プロローグ
『女子高校野球はランキングに支配されている。』
そう言われるようになってから、もう久しい。
新設された女子プロ野球リーグは女子野球専用球の開発や新球場開設、独自の中継配信サービスを展開するなどの大規模改革によって世界的な人気を博すようになっていた。
女子プロ野球の人気拡大に伴いアマチュア球界も盛り上がりを見せるようになり、女子高校野球部も年を追うごとに数を増やしていった。かつては十数校で競っていた全国大会も、各地方で予選を行うようになるまで規模が拡大していた。
毎年各地で白熱した試合が行われ、地方大会の決勝ともなると父母以外にも一般の観客で客席が埋まるほどの注目度を誇る大会となっていた。
強豪校や有望選手などのメディア露出も増え、順調に人気を獲得していた大会に転機が訪れる。
ある時、予選大会に決勝リーグ制が組み込まれることになった。投手の疲労軽減や控え選手の起用機会増加のために採用されたルール変更だったが、結果としてこれが発展途上であった女子高校野球界の均衡を崩す引き金となってしまった。
リーグ戦を勝ち抜くために強豪校は投手によって自在に打線を組み換え効率よく得点を奪い、細かな投手継投を用いて相手の打線を煙に巻いた。
多くの強豪校が同じような戦略を採用するようになった結果、厳しいリーグ戦を勝ち上がるのは分厚い戦力と名のある指揮官を擁する強豪校ばかりとなってしまった。
ドラマの欠落した大会に辟易したメディアはいつしか各校の勢力ランキングを付け始めた。
当初は一メディアの企画に過ぎなかったが、戦力の均衡が保たれていない女子高校野球では毎年のように同じ高校が勝ち上がるため次第にリストの信憑性が広まっていき、順位の高い高校の選手は一般層のみならずプロチームや大学からも注目を集めるようになっていった。強豪校はこぞってこのランキングを競い合うようになり、ランキングの高い学校にはそれまで以上に優れた選手たちが集うようになった。
前年全国大会に出場した40校、加えて直近の大会や練習試合の結果などから全国出場の見込みがあるとされる10校。毎年大会前に発表されるトップ50のランキングから漏れた高校が全国大会まで勝ち上がった事例はもう10年以上出ていない。
パワーランキングの存在が戦力の偏りを助長した結果、毎年のようにリスト入りした高校が全国大会に顔を揃え、ランキング上位の高校ばかりが勝ち上がる様を揶揄して、人々は女子高校野球全国予選大会をこう呼ぶようになった。
────『キセキの死んだ大会』と。
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