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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

好物=私=彼女

作者: 雨月 宙

 彼女と出会ったのは、私が28歳の時。

 彼女は真新しいセーラー服に身を包み、三つ編みで赤い眼鏡を掛けていた。


 「初めまして。これからお隣同士、仲良くして下さいね」


 そう言って笑った彼女は、幼さが残る可愛らしい顔ではにかんで、桜色に頬を染めてた。


 それから何年経った?私は現在41歳。


 12月


 クリスマスまであと何日?


 クリスマスが日に日に近づくと、思い出す。


 彼女の初々しさは、時と共に女性へと変化して魅惑的へと成長させた。


 彼女が女学校卒業する学年になり、美しい涙を流して、懇願した願いは、禁断の果実を互いに齧ること。

 彼女と私、後戻りできない冬を過ごしたクリスマス。


 彼女が私の彼女になって今は何年目?


 彼女から指輪をせがまれて、互いに左薬指、嵌めた。


 約束、約束、永遠に。


 銀色の指輪、青い星の様に、小さなサファイアがきらりとはまる。


 ぼんやり自室の天井眺めてたら、ドアの向こうから彼女の可愛い声。

 いつもなら勝手に入るのに、どうしたかとドアを開ける。

 鍋と何かビニール袋を手首にぶら下げ、立っている。

 鍋を受け取ると、熱い熱い。慌てて、こたつの板の上に乗せた。


 「大丈夫?」


 「ん?うん」


 鍋掴みを嵌めながら、口元隠してコロコロ可愛く笑う彼女にドキドキ動悸止まらない。


 頬が熱いのか、手が熱いのか。もうどうでもいいくらい、彼女にクラクラ。


 「そういえば、近所のおばさんに貰ったよ。赤い箱が私のだって」


 「なんだろね?開けてみる?」


 彼女からビニール袋を受け取って、赤い箱を彼女、緑の箱を私の前に置いた。

 せーので、箱を開ければ、赤は赤飯、緑は鰻重。

 彼女の赤飯に視線を落とした。


 「おめでた..」


 途中まで言いかけて、彼女の言葉で遮られる。


 「んー?仕込んだ自覚あるんだ?」


 彼女の顔が近づいて、軽く口付けた。


 「責任取らないとね」



 け っ こ ん


 

 音に出さずに口だけ動かして、せっつく彼女。


 誰かおめでただったの?って意味だったけど、やられた、巧みな罠に嵌った。

 そもそも、腹ます器官は備わってないのだけれども、最近、本当にせがまれる。彼女の周りが結婚し出したからか、30代に近くなったからなのか。


 彼女は一目惚れで一途に私だけ。

 私はどっか人間避けてておひとり様貫いてたけど、彼女の直向きな愛情と優しさと癒しと少し抜けてるところが可愛くて愛おしくてジワジワ惚れた。美人で魅力的で私には勿体ない。


 何というか歳の差、落ちてく体力と筋力と気力。しがない仕事で安月給。

 彼女と比べれば、雲泥の差。


 なのに、彼女は私を選ぶ。


 もっと彼女は違う誰かと幸せになれるんじゃないかって先送りし過ぎて、踏ん切りがつかない。


 「優柔不断!お風呂入る!」


 そう言って、勝手気ままに出て行った。




        ******



 湯上がり美人。しっとり濡れた髪が艶かしい。

 いつもの通り。

 彼女の定位置は私の膝の上。

 これ、男だったらと思う。むしろ、男でなくてよかった。


 「おでん、食べてないの?」


 さっきまでの怒りはどこへ?と鍋の蓋を取った彼女。


 「あ...また、ウインナー...」


 「え?だって、おでんにウインナーは常識でしょ?」


 「どこの常識?...食べないよ、私」


 「いいよ、私のだし。でも、いつも通り食べさせて?入ってるの嫌でしょ?」


 いつもこうだと思いつつ、ウインナーをビニール袋に入ってた箸で掴んで、彼女の口へ運んだ。

 間近で、彼女の咀嚼音。少しずつ、口に中へ入って行くの目が離せない。いつものことだ。それが狙いの彼女の作戦。まんまと引っかかってる私。

 

 「ご馳走様」


 全部、彼女の口の中に消えたウインナーと彼女が触れている私の一部。

 そもそもないから。

 というか、これは彼女が誘ってるんだ。


 「次、何食べる?今度は私が食べさせてあげる」


 「いいよ、自分で食べれるし」


 「意気地なし」


 だって口移しなんて、恥ずかしい。いくつになっても、というか、歳を取って余計に恥ずかしい。


 彼女の甘さは特大級。受け止めるけど、タジタジ。




        ******



 いつも通り、普通に食べ終わって、ちょっと小腹減った。


 彼女の出張、台湾のお土産。


 土鳳梨酥


 私が大好きでいつも買ってきてくれる。

 パイナップル100%だから酸っぱくて美味しい、現地ならでは。


 彼女が片付け終わって帰ってきた。手伝うと言っても絶対に私の仕事って、手伝わせてくれない。


 「何食べてるの?」


 「土鳳梨酥」


 「好きだよね?酸っぱすぎない?」


 「ん?そこがいいんだし。でも...こうすれば、甘い」


 近寄ってきた彼女の手を引いて、抱っこした。

 口に中に土鳳梨酥と彼女の舌が混ざり合う。


 彼女の目がトロンと溶けてる。


 夜はまだ、始まったばかり。


 彼女の華を散らしたクリスマスを思い出して、高揚感。


 電気を消せば、二人の時間は永遠。




        ******



 余談


 「そういえば、いつ挨拶に来るの?」


 彼女の指先が、私の薬指の指輪を転がす。

 合図、eyes、視線が合う。


 「クリスマス?」


 「じゃ、たくさん料理作って、ウエディングケーキ用意しておくね」


 「いやいや、そこはクリスマスケーキでしょ...。まだ、書類の手続きしてないし、まずは挨拶からだし」


 「堅いよね。周知の中なのに。むしろ、遅すぎて、ヤキモキされて、責任取りなさいって言ってあげようか?って言われたくらい」


 「......責任は取るけどさ。ものには順序が必要でしょ。...娘さんと結婚させてください?娘さんを下さい?かな...」


 「え?入婿でしょ?」


 「入りはするけど、男でないし、婿ではないでしょ?」


 「でも、夫で、旦那様でしょ?」


 「......そうだね...??」


 なんだか腑に落ちないけど、彼女を守るって決めたんだ。夫でも旦那でも何でもなってみせるよ。


 「あー...でも、長年の付き合いだし、知ってる人だから、恥ずかしいね」


 「え?そこは気楽じゃないの?しっかりしてよね、旦那様」


 彼女からのエール。軽い口付け。


 今日も彼女はすこぶる可愛い。


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