エリオットとの夕食
一体どんな食事が出てくるんだろうと、こんな状況でありながら不謹慎にもわくわくしてしまう。
はい、わたし食いしん坊です!
そしてエリオットも、恋人の中身が別人に入れ替わってしまったという状況で、その顔にはくっきりと疲労の色がにじみ出ているにもかかわらず、にこやかに紳士的に接してくれている。
沈んだ雰囲気だったら美味しく食べられないものね。
エリオットも本当は、わたしに問い詰めたいことがたくさんあるのをひとまず飲み込んで、楽しい雰囲気を作ってくれているんだと思う。
食事はどれもとても美味しかった。
葉物野菜中心のサラダ、チキンの香草焼き、ポタージュスープのベースは豆かな?そしてロールパン。
口にあわないものが出てきたらどうしようかなんていう不安はすぐに吹っ飛んでいき、これならこの世界でずっと暮らしていけるかもしれないとすら思った。
でもね、やっぱり白いご飯がほしいよね。まだ半日しかたっていないというのに、すでにお米が恋しくなってしまう。
この世界で白いご飯って食べられるんだろうか…。
とそこへ、デザートのお皿が運ばれてきた。
そこにはフルーツの横に小さなボール状の白い物体が添えられていた。
こ…これは!お米よね?ご飯を丸めたものよね!?
米に出会えた歓喜に勝るものはなく、「お行儀よく」という自制心を彼方へと追いやったわたしは、フォークでその白いボールをつんつんしてみた。
見た目といい、この弾力といい、まちがいないわ!
少しだけすくっておそるおそる口へ運ぶと、それは紛れもなく米だった。
がしかし、残念なことに味付けが甘ったるい。
そうよね、デザートプレートに乗せられて出てくるってことは、当然スイーツ扱いよねぇ。
おはぎだと思えばまぁ…。
この世界の料理人たちは、常にお米をこうやって食べているんだろうか?
「コメを食べるのは初めてかい?」
我に返って顔をあげると、エリオットが興味深げにわたしを見ていた。
「いえ、お米大好きなの。ただ、こういう食べ方は経験がないのでちょっとびっくりしちゃった」
「へぇ、この国でも僕の国でもコメは珍しくてね、食べる習慣はないんだよ。それは北方の国からの土産としてもらったもので、うちの料理人のニコラスがどう調理したらいいのかよくわからないと首をかしげていてね。もしも知っているならニコラスにコメの美味しい調理方法を教えてもらえると助かるな」
やった!白いご飯が食べられるかも!
「おまかせください。お米はこういう甘い味付けよりも、何も味付けせずに味の濃いおかずと一緒に食べるのが美味しいの。あとは、塩をまぜて丸めたおにぎりもオススメ」
胸を張るわたしの姿を見てエリオットがまた声をたてて笑った。
「きみはおもしろいね。食事中も表情がコロコロかわって、どういう気持ちでいるのかがすぐわかる。コメの味付け以外は口に合ったようでよかったよ」
「美味しいお食事ありがとうございます。ごちそうさまでした」
とお礼を言って軽く頭をさげ、目線を上げたときに目の端に飛び込んできた花瓶を見て気が付いた。
この部屋に案内されたときは緊張していて気づかなかったけれど、あれは求婚されたときにもらったバラよね?
たしかわたし、このお屋敷の中へ案内されたときにセバスチャンに手渡したんだっけな。
求婚自体が中途半端な状況になってしまったからといって、綺麗なお花を捨ててしまうのもなんだし、ひとまず花瓶に入れて飾っておこうかということになったのね。
この晩餐は、本来ならば晴れて婚約者となった二人が、仲睦まじくこれからの将来のことを語り合う祝いの宴となっていたはずではなかったのか。
なのにその愛しい彼女が外見はそのまま中身だけお子ちゃまになってしまい、食事のマナーもなってなくて夢中でガツガツ食べるし、わたしのせいで台無しよね。
ショボンとなって謝罪するわたしに、エリオットが苦笑する。
「うん、正直言うとちょっと呆れたというか、驚いたけどね」
ああ、やっぱりそうですよね。
「ただ一緒に食事をしてよかった。ハッキリわかったよ、きみが僕の知っているプリシラではないってことが。感情がすぐに表に出るところとか、話し方とか、食べ方とか、きみはプリシラよりもずいぶんと……そのー、幼いっていうのかな」
言葉を選んでいただいてありがとうございます。
僕の愛するプリシラは、お前のようなガキではない!ってハッキリ言ってくれてもいいのよ?
でも、わかってもらえたようでよかったわ。
わたしはこの機を逃すまいと、どこかへ行ってしまったプリシラ本人を探して元に戻るために協力してほしいことと、生活に不慣れなためしばらくこのお屋敷に置いてほしいということをお願いして、エリオットの了承を得た。
セバスチャンは渋々というかんじだったけれど。
さあ、明日から頑張ろう。
プリシラがどこかで泣いたり寂しがったりしていませんように。
絶対に探しだすから待っててね!