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■17 リカルド様から聞いたミハイル様のお気持ち


「いつからそちらに?」


 わたしが驚いてそう言うと、リカルド様はいたずらめかしたお顔になってわたしの腕をポンと叩いた。


「すまんすまん。お前が女性たちとどのように話をするのかと思って見守っていたのだ。相変わらず固いな」


 それはわたしの知らないリカルド様のお姿だった。

 昔からのご友人だとは聞いていたけど、臣下であるミハイル様とこれほど親しげにお話しなさるとは。


「俺を探していたのか?」


 違う、とも言えずにわたしは話を合わせる方法を必死で考える。


「ええ、はい。実はリカルド様宛のお手紙を預かっておりまして……」


 と、そこまで言って、その手紙はリゼに持たせたままだったことを思い出す。

 それに王から禁じられているアシュリーと王子の手紙のやり取りをミハイル様が仲介したのだと知られては事だった。

 自然と身体を返して後ろで聞き耳を立てる女性たちの方を見てしまう。


「なんだ。堅苦しいな。……そうか。場所を変えるか」


 リカルド様は女性たちに向かって、すまないね君たち、と手慣れた様子で別れを告げるとさっさと歩き出して行ってしまう。

 わたしはそれに遅れじと速足でその後に続く。

 人気のない庭に出たところでリカルド様が振り返った。


「どうした? 元気がないな。アシュリーとは会えたのだろう?」


 リカルド様の口から出るわたしの名前にドキリとする。

 それでは、リカルド様はミハイル様がわたしに会おうとしていたことをご存知だったということ?


 意外な成り行きに驚いていると、リカルド様がわたしに向かって手を差し出した。

 それが、先ほどわたしが言った預かった手紙を受け取るための手であることに気づく。


「あ。し、しまったー。預かった手紙を置いてきてしまったー」


 ミハイル様のわたしがわざとらしく頭をかいて笑ってみせる。


「プッ。なんだよ、それは。お前らしくもない」


 考えてみれば不思議な気がした。

 婚約破棄を言い渡されて、無期限の謹慎となって、もしかしたらもうお話しすることができないと思っていたのに。今わたしは、こうやってまた、リカルド様とお話しすることができている。

 わたしの方はミハイル様として、だけど。


「アシュリーの様子はどうだった?」

「げ、元気そう、だった、ぞ?」


 ミハイル様が普段リカルド様にどのような口調で話をされているのか分からないので、わたしの物言いは実に恐る恐るといった感じ。

 不審がられるかもしれないけど、まさか、中身がわたしだなんて思うはずがないと自分に言い聞かせる。


「そうか……。手紙は、もし次に渡されることがあっても、お前の方で処分しておいてくれ」

「そんな……」


「どうせ今日もわざと忘れてきたのだろ? 俺に読ませまいとして」

「どうして、そんな……」


「読めばきっと、俺にまた心残りが生まれるからだ。……俺に言わせるなんて意地悪だな、今日は。俺のことを責めてるのか?」

「そんな……つもりは……」


「いいんだ。それだけのことをしたんだ、俺は。分かってる」


 辛そうなお顔。

 そんなお顔をしないでください、と心の中で願ってしまう。

 そんなお顔を見たら、わたしにも心残りが生まれてしまいます。


「けど、お前がそんな様子で安心したよ」


 寂しげな印象は(ぬぐ)えない、けど、リカルド様は以前わたしに向かってよく見せてくれたような優しい笑顔を作っていた。

 ミハイル様の方が上背があるので、こちらを若干見上げるようにするリカルド様の笑顔には若干戸惑ってしまう。


「どういう、ことです?」


「どうって? 昨日までのお前だったら、是が非でもアシュリーの手紙を俺に読ませて()りを戻させようとしてただろ? 気づいてないのか、自分で。お前は、意気地のない俺なんかには、彼女を任せておけないって思ったってことだよ」

「そんな……ことは……」


 わたしは反射的にそう口にしながら、落ち着かない気持ちになっていた。

 どういうこと? この話って、まさか、そういう……?


「アシュリーのことを、頼む。お前になら任せられる」


 リカルド様がわたしに向かって頭を下げる。


「わたし!? いや、えっ、俺!? ……なんで?」


「おい、またとぼけるつもりか? 言っとくが、ネタはもう十分上がってるんだぞ? そうだよ……。もう、俺に気を遣う必要は……、隠す必要はないんだ。彼女を幸せにしてやってくれ。俺にできなかったことを全部、お前が……!」

「リ、リカルド様……!?」


 始め少し冗談めかした口調でしゃべっていたリカルド様は、話の途中から、嗚咽(おえつ)(こら)えるようにわたしの……、ミハイル様の両腕をつかんですがりつくようになさった。

 顔を伏せて、どんな顔をされているのか分からなかったけど、それを覗き見るようなことは、わたしにはとてもできず、ずっと棒立ちになったままで、それを見守っていた。


 お可哀そうなリカルド様。慰めて差し上げたい。


 けれど、そんな気持ちの裏側では、困惑を極める別の感情が渦巻いていた。

 わたしに対する密かな想いをひた隠しにしつつ、リカルド様とわたしのために骨を折ろうとなさってくれたミハイル様。

 けれどわたしは、そんなミハイル様のお気持ちも知らずに、あられもない姿でミハイル様にすがって助けを求めてしまったのだ。


 知らなかったこととは言え、なんて……、なんて無神経な女なの……。


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