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「クレス君、君を本日付で学院の研究員の役職を除籍することが決まった。つまり解雇だ」
その通告にクレスは言葉も出なかった。愕然とするばかりである。中年の髭を蓄えた厳めしい顔つきから発せられる野太い声がその言葉により一層の重みを持たせた。
「いきなり口頭でそんな言われても納得できんだろうから、説明だけはさせてもらう。君の所属している遺跡調査部門の予算がガッツリ削られてな。運営もままならなくなって近日中に解散になるはずだ。だからこれは事前通告というほうが正しいかもしれんな」
「ど、どうして?」
クレスは声を震わせながらそれでも問いかける。
「他の学院の遺跡調査団が一月前に当たりを出したのは知っているだろう? 実は一週間前にその遺跡から機翔竜が一体見つかってな。そこから更に追加で調査が決まったんだよ」
「それでこちらが予算を削られたと?」
「……本学院はもともと財政難だよ。今回はトドメを刺されたというのが正解かな」
学院というのが学問を学ぶところである一方で、学問で金銭を稼ぐ場所でもある。もちろん国中に競争相手がいて、常に潰し合いをやっている。顧客は国家であり、国家に対して成果を出していけば予算が出るし、成果が出なければ絞られる。そうやって潰れた学院は数知れずだ。
クレスの所属していた学院は中堅ではあったのだが、最近は大手の学院にすべて先を越されて予算が絞られていたという話である。
クレスはふうとため息をついた。
おそらく、ここでごねてもあまりいい返事はもらえそうにはないだろう。クレスはため息をついて男に向き直る。
「……それで自分はどうすればいいんでしょうか?」
「数日中に荷物をまとめて寮を出てもらうことになる。実は寮を売り払うことになっていてね……」
どうやら想像以上にクレスの所属している学院の財政は深刻らしい。だが、いまは学院より自分の心配が先だろう。
「自分はここを追い出されても帰る場所がないわけですが……」
「知っているよ。まあ、君が処刑台に立つことがないことを祈っているよ」
――つまりは明日に食べるものに困って山賊や追いはぎにならないようにと言っているのだろう。要するに転職先の斡旋もないわけだ。これはいよいよまずかった。
「……昨日、妻が書き置きだけ残して家を出て行ったよ。こんなことになるなら、もう少し胆が太ければと思うことがある。もっとなりふりを構うべきではなかったと。後悔ばかりだ」
「どうして、それを自分に?」
「わからん。お互い、これから何かいいことがあるといいな」
そう言った男は弱々しい笑みを浮かべる。クレスは小さくおじぎをして、その場を去ることにした。