啓示
目が覚めると、見覚えのない景色が広がっていました。シャボン玉のような、虹色を放つ雲の上に、立っていたのです。
果てしなく広がるそれに身震いし、あたりを見渡すと、一人の老人が向かってきていることが分かりました。
圧。
あの、灰色の布一枚だけを纏った、老年に見える男は、確かにとてつもない、津波のように押し寄せる圧を放っていました。
その災害を前にいつの間にか、身震いが止まらなくなり、私の体が少しずつ汗となり、下に広がる雲と同化し始めたちょうどその時、いつの間にか目の前にいたその老人は、不気味なほど穏やかな声色で、私に語りかけ始めました。
「お主は、一体誰だ」
「わかりません」
どういうわけか本当に、分からない。
しかし、分からないと答えていることが、どうにも嘘をついているかのように感じて、その後ろめたさに例の圧が、深く突き刺さる。
「なぜ、ここにいる?」
「..わかりません」
嘘じゃない。
「儂を、知っているか」
「知、り、ません..」
嘘じゃ、ないんです..。
「なるほど。いいじゃろう」
いい。その一言は、私にこの上ない、安堵をもたらしました。
「しっかり記憶は失っている、か。随分、あっけないもんじゃ」
老人が何か小さく呟いたが、そんなことはどうでもいい。今はとりあえず、この老人に見逃してもらい、確固たる安堵を手にしたい。
そんな思いもつかの間、直後、私は深い絶望に落とされました。
「お主。お前は、元大罪人じゃ。理不尽じゃが、今ここで、裁かせてもらう」
老人が発した、この理不尽によって。
一時的に、身体機能の殆どを失った私を気に掛ける素振りも見せず、老人は言葉を押し付けてきました。
「この神の世を脅かしたのじゃからな。特例で、極刑に処す」
私の絶望はとうとう思考する機能さえも蝕み、私の思考は、このシャボンの世界から逃避する方法、という非現実を、堂々巡りするのみ。
理不尽。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
そうして老人は、理不尽に言葉を続けました。
「お主には異世界に行き、一生を送ってもらう。そこで、しっかり更生できているか、儂が確かめてやる」
そう、理不尽に。理不尽?
老人の告げた罰は、意外にも軽いものに感じられました。
異世界? ここではなく?
この老人の圧から解放されるならば、どんなことでも..
「これも渡しておく」
そうして一冊の、分厚い本が渡されました。
「これに書いてあること全てを守って生きることじゃ。違反すればするほど..分かっておるよな。次死んでここに来るまで、ずっと、見ておるぞ」
身震い。
どうやら圧からの解放は、一時的なものであるようです。またここに来なければならないならば、ただの、問題の先送り。
ジェットコースターに載せられた私の感情は限界を迎え、いっそもうここで、私の意識を処刑されたほうがマシだったかもしれないとまで、思うようになっていました。
「では、楽しみにしておるぞ」
その言葉を聞き終えた刹那、意識が朦朧とし始める。
ぼやけた視界に映る虹色の雲の世界は、あえてぼかして撮ったイルミネーションのようで。
..ああ、幸せだ!
圧が、受け続けていた不快が、消えていく。
やはり消されたほうが、良かっ..
ぼざろに感化されて書きました。??
ロックな物語にしてきたいです。