第九話 浮花浪蕊;二人と一匹の時間
✣ ✣ ✣
こうして隴とカルネの修行の日々が始まった。が、もう帰れとのお達しのため、修行は明日になった。
隴はテルムを抱き抱えながら帰る。
「そう言えば、勇麗ってどの家で暮らしてるんだ?」
「うーん。決めてないんだよねぇ。」
「と、言うと?」
「私、この世界に来たの昨日だから、取り敢えず野宿って感じで適当なところに寝たんだぁ。で、起きたら誰かが居て、声をかけられて学園に来たって感じ。」
そこで一つの疑問が飛びかかってきた。
「え?昨日来て寝たってことは夜に自殺したってこと?」
「うん。出来るだけ人目の付きにくい場所と時間がいいかなと思って、夜の十一時くらいに。」
因みにここ″ガガドラ″と日本の時間単位は同じで、進むスピード共に全て同じ。
「で、取り敢えずで隴について行ってるって訳だよ。」
「俺はデウスとの修行の為に一緒に暮らすことになったけど、勇麗の場合何が?」
「言い方酷いね。隴の彼女兼手合わせ相手かな。」
隴はその言葉を聞いて『その手が』と言わんばかりに手を叩く。
「ミャウ?(彼女?)」
「あぁ。告白は俺からじゃなかったけどな。」
「ニャン。(そうなんだ。)」
テルムも少しは興味があるのかと思ったが、特に興味もないらしい。
そして、隴は一軒の家の前で足を止める。
「ここがデウスの家?なんか普通だね。」
「豪邸は嫌いらしい。」
隴はドアの前まで行き、ドアノブを捻り、ドアを開いた。
「ただいま〜。」
「ミャウ〜。(ただいま〜。)」
「えーっと、お邪魔します。」
言葉に返答はなく、静寂に包まれていた。
「誰も、居ないみたいだな。」
「そうだね。」
靴を脱いで部屋に入り、適当に腰を掛ける隴。
「外国っぽいけど、靴は脱ぐんだね。」
「それは俺も最初思ったな。」
勇麗は隴の隣に腰掛ける。テルムは隴の膝上で体を丸めて眠っている。
「気持ちよさそうに寝てるね。」
「疲れてるんだろ。こいつも、子供だからな。」
隴はテルムの頭を撫でる。
「テルムちゃんって何歳なの?」
勇麗の問いかけに隴は一瞬だけ黙り込む。
「……人間で言ったら七歳じゃないか?」
「まだ子供だね。」
勇麗はテルムに顔を近づけ、微笑みかける。
テルムは眠っているため、反応はしないが、それでも微笑みかけた勇麗。
「さて、最初に誰が帰ってくるかだな。」
「…ねぇ、隴。」
「ん?」
急な勇麗の言葉に隴は聞き返す。
「……私ね、自殺したこと、後悔してないよ。」
「…………そうか。俺は、少し悲しかったな。」
「どうして?」
「助けた命がたった三ヶ月で消えるなんて、考えたくないからな。」
隴は天井を見上げる。釣られて勇麗も天井を見上げた。
「俺も、勇麗を助けたことに後悔はしてない。あの時ああしてて良かったんだって俺は思えたよ。」
「…そう。」
勇麗は隴の肩を叩いた。
「ねぇ、私に″修羅道″ってやつ教えてよ。」
「……それは、何故だ?」
「私も強くなりたいし、隴の右に立つのは私がいいから。」
隴は勇麗に笑いを見せた。
「有難いこと言ってくれるなぁ。でも、直ぐには教えられない。」
「…私が弱いから?」
「そうじゃない。勇麗も強い。でも、それでも今の体じゃ持たないと思う。俺も最初はそうだった。」
「体が持たないって、どうなるの?」
「正確には分からない。けど、噂に聞けば体が耐えきれなくなってはち切れるらしい。」
勇麗はその言葉を聞いて少し青ざめた。
「何それ、怖い。」
「だろ?まずは太刀を片手で持てるようになってからだな。」
「太刀を片手で?簡単じゃないの?」
「試してみるか?」
隴はそう言って勇麗にアドア・ステラを渡す。
「重っ!」
アドア・ステラを持った瞬間に、落としそうになった勇麗。両手で持っていても辛いという顔である。
「これを片手で持てるようになったら次の段階だな。」
「いや、無理でしょこれ。」
「俺できてるだろ。」
勇麗は慎重にアドア・ステラを隴に渡す。
隴はそれを利き手でもない左手でひょいと持ち上げる。
「…隴って筋肉凄いの?」
「自分で言うのもなんだけど、凄い方だとは思うぞ?」
「握力は?」
「学校で最後に測った時は確か、測定不能だったな。」
「え?測定不能?」
大体学校で使われている一般的な握力計は百が限度。それを超えると測定不能と見なされる。
「だから実際のところ数値は分からない。」
「い、いや、測定不能って、百以上ってことでしょ?」
「そう言う勇麗は?」
隴の言葉に勇麗は少し口篭った。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「ご、五十二です。」
「え?五十二?」
短刀を握るには十分の握力だが、太刀を片手で握るには無理な握力だ。
「太刀って何キロで片手振り出来るようになるの?」
「大体八十以上あれば良いって聞いたことがある。」
勇麗の場合あと約三十キロ上げる必要がある。握力を上げるには根気と体力を意外と消費する。
「握力のいい鍛え方ないの?」
「そうだなぁ。器具無しだと指立て伏せが一番いいかな。女性の勇麗はまだ指立て伏せが出来ないと思うから腕立て伏せからかな。」
「バカにしないで。指立て伏せぐらい出来るよ。」
そう言って勇麗は指立て伏せをした。
「どう?」
自慢するように隴の方向を見る勇麗。
隴は手を顎に当てながら言葉を発し始める。
「肘が九十度になるまで落として、それを十回。最後の十回目で十秒キープは出来る?」
勇麗は体を凍らせ、地面に崩れ落ちた。
「そんなにしなきゃならないの?」
「当たり前だろ。握力を上げるなんてそんな簡単じゃないんだぞ。」
「隴は出来るの?」
「あたぼぅよ。」
そう言って隴は指立て伏せを始めた。
確りと肘が九十度、十回目で十秒キープが出来ている。
「男の人って筋力凄いね。」
「普通だろ。」
「腕力は?」
「それは測ったことないな。」
「じゃあ腕相撲しよ。私、腕力なら自信があるんだ。」
そう言って勇麗は肩をぐるぐる回す。
「ま、別にいいけどさ。」
そう言ってテルムを膝の上から退かし、机の横に座り、右腕を差し出す。
その腕の筋肉を見て勇麗は少し引き気味になる。
「え、何その筋肉。」
「早く来いよ。」
隴に押されるがままのように、勇麗は右手を出した。
隴の手を確り握り、いざ勝負の時。
「ふんっ!」
勇麗は力を加えた。だが、隴の腕はビクとも動かない。
「あれ?腕相撲に自信あるんじゃなかったか?」
「く〜っ!」
勇麗は必死に力を加えるが、全く動かない。
「これならっ!」
勇麗はルールを無視し、両手を出して体重を加える。だが、それでもビクともしない。
「ほい。」
隴は本の軽い力で勇麗の体ごと押し倒した。
「きゃっ!」
勢いで背中から地面に激突する勇麗。隴はそれを見て笑いを零した。
「お、男って凄い。」
少し息切れ気味の勇麗。
「筋力量の問題で女性は男性よりもどうしても力量が低くなる。が、修羅道は男女両方歩める道だ。今の勇麗の力なら修行でどうとでもなる。」
隴は立ち上がり、右腕を軽く振る。
「いいなぁ〜男って。」
「そうか?」
「筋力あるし、何より生理ないじゃん。」
「まぁ、そうだが、いいって訳でもないぞ。」
「なんで?」
「よく喧嘩を吹っかけられるし、ちょっとの問題事でもかなり怒られる。」
「えっ、と。あとのやつは女性でもそうじゃない?」
「男性はその後も目をつけられるからな。面倒臭いんだよ。」
隴は軽く欠伸をした。
「少し眠いな。」
また隴はソファに腰掛ける。
「一時間後に起こしてくれ。」
「一時間後?そんなに短くていいの?」
「あぁ。短くていい。取り敢えずは寝る。」
そう言って隴は熟睡した。
「早っ!」
隴の寝るスピードに勇麗は驚きの声をあげるが、隴は全く反応せず。
「私も寝ようかな。」
特に眠くはない勇麗。だが、することも無い今起きていても仕方がない。
テルムの隣に腰を掛け、目を瞑る。
『なんか、異世界って感じがしないな。慣れたのかな?隴が居るおかげなのかな。』
そんなことを思いながら勇麗は眠りにつく。はずだったのだが、
『全く眠れないっ!』
目を瞑ったとしても、全然眠りにつける気がしない。勇麗は目を開け、隴とテルムの方を見た。
両方とも熟睡していて、とても気持ちが良さそうだ。
『…可愛い。』
いつもは少しキリッとしている隴だが、寝た途端に少年のような幼さを感じる。
『…………』
勇麗は少しづつ隴に近づく。テルムに気をつけながら、近寄っている途中だった。
「……ゆ…り……」
「は、はいっ!」
隴の発した勇麗の名前に勇麗は反射的に返事をしてしまう。
だが、返事をしてから隴の返答がない。
「、ね、寝言?」
「……すぅ……」
どうやら寝言だったようだ。
勇麗は少しホッとした自分とまだ驚いている自分が交差する。
『ーー私の夢でも、見てるのかな…』
嫌な気がしない。告白した相手だからだろうか。
その時、家のドアの開く音。
「…隴と、この靴は勇麗か?」
部屋へ入ってきたのはデウスだった。
「あ、お邪魔してます。」
「おう。で、隴は寝てるのか。」
デウスはソファの隣に立ち、隴の顔を見る。
天井を見上げるようにして寝ている隴。首を痛めそうだ。
「この後直ぐに俺は出るが、何か飯作るか?」
デウスの問いかけに勇麗は首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。お腹が空いたら何か作りますので。」
「…そうか。食材はあっちにある。調理器具は下の引き出しな。じゃ、ちょっくら行ってくる。」
「なんの仕事ですか?」
勇麗の問いかけにデウスは一瞬だけ足を止めた。
「魔神王としての威厳を保たにゃならんことだよ。」
おかしな口調のデウスに勇麗は少し笑う。
デウスも笑みを浮かべ、ドアの方へと向かった。
「あっ!」
「なんですか?」
デウスの何かを思い出したような声に勇麗が反応する。
「デアもセレネーも俺も帰り遅いから、襲うなら今だぞ。」
「え…」
「ははは。冗談だよ。」
そう言ってデウスは家を出た。
「ーーいや、全く冗談に聞こえなかった。」
至って真面目そうに言ったデウスに勇麗は呆けた顔でそう呟く。
「襲うって……女性が、男性を…?」
少し本気で考える勇麗。デウスも特に本気ではなかった気もしたが、何処か真面目な感じだった。
「私が隴のことを好きだって、知ってるのかな。」
デウスなら分かりそうだが、違う気がする。
「………………」
少し考える勇麗。考えることではないが、先のせいでやけに意識してしまう。
「……ちょっとだけなら、良いよね。」
勇麗は立ち上がり、隴の近くまで寄る。
そして、寝ている隴の顔に自分の顔をゆっくりと近付ける。
「……んん。」
「ーーッ!?」
勇麗は驚き、少し仰け反る。
「……すぅ……」
勇麗は安心したようにため息をつく。
そして、また同じように試す。
「…………え?」
勇麗は隴の顔を見て思わず声を出してしまう。
隴の目からは一滴の涙が光り、頬を伝う。
「……泣い…てる?」
何故か分からない勇麗。だが、隴の顔は少し悲しそうな表情。
「…………」
勇麗は少し隴に笑いかけた。
「大丈夫だよ。」
勇麗は一言そう言って、隴に顔を近づけた。
✣ ✣ ✣
再生されて行く意識の中で、小さな音が聴覚によって捉えられ、良い香りが嗅覚に触れた。
ゆっくりと目を見開き、周囲を見渡す。
近くの台所、そこには一人の女性が料理をしていた。
「……母さん…?」
まだ少しぼけた視覚と脳が錯覚を生み出す。
隴は一度目を擦り、目から手を離す。そこには勇麗の姿が。
『……錯覚、か。』
体の力を抜き、脱力する隴。
それに気づき、こちらへ向く勇麗。
「あ、起きたんだ。」
「あぁ。ついさっきな。」
勇麗は隴の顔を見た途端、顔を赤くして即座に振り戻した。
『…俺の顔に何かついてるのか?』
隴は顔を少し触る。が、何もついていない。
勇麗は料理を作りながら少し前のことを思い出す。
……四十分前……
勇麗は隴の顔に自分の顔を近づけ、唇を一瞬重ねた。
「ーーッ!」
勇麗はすぐさま唇を離し、隴の顔を見た。
全く微動打にせず、気持ちよさそうに眠っている。
「……ふぅ。良かった。」
が、隴の顔を見る度にあのことを思い出す。
「ーー気紛らわしに料理でもしよっと。」
勇麗は台所へと向かった。
……現在……
隴は一切このことを知らず、顔を赤くする勇麗をただただ疑問に思っていた。
勇麗は隴の疑問に思っている顔を見て、ホッとしている自分と少し怒る自分がぶつかり合う。
真剣に料理をしていると思い込む隴は勇麗の料理を楽しみにした。
「……ニャウ。(……いい匂い。)」
目を覚ましたテルムが鼻を動かす。
隴はそんなテルムの頭を撫でる。
「ニャン?(どうしたの?)」
「いや、何となく。」
「ニャ。(そう。)」
テルムは尻尾を左右にゆっくりと振る。
隴は起きたばかりでまだ少し眠く、欠伸を一回した。
「で、出来たよ〜。」
勇麗はそう言って器を持ってきた。
「…おぉ。」
匂いから少しは勘づいていたが、やはり牛丼だった。
「気休め程度に作っただけだから、美味しいかは分からないよ。ーーテルムちゃんのはこっちね。」
「ミャウ!(ありがとう!)」
テルムの前に出されたのは野菜のスープのような汁物。
匂いも良く、期待が出来る。
隴とテルムは姿勢を正した。
「頂きます!」
「ニャン!(頂きます!)」
隴とテルムは同時に言い、食べ始めた。
箸で牛丼を食べる隴。テルムは猫なので器具を使わずに食べる。
「…美味い。」
「ほんと?」
「あぁ。かなり。」
牛丼を久しぶりに食べた隴。
少し味のことを忘れていたが、食べた瞬間に舌が味覚を復活させた。
「ニャウ〜。(熱い〜。)」
そう言ってテルムは舌を出す。
隴と勇麗はそれを見て笑い合う。
「勇麗が料理得意なんて初めて知ったよ。」
「前から練習しててね。最初は不味いって親からはっきり言われたな。」
「そうなのか?」
「大体そうでしょ。」
そう言ってる間に、器に入っていた牛丼は消え去っていた。
「おう。食った食ったぁ。」
「ニャウ〜。(美味しかった〜。)」
「お粗末様。」
勇麗はそう言って皿を二つ台所へと運ぶ。
「…三人遅いな。」
「あ、そう言えば。デウスさんは魔神王の威厳を保つって言ってたよ。二人は分からないけど。」
そんなことを話していると、ドアが開いた。
「あら、カップルが一組あるわね。」
セレネーでは無い大人の女性という声。
「…デア、か?」
隴が立ち上がると、廊下への入口から人影が出てきた。
「もしかして、お邪魔?」
「え?あ、いえ、邪魔ではないです。」
「あらそう?ならいいんだけど。」
そう言ってデアは台所を見た。
「料理をしたあとね。勇麗ちゃんの手作り?」
「えっと、はい。そうです。」
「私も貰っていい?」
「…美味しくは、ないと思いますけど。」
隴はその場を少し離れる。
「えっと、ひとつ聞きたいことがあるんですけど。」
「どうしたの?」
「その、なんでそんなボロボロなんですか?」
「あぁ。これ?さっきまでデウスと殺り合ってたから。」
全く緊張感のない言葉。魔神王と最高神が戦うのは不思議なことではない…と思うが、こんなパッとしないのだろうか。
「で、どちらが勝ったんですか?」
「デウスよ。今の所二千五百四戦中千二百五十二敗ね。」
「ジャスト半分、ですか。」
こんな良い戦いあるのだろうか。
「この料理って、ご飯の上にかければいいの?」
「はい。多分この世界にない食べ物だと思います。」
「そうね。私は食べたことないけど、牛丼って食べ物かしら。」
「お知りなんですか?」
「えぇ。アテナからそっちの食べ物のことは聞いてるわ。デウスが美味しいって食べるから、私も食べたくなるのよ。」
そう言ってデアは器にご飯を入れ、調理された牛肉を乗せる。
「美味しそうね。」
箸を取り出し、椅子に座ってから箸を牛丼に入れる。
そして、箸ですくい上げたご飯を口に運ぶ。
口にご飯を含み、確り味わうデア。
勇麗は息を飲み込み、それを、まじまじ見ている。
デアは確り味わったご飯を飲み込み、勇麗に笑顔を見せた。
「美味しいわ。料理上手なのね。」
「いえいえ、デアさんもお上手なんでしょ?」
「あれ?言ってなかった?」
「え?」
「私、料理作れないわよ。」
「…そうなの?」
勇麗は隴の方向をむく。隴は頷き、デアの方を見た。
「じゃあ、誰が?」
「デウスよ。私は進んで自炊するタイプじゃないから、あまり料理が得意じゃないの。セレネーはデウスに似て料理作れるみたいだけど。」
「すいません。失礼な事言って。」
「いいのよ。私は怒ってないから。それより、」
そう言ってデアは隴の方向に顔を向けた。
首を傾げる隴にデアは微笑みかけた。
「良いお嫁さんを持ったわね。」
「「ーーッ!?」」
その言葉に隴と勇麗が両方反応し、赤面する。
「面白いわね。この後私少し出るから、二人と一匹でゆっくりね。セレネーもデウスも帰ってくるのは夜になるから。私も帰りは夜になると思うから、イチャイチャするな今のうちにねぇ。」
隴と勇麗は顔を逸らし、手で顔を隠す。
「初々しいわね。じゃ、少し出てくるから。」
そう言ってデアはドアの元へ向かい、外へと出た。
『全く、あの女は。』
隴は赤面したままため息をついた。
「ね、ねぇ、隴?」
「な、なんだ?」
「……お言葉に、甘える?」
「………………は?」
疑問という言葉しか頭に浮かばない隴。
急な提案ではあるが、勇麗は完全に真っ赤な顔をしている。
「……正気か?」
「わ!…私は至って、真面目。」
「…少し、考えさせてくれ。」
イチャイチャします。了解ですと、簡単に行く訳には行かない。
今イチャイチャすれば確実に心身共に疲れる。
特に理性の方が保つかわからない。
「…テルムありなら、いいぞ。」
まだ小動物がいれば理性は保たれるはずだ。隴はそう思い、提案を出す。
「……いいよ。でも。」
「…″でも″?」
「次は、二人だけの時にね。」
「…頑張るよ。」
慣れれば大丈夫だろうが、慣れていないうちには大変厳しい。
「テルム。」
隴が手招きすると、テルムは体を丸める。
「ニャウニャウ〜。(お二人でごゆっくり〜。)」
「くそっ。あんの野郎。明日スパルタ使用してやる。」
軽く怒りをぶつける隴。
そんな隴に勇麗は抱きつく。
「な、何をっ!?」
「……やっぱり、二人だけがいい。」
隴は手で顔を覆う。
『くっそ。可愛過ぎる!』
勇麗に萌える隴。誰だって女性に抱きつかれてこんな言葉をかけられれば萌えてしまう。
隴は勇麗の手を取る。
「…これ以上は、また今度にしてくれ。俺の理性が持たない。」
そう声をかけると、勇麗はゆっくり手を離した。
「私は、別にいいよ。」
「……俺は良くないよ。俺も嬉しい。けど、今は駄目だ。まだ、決意が決まってない。」
勇麗は少しの間黙り込んだ。
隴は勇麗に見損なったと思われていると思った。 男としてもみっともないとしか思えない。
「……分かった。」
その勇麗の言葉に隴は少し驚いた。
「何よ、その顔。」
「いや、だって、見損なわれたと。」
「単純ね。告白した相手をそんな簡単に見損なわないわよ。それに、私も嬉しい。確り考えてくれた上で言ってくれてるんだなって分かる。」
「そうか。ありがーー」
「でも!」
隴の言葉を断ち切るように勇麗は言葉を上げた。
「ーーッ!な、なんだ?」
驚いた隴は『でも』の意味について聞き返す。
「次にそんなこと言ったら、」
一間置き、勇麗は頬を赤くして少し怒った表情で隴の顔を指さす。
「わ、私から襲うからねっ!」
勇麗は即座に振り返り、両手で顔を覆う。
隴は一瞬何が起こったか分からなかったが、直ぐに我に戻り、状況を把握する。
「………………」
隴はどう声をかけたら良いものかと一瞬だけ悩んだ後、笑みを浮かべた。
「分かったよ。もし次も俺が弱気だったら、その時は襲ってくれ。」
我ながら恥ずかしいことを言った隴。
『多分、数日経っても忘れないな。』
隴はそう思いながら、勇麗を見ると、耳まで真っ赤になっていた。
隴はそんな勇麗の頭に手を置いた。軽く、そして強く。