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悪役令嬢の侍女頭は策士でございます  作者: ぺる
甘いお菓子と読書をしましょう
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根回し

 サーニャとリーリアの二人が立ち去り、静けさを取り戻した室内で、男性二人の目がこちらに向けられました。


「で、俺は何をしたらいいんだレイさん?」


 そのうちの一人、私の指示を仰ぐロミアの瞳は、どこか楽しそうに揺れていました。


 緊急事態ですので、もう少し危機感を持っていただきたいですが…彼はこの方がよく働いてくれますので目をつぶりましょう。


「街での流行りを調べて頂戴。それも…」


「本喫茶が流行る前の流行か、本喫茶のせいで流行れなかったもの、だろ?」


 続きの言葉を先に言われてしまいましたが、驚くことはありません。


 何せ彼は、私専属の情報屋ですから。


 表向き傍に置くため庭師をさせていますが、彼の本職は情報収集。


 普段お屋敷を長時間離れることのできない私には、外の情報を集める術がありません。


 そのため、お嬢様のご希望を叶えるために必要な街の情報は、彼に集めて貰っています。


「流石ね、ロミア。」


「へへ、俺はお嬢よりもレイさんに仕えてるつもりだからな!これくらい朝飯前だぜ!」


 どこか誇らしげな彼ですが、建前上はお嬢様専属の庭師ですので、今の言葉は聞かなかったことにいたしましょう。


「でも何で本喫茶の前なんだ?本喫茶以外で今の流行を調べた方がいいんじゃないか?…まぁ、レイさんのことだから何か策があるんだろうけどさぁ。」


 指示の意図は察していないものの、私への信頼からか指示を疑うことはありません。


 疑問を抱えながらも必ず実行してくれる、良き忠犬です。


「んじゃ、早速調べにいってくるぜー!クレゼスさんには俺から伝えとくんで!いってきまーす。」


「えぇ、気を付けて。」


 彼もまた、元気よく部屋を飛び出していきました。クレゼスとはこの屋敷にいる庭師のことです。この屋敷には庭師が二人いますが、クレゼスは本職のため、今も広い庭のどこかで手入れをしていることでしょう。


 彼もまた、議会の一員ですが、広大な庭を探す時間がなかったためここには来ていません。


 恐らく知らせすら、耳に入っていないでしょう。


「ほっほっほ、若者は実に元気ですなぁ。」


 ゲルドルトのどこか楽しそうな笑い声に、今度は私が彼へ目を向けました。


「あらあら、貴方だってまだ現役ではありませんか。」


「気持ちはまだまだ若いものには負けていませんが、どうにも最近、動きは鈍くなりましたねぇ。」


 そういいながらもしっかりした足取りで私の前までたどり着く辺り、衰えなどないご様子。


 美しく着こなした燕尾服にシワひとつ着けず小さな会釈を向けました。


「では私めは、執事たちに本喫茶の話題を出さぬよう指示しておきましょう。」


「いつも助かるわ。」


 ベテランの彼もまた、指示など出さずとも意図を組んでくださります。執事たちがうっかり話題を出して、お嬢様を刺激しないように計らってくれるようです。


「午後から少し出掛けますので、あとのことも頼みました。」


「かしこまりました。ほほほ、今度は何をされるのか、楽しみにしておりますよ。」


 ゲルドルトは愉快げに笑いながら部屋を去っていきます。私よりもベテランの彼は、どこか食えぬ態度の持ち主。


 そのせいか、一部の執事や侍女からは“狸執事”と呼ばれています。


「狸だなんて、かわいい人ではないですけれどね」


 思わず独り言を漏らしてしまいましたが、私も悠長に構えている時間は有りません。


 今頃お嬢様の起床で、本館は大荒れでしょうから。事態の収拾に当たりませんと。


「あぁ、レイさん。ちょうどよかった。」


 お嬢様の部屋に向かおうとした矢先、廊下で声をかけてきたのは、コック服に身を包んだ男…料理長のシルファでした。


 急ぎたい気持ちもありましたが、ちょうど彼も要りようです。呼ぶ手間が省けました。


「緊急会議があったってさっき聞いたのですが…いったい何が?」


「詳しい説明はあとでいたします。シルファ、急で申し訳がないのですがイチゴのケーキを用意してちょうだい。」


 イチゴのケーキと聞いた瞬間に、彼の顔色が変わりました。というのも、イチゴのケーキはお嬢様の大好物。好きのあまり、必ずお茶会でお出しするくらいです。


 しかし体型を気にするお嬢様は、お茶会以外でイチゴケーキをご所望いたしません。食べ過ぎてしまいますから。


 ですので、朝食のデザートにイチゴケーキのオーダーが入ることはないのです。


「あちゃー…相当ご機嫌斜めですか…お嬢様。」


 イチゴケーキのオーダーが入るということは、お嬢様のご機嫌が最悪に悪いとき。早急に用意しなければならない。


 これが別館での暗黙のルール。つまり緊急事態宣言のようなものです。


「そういうことですので、朝食までに間に合わせてください。」


「えぇ!?今からですか…っ!?」


 現在お嬢様はご支度の真っ最中。朝食はいつも、大広間で食べていらっしゃいますから、着替えを終えて朝食に着かれるまで約一時間。


 デザートまでの時間を考慮すると…おおむね一時間と20分といったところでしょう。


「貴方ほどの腕でしたら、可能でしょう?」


「たく…レイさんは人使い荒すぎますよ!! あぁ、もう、やればいいんだろっ。やりますよ!!」


 半ば投げやりに彼は走り去っていきました。仮にも職人ですから、できることをできない、とはいいません。


 …時間的にはギリギリですから、少しだけ頑張ってもらわなければ行けませんが。


 さて、そろそろいい頃合いでしょうから、お嬢様のお部屋へ向かいましょう。


 …どなたも、怪我をしていなければよいのですが。

良くここまで読んだわね!誉めてあげるわ!……ってちょっと、どこいくのよっ!? わかったわよ、わかった!読んでくれてありがとう!……これでいいでしょ?すこしでも面白いと感じたら、評価やブクマをしてくれても、い、いいんだからね!!(byエリザベル・ラ・ルクシュアラ)

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