過去との邂逅2。
『お前を購入される方が来た。出なさい』
仮の持ち主である奴隷商の主人が私に話しかけて来た。
私を買う…?まさか、以前私を買うと言っていた物好きなあの人が戻って来たの?
奴隷商の主人に連れられて、私の主人となる人が待つ部屋へと向かった。
『おおっ!本当に取っていてくれたんですね!』
やはり一月前に来ていた人でした。
私のように醜い脚をしている奴隷など態々取っておかずとも自然と売れ残るのに。
『はい。これがお金です』
机の上に乗せられたのは白金貨三十枚。これが私の値段。
それにしても……
どうしてこの人は私の脚ばかり見ているのでしょうか?
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またあの人の夢です。あの方の夢は見ないのに……私はなんて薄情な女なのでしょうか。
私に愛を説いてくれたのはあの方なのに……
コンコン
ガチャ
「お姉様。おはようございます。今日のお召し物をお持ちしましたわ」
「アンネ。おはようございます。侯爵家御令嬢である貴女がその様な事を…」
「お姉様は特別ですものっ!それよりも今日はお茶会に出ていただけるのですよね!?」
最近アンネはノックの意味を忘れています。まぁ同性ですし、見られて恥ずかしいことなど私にはありませんが。
「はい。可愛いアンネの頼みです。では着替えますね」
私には姉が一人います。
その姉は私を買うために討伐者組合で受付の仕事をしています。姉がお金を貯める前に私はあの人に買われたのですが……
話が逸れました。
私には姉は居ますが弟や妹はいません。
同じ髪色で愛らしいアンネだからか、私にはとても可愛い妹の様に思えます。
その可愛いアンネの頼みであれば、不肖アリス、お茶会程度参加いたしましょう。
「きゃあ!!」「なんて事!!」「それでそれで!?」
女が三人寄ればとはよく言ったもの。アンネが開いたお茶会には、同じ年頃の貴族令嬢が三人参加しました。
ここはアーネスト侯爵邸の中庭。そこに用意されたテーブルを三人と私とアンネで囲んでいます。
挨拶時には私とアンネの髪色が似ている為、三人は親族だと勘違いしていました。それを訂正する為に話し始めたのがアンネ。
そしてそのアンネは賊に襲われたところから、話を聞かせているのです。
「凄い…私達とそう変わらなく見えますのに…」
「私もお姉様とお呼びしても…?」
「ウチの護衛とどちらが強いのでしょうか…」
「お姉様とお呼びしてもいいのは私だけですっ!皆様はアリス様とお呼びください!
侯爵家が私に付けた護衛達を倒した賊を、お姉様はお一人で倒したのです!結果など見えているのですわっ!」
アンネは何故か私の事を自分の事のように誇っています。
そんなアンネも愛らしくて、私は四人の邪魔をしないように傍観者に徹します。
「後!お姉様はお料理もシェフ顔負けなのですわっ!」
「ホントですの?お強くてお綺麗で料理上手なんて…まさに完璧な淑女ではありませんか」
「アンネ様。私もアンネ様が絶賛されたお料理を食してみたいですわ…」
「お茶会で食事を頂きたいなど、端ないですわよ!」
「あら…失礼しました」
可愛い…
同じ会話でもこれがもう少し成長すると可愛く見えなくなるのは何故なのでしょう?
このお人形さん達はこのまま永遠の13歳でいてくれないのでしょうか?
大魔導士様ならば可能でしょうか?
「そうです。私でもお姉様の手料理を頂いたのは二度のみ。簡単には頂け『いいですよ』えっ?」
お人形さん達が喜んでくれるのであれば、然程の事ではありません。
「流石に皆様をお腹一杯にさせるのはお家の料理人さんに失礼になります。
ですので、一人前の料理を作るので、皆さんで分け合って試食されますか?」
お茶会は昼から夕方まで。
流石に貴族令嬢方を満腹にし、夕食を食べれなくするのは問題になりそうです。
なので一人前。材料も『sub space』の魔法陣の中にありますし、すぐに作れます。
「よ、宜しいのですか?」
私の提案に驚いているアンネの代わりに、可愛らしいお人形さんが聞いてきました。
「はい。簡単なモノで申し訳ないですが、私は構いません」
その言葉と共にアンネを見て伺います。
「は、ハンバーグが食べたいですわっ!!」
「いいですよ。アレならすぐに作れます」
「「「ハンバーグ?」」」
アンネには一度自分用に作っていたハンバーグを分け与えた事があります。
余程美味しかったのでしょう。
私もクリス様に作っていただき、初めて食した時には驚きました。
お肉があんなにも柔らかくなるのだと。
材料も揃っているので、中庭の一角を借りて、野営道具と材料を取り出しました。
「「「えっ!?今どこから!?」」」
このお人形さん達は三つ子さんみたいに同じ反応をするのでさらに気に入りました。
「こ、これが…ハンバーグなるものですのね」
「茶色いですわ…」
「でも…良い香りが…」
ゴキュッ
焼きたてのハンバーグを前にして、三人が喉を鳴らしています。
「さあ。召し上がって下さい」
私がそう言うも、初めての料理に戸惑いを隠せない三人。そこにアンネが代表して一口。
パクッ
「ぅ〜〜!!これです!お姉様!美味しいですわっ!!」
美味しいと顔を綻ばせているアンネを見て、三人も恐る恐るハンバーグを口に運びました。
「な、なんですの…これは!?」
「まるで極上のステーキ…いえ、中に野菜も入っていて、ただ焼いただけのステーキよりも上品な味わい…」
「お、おいしいですの…」
約一名、食への拘りが強そうなお人形さんが居ますが、他は年相応の反応で私は大変満足です。
アンネもお友達を良い意味で驚かせられて嬉しそうです。
貴族は苦手でしたがこの子達みたいな人ばかりだと、苦手ではなくなりそうですね。
お茶会が終わり、玄関で三人のお見送りをしました。領主邸の中に戻ろうとした私をアンネが私の名を呼び、引き留めます。
「お姉様。本日はお茶会に参加していただいただけではなく、手料理までも…ありがとうございました」
礼儀正しいアンネは、皆さんが帰った後に私へお礼の言葉を述べてくれました。
「良いのです。私も侯爵家にお世話になっていますからお互い様です。私は何かお返しが出来たのならそれで十分です」
「お姉様…」
アンネは私を神格化しているところがあります。普段であれば、そのような人達からは遠ざかるのですが、アンネは可愛いのでこのままにしておきましょう。
「ほう。伯父上のところに新しい食客が来たと聞いていたが……あの真面目な伯父上も女は若い方が良いようだ。
おい。お前!行くぞ」
私とアンネが屋敷の外で話をしていると、見知らぬ男性が声を掛けてきました。
お前とはまさか私のことではないですよね?
「従兄様?お父様に御用でしょうか?」
「アンネロッテ。違う。横にいるその食客に用があるのだ。伯父上には少し借りると伝えておいてくれ」
「…何か勘違いをされてませんか?」
食客ですか。確かに私の身分は居候ですから家族以外には食客と説明していてもおかしくないですね。
「何がだ?そんな女が食客なんだ。伯父上に身体で奉仕しているのだろう?そのおこぼれを甥の俺が頂いても問題なかろう」
「何を言っているのですか!!この方は我が家の恩人です!!その様な娼婦まがいの事をするはずないでしょう!訂正後、謝罪して下さい!!すみません…お姉様…」
「誰にでも間違いはあります。それにアンネの謝ることではないですよ」
私はこういう勘違いにはよく遭遇していたので慣れています。まぁ慣れているからといって、許すかどうかはその後次第ですが。
アンネに従兄様と呼ばれていた男性はよく肥えた豚…いえ、太ましい青年です。恐らく私より少し上くらいの年頃。
「アンネロッテ!俺は分家とはいえいずれ当主になるモノだ!女が出しゃばるなっ!!」
醜い豚貴族は、唾を飛ばしながら汚い言葉をアンネに向け、近寄ってきます。
分家と言っていたので本家のお嬢様であるアンネに手をあげないとは思いますが、何かあれば悲しむのは私とご両親。
豚とアンネの間に私が立ち塞がりました。
「それ以上近寄ると実力行使します」
「娼婦の分際で俺に何ができるっ!!?」
やはり豚には豚語しか通じないようです。流石のクリス様も動物とは言葉を交わせなかったので、下位互換である私に出来るはずもありません。
豚は私にその汚い手を伸ばしてきました。