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クレスが連れてこられたのは小さな窓が一つあって、中心に木製の机と椅子がいくつかある質素な造りの部屋であった。
ここがどこで何をするところなのかはわからないし、どうやって連れてこられたのかも先ほどまで目隠しをされていたのでわからない。
クレスをここまで連れてきた若い兵士に椅子に座るように指示され、クレスもそれに従う。そして「しばらく、ここで待つように」と言い残して部屋を去っていった。
それから殺風景な部屋はクレス一人になってしまう。しんと静まり返った部屋に一人でいると、何故か気持ちがざわつく。嫌な気分だった。
男と女が一人ずつ入ってきたのはそれから数分後のことだった。男の方は藍色の髪にブラウンの瞳をしており、腰には剣を下げている。体格は決して大きいということはないが、精悍な体つきをしているのが見てとれる。それにしても妙に隙のない身のこなしである。自分が襲いかからないか警戒してのことだろうか。
もう一人の女性は長い白金色の髪を後ろの方で結っており、瞳はエメラルドグリーンの瞳が印象的だ。その女性はパンツスタイルでいかにも動きやすさを重視した格好をしている。クレスは素直に綺麗な女性だと思った。
「ようこそ。私はアルテナよ。私の隣にいる男はライン。カナルディアはあなたを歓迎するわ」
アルテナと名乗る女性とラインと呼ばれた男が椅子に座るなり、彼女はそう自己紹介してくれた。
「できれば、あなたの名前を知りたいのだけど?」
ボーッとしていたクレスはそう指摘されて、返事をしていないことに気がつく。
「自分はクレスといいます」
少し緊張したせいか声は上ずってしまった。それが少しおかしかったのかアルテナはクスリと笑みを浮かべる。
「俺たちは君を尋問しようとかは思っていない。先ほどの行動を見ていても、君が我々に危害を加えることはないというのはわかっているからな」
そう言ったのは男の方――ラインだ。が褒められているのか貶されているのかはよくわかないところだが、それで首皮が一枚繋がったのならばよしとするべきかとクレスは自分を納得させた。
「ところで君はあの山賊とはどういう仲だったんだ? 仲間という感じではなかったが」
クレスはこの経緯をラインたちに話すことになった。どこまで説明したものかとは思ったが、ここで嘘をついてもしょうがなかったので、正直にすべてを話した。
「なるほど。金に困って山賊になったが、昨日今日でさっさと捨てられたというわけか」
そう言われると妙に切なくなるクレスであった。
「こちらの話もいい?」
今度はアルテナが声をかけてくる。凛とした雰囲気が声からも伝わってくる。
「私たちは情報が欲しいの。あなたさえよければ協力してもらえないかしら? もちろん見返りとしてできるかぎりのことはするつもりよ」
「情報ですか?」
クレスが首を傾げる。自分が彼らにとって有益な情報を持っているなどあり得るのだろうか。
「ええ。あなたにも決して悪くない話だと思うの」
「俺――私でよければ構いませんが……」
クレスとしてはまったく問題はない。少なくとも彼らは山賊たちよりは信じられる。そう思うことにした。