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双界のアルシュリオン  作者: あかつきp dash
第三章『クレスの婚約』
31/69

3-4

 ゼナン山賊団のアジトは殺伐とした空気に包まれているのをサビーナは肌で感じていた。しかも日が経つにつれてひどくなっている。

「メンデはまだ見つからないの?」

「捜索は続けていますが、なかなか手こずっています」

 それに答えたのはオビスである。その表情は蒼白で陰鬱なものだった。

「早く見つけてケジメを見せないと私たちが仲間に殺されるわよ」

「……わかっています」

 オビスが捜索には全力を尽くしているのはわかっている。問題はそれに呼応して彼に付いていこうという部下が少ないということだった。これはオビスにゼナン山賊団を引っ張っていくだけの器量がないとまわりに思われているということだ。

 たしかに彼は先の戦いで大失態をしている。一つが裏切り者の存在に気づかずにゼナンを死なせたこと、もう一つが彼がもっとも信頼している部下を何人か死なせてしまったこと、そして何より部下たちの大勢の前で敗北を喫したことだ。

「あなたはあのクレスとかいう少年が慈悲で生かしてくれたのだと思う?」

「どういうことでしょうか?」

「彼はわざと生かしたのよ。あなたとメンデをね」

 クレスは慈悲からオビスを生かしたわけではないのは明らかだ。ゼナン亡きあと山賊団をまとめあげる人間がいないことを彼は見抜いていた。ゼナンが死んだ時点で勝負はついていたということだ。

 そもそもオビスが山賊団の頭目として認められるにはメンデを捕らえてケジメをつけさせる必要がある。だが、メンデを逃がしたのは他ならぬクレスだ。どこまでが計算だったかはわからないが、いまだにメンデが捕まる気配はない。これが達成されないと、オビスは裏切り者にまんまと逃げられた間抜けな男というレッテルを貼られることになる。ただでさえ危うい彼の立場がさらに危うくなるということだ。

 メンデの捕縛が遅れれば遅れるほどオビスの命が危うくなる。そろそろ明日の捜索からはメンデの居場所より闇討ちの心配をしたほうがよくなるだろう。その次の日は廊下を歩いているだけで気を配る必要が出てくる。

 サビーナにもそれは同じことが言える。だから、ここ最近はよっぽどのことでもなければ部屋の外にでなくなっていた。それほどに山賊団のアジトは危険な場所となっているのだ。

「もう遅いのかもしれない。なにもかも……」

 サビーナは独り言のようにつぶやく。そんな彼女にとって唯一の救いはクレスが人質を受け入れてくれたことなのだろう。彼に人質を受け入れるようなメリットはほとんどなかったはずだ。にも関わらず受け入れてくれた彼はきっと優しい人なのだろう。無慈悲である一方で、心優しい面もあるというのは実のところ矛盾しないものだ。それは生きるものがごく自然に行う行為のはずなのだから。

 彼にならばきっと託せる。サビーナは確信していた。

 だから、サビーナにもう心残りはなかった。

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