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過去との邂逅。

 





『助ける!?』

『ああ。あの襲われている馬車は力が無かった時の俺なんだ。

 俺は力が無かった(あの)時助けて欲しかった。でも助けてもらえなかった……だからこそ助ける。アリスはここで待っていてくれ。もしどうにもで出来なければ逃げるから、そのつもりで』


 行ってしまわれました…





『アリス!こっちに来てドレス(これ)を着なさい!あの人(アイツ)を驚かせるわよっ!』

『わかりました』


 この方は口は悪いですが、不器用なだけです。これが年上であればイラッとしますが、お人形さんみたいな可愛らしい見た目も相まって、とても愛らしく見えます。

 あの時、馬車を助けて正解でした。

 この少女が賊達に嬲られていたとしたら……やはりあの人は素晴らしき人です。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 いつもの夢を見ていたようです。

 あの人が目の前から消えたその日から、私の夢は決まってあの人とあの方との思い出ばかりです。


 コンコンッ


「お姉様っ!起きてらっしゃいますか?」

「はい。どうぞ」


 ガチャ


 銀髪を靡かせ扉を開けて入って来たのはアンネロッテ嬢。ここホーネット王国の西部中央よりにある街『アーネスト』を治めるアーネスト侯爵家の長女であらせられます。


「お姉様。おはようございます!昨夜はバタバタして碌にお構いも出来なかったこと平にご容赦を」

「いえ。立派な部屋で休ませて頂いたのにこれ以上は…」

「何を!お姉様は(わたくし)の命の恩人。お父様もお礼が言いたいと朝食の席で待っております。

 準備が整い次第来ていただけますか?」

「はい。お待たせして申し訳ないとお伝えください」


 ふぅ。アンネロッテ…いえ。怒られるのでアンネと呼びましょう。アンネは命の恩人ということだけではなく、女性で強い私に憧れのようなモノを持っているのでしょう。

 同じ銀髪ですし。

 しかし、朝からあの元気は疲れますね…いえ、良い子なのですよ?ただ私とは人種が違いすぎるというか…


 考え事は終わりです。アンネの父という事は侯爵様ということ。

 その様な高位貴族をただの平民が待たせるわけにはいきません。

 アンネを見ればわかりますが、侯爵様も悪い人ではないでしょう。ですが平民に待たされたと知られると外聞が悪いと思うので急ぐこととします。


 私は権力に気を遣いませんが、良い人には気を遣うのです。











「おお…本当にアンネとそう変わらないではないか…」


 アンネに案内されて訪れた食堂。煌びやかなそこには上座に壮年の男性、その右に同じ年頃の優しそうな女性、左には上座の男性をそのまま若くした少年がいます。

 そして私を見て驚きの声を上げたのが壮年の男性。恐らく…いえ、間違いなくアーネスト侯爵その人でしょう。


「お初にお目にかかります。討伐者ランク白金のアリスと申します。昨夜は素晴らしい部屋を貸していただき、ありがとうございました」

「まぁ座りなさい。お腹は空いているかな?食事を摂りながら話をしようじゃないか」

「では、お言葉に甘えさせていただきます」


 ここで遠慮をしていても埒があきません。

 私は素直に用意されていた椅子へと腰を掛けました。


 まずは自己紹介。

 上座の男性はやはりアーネスト侯爵様でした。そして女性は侯爵夫人。男の子は長男でアンネの弟。

 アンネは13歳で私の三つ下になるそうです。


「まぁ!ではアリスさんは女性で一人旅を?アンネ、凄いわね!」

「はい!お母様!お姉様は凄いのです!まるで白馬に乗った王子様…いえ、女性で美人なので女神様なのです!」

「アンネ、アリス嬢の活躍を詳しく聞かせてくれないかい?」

「こ、こんなに美しいのに……」


 私を置き去りにして会話が盛り上がっています。

 大変仲の良いご家族なのですね。

 まだ両親が生きていた頃を思い出して、私の胸がキュッと締め付けられました。





「アリス嬢。娘を助けてくれて感謝申し上げる。貴族としてではなく、これは一父親としてだ。

 ありがとう」


 侯爵様はそういうと、深々と頭を下げました。え?私平民ですよ?


「こ、侯爵様!やめてください!私は高貴な方に頭を下げられる様な身分ではありません!」

「これは一人の親としてだ」

「はい。アリスさん。私も母として感謝申し上げます」


 気まずい……こういう時、どうすれば良いのでしょうか?あの人なら……いいえ。あの人なら逃げるだけですね…


「感謝を受けとりました。頭を上げて下さい。それ以上は困ります」

「…恩人にそう言われたのなら上げる他ないな」

「アリスさん。本当にありがとう。私達に出来ることが有ればなんでも言ってね」

「そのお言葉だけで………いえ。一つ宜しいでしょうか?」


 私は何度も言うようですが聖人ではありません。ですが、アンネを救った時に打算など微塵も無かったのも本音です。

 しかし、落ち着いた今、この方達に頼める事が思い浮かびました。


「何かな?国を裏切る事以外であればなるべく叶えるよ」

「私の持っている宝石であれば好きなものを好きなだけ持っていって良いわよ」

「ち、違います!人を!人を探しているのです」

「「人?」」


 侯爵様は何やら恐ろしい事を想像していそうでしたが、そこは無視しました。

 私は旅の目的を掻い摘んで説明しました。


「まあ!素敵…」

「お姉様にそんな方が…」

「うむ。青春だな」

「そ、そんなぁ…」


 約一名絶望の表情(かお)をしていますが、それも無視です。


「はい。私の旅の目的は、その『クリス』様を見つける事になります。

 もしかしたら偽名を使っているかもしれません。ですので特徴をお伝えしたいのですが……」

「ああ!ホーネット王国内くらいしか探せないが、全力を尽くそう!」

「私も社交界で聞いてみるわね!」

「わ、私も!」


 良かった。これで少なくともこの国は調べられそうです。

 問題は特徴なのですが…こういうとアレですが、あまり特徴がない事が特徴といいますか…


 クリス様は茶髪で普通の身長にしなやかな筋肉が付いたお身体。

 最大の特徴はその強さにありますが、それは見てわかることではないですよね……


 侯爵様にはその後、絵心の無い私が描いたクリス様の似顔絵を渡す事になりました。











「きゃーーっ!!お似合いですっ!!」


 国内での捜索が終わるまで、侯爵家のご厚意に甘える形でお世話になる事にしました。

 そんな私は今、アンネの着せ替え人形となっています。

 アンネが着ているようなお姫様ルックのフワッとした可愛らしい装いではなく、私はタイトなドレスに身を包まれていました。


「お姉様はスタイルもいいので、さらに引き立ちます!この括れ!なにをどうしたらこうなるのかしら?」


 それは私にもわかりません。魔導具の脚に耐えられるように、自然とこうなりました。


 私が生まれた国では、この脚は敬遠されて…気味悪がれていましたが、どうやらこの国では受け入れられているようですね。

 これも文化の違いでしょう。


「お姉様は魔法も使えて、格闘も出来て、美人で、物腰も柔らかく、完璧です!」


 いえ、少なくとも魔法は違います。その素質はあるようですが、私は魔法使いではなく借り物の魔法陣に頼っているだけです。言えませんが。


「アンネも可愛らしく将来はきっと美人になりますよ。それに戦わなくとも良いのです。私は偶々それが出来ただけ。

 アンネを助ける事が出来たのは喜ばしい事でしたが、それは偶々です。完璧などではありませんよ」

「そんな!お姉様のお姿とお力は神が与えたモノです!そんな選ばれしお姉様は完璧なのです!」

「アンネ。この力を私に与えて下さったのは神などではありません。クリス様です」

「!!では、クリス様が神様なのですね!!」


 違いますが、否定はしません。

 私にとっての神はクリス様なのですから。

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