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学院の図書館1

翌朝は早起きをして、前日に買ったシメジを使った炊き込みご飯に挑戦してみた。


鶏肉とニンジンを小さく切り、シメジをほぐしてお米とともにお鍋で炊く。

味付けは白ぶどう酒を少々と塩のみ。

お醤油がないのが痛いけど仕方ない。

どうか鶏肉とシメジからいい出汁が出ますように!と願いをこめて炊き上げたご飯は、炊き込みご飯ともピラフとも言えるような味だったけれど、まあギリギリ合格にしておこうか。


おにぎりを作って、それを大きな葉っぱで包んでいく。

この葉っぱ、名前は知らないけど朴葉みたいなもの?早朝にお庭の木から拝借しました。

ここには海苔がない。ラップもアルミホイルもない。

おにぎりを作って、それをお弁当としてどこかへ持っていって外で食べるとしたら、どう包もうかと前々からずっと考えていて、この葉っぱに目星をつけておいてよかった。


朝食づくりで忙しいはずのニコラスも手伝ってくれて無事お弁当が完成した。

わたしとエリオットの分をカゴに入れ、残りはみなさんへの差し入れにした。

「ありがとうニコラス。これ後でみんなで食べて感想聞かせてね。まだ改良の余地がありそうなの」


バタバタと身支度を整えてエリオットと一緒に馬車に乗る。

馬車の中でエリオットの通うルデルリー王立高等学院のことについて話を聞いた。


この学院の生徒は10代後半から22歳ぐらいまでの国内のお金持ちの子供、周辺国の王族をはじめ、お家柄のいいお金持ちの子供が大半で、授業の内容は学問の勉強というよりは、これから貴族社会へ足を踏み入れた時に恥ずかしくないような教養・マナー・立ち居振る舞いを学ぶところらしい。

それと同時に将来につながる人脈づくりや花嫁、花婿を探す場でもあるらしく、いろんな出会いを求めて頻繁にお茶会やパーティーが催されているのだとか。


校内で常に従者をつれている生徒もいるけれど、エリオットはついて来たがるセバスチャンを押しとどめて断固拒否しているらしい。

「セバスチャンは僕に対して過保護すぎるんだよ。学院の中でも『おぼっちゃま、おぼっちゃま』って付きまとわれたらたまらない」

エリオットは冗談っぽく言って笑った。


セバスチャンの監視がない学院内で、エリオットはさぞやのびのびと女子たちを翻弄しているんじゃないだろうか。

自分に向かってにっこりと微笑まれただけで、女の子たちは色めき立ってしまいそうだもの。

今の恋人と別れたら次はわたしよ!と虎視眈々とプリシラの後釜を狙っている子もいるんだろうな。


そんなことを考えているうちに学院に到着した。

エリオットのエスコートで馬車を降りると、さっそく痛いほどの視線を感じる。


「あの方、エリオット様の恋人だわ」

「ここへ何をしにいらしたのかしら」

そんなヒソヒソ声も聞こえてきて、わたしはエリオットにとんでもないことをさせているんじゃないかという罪悪感で、ひきつった顔でエリオットを見上げた。


エリオットはわたしを図書館へと案内しながら、涼しい顔ですれ違うご学友たちとあいさつをかわしている。

「エリオット、ごめんなさい。わたしここの生徒でもないのに、入ってよかったのかしら。エリオットの評判が悪くならなければいいんだけど」


「心配することないよ。アリィがどうしてもとわがままを言ったんじゃなくて、僕がこの学院の図書館を利用すればいいと提案したんだから、そんな不安そうな顔をしないで堂々としていればいいよ」

いやいやいや、無理ですって。

場違いなところへノコノコやって来てしまってごめんなさい。


「図書館の司書には、僕の紹介で歴史を勉強するためにここの本を閲覧したい人がいるってことと、その人は商業区で評判の薬師さんだってことにしているから、今日はプリシラってことでいいかい?いつもの『アリィ』じゃなくて、人前では『プリシラ』って呼ぶからね」

こくこくと頷くわたし。

見た目はプリシラですもの、ここに滞在する間はいつものようにわちゃわちゃせずに、落ち着いた大人の雰囲気を出さなければ!


「ところでいまさらなんだけど、文字は読めるんだよね?ここの図書館の本は、ローリンエッジ語ではなくてルデルリーの文字で書いてあるものが多くて、僕は読むのにすごく時間がかかるんだけど」

うふふ、ご心配なく。

そこは異世界召喚チートの自動翻訳でカバーされてるから、会話も読み書きもまったく不自由していないわたし。


ルデルリーとローリンエッジはお隣同士だから言語はかなり似ているようだけど、それでも会話も文字も少しちがうようだ。

エリオットは国際交流と言語習得のために留学していて、自宅では母国語を話し、この学院を含め外ではルデルリー語を話している(らしい)。


お目付け役のセバスチャンは別として、メイドのレイラと料理人のニコラスはこっちの言葉が話せるということでエリオットの同行者に抜擢されたんだとか。


わたしに関しては、すべて自動翻訳されているようで、ルデルリー語であろうがローリンエッジ語であろうが、違和感なくやりとりできている。

この世界のすべての言語に対応しているのかは不明だけどね。


「ご心配なく。言葉にはまったく不自由していないみたいだから」

わたしはエリオットに胸を張って答えた。



図書館は独立した建物で、レンガ造りの2階建てだった。


中へ入り、エリオットが図書館司書に挨拶をしている間に、ふとカウンターの横にある掲示板に目をやると、来月催される国際交流イベントのポスターが貼ってあった。


そのイベントの中で、隣国・ローリンエッジ王国の第三王子であるエリアス=オスカー=ローリンエッジ殿下が剣舞を披露するらしい。

エリオットが、イベントの準備で忙しいって言っていたのはこれのことね?


と思っていたところへ名前を呼ばれ、司書を紹介された。

「こちらは頼りになる司書のリサ。リサ、こちらはプリシラ。先日お話ししたとおり今日はお願いします」

わたしも、お願いしますと頭を下げると、リサもよろしくと笑顔で返してくれた。


「じゃあ僕はこれから授業があるから、お昼になったら迎えに来るからね」と言ってエリオットが立ち去ったあと、わたしは読みたい本をリサにリクエストしていった。


世界地図、ローリンエッジ王国の歴史、魔女弾圧に関すること、異界からの来訪者に関すること、そして稲作について。


リサは事務的にてきぱきと、わたしのリクエストに最も適当であると思われる本を検索し、棚から「これとこれ、あとこれも一応」という感じで本を選んでくれた。

リサと一緒に本を運び、図書館の2階の日当たりのいい窓際の席を陣取って、まずは世界地図を開いてみた。


ここ、ルデルリー王国は大陸のちょうど真ん中に位置していて、王都は国の北のほうに位置している。

隣国のローリンエッジ王国はルデルリーより南にあって海に面している。王都は海の見える高台にあるらしい。

なるほど、エリオットが寒がりなのは、母国のほうが温暖だからなのね。

ルデルリーにはハッキリと四季があって、これから冬に向かおうとしているところらしいけど、わたしにとってはまだ全然我慢できる程度の気温だ。


しかしエリオットときたら、最近は毎朝「寒い、寒い」と半べそをかきそうな情けない顔をして暖炉をつけてもらっている始末。

だから、お屋敷のエリオットの過ごす空間は、暑い!と感じるほどにぽっかぽかで、食堂の出窓に置いてある例のバラもとっても元気に育っている。つやつやの新芽が出てきているぐらいだもの。



両国の位置関係を把握したところで次はローリンエッジの歴史と魔女弾圧について。

専門的なものよりも、手っ取り早くわかる本はないかとリサにお願いしたところ、児童書を1冊用意してくれた。


『昔、ローリンエッジ王国の東にある森の中に、悪い魔女たちの棲家がありました』

で始まる童話風になっている。

児童用に簡潔にまとめられたその内容はというと、


魔女たちは、生活や軍事に役立つ便利な魔法を人間たちに提供することで甘い蜜を吸わせた。

魔女たちは真の目的は国家の乗っ取りで、人間たちを油断させたところで、若く美しい魔女がアシュトン王子をたぶらかして結婚しようとした。

魔女のたくらみに気づいた国王は、森を焼き払い悪い魔女たちを滅ぼした。

そして国内から魔女やあらゆる魔法に関係あるものを排除して、ローリンエッジは健全で強健な国家となりました。

めでたしめでたし。



……なるほど。

こういう話を小さいうちから寝物語として親から聞いたり、本で読んだりしているうちに、セバスチャンのように「魔女=邪悪な存在=火あぶりで処罰すべき!」ってなっちゃうんだな。

刷り込み教育おそるべし。


で、概要がわかったところで今度は史実に基づく魔女弾圧を調べてみる。

歴史の本のローリンエッジ王国の王族の系譜から「アシュトン」という名前を探してみた。

300年ほど前にひとりだけ、その名前があった。


アシュトン=オール=ローリンエッジ

エリック国王の長男。

でもその次の国王は次男が継承していて、アシュトンの下の系譜は一切枝分かれせずにそこで途絶えている。


この人が、物語に登場するアシュトン王子に間違いなさそうだわ。

わたしはそう確信して、エリック国王時代の項目をめくってみた。


魔女弾圧を始めた国王。

国王の勅命により、魔女ならびに魔女であると疑われた者は火刑に処せられた。

国内にある魔法に関する書籍や魔道具も全て没収の後、焼却処分となっただけでなく、魔女をかくまう者や魔女弾圧に批判的な者も投獄・厳罰に処せられ、国内のあらゆる魔女、魔法を徹底排除した。

67歳で病気により没するまでの間、その強硬姿勢を崩すことはなかった。

王太子であった長男のアシュトンは、国王の政策に反発し廃嫡となり、幽閉されたまま一生を終えたとも銃殺されたとも言われているが、定かではない。



エリック王時代に王太子だったアシュトンに関しては、この1文だけしか載っていないかった。

アシュトンが魔女にたぶらかされた云々はここには書いてないけれど、エリック王時代から魔女の弾圧が始まったようだから、あの物語に出てきた「アシュトン王子」は実在の人物で、300年前のこの時代に人間と魔女との間に何かがあったのは間違いなさそうだ。


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