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FaTuS;転生譚  作者: 元気ハツラツマン
一章 学園へ
7/47

第七話 当代無双;模擬試験と霊裓

✣ ✣ ✣


「ーーとにかく、武器に関してはこんかところね。」

 説明を終えたようにセレネーが話の終止符しゅうしふを打つ。

「ありがと。何となくだけどわかったよ。」

 話の終わりを知った勇麗は感謝を述べる。

 すると、教室のドアが途端に開いた。

「二人はもう帰ってたんだ。」

 ロクバとヘレキコードが教室に戻ってきた。

「二人共仲睦(なかむつ)まじいね。」

 勇麗がそう言うと、ロクバは少し頬を染めた。

「な、何言ってんのよ。」

「あれ?図星?」

 困惑するロクバに勇麗が追い討ちのように言葉をかける。

 これまた鈍感なヘレキコードはなんのことかさっぱり。

 その後から笑顔のフレアと枯れ果てた隴がやってきた。

「ど、どうしたんですか?」

 ヘレキコードが隴に聞くと、隴は目を閉じた。

「……世の中には、聞かない方がいいこともあるぞ。」

「そ、そうですか。」

 なんとなく察しがついたヘレキコードはそれ以上何も言わないことにした。

 その隣のフレアは少し頬を染めていた。何故かはフレアと隴しか知らない。

 そこでチャイムが鳴り響いた。

「お前ら、席に…どうした?」

 やって来たデウスは隴を見た途端に話題を逸らした。

「……聞かないでくれ。」

 デウスは周囲を見渡した。

 頬を染めているフレアとロクバ以外は普段通りだった。

 デウスは隴の肩の上に手を置いた。

「ヤったのか?」

「校長が妙なこと言い出すな。」

 デウスの言葉に少し半ギレ状態の隴。デウスの言葉の意図を理解したのは隴と勇麗だけだった。

 その他は純粋無垢じゅんすいむくなのだろう。

「ま、とにかく全員武器を持て。」

 隴達は疑問を持った。

「どうして武器を?」

「お前らの強さがどれだけかはかるためだ。」

「……図る必要性はなんですか?」

 ロクバが問うと、デウスは頷いた。

「今から模擬試験を行う。メリットは、大会に向けての力作りと学園の地位維持だ。」

 その言葉に全員が困惑。セレネーは口を開いた。

「大会って、何?」

「この学園では体育祭と文化祭ともう一つ、全街大会というものがある。正式名称は『雷名剣星祭らいめいけんせいさい』。全世界の学生達が唸る大会だ。」

「その、『雷名剣星祭』って、なんですか?」

 ロクバの問いかけに答えるようにデウスは口を開く。

「単純に言えば、学生の中で誰が一番かを競う戦いだ。ルールは簡単だ。敵が降伏こうふく、あるいは戦闘不能、あるいは殺害で勝利。その逆は敗北だ。」

「……殺害って、それ本当か?」

 隴の問いかけにデウスは頷く。

「大抵のものは降伏させるか戦闘不能まで追い込む。今まで相手を殺害するという事例は特にない。」

「…因みに、その『雷名剣星祭』は今回で何回目だ?」

「えっとなぁ、何回目だったか。」

 デウスは手を顎に当てて考える。そして、思い出したように手を顎から離した。

「七回目だ。」

「七回?意外と少ないな。」

 単純な疑問を投げる隴にデウスは頷きを返した。

「全街で学園が成立されたのがつい十年前だからな。そこまで月日が経ってないんだ。」

「へぇ。」

 興味無さそうに返事を返す隴。

 デウスは頭を搔き、ドアの方へ向かった。

「取り敢えず、全員ついてこい。因みに、この『雷名剣星祭』に出られるのは全学年の誰か。それは戦いで決める。」

 何時その戦いを始めるのかは分からないが、時間がかかるのは大体分かる。

 戦い好きの隴とフレアは少し期待を膨らませた。


✣ ✣ ✣


 場所を移動し、会場に入った。

「やっぱり広いな。」

 隴はボソッとそんなことを零す。

「ここは第一体育館だ。体育館は剣術分野のところだけで五個はあるな。」

「いや、多すぎじゃないか?」

 通常日本の学校、学園では体育館は一つが限度。それの五倍。それに対してこの体育館の広さ。費用がどれくらいなのか少し気になる部分は正直隴もある。

「さて、模擬試験だが、先ずは一体一を組んでくれ。」

 そうして一体一が組まれた。

 隴とヘレキコード、セレネーと勇麗、フレアとロクバ。

「よし、二人ペアの三組が出来たな。」

 デウスは少し離れた場所に座る。

「どのペアからだ?」

 デウスの問いにセレネーが手を挙げた。

「私達からやるわ。」

「了解だ。その他はこっちに来い。」

 デウスに言われ、デウスの方向に向かう。

 野球のベンチコートみたいな場所だ。観戦用と言うよりは待機所という扱いだろう。

「それじゃ、二人共武器を取り出してくれ。」

 そう言われた時、勇麗が手を挙げた。

「あの、私武器ないんですけど、」

 その勇麗に隴は反応した。

「テルム。」

「ニャン。(分かった。)」

 隴はテルムに言い、テルムは勇麗の近くまで行く。

「テルムちゃん、どうしたの?」

「勇麗、テルムを使え。」

「え!?」

 隴の言葉に勇麗はビックら仰天。そりゃあそうだ。戦いで武器がないという状況で猫を使えなどと訳が分からない。

「短剣でいいんだろ?」

 そんな勇麗を無視して隴は問いただす。

「ま、まぁ、短剣だけど、」

 曖昧な気持ちで答える勇麗。

 テルムはそれを聞いて、体を閃光のように光らせた。

 光が晴れると、そこにはテルムではなく短剣が落ちていた。

 黒く黒色こくしょくした刃に軽く曲がる柄。柄頭は少し尖っていて、両側で戦えそうだ。片刃の刃は会場のライトに照らされて濁り輝く。

「立派な短剣…」

 思わず見とれてしまう勇麗。

 隴はそんな勇麗に声をかけた。

「それを使って戦え。」

「う、うん。」

 勇麗は言葉に反応し、短剣テルムを手に取った。

 何処から見てもその容姿は美しい。照り輝く刃には目の装飾が施されている。テルムの目だろう。

「じゃ、早速始めよ。」

 セレネーはそう言って武器を手に取った。

「……デウス、あれって聖剣だよな。」

「なんで知ってるのかは聞かないでおく。確かにあれは聖剣だ。名前は『リジル』。セレネーとの相性が良かったから渡したものだ。」

 聖剣が相手なら勇麗も本気を出せるだろう。そう思った隴。

「それじゃ、行くわよ!」

 セレネーが先手として攻撃をした。

 勇麗は短剣を逆手に持ち替え、聖剣を受け流した。

 勇麗の顔には先程までの女性らしさは少し薄れ、戦場の女戦士のようだった。

 勇麗は左に走り、軽く距離を取ったところでセレネーの周囲を回り出す。

『牽制のつもりなの?』

 セレネーはそう疑問を頭に浮かべながら勇麗走る勇麗を凝視する。

 そして突如、勇麗は方向を変え、セレネーに突撃した。

「ーーくっ!」

 勇麗の振った短剣をセレネーは何とか防ぐ。

 金属と金属が擦れる音。火花が散っているようにも見える。

「ッ!やああ!」

 勇麗は力を込め、聖剣を弾き、逆手に持つ短剣をセレネーの首元に振った。

 セレネーは身動きを取らなくなった。

 短剣はすぐ首の隣、聖剣は今セレネーの手と一緒に上にある。反撃しようとしても到底間に合わない。

 セレネーは聖剣を下ろした。

「……私の負けみたいね。」

 降参した。本の三分の攻防戦。

「セレネー、油断し過ぎたな。」

 デウスがそう言って立ち上がる。

「そう、みたいね。」

 先程まで武器などのことを詳しく教えていた相手がここまで強いとは流石に思ってもいなかったセレネー。

「…ふぅ。」

 勇麗はそう言って地面に座り込んだ。

 短剣の姿から猫の姿に戻るテルム。勇麗の手の下で暴れる。

「ニュ〜。(出れない〜。)」

 そんなテルムを見て勇麗は咄嗟に手を離した。

 テルムは暴れるのをやめてため息のようなものをついた。

「ニャン。(出れた。)」

 テルムはすぐさま走り出し、隴の元へ戻った。

「おぉ、よしよし。頑張ったな。」

 隴はテルムのことを撫で回す。

「ニャウニャウ!(そうでしょそうでしょ!)」

 テルムは自己自慢じこじまんをする。

 隴は苦笑いをしながら撫でる。

「次は……」

「私やっていい?」

 フレアが隴にそう言う。隴は「別にどうぞ」と言って先をゆずった。

「ありがと、じゃ、やろ。」

 フレアに連れられ、ロクバは中央に立つ。

「あの二人の相性ははっきり言って完璧だろうな。」

「どうしてそんなこと分かる?」

 全てを分かったように言うデウスに隴は疑問を抱き、投げ掛けた。

 デウスはその質問をキャッチし、答えとして投げ返した。

「まず武器だ。」

「武器?」

「あぁ。ロクバの武器は名刀『零刹空アマテラス』。対してフレアの武器は妖刀『瀬領愬ゼウス』。あの二つの相性は凄まじくいい。そして、二人の構え方を見てみろ。」

 デウスはそう言ってロクバとフレアに指をさした。

「さぁ、やりましょう。悪いけど、本気を出させてもらうわ。」

「私も、全力で相手をするね。」

 二人は同時に構えた。

 それを見て隴は少し驚いた。

 ロクバの構えは刀を両手で持ち、それを相手に向ける形を取る。そして、少しだけ腰を落とした構え。迎え構えとも言われている構え方だ。

 それに対してフレアの構え方は右手で柄を握り、左手で鞘を持っている。抜刀ばっとう構えや瞬斬しゅんざん構えと言われている構え方だ。

 簡単に言えば、ロクバが防御を多用する戦い方。フレアは完全に攻めに徹した超攻撃特化。

 受け流しは最強の防御と言われている。ロクバは受け流し主本だろう。それに対して攻撃は最大の防御と言われている。フレアは攻撃担当のような立場。

 決着が付きにくい二人という事だ。

「それじゃあ、行くよ!ロクバ!」

「うん!」

 フレアが先手として地面を蹴り、ロクバに急接近した。


✣ ✣ ✣


 フレアは鞘から妖刀を抜き出し、ロクバに振り下ろした。

 ロクバはそれを受け流し、フレアの刀が地面に着いたのを確認してから突撃した。

「やああ!」

「ッ!」

 横にぎ払われた名刀をフレアは体を反って躱し、反動を使ってロクバに向き直る。

 だが、フレアが向き直った時にはロクバは攻撃態勢に入っていた。

「はっ!」

 ロクバは斜めから名刀を振り翳す。フレアは危険を察知し、横に撤退。

 名刀は地面を突いた。

「中々早いね。」

 ロクバはそう言って構え方を整える。

「ロクバこそ、それは反応速度じゃなくて思考が早いんだね。」

 フレアも構えを整える。

「油断してる暇は、ないよ!」

 ロクバは名刀を突き出した。

 しかし、その攻撃はフレアに当たらず、鉄を摺れた。

「防御…」

 防御に切り替わることは想定していなかったロクバは少し驚いた声を出す。

 フレアは左手で鞘を持ち、そこから少しだけ刀身を出してロクバの攻撃を受け流した。

「やっぱり、防御への変更は頭になかったようね。」

 フレアは妖刀を鞘から出すと同時に名刀を弾き、隙を作った。

「やあ!」

 フレアは妖刀を上に掲げ、振り下ろした。

 ロクバはそれに不敵な笑みを浮かべ、体を動かした。

 体を横にわざと倒し、敵の攻撃を受けやすくした。

 フレアは気にせず、妖刀を振り下ろす。

 ロクバは体が浮いている状態でフレアの妖刀が当たるようにわざと仕向けた。

 そして、相手が勝ちを確信した瞬間、妖刀は名刀によって受け流された。

 妖刀は地面に突き刺さる。

「なっ!」

「はああっ!」

 ロクバは油断していたフレアに一泡吹かせたあと、蹴りを入れ込み、距離を離す。

 フレアは咄嗟に手を出し、ロクバの蹴りを受けた。

 少し後ろに下がり、それから後退する。

 そこでフレアはあることに気づいた。

「な、ない。」

「お探しのぶつはこれ?」

 フレアの独り言に答えるロクバ。フレアはロクバの方向を見た。

 ロクバの右手には名刀、左手には妖刀があった。

 フレアはロクバに蹴られた時、咄嗟の判断で武器を離してしまった。

「まだ続ける?」

 ロクバの言葉にフレアはため息をついた。

「武器がない状態では戦えないわ。降参よ。」

 フレアの油断が招いた敗北。

 ロクバはフレアの降参したという言葉を聞いてから妖刀を返す。

「意外と早く終わりましたね。」

「そうだな。」

 隴とヘレキコードは見合い、そんなことを言っていた。

 敗因は全員が理解していた。

「次はヘレキコードと隴ね。」

 フレアの言葉に隴は立ち上がった。

「次は俺達か。」

「お互い頑張りましょう。」

「今から戦う相手にそれを言ってどうする。」

 隴とヘレキコードは笑い合った。

「あっと、隴。少し戦いは待ってくれ。」

「何故?」

「渡したいものがあってな。取ってくるから待っててくれ。」

 そう言ってデウスは小走りでその場を抜けた。

 隴に渡したいもの。誰も想像がつかなかった。隴でさえも、いや、特に隴は想像が出来なかった。

「ニャウ。(なんだろう。)」

 テルムも少し興味があるみたいだった。

 少し経って、デウスがその場に戻ってきた。でも、先程とは違い、手に何かを持っていた。

「これをやろうと思っていてな。」

「…これは?」

 布で覆われていたもの。少し細長く、両端が少し尖っているように見える。

「開封してみ。」

 隴は恐る恐るではあったが、布を開いた。

そして、布を退かしたそこには一本の刀があった。

「これは、刀と言うよりも太刀に近いか。」

 過去の日本では馬の上で使うのが主流だった太刀。古来武術でも太刀の使用はあまりなく、よく刀を使用していた。

 隴は太刀を何度か握ったりしたことはある。

 隴の家庭は代々武士の家庭で、家には鎧や兜、刀と言ったものが今も残っている。

「これは隴専用に作ってもらった特別な太刀だ。持ってみろ。」

 自分専用と言われたら嬉しくてたまらない者もいるだろう。

 隴はその太刀を持ち上げた。

 重量も確りしていて、振りやすい形状をしている。

 反りの部分は炎が立ち込めたような形をしている。厨二病心をくすぐる見た目をしている。

 刀身の色は赤みがかっており、血がついてもあまり分からないようになっている。

「どうして、これを俺に?」

 隴がデウスに問うと、デウスは隴を見た。

「お前、修羅道に行ってるだろ?」

「まぁ、行ってるけど、それがどうか?」

「テルム一匹(一本)だけじゃ修羅の技に耐えきれるか心配だからな。特注で作ってもらったんだ。意外と安く済んだがな。」

「え、金貨何枚?」

「金貨で言えば千枚。純金貨で十枚だな。」

「十!?」

 純金貨の高価さはセレネーとかからもなんとなくは聞いていたため、どれ程の価値があるのかが分かる。

「なんだ?十枚ならまだ安い方だぞ?特注品なら普通なら純金貨五十枚はくだらないところだ。」

「ご…」

 隴は驚いたところでこれ以上何も無いと思い、少し自重した。

「…で、これ、武器種は?見たところ普通でもないし、妖刀や名刀の部類じゃないだろ。」

「あぁ、それは『霊裓れいこく』っていう武器種だ。」

「「「えええええぇぇぇ!?」」」

 隴と勇麗以外の全員が驚き出した。

「ど、どうしたんだ?」

「れ、霊裓って、あんた、とんでもないものよっ!」

「え、そうなのか?」

 隴はデウスの方向を見ると、デウスは頷いた。

「今この世界にある霊裓武器はそれ抜いて二本だけだな。」

「…へ?に、二本だけ?」

「あぁ。」

「…………」

 隴は言葉を失った。

 因みに、その二本の名前は『霊裓クレスケンス・ルーナ』と『霊裓兇敵(きょうじゃく)ノワ・ルーナ』の二本。

 霊裓兇敵ノワ・ルーナは兇敵ノワ・ルーナとも言われている。(そちらの方が正しい。)

「……俺が、そんなの使いこなせるのか?」

 少し不安を抱いている隴にデウスは笑いかけた。

「お前なら出来る。それに、その武器はお前専用の武器だ。お前が使えなければ始まらん。」

 喋り方が何処ぞの親爺おやじみたいになっているが、そこは気にせず、隴はその武器を見つめる。

「分かった。やってみる。」

「よし、その意気だ。」

 そう言ってデウスは待機所に戻った。

「戦わない奴はこっちに来い。セレネー、テルムを連れてこい。」

「分かったわ。」

 セレネーはテルムを抱き抱え、待機所に向かった。

「霊裓の相手を出来るのはとても光栄です。」

「俺もそんな武器使えるなんて光栄だ。」

 ヘレキコードは槍を回転させ、地面に柄頭を叩きつけた。

 隴は霊裓を持ち、構えた。

「あの構え、本気じゃない。」

 そこで勇麗がポツリと言葉を漏らす。

「本気じゃない?どういうことだ。」

「私と手合わせした時は別の構えだった。本気の手合わせの時の構えとも違う。」

 隴は力量に合わせて構え方を一つ一つ変えている。

 今の隴の構え方は左手を前に出し、伸ばす左肘裏に右肘を置き、左手の虎口に太刀を翳す構え方をしている。左足を少し後ろに引いている。

「あの構えは見たことない。けど、力量は低いと思う。」

 勇麗はそう解説する。

「そうなんですか?」

 勇麗の声が聞こえていたヘレキコードは隴に問いかける。それに隴は笑みを零す。

「これは四割の力を出す時の構えだ。」

 そう言って足を地面にすらした。

 それを合図にヘレキコードが隴に近づく。

 走り込んでくるヘレキコードに隴は動きもせず、じっと待っていた。

「やああ!」

 目と鼻の先になった途端、ヘレキコードは槍を振った。

 横に振られた槍に隴は太刀を逆手に持ち、刃先が下に向くようにした。

 槍はその霊裓にぶつかり、弾かれた。

「斬刀修羅一刀流。」

 体勢を崩していたヘレキコードは反応に遅れる。

「しまっーー」

 そう思った時には斬られていた。

殺蕾刹那さつらいせつな。」

 ヘレキコードの肩に切れ口が開き、血を垂らす。

「ぐっーー!」

 ヘレキコードは膝をついた。

 隴は霊裓に付着した少しの血を払い落とした。

「俺の勝ちだな。」

 セレネーと勇麗の戦いよりも早く終わった。

 たった一太刀で勝負が決まってしまった。

「……す、凄い。」

 勇麗は唖然として見ていた。

 他のみんなも勇麗と同じことを思っているものが多いだろう。

 そんな中でテルムが隴の元に走り、足の上に乗った。

「ミャ!(お疲れ!)」

「あ、あぁ。」

 戦いへの集中力が強すぎて一瞬聞こえなかった隴だったが、何とか聞き取ることが出来た。

「あんた、いつの間にそんなに強くなってたの?私その技見たことないんだけど。」

 勇麗がそう言うと、隴は答えた。

「あぁ、あの技は俺が今さっき作った技だ。」

「…作ったって、自己流!?」

 驚くフレアに隴は首を少し傾げた。

「自己流っ、て訳じゃないんだが、修羅道の技は基本的には自分で考えるものが多いぞ。元々ある技は十個と少ないからな。」

 その場の全員修羅道というものをあまり分かっていないため、技を考えるなんて到底やったことがない。

 その場の全員からすれば凄いことだ。

「…あ、あれ?でも、お父さんも自己流だったよね?」

 セレネーがデウスに言うと、隴とテルムとセレネー以外は全員デウスの方を見た。

「あぁ。俺の場合は流派を作ったからな。技も全て自作だ。」

『『『なんなんだこの二人…』』』

 ロクバとヘレキコードと勇麗は隴とデウスを照らし合わせていた。

 似ているところがあるとすれば想像力が凄いということ。

「隴、その霊裓はもうお前のものだ。名前をつけるといい。」

「名前?」

 隴の疑問にセレネーが回答する。

「武器は名前を付けることで強くなるのよ。効果が強くなったり、時には持ち主とコミュニケーションを取ることも出来るわ。」

「へぇー。うーん、そうだなぁ。」

 隴は名前を考え出す。

『日本語、はなんかしっくり来ないな。この世界だから、英語?いや、それも違う気がする。うーーーーん。』

 唸りながら考えていると、一つの答えを導き出した。

『そうだ!ラテン語だ!』

 厨二病にハマっていた頃、隴は良くラテン語を調べていたため、大体の単語は覚えていた。

『そうだな。太刀をラテン語、いや、強いか?いや、うーん。』

 またそこで悩む隴。

 全員が隴を見守っている状態だった。

 そして、隴は思いついたように顔を上げた。

「アドア・ステラ。」

 ラテン語で『星のように高いところへ』と言う意味を持つ。

 隴はこの名をつけた理由もあった。

『修羅道を進んでる俺だ。死ぬのも当たり前になるだろう。テルムとこいつで俺は死者道も踏み越えてみせる。』

 隴のその意気込みはどうやら霊裓に届き、隴の心を動かした。

 隴は胸を押さえつけ、少し息を荒れさせた。

「お、おい。大丈夫か?」

 デウスの問いかけに隴は頷いた。

「大丈夫だ。」

 きっと『霊裓アドア・ステラ』も隴を主に選んだのだろう。

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