第八話 刀光剣影;手合わせ
✣ ✣ ✣
模擬試験が終了し、クラスへと戻る隴達。
「なぁ、鞘ってないのか?」
隴がデウスに問いかける。
デウスは隴の革鞘を渡した。
「これならあるぞ。」
「革鞘やないか。」
ふざけかと思い、隴はツッコミを入れる。だが、デウスの顔は至って真面目だった。
「革鞘以外はないのか?」
「悪いな。反りの装飾が邪魔すぎて革鞘しか使えねぇんだ。」
「そうなのか。あとなんで訛った?」
「あれが俺の本当の口調なんだが、校長になったし少しは控えようとな。たまに出てくる。」
「そ、そうなのか。」
デウスも大変なのだと隴は思った。
革鞘にアドア・ステラを収め、腰に携える。
何やかんやでクラスに着いた。
「もう授業は終わりだから、学園をぶらぶらしてもいいぞ。あと、隴と勇麗、カルネが呼んでたぞ。」
「え?カルネさんが?」
「何でも手伝って欲しいことがあるんだってさ。行ってやれ。生徒会長とは言ってもあいつはかなりのおっちょこちょいだからな。誰かが見てないと駄目なんだ。」
「…分かった。」
隴はデウスに返答を返し、勇麗と一緒に生徒会室へ向かった。
道中副会長のクロとも合流し、生徒会室へ。
「で、手伝いって何用?」
「……中に入ればわかる。」
一間置いたクロに隴と勇麗は疑問。クロは生徒会室の部屋を開いた。
「あ!二人とも!来てくれたんだね!」
隴と勇麗は生徒会室を見て驚愕した。
「……何したんだ?」
「僕が説明するよ。生徒会室の掃除をしていてね。そこで会長がドジ踏んじゃってこうなってるって訳だよ。」
「えっと、ドジを踏んだだけではないと思うんですけど…」
隴と勇麗の目の前に広がっていた光景は荒れ果てた生徒会室だった。
「片付けを手伝えばいいんだな?」
隴の言葉にクロが頷く。
「はぁ、久々に本気出すか。」
「えっと、クロさん。生徒会室から全員出してください。」
勇麗の言葉に耳を傾け、クロは生徒会室から生徒会役員全員を外に出した。
「隴、あんまり慎重にやり過ぎないように。」
「分かってる。」
そうして隴が片付けをし始めた。
倒れた本棚から散らばった書類までも全て片付けていく。
「凄いわぁ。彼を生徒会に入れて正解でしたね副会長。」
「入れたのは俺じゃないんだが、そうだな。男主婦って感じだな。」
そんな会話をしていると、いつの間にか七割片付いていた。
「余らも手伝うぞ。」
「…いや、大丈夫。俺一人で終わる量だよ。」
そんなこんなで約五分。生徒会室の片付け及び掃除が全て隴の手によって終了した。
「ありがとう〜!助かったよ!」
カルネがそう言って隴の手を握り、上下に強く振る。
「い、痛い痛い。や、やめてくれ〜。」
そんなカルネの肩をクロが叩く。
「クロくん、どうか、した、の…?」
笑顔で振り返ったカルネの額には汗が垂れていた。
カルネの見つめる先には驚異的な顔をしているクロの姿。
「会長、これから掃除をする際は隴を誘ってからにしてくれよ。」
「で、でも、迷惑ばっかりはーー」
「わ か り ま し た か ?」
「……すみませんでした。」
立場の逆転が起きている。
「い、何時も、大変なんだな。」
「会長はお人好しで人徳はあるけど主婦的なことに関しては何も出来ないんだ。良かったら教えてもらえるか?」
「別に俺は構わないよ。」
カルネは少し涙目で隴を見た。
「これから私の面倒見て〜。」
「嫌だよ。」
即答されてカルネは涙を流して後ろを見た。
「隴くんのバカ〜。」
「いや、知らんがな。俺には決めた相手がいるんだ。」
その言葉を聞いた瞬間にクロとクノリチ以外の生徒会役員が隴のことを見た。
勿論カルネは涙を止めて。
「ねぇ、その人って、誰?」
「え、あ、えっと、」
「恋って熱いわねぇ。誰なんです?」
「あっと、え、えっと、」
「男の僕が聞くよ。言ってみて?」
「いや、あの、……」
隴は顔を下に向け、手で顔を覆った。
勇麗は後ろの方向を見ているが、顔は真っ赤であろう。
「ゆ、」
「「「ゆ!」」」
「……勇麗だ。」
「まさか、勇麗ちゃんだなんて。」
「あらあら、勇麗ちゃんもお顔真っ赤。」
「僕としたことが、計算が外れるなんて。」
そこでクロとクノリチが生徒会役員の肩を叩いた。
「「後輩を虐めるな。」」
「「「……ごめんなさい。」」」
カルネとモリオとレキは同時に謝った。
隴と勇麗は顔を見合わせることも出来ないほどに真っ赤になっていた。
「…え、えっと、二人って転生者なんだよね?」
カルネの問いかけに隴と勇麗は同時に頷いた。
「じゃあ、向こうで告白したの?」
モリオの問いかけに隴と勇麗は同時に(以下略…
「どっちが告白したんだい?」
レキの問いかけに隴は勇麗を指さし、勇麗は手を挙げていた。
「まあ…漢として貴方から告白すれば良かったじゃないですか。」
モリオの言葉に隴は顔を横に振った。
「……出来るだけ人目がない所で言いたかったんだ。」
そう言うと、カルネが口を開いた。
「因みに何処で?」
その問いに勇麗が口を開いた。
「じ、事故で、隴が死ぬ直前に、言いました。」
その言葉を聞いた瞬間にその場が凍りついた。
場が凍りついたとしても以前隴と勇麗は熱い。
「……辛い思いをしたんだな。」
クロがそう言うと、勇麗が頷いた。
そして、ほぼ同時に隴と勇麗が涙を流す。
「え?え?ちょっと、二人共。」
泣き出す二人を見てレキが少し慌てた。
目の前で涙を流されたら誰だって戸惑うだろう。
「その時は、とても、辛かった、です。」
涙を抑えようとして片言になっているようだが、全く涙を抑えられていない勇麗。
「あの時は、俺も嬉しかったけど、死ぬ直前、だったし、返事を返せぬまま。」
隴も勇麗と同じような状態。カルネとモリオも慌てふためき始めた。
「辛かったんだね。」
カルネが優しく声をかけた。
そこで隴と勇麗は顔を上げた。
「今は特に辛くないぞ。」
「今は特に辛くないです。」
隴と勇麗の同時の言葉にカルネが口を開いた。
「いや、息ぴったり。」
確かに息ぴったりである。
勇麗はハンカチを取り出し、涙を拭き取る。
「使う?」
勇麗が隴にハンカチを渡す。
「あぁ、ありがとう。」
隴はそのハンカチを貰い、涙を拭く。
「ねぇ、隴。」
「なんだ?」
勇麗は隴からハンカチを返してもらい、問いかける。
「今も、その…私の事、好き?」
その言葉に隴は少し戸惑ったが、正直に答えることにした。
「あぁ。今でも好きだ。」
「…そう。良かった。」
見つめ合う二人。隴が勇麗の頭を撫で下ろした時、声をかけられた。
「あの〜。二人の世界に入らないで貰えるかな。」
カルネの言葉に隴と勇麗は顔を赤くし、顔を背けた。
「ち、違いますっ!変なこと言わないで下さいっ!」
「いや、でも完全に別世界行ってたよね。みんなもそう思うでしょ?」
カルネが生徒会役員にそう言うと、満場一致で頷いた。
「ほら〜。」
隴と勇麗は図星を突かれたような顔をする。
「と、とにかく、もう用がないなら俺は帰るからな。」
そう言い出した隴をカルネは必死で止めた。
「ま、待って!一戦交えようよ!」
その言葉に隴は体をピタリと止めた。
「…どうしてそんなに模擬戦したいんだ?」
隴が聞くと、クロが回答した。
「会長は戦い好きなんだ。会長に目をつけられたら最後、戦わなければ逃げられない。」
経験があるような言い方。
「クロも戦ったのか?」
「あぁ。入学してその日に挑まれた。」
「で、結果は?」
「競り合いで、結果は会長の勝ちだった。」
隴は少し考えた後、了承した。
「いいよ。強い相手ならこいつに慣れるいい機会かもしれないからな。」
隴はそう言ってアドア・ステラの柄に手を置いた。
カルネはそれについて疑問を抱いた。
「″慣れる″って、使い始めたばっかりなの?」
「ん?あぁ、今日使い始めたばっかりの代物だ。」
「え?今日?入学試験では何を使ったの?」
そう言われ、隴は足元に親指を動かした。
カルネはその方向を見た。そこには笑顔のテルムの姿が。
「ミャウ?(なに?)」
テルムは隴の足に頭を撫で付ける。
「あ、そっか。」
カルネは納得したように頷いた。
「テルムは武器になれるからな。」
「ニャン!(凄いでしょ!)」
自信満々のテルム。それを見て苦笑いを浮かべる隴。
「それにしても、今まで『戎具なる猫』が人に懐いてるところ見たことない。」
そりゃあそうだ。人は一度死ねばゲームオーバー。リトライやコンティニューは不可能。
隴や勇麗みたいに異世界転生する以外は。
「ま、とにかく、今回テルムはお休みだな。」
「ニャ〜。(え〜。)」
「ごめんな。でも、二刀流は流石に初めてで出来る気がしない。」
「ニャウニャウ〜。(別に良いけどさ〜。)」
隴はテルムを持ち上げ、勇麗に渡す。
「テルムのこと頼んでいいか?」
「大丈夫だよ。」
「……ミャ!(……頑張って!)」
テルムに言われ、隴はテルムの頭を撫でた。
「あぁ。頑張ってくる。」
「場所は第二体育館でいいよね?」
カルネはクノリチに問いかける。
「今使われていない体育館が第二と第五。その他三つは使用中になってる。」
「よし、じゃあ第二体育館ね。どうする?少し間を置いてからでも良いけど。」
「いや、すぐでいい。」
考えずに即答する隴。
「いいねぇその短気なところ。嫌いじゃないよ。じゃあ行こっか。」
生徒会室には念の為でモリオが残ることに。
「戦いの行く末は気になりますが、人徳のある人が残った方がいいので。」
そう言ってモリオは一礼してから生徒会室へ入った。
『…普通自分で言うか?』
自画自賛なのはモリオ以外にも沢山いるが、モリオはなんというか謙虚な感じがある。自分で自分のことを上に見るようには見えない。
「さ、早く行こ。」
半ば強引ではあるが、カルネに連れられて第二体育館へと移動した。
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第二体育館はほとんど第一と変わらない。
明かりの明るさがこちらの方が少し強めということ以外は何も違いはない。
「早速だけど、やろっか。」
「そうだな。」
カルネは腰に携えている剣を鞘から抜き出す。
「見た感じ聖剣の部類に見えるな。」
「少し違うわね。これは聖魔剣よ。」
そう言ってカルネは聖魔剣を振った。
「聖魔剣『アルマス』。私の神器でもあるわ。」
隴はその話を聞きながら太刀を鞘から抜き出す。
「刀?いや、それは太刀ね。」
「よく分かったな。」
「武器のことは詳しく調べてるからね。それは、名刀?」
「これは霊裓だ。」
「れ、霊裓!?」
カルネは驚きを隠せずに声を荒らげる。
体育館中にカルネの声が反響し尽くす。
「う、うるさいよ。」
「あ、ごめん。でも、霊裓って、世界に二本しかない幻の武器よ。」
「これで三本目だ。霊裓『アドア・ステラ』。俺のもう一本の相棒だ。」
「霊裓まで扱えるなんて、貴方ってほんと不思議ね。」
カルネは笑いながら武器を構える。
「これって本気出していいんだっけ?」
隴の問いかけにカルネが頷く。
「出来るだけ本気で来てね。女だからって手加減しないでよ。」
「しねぇよ。ここからでも伝わってくる。禍々しくも綺麗なオーラだ。」
隴はカルネを褒めるように言った。
「褒めても力は緩めないわよ。」
「緩めて欲しくなんてない。少し時間貰うぞ。」
「どうぞ。」
隴は目を閉じ、意識を心臓の方へと集中させた。
深呼吸を一回して、息を止める。
そして、小さな音を耳の鼓動で捉える。
『……阿修羅よ。俺に力を貸してくれ。』
そう願う隴。カルネは隴の思っていることは分からないが、変化には気づいていた。
「……凄い邪気ね。」
カルネのオーラと違い、物凄く恐々しい。
その邪気は隴の周囲を取り巻く。
「目で捉えられる程にオーラが強いのか。」
待機所で観戦しているクロがそう言う。
確かに、オーラを目で捉えられるのは凄いことだ。オーラを見ているものがすごい時もあれば、オーラを出しているものがすごい時もある。
今回の場合はオーラを噴出している隴が凄いことになる。
全員の目に隴のオーラが捉えられている。
オーラを見えるほどまでにするまでは時間も努力も多く消費しなければならない。
隴は目を開き、笑みを含んだ。
「何処からでもどうぞ。」
その言葉にカルネは改めて構え直す。
「先手、取らせてもらうわねっ!」
カルネは走り出した。
隴に一直線。真っ直ぐに、敵の攻撃を警戒はしている。だが、それよりも戦いたくてしょうがない。
「なんで隴くんは構えを取らない?」
レキが疑問に思い、全員に顔を向ける。
そこで、勇麗が答えた。
「…あれが隴の本気だからです。」
その言葉にクロが言葉を発する。
「あれが、隴の本気?ただただ突っ立ってるようにしか見えないが、」
「……見てればわかります。」
そう言う勇麗に生徒会役員は全員戦いを観戦する。
カルネと隴の距離はもうほとんどない。
「やあああ!」
カルネはアルマスを振りかざした。
隴はアドア・ステラを軽く動かした。
その時、カルネはまだ攻撃をしていないのに弾かれた。隴は全く微動打にしていない。
「な、何が…!」
一瞬の攻防を見てクロが言葉を漏らす。
「あれが隴の本気。『無常夜羅構え』です。」
日本で使えるものは隴と隴の父親だけと言われていた構え。
「その『無常夜羅構え』って?」
レキが聞くと、勇麗は一度頷いて話した。
「…別名で『修羅』。修羅道を歩むものが必ずと言っていいほど足を止めてしまう習得場所です。」
「あの速度は流石におかしいぞ。」
クロの言葉に勇麗は頷くしか無かった。
「隴の話によると、体の神経を心臓に向けて目を開けて、自分に合った構え方をすれば攻撃速度が早くなるみたいです。でも、前まではあれほどの速度は出てなかったんですけど。」
勇麗達の方向の言葉には耳も傾けず、カルネは構え直す。
「はあああ!」
カルネは連続でアルマスを振る。が、全て防がれる。
「遅いぞ。もっと脇を閉めて足の力を抜くんだ。」
隴はカルネに指摘をしながら攻撃を防ぐ。
「なにをー!」
全く話を聞かずに攻撃を続けるカルネ。
「もう、終わらせる。」
隴はカルネから距離を取り、即座に走り込んだ。
「修羅一刀流。」
隴は切り込んだ。
カルネに防がれることを想定して三連撃を叩き込んだ。
「羅生飢餓狩。」
カルネの体を三回切った太刀。その太刀の刃先には微量ながらの血がついていた。
その刀は物語る。カルネの敗北を。
「……っ。」
カルネはアルマスを地面に落とし、膝を着いた。
隴は刃先に付いた血を払い落とし、鞘にゆっくりと収めた。
「…ふぅ。」
疲れ果てたように口から空気を抜かし、地面に座り込んだ。
「会長!」
クロはカルネの元に駆け寄った。
「だ、大丈夫か?」
腕、脇、足に付けられた傷。浅いという訳でもない。が、軽く付けられている。
「大丈夫。」
カルネはそう言って立ち上がる。
アルマスを取り、鞘に収める。
「隴くん、貴方って何者?」
「…ただの修羅道を歩む転生者だよ。」
隴はそう言っているが、何処もそうは思えない。
「今さっきの速さって前から使えてたの?」
「その前はいつの前かはわからないけど、勇麗と戦ってた頃はあそこまでの速度は出せてなかったぞ。」
「いつそんなこと出来るようになってたの?」
質問の多い勇麗に隴は正確に回答を言い渡す。
「えっと、デウスと修行してたら出来てた。」
その言葉に生徒会役員全員が驚いた。
「ま、魔神王と、手合わせ!?」
「余には到底出来ないことだな。」
「もし僕が君の立場になってたら手合わせなんてしてないね。」
「魔神王と手合わせか。俺は別にいいかな。」
カルネは隴の手を取った。
「ど、どうやったら手合わせできるの!?」
戦い好きのカルネを隴は止められないと思ってしまった。
「どうやったらって、頼み込んでみたら?」
「そ、そんなっ!頼み込むだなんて、」
隴は少し考え事をしていた。
「カルネはてっきりもうデウスと戦ったのかと思ってたよ。」
「で、出来ないわよ!恐れ多いことよ!」
「そ、そうなの、か?」
気迫に押されながらも隴は返事を返し、全員の顔を見た。
勇麗以外は全員頷いている。
「まぁ、でも、デウスは強いからなぁ。俺と手合わせしてる上で本気出したことないんじゃなかったかな。」
「あ、当たり前でしょ!人間相手に魔神王が本気を出したら即死よ!」
「いや、そうでも無いぞ。」
その場にデウスが歩いてきた。
「校長、どうしてここへ?」
クロが問いかけると、デウスは足を止めて口を開いた。
「いや〜。カルネのことだし多分隴との手合わせだろうなと思ってな。モリオに場所を聞いて来たんだ。」
「最初から見てたのか?」
隴の問いかけにデウスは頷いた。
「全部見てたよ。まさかお前が俺に本気を出していなかったなんて思わなかったな。」
「え!?隴くんって魔神王に本気を出したことないの!?」
カルネの驚く問いかけに隴は不思議そうに頷きを返す。
「あれ、いつも何割出してるんだ?」
デウスの問いかけに隴は顎に手を当てて少し考えた。そして、答えがまとまったように手を退かした。
「七割くらいかな?」
「七かぁ。なら、次からは本気を出させるために八割で相手をしようかな。」
「やめてくれ。お前の五割の力でも相当なんだ。八割なんて、傷一つつけられないぞ。」
「いや、分からんぞ。最近はお前も俺の速度についてきてる。もしかしたら首を切られるかもな。」
次元の違う話にデウスと隴以外は少し混乱していた。
「……っと、おいてけぼりにしてたな。で?カルネは俺と手合わせしたいのか?」
「え?あ、えっと、はい。」
「なら、今から軽くやるか?」
「え!?良いんですか!?」
「俺は構わないよ。一応そうなるかもしれないからデアからも許可を貰ってるから。」
デウスはそう言って手をポケットに入れた。
「え、最高神から許可を?本当に?」
「あぁ。で、やるのか、やらないのか、どっちだ?」
「や、やります!」
即答を返すカルネ。それにデウスは笑みを浮かべる。
「そう来なくちゃな。」
デウスはポケットから手を出し、地面に叩きつけた。
「俺は、二刀流で戦うぞ。」
手を離していくと、白い剣が二つ形成されて行く。
デウスより二頭ぐらい低い場所で形成が終わる。手に一番近い場所をデウスは掴み、振った。
光が晴れ、武器の見た目が見えてきた。
「その二つって、」
「神気霊魂剣と霊裓だ。」
その言葉にカルネは目をキラキラ光らせる。
「私にそんな武器を使ってくれるなんて、何たる光栄!」
「大げさだな。…その前に、その傷治した方がいいな。ほれ。」
デウスはそう言って瓶を投げる。
カルネはそれを慌てて手に取る。
「あの、これは?」
「回復薬だ。赤くてわかりにくいと思うがな。」
カルネは瓶の蓋を外し、中の液体を飲み干す。
すると、みるみる内にカルネの傷は一切の痕跡を残さずに消えた。
「回復薬って凄い。」
「さぁ、早速やるか。」
デウスは右手に持つ神気霊魂剣を肩に置き、左手に持つ霊裓を下に下ろす。
「あ、お、お願いします。」
カルネはアルマスを取り出し、構える。
『脇と脚、腰の使い方が荒いな。これじゃあ隴には勝てないな。』
そんなことを考えるデウス。
そんなことも知らずにカルネは地面に足をすらした。
「先手、頂きます!」
カルネは先程と一緒で走り込んだ。
「すまんが、直ぐに終わらせてもらう。」
デウスはそう言って一歩足を出した。そう思った時、その場にデウスの姿はなく、カルネの背後に居た。
「くっ!」
カルネは腕を抑え、アルマスを地面に落とした。
「「「会長!」」」
今度は生徒会役員全員がカルネに寄り添った。
カルネの腕からは純色の血が流れる。
「い、痛い。ーー全く見えなかった。」
移動速度も攻撃速度も速すぎるデウスにカルネは驚きと尊敬の念を言葉にした。
「また頑張れ。次から隴に教えてもらえ。」
「え?俺?」
隴がそう言うとデウスは頷いた。
「古来武術を習ってた隴だ。大抵は分かるから、習うといい。」
カルネは腕を抑えながら隴の目の前まで歩み寄り、一礼した。
「お願いっ!」
「ーーはぁ。女に頭を下げられてお願いされたら無視できないな。分かったよ。俺が教えられる程度までなら教える。強くなるかは保証できないぞ。それでもいいな?」
「ありがとう!」
感謝された隴は少し照れ臭そうに頭を搔く。
「俺は校長の仕事があるから、お前らも帰れよ。」
デウスは回復薬をその場に置き、第二体育館から姿を消した。