エピローグ
結婚宣言から一週間が経過しようとしていた。そして、いま宣言通りの事が成されようとしている。
「結婚式って儀礼服を着るものじゃないんですか?」
これから結婚式に挑むはずのクレスの服装はなぜかいつもの服である。その服に少し小綺麗な赤いマントを覆っているだけだ。
「儀礼服なんてないし、予算もない。そもそも、互いの愛を確かめあうのにそんなものはいらん」
ラインがきっぱりと言い切る。
「何だか悲しくなりますね……」
「これが俺たちの現実だ。あきらめろ」
「それはこの際いいんですが、これから具体的に俺は何をするんですか?」
「もうすぐ合図の鐘が二度鳴る。そうしたら、お前は玉座の前へ行く。で、エフィとキスをする。それで終わりだ」
「……結構、単純なんですね」
「夫婦になるのが簡単なだけだ」
ラインがどことなく哀愁を漂わせて言う。何か含みのある言い方であった。
「いえ、そう面を向かって言われると……」
そもそも結婚を求めたのは自分ではなく、ラインである。
「お前は誰にも結婚を誓えないんだよ。だから、相手と自分に誓うしかないんだ。それがガルダートに選ばれし者の運命ってやつだ」
「だから単純なんですか?」
「むしろ、結婚するのに時間をかけるというのがわからんがな。ただのお披露目だぞ」
そう言っているうちに鐘が二度鳴った。これが玉座へ進む合図だ。
「早く行ってこい」
ラインはクレスの背中を軽く押しすと玉座へ進むよう促した。気づけばまわりにいる人々がこちらを見ている。
クレスはふうとため息をつくと覚悟を決めて玉座のほうへ進んでいく。
玉座のほうにはいつもと違う服装の少女が待っていた。エンフィトスである。いつもはポニーテールにしている髪をおろしてドレスを身にまとっていた。
「エフィ……」
そう呼びかけると彼女はほのかに笑みを浮かべる。いつもと違う雰囲気のエンフィトスにクレスの心は踊っているようで落ち着かない。
エンフィトスの手を取り顔を近づけると彼女の顔も紅潮しているのがわかる。つぶらな瞳は熱に浮かされ潤んでいる。
「クレス、これから長い付き合いになりますね」
「死が二人を別つまで、か?」
「ええ。死が二人を別つまで……」
エンフィトスがスッと目を閉じる。それに合わせてクレスはエンフィトスの肩を優しく掴んで引き寄せる。
そして、二人がゆっくりと口づけを交わす。
ここに二人の婚礼の儀は成されたのであった。
大空が遥か彼方まで広がる世界をスヴェインオード。
海原が延々と広がる世界をシュアルオード。
その二つの世界が存在する世界をアルシュリオンという。
これは遠い遠い遥か彼方の物語。
その一幕である――。
本来の構成に戻すことにしました。迷っていたことでしたが、決心がついたということでお願いします。