第五話 悪戦苦闘;歩むは修羅道,逸れるは人道
✣ ✣ ✣
「えっと、次は服だったか?」
「そうね。」
隴の問いかけにロクバが回答を受け渡す。
「服ですか。僕はあまりそういうのには興味が無いですね。」
「そうなの?てっきりヘレキコードは外見にもこだわるタイプだと思ってた。」
フレアがそう言うと、ヘレキコードは顔を横に振った。
「僕は外見は特に気にはしませんよ。服とかも適当に決めてきてますし。」
ヘレキコードはそう言って両手を広げた。今の服は地味だと言いたいのだろうが、生憎ととても似合っている。
「適当にしては整い過ぎじゃない?」
「そうですか?」
自覚のないヘレキコード。隴の周りには変人が多いこと多いこと。
ロクバは計画性に優れているがたまにドジをふむ。ヘレキコードは自覚なしのイケイケ男子。フレアは喧嘩っパヤく、好奇心丸出し。セレネーに関しては言うまでもなく怖い。
オブラートに包んでも濃い人種という片付け方になる。
「と、とにかく、早いことに越したことはないし、行こ。」
結局的にロクバが先頭を切ることに。
隴達はその背中について行く。
ある意味″母親″のようだ。
「そう言えば、初めて私に会った時、変な服きてたけど、あれ何?」
服のことで思い出したのか、隴に問いかけるセレネー。痛いところを突かれたという顔で隴は冷や汗をかく。
「あ、あの服は、その〜、あれだ。」
「あれ?あれって、何?」
隴はいいことを思いついたというように両手で合掌。
「そうだ!あれは俺の父親の自作の服なんだ。」
「へぇ〜。隴のお父さんって服作れるんだ。」
「ま、まぁ、あれは試作品的な感じで試しに俺が着てたってだけだ。」
「ねぇ、そのお父さんに服作ってもらえないの?」
フレアにそう言われ、隴は少し体をビクつかせた。
「お、親父は今別の仕事で忙しいから、それは無理だと思う。」
何とか逃げようとする隴をフレアは全くもって離さない。
「どんな仕事?」
「え、えっとだな。」
『くっそ、この女っ!流石にこの世界にゲームクリエイターなんてないしなぁ。どうしたもんか。』
隴の父親は日本でゲームクリエイターをしている。今まで言葉を交わしたことは少なく、大抵は仕事場で寝泊まりをしている。
「確か、ギルド本部の受け付けだったか。」
「どこのギルド本部?」
「ここからかなり離れた場所じゃなかったかな。俺もあまり親父とは会ったことないし、よく分からないんだ。」
「そうなんだ。ふ〜ん。」
『よし!逃げ切れた!』
何とか離してもらえた隴は少しホッとした顔。
フレアやセレネーと言ったデウス達の子供は隴が異世界転生者だと言うことを話していない。念の為に混乱を引き起こす可能性が高いとデウスに言われ、隴は自重することに。
執拗いフレアから脱出し、隴達は店へ向かった。
「ここが確か有名どころだった気がするわ。」
「あくまで気がするか。」
隴がそう言うと、ロクバは頭を搔いた。
「俺も特にファッションにこだわる気は無いし、三人で服は決めてくればいいよ。」
隴がそう言うと、フレアが隴のことを睨みつけた。
「……なんだよ。」
「覗き見禁止よ。」
「誰がお前なんかの体に興味持つか。俺は紳士だ。特に興味はない。」
「うわ、酷〜い。紳士でも興味のある人は興味があります。」
そんなことを言いながら三人は店に入っていった。
隴とヘレキコードはそこら辺に腰掛けた。
「女性って大変ですね。」
「あいつらはあれぐらいが丁度いいんだよ。」
「ミヤ〜。(私も女〜。)」
確かにテルムも雌だった。
「そうだったな。ごめんごめん。」
「ニャウニャ〜。(主人は鈍感だよ〜。)」
テルムの言葉に隴は苦笑いを浮かべる。
「モンスターの言葉が分かるんですか?」
疑問に思ったヘレキコードが隴に聞いてきた。
「テルムの言葉は分かるんだ。」
「それは、如何してなんですか?」
「俺もよく分からない。テルムも良くは分かってない。」
「ミャウミャウ。(そうそう。)」
隴の返答に合わせるようにテルムが声を出す。
「隴は『覊禍』を使えないんですか?」
「なんだ、その覊禍ってのは。」
隴は覊禍を存在を知らない。アテナからもデウス達からもそんな名前は聞いたことがない。
「ここは僕が説明しましょう。覊禍というのは誰にでも備わっている力の一種です。でも、大半の人は引き出すことが出来ません。」
「どうやって引き出すんだ?」
「覊禍の力を引き出すにはそれ相応の条件が必要となります。」
『出たよ、面倒臭い条件とヤラが。』
今では聞き飽きたワードでもある。
「覊禍の力は長い時間の修行がいります。早い人では五ヶ月。長い人では丸十年はかかると言われています。」
『うわ、十年って、俺はその時に二十六ぐらいだな。』
「覊禍は六つの分類があります。一つ目が『覊蝕』です。自分のスタミナや体力を代償として武器を強化させるものです。覊蝕によって強化された武器は折れることがないと言われています。二つ目が『覊凝』です。これは自分で浮かべたイメージで武器を作成できます。三つ目が『覊惹』です。これはスタミナ関係無しに体を強化することができます。鉄までなら何とか防ぐことができます。四つ目が『覊繃』です。簡単に言ってしまえば気迫です。牽制程度の足止めとして使えます。五つ目が『覊薙禍柔』です。軽い力だけでも地盤を緩ませることが出来ます。この力を持っている人は指の力だけで武器を破壊するということも可能です。最後に『覊鏖』です。この力は一言で言ってしまえば破壊の力です。この覊鏖の力に関しては謎が多いとも言われています。未だ人間で習得しているものは居ません。もし、人間がその覊鏖の力を持てたとすれば、その人は魔神王の素質が芽生えています。」
長々とした説明だったが、ある程度は理解した隴。
「覊鏖の力を持っているのは人間以外にいるのか?」
「はい。そのうちで僕達の身近にいるのが魔神王です。」
デウスが覊鏖の力を持っているとは隴も知らなかった。
「因みに、どうやったら使えるようになるんだ?」
「色んな諸説ありますが、有力とされているのがひとつの修行です。」
「ひとつの修行?」
ヘレキコードは言葉を一度飲み込み、それから話を始めた。
「…先ず、自らの肉体に傷をつけます。」
「……は?」
そんな自爆行為は流石にないと思ったが、ヘレキコードの顔は何時になく真剣だった。
「その状態でモンスターを五十体以上倒す。全てAランク級のモンスターを。通し終えたら、傷を治さず、食事も抜きで一日にSランク級のモンスターを五体づつ倒していく。食事をして良いのは一週間に一回。魚以外は食してはならない。これが一番有力な説と言われています。」
『おいおい、流石に無茶苦茶すぎだろ。』
そう思うのも無理はないだろう。
これを試したものは最高神だけだと言われている。
「あ、今思い出しました。」
「なんだ?」
「過酷な過去を持っている人も力を引き出せるというのも有力情報だった気がします。」
有力と言えども、人間族は無理なだけかもしれない。
もしかすると人間族に合った修行法があるのかもしれない。
隴がそう考えた途端、大きな物音が響いた。
「な、なんだ!」
隴は慌てて周囲を見渡す。
店から煙が上がっていた。その店は、服が立ち並んでおり、見覚えしかない店だった。
「嘘だろ。」
先程セレネー達が入っていった店だ。大きな爆発だろうか、上側が少し崩れており、黒煙を上げている。
「ミャウ!(あれ!)」
咄嗟のテルムの声に隴はテルムを見た。
上部を指さしていた。隴はその方向を見上げた。
そこには数名が誰かを連れて去っている姿だった。
去られている人の顔ははっきりと見えた。隴は立ち上がる。テルムは隴の膝からおり、隴の顔を見上げた。
「ミャ、ニャン!(行こう、助けに!)」
「あぁ!ヘレキコード!ついてこい!助けに行くぞ!」
「え、どういう?」
「セレネー達が攫われた。」
「!?、それは本当ですか!?」
「あぁ、顔を確認した。向こうも俺達に気付いていた。」
「場所は分かるんですか!?」
「ニャニャ!(私に任せて!)」
テルムに隴は頷き、ヘレキコードに伝えた。
「テルムが教えてくれる。取り敢えず、テルムについて行くぞ。」
「分かりました!」
「ニャン!(こっち!)」
テルムの走る後を男二人は追いかける。
仲間の、女の為に。
✣ ✣ ✣
「これでOKだ。」
セレネー達は椅子に縄で結ばれていた。
「これはなんの真似よ!」
フレアがそう怒鳴りつけると、男は拳銃を取り出した。
「それ以上怒鳴るな。その脳天撃ち抜いて殺してやろうか。」
「……私達は人質でしょ?殺すなっていう命令が出てるはずよ。」
セレネーの言葉に男は拳銃を回した。
「あぁ、出てる。だが、少なくともお前ら二人は殺しても大丈夫だよな?」
男はセレネーに拳銃を向けた。
「…そこまで調べてるのね。」
フレアがそう言って体を少し動かした。
「動くな。」
「お尻が痛かっただけよ。体勢を整えるくらい良いでしょ。」
「ちっ、生意気な餓鬼だな。殺害命令が出たら真っ先に撃ち殺す。」
男は拳銃を腰に戻した。
「お前ら、ちゃんと見張っとけよ。」
「「了解。」」
そこには数名の男がいた。
手には武器を握っていた。
「はぁ、めんどくさい事に巻き込まれちゃったなぁ。」
脱出しようと思えば全員いつでも脱出は出来る。だが、脱出すれば真っ先にロクバが殺されるのは確実。脱出しようにも出来ないのだ。
セレネー達が縛られている場所は建物の中。意外と広い、廃棄になった場所だろう。昔まではここで仕事をしていたが、別の場所に移ったのだろう。
その時、奥の小さなドアが開いた。
「ミャ!(ここ!)」
ドアからやってきたのは二人の子供と一匹の猫だった。
「来たか。お前ら!戦闘準備は出来てるな!」
「「イエッサー!」」
返事の癖が強いが、そこにはあえて触れない方向で。
「さぁ、セレネー達を返してもらおうか。」
一人の少年が口を開いた。
「返して欲しけりゃ殺してでも奪え返すんだな。隴、ヘレキコード、テルム!」
男は少年二人と一匹の猫の名前を言った。
「そこまで知ってるってことは、学園の関係者か、その仲間ってところか。」
隴は男を睨みつける。
「お前ら!突撃!」
「「おおおおおおお!!!」」
人数は多い。ざっと数えただけでも二十人は軽い。
「テルム。」
「ニャッ!(分かったっ!)」
テルムは形状を変え、大剣の形へと姿を変えた。
「あの優しい店主さんから貰った武器をもう使うことになるなんて。」
ヘレキコードはそう言って魔槍アラドヴァルを構えた。
「はあっ!」
隴はわざと急所を外して攻撃する。
男達は腕や脚といった場所を切られ、地面に倒れ込む。
腕の場合は動脈付近の血脈。足の場合は膝を軽く切りつける。
「他愛もないな。」
隴とヘレキコードは二十人以上もの敵をバッタバッタと薙ぎ倒す。
「凄いわ。」
ロクバが見とれている。隴は最後の一人の腕を切り、テルムに付着した多少の血を払い落とす。
「で、これで終わりじゃないはずだ。そうだろ?そこの男。」
隴はそう言ってテルムを向けた。
「あぁ、その通りだ。」
二階に上がる階段手すりに腰掛ける男。右手には大剣を携え、いかにも強そうなオーラを放っている。
「さて、本番といこうじゃねぇか。」
男は立ち上がり、ゆっくりと隴の元に歩いていく。
「ヘレキコード、下がってろ。」
「…大丈夫なんですか?」
「まだ相手の力量が分からない以上、どうか分からない。」
ヘレキコードはそれ以上は何も言わず、後退した。
「お前一人で戦う気か?」
「死なない程度に頑張ってみるだけさ。きつくなったら助けを呼ぶ。」
「ガハハハハ!そうか、俺も、甘く見られたものだなぁ。じゃあ早速始めようぜ。」
男は大剣を両手で構えた。
隴はテルムを片手で持ち、特殊な構えを取った。
「そんな構えは見たことがねぇな。」
「過去の記憶ってやつだ。そこでこういう構えがあった。」
『ま、某魔法冒険譚で使ってた構えを取ってきただけなんだけど。』
直立に立ち、左手を後ろに回し、右手に剣を持って背筋と同じように上へ伸ばす。
「過去の記憶はよく分からんが、行くぞ!」
男は隴に突撃した。
決して弱いとは限らない相手。大剣を斜め上から振り下ろす。
隴はそれをテルムで綺麗に受け流し、突いた。
わざと急所を外し、肩から少しズレたところに攻撃をヒットさせた。
「っ、なかなかやるじゃねぇか。」
男は傷のことに一切触れず、また構えた。
今度は隴から仕掛けた。
走り込み、間合いを即座に詰める。これは相手にとっても隴に取っても利点が多い。
だが、機動力は隴のが圧倒的に優れている。
隴は近づき、相手が攻撃するタイミングを見計らって攻撃する手の方向に回避、こうすると、相手は必ず横腹が甘くなる。
隴はそこに切り込みを入れ、退避。
「すぅ、痛えじゃねぇかよ。」
男は隴を睨みつけるような目付きをしていた。
「これでも引いてくれないのか。なら、殺す気で行く。人殺しはしたくないんだが、致し方ない。」
デウスとの戦いで相手を傷つけることへの抵抗心が少し弱まってきた隴。
だが、今のところ誰一人として殺したことは無い。殺すに関しては少し抵抗がまだ芽生えている隴。
「多分、次でお前は決めてくる。ならば、そこで蹴りを付ける。これが、最後だ!」
男はそう言って大剣を強く握り締めた。
男の腕に一層の筋肉が増す。見た目は本物のゴリラのようだった。
「俺の今を、全力でお前にぶつけてやる!」
男は走り出し、隴に接近を仕掛ける。
「はああああ!」
男は大剣を斜め上から振り下ろした。隴は体を少し攻撃している側に倒し、テルムを身を守るように構えた。
男が振った大剣はテルムを滑り、地面にぶつかった。
地面にヒビが入り、音を立てて崩れた。
「避け、た。」
男が愕然としているところに隴は追い討ちとして顔を蹴り、体を後ろに倒させた。
まるでタンスが地面に倒れたのかと疑うぐらいの音が鳴り響き、男は地面に倒れた。
隴は男の両腕を踏み、剣を向けた。
「俺の勝ちだ。」
男はため息混じりに笑みを浮かべ、右手に握る大剣を落とした。
「俺の負けか。」
あっさり敗北を認めた男。最後の攻撃を受けられ、もう切り札は残っていないのだろう。
隴はそのことを承知で男の上から退いた。
男は立ち上がり、少し呆れた顔をした。
「こりゃあ、顔向け出来ねぇな。」
訳の分からないことだったが、隴は敢えて触れずにテルムを猫に戻した。
「これを指示した人に合わせてくれ。」
「それはーー」
そこで男は言葉を止めた。いや、止められたと言った方が正解だった。
「あら、ルベリオンじゃない。貴方も人質だったの?」
フレアがそう言う先には武器を持ったルベリオンがいた。
しかし、人質ならばセレネー達と同じように縛り付けられているはず。そこが隴の引っかかる場所だった。
そして、ルベリオンは武器を振った。
男の首を貫通する武器。
「なっ!?」
「約立たずはいらん。」
ルベリオンは男の首から剣を抜き、血を払った。
「……おい、なんの真似だ。」
「なんの真似って、約立たずだったから排除した。それだけの事だろ?」
隴は右手を拳に変えた。
「約立たずだから、排除した?巫山戯んなよ。」
「あぁ?何か言ったか?」
「このクズ野郎が!」
隴が殴りかかろうとした時、ルベリオンに止められた。
「おっと、動くな。それ以上動けばあの女がどうなるか、分かるよな?」
ルベリオンの指の先にはナイフを向けられたロクバが。
「ロクバ!」
「動くな!」
隴は動けなかった。女を人質に取ったのはこうするためだった。
「……愚道め。」
「なんとでも言え。」
「……どうしてこんなことをした。」
「どうしてだと?」
ルベリオンは剣で隴の腹を軽く切った。
隴の腹からは血が垂れる。
「お前が、お前がいけない!全て俺の思い通りに行くはずだった。なのに、お前らがこの学園に入って来たことで俺の計画は全て潰れた!」
隴は血の出る腹を抑えながら笑みを浮かべる。
「それぐらいで怒るなんて、器が狭いな。」
「それぐらい?お前からすればそうかもしれない。が、俺からすれば違う!」
ルベリオンは隴の腕を切りつけた。
「くっ、ははは。その怒り顔、お笑い草だぞ。」
隴は挑発し、わざと爆発させようとしている。もしかすると計画性が失われて一方的に襲いに来るかもしれない。その時は、隴の勝ちとなる。
「…その、その態度だ!まずその態度からだ!この名高き俺様に向けるその態度!」
ルベリオンは隴の肩を切り付ける。
「隴!」
「動くな。切るぞ。」
ロクバの首元にナイフを突きつける男が注意する。こればかりはセレネーも逆らえない。
「…お前みたいな愚者に向ける態度なんて、こんなもんで十分だ。」
その態度にまたルベリオンは怒り、隴を連続で切りつけた。
体からの血は止まらない。
「隴!私のことはいいから、そんなやつ倒して!」
「駄目だ!」
「ーーッ!?」
初めて隴にキツく言われたロクバは黙り込む。
「……はぁ、はぁ…男が、女を見捨てて戦うなど、愚行中の愚行。そんなことをするなら俺は自分から命を絶つ!」
隴の目は真剣で、それ以上反論が出来なくなる。
「臭いこと言うねぇクソ雑魚。その減らず口も気に入らない!」
ルベリオンは隴の顔を切りつけた。
隴の頬を切った武器。隴の頬からは血が垂れ流れる。
「もう、いい。」
「は、はは、はははは!遂に、遂に裏切りやがった!こんなクソはーー」
「ロクバ達は、お前を殺してでも返してもらう。」
その時、建物の半分が崩れ去った。
「遅れてすまんなぁ。」
大剣を片手に現れたのは、この世を手中に収める魔神王。デウスだった。
「遅すぎる。」
隴は仰向けに倒れ込んだ。
「ミャ!(主人!)」
テルムが隴に近寄り、必死に声を出す。
「大丈夫だ。少し、疲れただけだ。」
少し過呼吸になっている隴。それを心配そうにテルムが見守る。
「な、なんで、魔神王がこんな所に。」
「全部隴から聞いてある。セレネー達を誘拐したのもお前だって全てな。」
「いつから、いつからバレていたんだ。」
「最初からだ。」
隴は何とか体を起こし、立ち上がった。
「セレネー達を誘拐した時点で学園の関係者なのは分かった。そこで真っ先にお前が浮かんできた。実際、ヘルトからそこら辺の話は聞いていたから、何となくで分かったがな。」
ルベリオンは頭を抱え始めた。
「そんな、この俺が、全て、全て計画は上手くいっていた。そうだ、そうなんだ、そうだ!」
ルベリオンは武器を隴とデウスに向けた。
「こうなったら全員まとめて殺す!女を殺せ!」
「了解。」
男はナイフを大きく掲げた。
「いやああ!」
ロクバは目を瞑り、大声で叫んだ。
その声に答えたかのように男の姿が消えた。
何かの破裂音が鳴り、全員そちらを向いた。
そこではデウスが男の顔を左手で潰している姿があった。
「血に染まるのは男だけで十分だ。」
ルベリオンはデウスを睨みつけた。だが、それとは別の邪気を感じ、ルベリオンは隴の方向を見た。
「これで、思う存分出来るな。そうだろ?ルベリオン。」
隴の顔には光がなく、殺意のみの純粋な陰が顔を隠していた。
「お、俺を殺せばどうなるか、分かってるのか!」
「許可する。」
「…………へ?」
デウスの言葉にルベリオンがとぼけ言葉を吐く。
「聞こえなかったのか?お前の殺害を、許可すると言ったのだ。」
ルベリオンは頭を掻きむしり始めた。
「殺す、殺す殺す殺す殺す!」
ルベリオンは隴を睨みつけた。
「お前を殺す!」
隴はルベリオンを強く睨みつけた。
「死ぬのは、お前だ。」
隴は右手を開いた。
それに答えるようにテルムは姿を変えた。
いつもの西洋剣とは違い、日本刀の形を為した。
鞘がついており、それに刃が収まっている。
隴は鞘を左手に持ち、右手で柄を握った。
「ここまでしてくれたお前に殺意を持って、本気を出してやるよ。」
「あああああああ!」
ルベリオンは叫び狂いながら隴に突撃した。
隴は深呼吸をし、目を瞑った。
「人間逸れれぞ修羅の道。命落とすも修羅の道。歩まぬ事なき、修羅の道!」
隴は目を見開いた。
「修羅一刀流!」
ルベリオンと隴がすれ違った瞬間、金属のぶつかる音が生じた。
そして、少し離れた場所の地面に砕けた刃が突き刺さる。
「一刀羅刹。」
「ぶはっ!」
ルベリオンは首から血を吹き出し、地面に倒れた。
隴はテルムに付着した血を払い落とし、鞘に収めてから地面に置いた。
テルムは日本刀の形から猫の形に戻った。
「ニャン!(やったね!)」
「あぁ、そう、だな…」
隴はふらつき、地面に倒れ込んだ。
「「「隴!」」」
「あ、あははは。少し疲れたみたいだ。」
女性三人はホッとした顔でため息をついた。
「お疲れ様です。いや〜、隴が殺られてる時に出なくて正解でした。」
その部分だけ聞けば殺られているのを楽しんで見ていたようにしか聞こえない。
「やはり、修羅道を行っていたか。」
デウスが隴に近づき、そう言った。
「古来剣術を習っていてな。一度人間の道をそれてみようかと。」
「全く、大した男だ。」
デウスはため息をつき、顔を横に振った。
その後、隴は全員の縄を解き、傷の修復として回復薬を飲み、その日は解散となった。
ルベリオンの件についてはデウスが片付けると言って家を出ていった。
「助けてくれて、ありがと。」
「礼なんていいよ。俺はやるべき事をやった。ただそれだけの事だ。」
ロクバはその横顔に見とれていると、フレアが不敵な笑みを浮かべていた。
「もしかして脈アリ?」
「は!?ち、違うから!」
焦り用からして確実だろう。
だが、隴はかなりの鈍感男だった。
「脈アリ?何の話だ?」
「な、なんでもない!さ、早く帰ろ!」
話をズラされたフレアは少し不機嫌そうな顔。
それを横目で隴は少し笑みを浮かべた。