「やっぱり二人はそのことを知っているようだね」


 そうだ、こいつこのことに関しても探ってたな。


「あんまり深くは教えられないけど、私たちは()()()みたいなものかしらね」

「じゃあ君たちも世界の理から外れた存在、とか?」

「いや、違うな。むしろ俺たちは……」

 

 これぐらいは言っちゃっていいか。


「世界の理に従っているというか、もっとも影響を受けているというか。まあ、そんな感じだな」

「最も影響を受けている…………?」

「まあ、それ以上はさすがに禁足事項と言いますか、もう教えられないわ」

「そうか、そうだよね。僕は敵側の人間だもの」


 そう、時々忘れそうになるがこいつは敵。正直ここまで教えてしまったことを後悔した。


「で、その後どうしてこうなったのか教えてくれ」

「うん、でもその前に聞きたいことがこっちにあるんだけど」


 そこまで言うと、翼は向こうで横たわっている少女、弐重玖保まなるさんのほうを向きながら、さっきとは全然違う、険しい顔をして俺らに向かい合った。


「本当にまなるは殺してないんだな?」

「…………ああ、まだそう思うか?」


 俺は彼の威圧に押されそうになりながらも、起こった事実をただ述べることにした。


「まなるは“影”に殺されたと?」

「そうだ、お前のとこにも通知、来ただろ?」


 そういって俺は自分のスマホを二人に見せた。そこにはしっかり“影出現”の通知が映っていた。

しかし、それを見た二人は、怪訝そうな表情を浮かべ、やがて口を開いた。


「僕のスマホにそんな通知、届かなかったけど」

「私も」

「は? なんで?」


 いや、あの時確かに俺とまなるさんのスマホに通知が来たはず。そして本来それは戦闘可能な能力者全員に送られるはずだ。つまり


「俺とまなるさんにしか通知が送られてこなかった、てことか?」

「たぶん、だから援軍も来なかったと」

「どうして……? システムの不備だとしてもその二人だけっていうのが引っかかるのよね…………」


 そこまで話したところで、俺の頭を一つの可能性がよぎった。


「まさか、上層部がこうなるようにわざと情報を操作したのでは⁉」

「なるほど、確かにその可能性が大きいね」


 おお、翼が肯定してくれた。この話題でそうしてくれるのはありがたい。


「そして二人が対立するように仕向けた、ということね」


 璃々奈も合点がいったようだ。


「やはり、奴らに正義はなかったんだな…………手を貸してしまった僕自身恥ずかしいよ」

「翼……」


 そう、こいつ自身、自分の“正義”を信じた結果こうなったんだ。こいつもまた、あの計画の“犠牲者”なのだ。


「実はこうなるまでに、上層部からの指示で何人かの凶悪犯人を手にかけたんだ。…………そうだ、僕に“正義”なんて元々なかったんだ。歪んでたんだ。晴翔君の言った通りさ」

「そうか…………でも」


 俺は彼に言ってやることにした。


「間違いなら、やり直せばいい。まだ手遅れじゃないはずだ」

「ハルちゃん…………」

「なら、僕は自首するべきなのかな」

「いや、今自首しても上層部に消されるだけだろう。だからまずは、その襲撃計画とやらについて教えてほしい。そして、正義を証明するために俺たちに協力してくれないか?」


 俺は彼に手を伸ばす。彼はそれに一瞬戸惑った後、ニコッと微笑み返し、俺の手を握った。その様子に璃々奈が一瞬苦悶の表情を浮かべたが気にしない。


「わかった。もう僕、あんな奴らには手を貸さない。これからは君たちに手を貸すことを“正義”の名のもとに誓うよ」


 その瞬間、俺らの握り合った手が再び輝いた。なんのことか、と俺が再びそちらを見るとそこには、…………背に“翼”が生えている正義翼がいた。


「能力が…………戻っている」

「うそだろ?」

「え? まさかそれって返却可能なの⁉」


 そして彼は背をじっと見ると、いたずらを思いついたような顔で俺らのほうを向いた。


「これなら、君を倒せるね」

「今のお前はそんなことしないだろ?」


 即答してやった。彼の“正義”においてそんなこと決してあり得ない。そう信じているから。


 ――その後彼はまなるさんを背負って、仲間のほうに帰る、と告げた。


「その仲間たちも上層部とつながってたりとかは」

「大丈夫だよ、彼らは僕の昔からの戦友さ」


 目が笑ってない。どうやら本気のようだ。


「でもさ」

「どうした?」

「まなるのこと」

「あっ…………やっぱり。ごめん、俺の不届きのせいで」

「いや、」

「?」

「ありがとう、って言いたいんだ。俺も、そして彼女も。きっと彼女は最期に君と出会えて幸せだったんだと思うから」


 そうかな? まあまあ俺の印象悪かったと思うが。


「じゃあね。彼女の葬式はすべて収まってからにしなきゃ」

「あ! そうだ。それでその襲撃というのはいつなんだ?」

「それは…………」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 28日、昼。部室

「まさかその襲撃が“生徒総会”当日だなんて」

「はい、その日は小、中、高等部の生徒と教員を一掃できる、最も近い日だからだそうです」

「初等部まで…………ひどいものね」


 そしてそれには多くの軍隊を動かすみたいだから日にちは変わらないそうだ。


「となると、残り一か月ないのか…………俺らだけで行けるのかどうか」

「さすがに軍隊相手は厳しい。もっと戦力がいるわね」

「さらなる戦力…………」


 ぱっと思いついた人はいるし、戦力にもすぐなってくれそうだが…………でも足りないか。


「それに“生徒総会”に登壇しなきゃいけない人がいますし」


 そう、部活の承認をしてもらうにはその部の代表、つまり部長の登壇が必須なわけで。


「そうなんだよな、問題は鏡美なんだよなー」

「はい」


 正直今の鏡美先輩に部を復活させようという気はないみたいだし……でも他を部長にするのもなあ。正直能力者をまとめる力は俺らにないし、失礼だが力先輩はそういう器じゃない。しかも防衛の戦力も減ってしまうし。課題は山積みだ。


「じゃあ、今日も解散だな」


 木ノ原先生の一言で今日の集まりも終わる。そして俺が荷物の整理をする横で力先輩は、


「やっぱ最高だねえ、女児は」


 下校中の女子小学生を見下ろしながらスマイル。安定のロリコン先輩だ。


“生徒総会”まで残り28日


~続く~

この後もどんどん加速していきます。

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