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宮廷魔術師との(圧迫)面談

 ボクが生まれ落ちたリンデアム帝国は、ベストラント大陸の中心部よりやや南西側にある。北は万年雪を冠した山脈、南は海に面し、中心部には東西の国々を繋ぐ大陸街道が通った国だ。

 遥か昔は十以上の小国が犇めき合った地域だったそうだが、ボクの曽曽曽曽~祖父が戦いに戦いを重ね統一国家、リンデアム帝国を建国したらしい。精力的なご先祖様だったようだ。

 長い歴史の中では、幾度となく他国との大戦、内乱、簒奪の危機などあったらしいが、ここ二百年程は、平和な状態が続いている。


 そして、人は生まれつき魔力を持ち、それぞれ適正属性を持っている。属性は『光・闇・火・水・風・土』があり、どの適正属性を持つかは人それぞれだ。また、生まれ付きの物なので、修練したり成長したからといって属性が増えるということは無い。

 一般的に、貴族から平民まで五歳の誕生日以降に洗礼を受ける。その時に属性や魔力量を専用の器具で測定をして、戸籍と一緒に登録される。基本的に平民より貴族の方が魔力量が多かったりする。

 人以外の生物の中にも魔力属性を持っている種類がいる。それらは、魔獣と呼ばれ魔力属性を持たない種類の生き物に比べれば、はるかに頑丈な肉体や知能、簡単な魔術まで操れるものもいる。


 これらは、ボクの前世の世界とあまり変わりはない。大きな違いは、人が住んでいる地域を結界で守るという仕組みがないという事だ。

 もちろん、魔獣に会えば襲われるし、群れを作る種類などが、食料を求めて村や町を襲うこともある。食料を運ぶ商隊が襲われたりということも良くあるそうだ。

 それらの災害は、地域の有志で討伐隊を結成して対応したり、冒険者ギルドや傭兵ギルドといった民間団体が金銭で引き受けたり、国軍の専門の部隊が討伐を行ったりしている。





 ————結局父上には、光・闇・火・水の四属性で、魔力量は皇族としては少し多めということで、報告してもらった。


 光・闇・火・水を選んだのは、父親である皇帝陛下と同じだからだ。

 一般的に、親の属性が子供に引き継がれることが多いといわれている。

 だからと言って両親の持つ属性を全て引き継ぐということは殆ど無く、先ずは属性の『枠数』の上限が引き継がれ、その枠に両親の持つ属性がはまり込む。

 例えば、ボクの両親は、父親が四属性、亡くなった母は、闇・水・風・土の同じく四属性だったそうだ。なので、そこから考えると、その子供は、最大『四属性』を持ちになることが殆どらしい。

 けれども、ボクの測定結果は、全属性持ちということで、大変珍しいということだ。


 属性は、専用器具や実際に使用しない限りは分からないが、魔力量は、魔力を使用し続けて()()()()くると、多少わかってしまうそうだ。

 ボクの魔力量で、平均的というのは無理があるので、仕方なく()()()()ということにしてもらった。

 魔力量の方は、測定器では測りきれないほど多いという結果で、あまり目立ちたく無いボクとしては、心配だったが、偶にそういったことはあるそうだ。

 イェルド自身も洗礼式の時の測定で、測定不能という結果だったらしい。


 彼の一族は、代々騎士爵位を叙爵され、多くの上級軍人を輩出していた。現在も父は地方騎士団の師団長、二人の兄は、近衛騎士団に所属し、姉も公爵家の護衛官になっている。

 彼自身も幼い時より同じ道に進むことを、両親に切望されていたが、それを切っ掛けに頑なに魔術を磨き続け、今に至るそうだ。




 ————そして、イェルド・ローディルトと今、向き合っています。

 人払いをし、その上で盗聴防止の魔術が施された部屋で。


 洗礼式の翌日、本来は魔法学の講義を受ける時間だったが、これから先の進め方を説明するということで、講義は休みになった。

 先ほどまで、ボク付の侍従が同席をして一緒に説明を聞いていたが、一通り終わると退席をし、入れ違いに侍女がお茶の準備を行っていった。

 事前に話しをしていたのか、盗聴防止の魔法具をセットして……。


 ……紅茶がおいしい……。柑橘系果物のキュイールの花から採取された蜂蜜が合わせられていて更にボク好み。

 さすが、ボクが生まれた時から世話をしてくれている侍女のアイリが、煎れただけあるね。


 でも、黙って向かい合い、紅茶を啜るのも限界がある。ボクのカップは、すでに底が見えつつある…。お茶のお供のクッキーももう食べ終わったし。

 このまま飲み続けるフリを続けるか、諦めて話しをするか…。話題は洗礼式のときの続きだろうなぁ…。あ、紅茶のお代わりを貰うのは、どうだろう?

 緊張しているせいか、一杯分の紅茶を飲み終わろうとしているのに、まだまだ飲み足りない。


 盗聴防止の魔術は、人声はどんなに聞き耳を立てても聞こえないが、呼び鈴の音は普通に聞こえる。便利だね、実に。


「イェルドって好物は、何ですか?」


 ————しまった。間違えた。

 沈黙の(プレッシャー)に耐え切れず、かといって話し辛い話題を避けてしまったために、まったくもって無駄な質問をしてしまった。                        

 無駄が大嫌いなフラウの眉間に深い渓谷が出来上がった…。


「殿下。…殿下は、何者でしょう?」


「…ウィリアム・ゼフィリアス・ロアン・オスタリアムス、ご存じのようにリンデアム帝国の第一皇子です。先日、五歳になったので洗礼を受けました。ありがとうございます、イェルド。魔法学の師である貴方に、洗礼を行っていただけて嬉しかったです」


 更にイェルドの眉間の渓谷が深くなった。…元に戻らなくなってもボクのせいにしないでよ?


 ボクは、手に持ったままの空になったティーカップをテーブルに戻し、小さく首を傾げてイェルドに笑って見せた。

 侍女たち曰くの『天使のホホエミ』攻撃。ゆるく波打つ淡い金髪に、理知的な光の宿る神秘的な紫の瞳、つつきたくなる子供らしいぷくぷくな頬はバラ色で、しなやかに伸びる細い手足、庇護欲をかきたてると評判の容姿を最大限に利用した上目遣い微笑み。

 渾身のボクの攻撃は、イェルドの氷の眼差しの前には何ら効果はなかった。ただボクの羞恥心が限界突破しただけだった。


 仕切り直すために、小さく咳ばらいをする。——こほん。


「イェルドは、ボク、私にどんな答えを返してほしいのですか?洗礼式で、私が普通の子供ではないって仰っていましたが、ボ、私はこれが普通なんです。みんなが神童とか、天才とかって言ってくれるけど、これが普通。あと陛下達に隠す?だって、その方が喜ばれますし?そのままでいるより、()()な方が、ニコニコしてくれる大人は多いです。褒められたくてイイコの()()をするのは、みんなやってますよね!」


 利発なコドモが、大人たちの愛情を求めて猫を被る風を装ってみたけれど、ごまかせるわけないよな。でも、これ以上は、話せないし、話す必要もない。

 だって、『前世の記憶が~』なんて信じてもらえないだろうし、十中八九、宮廷医師を呼ばれちゃう。 

 担当医のアントン先生は、温厚な雰囲気で腕は良いけど、偶に苦い薬を処方して、顔をしかめながら飲むボクを見て嬉しそうにしたりするので、できれば診察は受けたくない。

 それにイェルドは、ボクの魔法学の師であるけど、それ以上でもそれ以下でもない。——————まだ。

 

 もうこれで話しはおしまい。の念を視線に乗せて目を見つめてみる。


 イェルドは、自分の膝に一瞬、視線を落とし再びボクを見る。

 凍り付かせるような冷たい視線は緩み、眉間の皺はかすかに跡を残してはいたが、消えていた。

 おもむろにテーブルに置かれた呼び鈴を鳴らし、部屋のすぐ外に控えていた侍女を呼ぶと、ボクの紅茶のお代わりを頼んでくれた。


「殿下、明日からは、魔法学と共に実技を行っていきます。今日は、体調を整えて明日に備えてください。」

「わかりました。よろしくお願いします、イェルド。」


 椅子から立ち上がり、退室の礼をしたイェルドが————笑った…?

 花が綻ぶように、柔らかく…笑った…。————誰だコレ。


「それっぽく見せるのなら、一人称は『ボク』に戻した方が良いでしょう。洗礼式を終えても幼児の様に名前で自分を呼ぶ者も多いです。皇族といえど、十歳ぐらいまでは許されるでしょう。では。」


 イェルドは、宮廷魔導士を示す黒地に銀の縁取りの付いたローブをゆったりと翻し、部屋を出ていく。


 初めてイェルドの笑顔を見たボクは、硬直したまま見送ったのだった。



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