■15 わたしは罪な女、なのかもしれない
またやっちゃった。
……というか、わたしのせいじゃないですよね?
ミハイル様!? 嫁入り前の女性に何てことしてくれちゃってるんですか!?
段々と冷静になってきて、たった今起きたことを分析し始めるわたし。
でも、何が起きたかを考えるほどに、また別の意味で冷静ではいられなくなっていった。
よりにもよって、ご親友の、その婚約者相手にキスをするなんて……、そんなことをなさるかただったなんて。
いえ、もう婚約者ではないのだった。わたしは王子の元・婚約者。
……にしたってよ!?
あー、どうしよう情緒不安定かも。
落ち着きなさい、アシュリー。
わたしは未婚の若い女性です。
ミハイル様も確か未婚で、お付き合いされているかたもいないと、以前リカルド様からお聞きしたことがあったけど……。
当然ながら、わたしとミハイル様はこんなことをする間柄ではないわ。
きちんとお話ししたのも今日が初めてで。
えっとー、そんなことよりー。
いきなり! どっ、同意もなく、乙女の唇を奪うなんて!
そう、それよ。だからわたしは怒っていいはずだ。
ミハイル様、なんてことをなさるんですか!?って。
頭の中でそんな問答をしながらも、わたしはずっと床の上に横たわるわたしの身体に見入ったままでいた。
本当はミハイル様に向かって文句を言いたいところだったけれど、今はわたしがミハイル様なのだから、どこを向いたってミハイル様のお姿を見ることはできない。
だから代わりに、そこに寝ているわたしに向かってムカムカ腹を立てているのだ。
こんなー、幸せそうな顔しちゃってー。
こんな……、唇で……、キス……したんだ……。
ミハイル様の目を通して見るわたしの寝顔は、とても愛らしく見えた。
肩だって、薄くて小さく……。
ほら、ミハイル様の大きな掌でなら、こうやってすっぽりと包めてしまう……。
ゴクリと喉が鳴った。
そのことにハッとして、わたしは慌ててわたしの両肩をつかんでいた手を離した。
けれど、しっかと見開かれた瞳は、わたしの身体を食い入るように見つめ、そこから離れてくれない。
いつの間にわたしは、こんなにいやらしい娘になってしまったのだろう。
これが発情するってことなんだって、分かった気がする。
しかも、あろうことかわたし自身の身体に対して。
無防備に寝転ぶ自分の肉体を触りたい、胸を揉みしだきたいという衝動を感じてしまっている。
寝巻の薄い生地の上からは、艶めかしく隆起した女性的な身体のラインがはっきりと見て取れた。
自分が先ほどまで、こんな扇情的な姿でミハイル様とお話ししていたのだということに気がつき顔が赤らむ。
わたしの身体に心を奪われてた……? わたしが、誘惑してたの?
自分の身体に見惚れるなんて、実は自分はとんでもない自惚れ屋のナルシストだったのかと思ったけど、そうではないのかもしれない。
そういえば、リカルド様のときにもこれに似た熱い動悸があったことを思い出す。
でも、あのときとは比較にならないほど、今のわたし───ミハイル様の身体にたぎる衝動は大きかった。
下腹部が熱い。
ズボンの下がパンパンに膨らんで、痛い。
これって……、そういうことよね?
これまでに体験したことのない奇妙な身体の感覚には恐怖すら覚えた。
猛々しいミハイル様の男性を感じる。
両手で自分の顔を覆い、しゃがんだまま、ジッとそれが過ぎ去るのを待つ。
ミハイル様は見境なく女性を襲うようなかたではないわ。
あのときのわたしは、まるでヴィタリスみたいに、ミハイル様の手を握って引き留めて、すがるようにミハイル様のお顔を見つめていたのだ。
真面目なミハイル様を誘惑して情動をあおってしまったのだとしたら、わたしも同罪だ。
わたしは少し前の自分の所業とミハイル様に向けた非難を反省した。
そうしてしばらくしていると股の間にあった腫れもどうにか引いてきた。
「…………」
……えっとー。これは事故よ、事故。偶発的なもので、誰も悪くないわ。
わたしは自分で出したその結論に満足して立ち上がる。
すると、普段見慣れたはずの自分の部屋が、すっかり見違えて見えた。
視点が高いのだ。
自分がミハイル様になっているという確かな実感が湧いてくる。
そうだわ。折角ミハイル様になったんですもの。
このまま元に戻るのはもったいない。
というか、これはチャンスだわ。
騎士団長のミハイル様なら、メイドのリゼなんかより、よっぽど自由にどこにでも行けて、いろんな人から、いろんな情報を聞くことができるはず。
妙な高揚感。
居ても立っても居られないようなソワソワした感じ。
そのときのわたしは、いまだ身体の中でくすぶる熱い衝動を、無理矢理別の意味で解釈していたのかもしれなかった。
それに、すっかり舞い上がっていたわたしは、すでにミハイル様自身であれこれ手を尽くして、それでもメフィメレス家の秘密を探り当てられていない、と聞かされたことを忘れてしまっていたのだった。




