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双界のアルシュリオン  作者: あかつきp dash
第一章『カナルディアのガルダート』
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 クレスが連れてこられたのは町の外れにある森の中である。そこに開けた場所があって、急ごしらえのテントが張られていた。

 そこには他にも男が四人いて、それぞれ武器の手入れをしたり、ハンモックで寝ていたりしていた。

 これだけの情報があれば彼らがどういった輩であるというのは容易に想像がつく。

(山賊だな……)

 山賊というのは他人から金品等を奪ったりすることを生業にする連中である。

 ちなみに山賊というのは知性の欠片もない野蛮人という認識を持っている人間がいるのだが、それは実際のところではない。

 山賊と呼ばれる人間とはその大半が土地を失って落ちぶれた騎士階級である。武芸はできるが、経営などはからっきしという者は存外多い。そういう者が借金でどうにもならなくなって土地を売り払って、落ちぶれるのだ。

 多くは借金の肩代わりに土地やほとんどの物を手放すが、武器と鎧だけは残す者がいる。そういった者は戦い慣れしている者が大半で、そのほとんどが山賊になる。

 もちろん山賊もピンからキリまでだろうが、クレスの目の前にいる山賊たちは相当の手練れで頭もまわる連中なのに違いはない。

 この身なりのいい男は町で情報収集役で、彼らの拠点がテントなのは衛兵などに見つけられてもすぐに移動できるようにだ。おそらく人数が五人なのも移動などのことを考えてのことだろう。

「ギエンさん、ジョフが帰ってきましたよ」

 見張り役らしい男が髭面の大柄な男に声をかける。どうやらギエンと呼ばれる男がこの山賊たちのリーダーらしい。ジョフというのはクレスをここに連れてきた男だろう。

「どうやら、お目当ての奴を連れてきたみたいだな」

 ギエンはクレスの顔を見てニヤリと不敵に笑みを浮かべた。その笑みを見たクレスはゴクリと喉を鳴らして、体を硬直させてしまう。

「察していると思うが、俺たちはいわゆる山賊ってやつだ。これもわかっているだろうが、お前が変な気を起こしたら、俺たちはお前を死体にしなきゃならねえ。くれぐれも変な気は起こさないようにな」

 自己紹介と脅しを同時にされて、クレスの気は重くなるばかりだ。また、ため息をつきたくなったが、この場の空気がそれを許すことはなかった。

「……それで自分は何でここに呼ばれたんですか?」

「そう固くなるなよ。俺たちはお前にビジネスの話を持ちかけようってんだからな」

(人を脅しておいて、よく言うよ)

 クレスは山賊の物言いに思わず呆れてしまった。だが、逆らえるような雰囲気でもなく、いまは従うしかない。

「お前が大昔の遺跡やらなんやらの研究をしていたのは知っている。それで俺たちにその知恵を貸してもらおうと思ってな」

 ジョフはクレスを小突いてギエンのいるところまで連れてきて、そこに座らせる。

「実はな。ここから北北東にまっすぐ行ったところに小さい湾があってな。俺たちはそこに時々狩りに出向いているんだが、そんなある日に湾に突然でかい島が現れたんだよ」

「島?」

 クレスは眉をしかめる。いまいち話が見えてこない。

「あれはすごかったよなぁ。ピカッと光ったと思ったら急に島が出てきてよ」

 見張りをしていた男がその時の情景を説明する。が、これも抽象的すぎて概要を掴むには至らない。

「お前なら何か知っているんじゃないかと思ってるんだがな」

 ギエンがクレスに問いかけてくる。

「……実物を見てみないことにはなんとも」

 クレスは正直に、そして遠慮気味に答える。

「そこが遺跡って奴なら金銀財宝が眠ってたりするんだろう?」

「ええ、まあ……」

 ギエンの言葉には誤りがある。正確には眠っていることもある、だ。遺跡というのは古代トレスディア王国の造ったモノを指すことが多い。古代トレスディア王国の遺跡には巧妙な仕掛けが張り巡らされていたり、あるいは魔物のねぐらになっていたりと危険なことが多い。一方で、散々苦労させられて最深部に辿り着いても財宝の中身にがっかりするということは決して少なくない。結局のところ、一攫千金の話ばかりが大きくなってしまっているということか。

「実は明日にでも早速、探索してやろうと思っていてな。ちょっと遺跡に詳しい奴もいたらいいという話になっていたのさ」

 そういう人間を捜していたときに見つけたのがクレスということなのだろう。目につけられたのが山賊だったということか。まるで運がない。

「その話に俺も乗れと?」

「もちろん行くだろ?」

 逆にクレスは問われる。そして、彼には当然のことながら拒否権はなかった。

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