アリスの目的。
この世界には討伐者と呼ばれる人達がいます。
その討伐者の世間の評価は『普通の仕事が出来ない野蛮な者達』です。
そんな野蛮な者達の頂点に立つ者が存在します。
それは……
「アリス様!流石討伐者ランクの頂点ですね!!まさかドラゴンを単独討伐されるとは!」
討伐組合と呼ばれるところに全ての討伐者は所属しています。そこの受付嬢をしている可愛らしい女性が、私に手放しの賛辞を贈ってくれています。
「いえ。これは私の力だけではないので」
「またまた〜!白金ランクの討伐者でソロの冒険者として有名じゃないですかぁ〜」
討伐者のランクは鉄ランク(ルーキー)から白金ランク(キング)と呼ばれるランクまであり、私のランクはその最上位に位置しています。
確かに私はソロ(チームを組まない)の討伐者ですが……この力は借り物の力なのです。ですので、私だけの力ではありません。
報酬を受け取った私は、この街で借りている宿へと戻りました。
『なぁアリス。その脚は確かに丈夫だけど……壊れたら嫌だからあまり無茶しないでくれよ?』
『私の脚は■〓▼様の為にあります!!役に立つのであれば壊れても構いませんっ!』
いつもの夢を見て目を覚ました私は魔法陣を使い部屋に備えられているタライに水を張り、顔を洗いました。
魔法陣とはその存在自体が世間に知られていない、私の力の一つ。
魔法陣にはいくつか種類があり、私が所持している数は11個。世界にはまだまだ魔法陣があると思いますが、私にそれを見つける術はありません。
そして夢の中に出てきた私のもう一つの力は『脚』です。
私は生まれつき脚に障害があり、満足に歩くことも出来ませんでした。
しかし、今はこの『機械仕掛けの脚』があります。
私を縛るものは無く、好きな所へと行くことが出来るのです。
「私の目的は『強靭な脚』と『魔法陣』を私に与えてくれた人を見つける事。
さあ。アリス。今日も頑張りましょう」
自分で自分に気合いを入れて、私は今日も討伐者組合に向かいました。
「コロシアム…ですか?」
いつものように討伐者組合へとやって来た私は、受付嬢さんから聞き慣れない言葉を耳にしました。
「はい!生死問わず、何でもありの大会の様なものです!」
可愛らしい顔を興奮の色に染めて、受付嬢さんは何やら力説していますが……力を見せびらかす事に私は興味がありません。
「犯罪者は勝てば恩赦が約束されており、他の参加者には大金と名誉が約束されています!アリス様なら優勝間違いなしですよっ!」
「…私には興味『様々な国から高ランク討伐者も集まります』…続けてください」
全く興味が惹かれなかったですが、それなら話は別です。
私の探し人も高ランク討伐者。もしかしたら見つかるやもしれませんね。
「はいっ!コロシアムがあるのは隣国のアルケミス皇国です。ここアジャスター帝国の南に位置する国ですね。
そこで優勝すると…なんと…皇室に召し抱えられる名誉が与えられるそうですっ!!」
「…それはどうでもいいです。大会に参加するにはどうすればいいのか教えて下さい」
召し抱えられるのは困ります。私にはやらねばならない事があるのですから。
受付嬢さんに聞いた情報を纏めて、私は旅の準備の為にギルドを後にしました。
「ここがアルケミス皇国ですか。昔は帝国を名乗っていたようですが……興味ありませんね」
二つ結びにした長い銀髪を靡かせ、あの人に頂いたメイド服を身に纏った私は、二日の道のりを経てアルケミス皇国へと辿り着いていました。
「皇都はたしかここよりさらに南ということでしたね」
私は大体の方角と街の凡その場所が描かれた地図を手にそう独り言ちる。
「さて。走れば一日で辿り着けるでしょうか?」
私の脚は特別製。膝より下は金属で出来ています。それをあの人が犠牲を払い、魔女にお願いして『チューンアップ』というモノをして下さいました。
跳べば10m以上の高さまで到達でき、走れば常人の10倍以上の速度が出せ、体力は少ししか消耗しません。
その脚を使い、私は皇都を目指しました。
「よう姉ちゃん?ここを通りたかったら、プギャ!?」
皇都が見える場所へと辿り着く事ができましたが、何やら道を塞ぐ輩が。
どうも私の見た目は良いらしく、私が高ランク討伐者だという事を知らない男に声を掛けられる事が多数……
元奴隷という事もあり言葉遣いでも舐められているのでしょうが、邪魔する者に容赦する私ではありません。
「あ、アニキ!?」
兄弟でしょうか?蹴り飛ばした男とは似ても似つかない小柄な男が驚愕に顔を青くして、右往左往しています。
「まだ私の邪魔をしますか?」
「ひ、ひぃぃ!?」ダッ
兄弟ではなかったのでしょうか?
小柄な男は蹴り飛ばした男を置いて、一目散に逃げてしまいました。
「ふぅ。ここに置いておくと魔物の餌になるかもしれませんね。ですが、どう見てもこの男も討伐者。諦めてもらいましょう」
私達討伐者とは、魔物と呼ばれる体内に魔力の源である魔石を保有している生き物を倒す職業になります。
魔物以外にも普通の獣も倒すのですが、それは低ランク討伐者のお仕事。私は食べる目的以外ではなるべく倒さないようにしています。
この男の格好は…汚らしいですが、討伐者のモノでしょう。なのでここに置いていきます。
そう判断した私は、まだ街の門が開いている事を確認して、皇都へと向かいました。
皇都は他の大きな街と大差なく、高さ10m程の立派な外壁に囲まれていました。
頑張れば飛び越えられますが、いらない騒動を起こす気のない私は、門の前の列へと並んでいます。
「次!」
漸く私の順番が来たようですね。
私は身分証として討伐者ランクが記載されているプレートを門番の方に渡しました。
「白金ランク…!?」
「はい。問題がありますか?」
「い、いや。コロシアムの出場希望か?」
毎度の事なのでもう驚かれる事には慣れました。
確かに高ランク討伐者の方々はいか…ゴリ…逞しい方が多いのも事実。
そして私の目的も話すまでもなかったようです。
「はい。どこに行けばいいでしょうか?」
「ここから真っ直ぐ行けば巨大な建物が見える。それがコロシアムと呼ばれる闘技会場になる。受付もそこでしているから向かうといい」
「ご丁寧にありがとうございます。では、私はこれで」
親切な門番さんで良かったです。違う街では不埒な門番もいたので無駄に警戒してしまいました。
私は教えて頂いた場所に向かい、血の通わない脚を動かしました。
「白金ランクの方ですね!良かったです!では受け付けました」
あら?どういうことでしょうか?
闘技会場の外に設営されていた受付を見つけた私は、他に予定もないのでそこへ向かい手続きを済ませたのですが……受付嬢さんの言葉に不穏な何かを感じます。
「もしや、参加者が少ないのですか?」
「ギクッ!?」
………そんなにわかりやすく驚かれるとこちらの方が驚いてしまいます。
いるのですね。自分で『ギクッ』と、言われる方って……
「は、はい…実はここ数年参加者が減っているのです。犯罪者の方達は変わらないのですが、討伐者の方の参加は減る一方です」
「?それは何故でしょうか?」
「ここ数年、優勝者が全て同じ方なのです。大変言いづらいのですが、その方の対戦相手の方は全て殺されています…それで……」
「わかりました。ではお話の通り十日後にここへ来ますね」
「えっ!?話聞いてました!?」
何か嫌な理由でもあるのかと思えば……そんな事でしたか。
コロシアムでは生死問わず。参加したことのない私ですら知っているのに……
何を生ぬるい事を。
まだ私に話しかけてくる受付嬢の言葉に応えることなく、私はその場を去りました。