第四話 情意投合;相性武器
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金属同士が衝突する音。武器と武器が交差する戦い。
「これで!」
隴は武器化したテルムを振り回す。
その向かいにはデウス。デウスは武器を防ぐ。
「…く、早くなったなっ。」
デウスはテルムを受け流す。隴は何度も攻撃を行うが、防がれてしまう。
「一刀流。」
デウスは隴から距離を取り、また前のように武器を持ち、構えた。
構えの名前は『臥龍冴虎構え』。使用できるものはかなり少ないと言われている。
隴はデウスと同じ構えを取る。
『受け流して横腹に一発入れてやる。』
デウスが動くと同時に隴はテルムを斜め左下に振り下ろした。
金属が衝突した音なのか、武器が空気を切った音なのか、耳鳴りのような音が鳴る。
その音は長い間続く。
そして、なり止んだ時、デウスの横腹と、隴の腕に微かな亀裂が見えた。
「……高結無緋。」
隴はテルムを落とし、地面に仰向けに倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
息が切れている。疲れ用に汗をかいている。
「お疲れ。」
そう言ってデウスは隴の隣に回復薬を置いた。
テルムは猫に姿を戻し、隴の傷を舐めていた。
「ありがとう。」
隴はそう言って回復薬を手に取り、飲み干す。瓶のようなものに入った赤い液体。見た目はあれだが、効果は凄い。
隴の腕の傷は忽ち癒え、一切の痕跡を消去した。
「テルムもお疲れ。」
隴がそう言って、テルムの頭を撫でると、テルムは笑顔を見せた。
「ミャウ。(主人も。)」
隴は体を起こし、空を見上げた。
「ところで隴、お前、なんか約束事してるんじゃないのか?」
「え?どうして分かった?」
隴の純粋な問いかけにデウスは『あっちを見てみろ』と言わんばかりに顔を向ける。
隴はその方向を見た。そこにはセレネーが立っていた。
「セレネー。」
隴は立ち上がり、セレネーの方向へ進む。
デウスは軽くため息をついた。
「デアと待ち合わせした時を思い出すな。」
隴とセレネーの姿はまさに子供の頃のデウスとデアのようだ。
デウスは武器を地面に突き刺した。
「ガウゥゥゥ。(疲れてるようだな。)」
「多少なりとはな。お前も見ただろ。隴はただの人間じゃない。」
「グラァウ。(お前も言えんだろ。)」
「ふ。そうだな。」
モンスターと軽く談笑するデウス。
デウスは人間ではないが、魔神王としても異例の強さを持っている。
特に人のことを言える訳では無い。
とはいえ、隴の実力は確実に魔神族か天神族並。普通に考えてもおかしな話しだ。
「…もしかすると、魔神族の生まれ変わりなのかもな。」
デウスはその言葉の後、顔を横に振った。
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隴はセレネーについて行く。
待ち合わせ場所はギルド本部。現在の時刻は十一時になったところだ。
「もうみんな揃ってるのか?」
「うん。みんな待ってるよ。」
「ミャウ〜。(楽しみだね〜。)」
楽しみにしているテルム。隴はそれに笑顔で頷きかける。
「お似合いだね。」
「そうか?」
隴はテルムを抱き抱える。
「ミャウ〜。ニャー。(嬉しいね〜。お似合いだってー。)」
喜んだような表情のテルム。
「相方かぁ。(ボソッ」
「ん?何か言った?」
小さな声で何かを言ったセレネーに隴は問いかける。
「何も言ってないよ。」
セレネーは顔を横に振る。
隴は少し疑問を抱いた顔で首を傾げる。
セレネーは少し微笑んだ。テルムも隴と一緒に首を傾げた。
「あ!来た!おーい!」
その時、向かいから声が聞こえた。
こちらに手を振るロクバ。それを横目に隴達を見ているフレア。少し苦笑いをしているヘレキコード。
「遅れて済まないな。」
「仕方ないてすよ。稽古だったんですよね?」
「あぁ。」
「結果…っていうのもあれだけど、どうだった?」
「勝てなかったよ。」
「負けたんですか?」
「いや、相打ちだった。」
人間にしては上の上出来。
「ていうか、一時間ぶっ通しだったの?」
フレアの問いかけに隴は頷く。
もう慣れたのか、ロクバとヘレキコードは苦笑いを交わし合う。
「で、何処に行くんだ?」
隴が問いかけると、計画を立てたというロクバが口を開いた。
「もうお昼だし、まずはご飯食べよ。」
誰も反論せず、満場一致で賛成。
「決まりましたね。では、何処に食べに行きましょうか。」
ヘレキコードがそう言うと、自慢するようにロクバが鼻を鳴らした。
「どうしたの?」
「実は、ちゃんと食事する場所も決めてあったのです!」
物凄く自信満々に言うロクバ。
大体は普通なのだ。提案した者が確りと計画性を持つことが一番重要になる。
「よし。それじゃあそこに向かおう。ロクバ、場所案内宜しく。」
「へ?え、えっと、うん。」
もう少し良い反応を期待していたロクバは少し戸惑ったように返答する。
それをフレアが少し笑った。
その場所はここから少し離れた所にある。
そこに着いた隴達の鼻には自然と良い匂いが漂ってきた。
「さ、入ろ。」
ロクバに連れられるがままのように店に入った。
店はかなり繁盛していて、席の空きが確認出来ない状態だった。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「五名と一匹です。」
店員の問いかけにロクバが確りと返答する。
「了解しました。そちらの猫様の椅子は入りますか?」
親切な店員に隴は手を横に振った。
「いや、無しで大丈夫だ。」
「了解しました。では、こちらへ。」
店員の案内に従い、ついて行く隴達。意外と奥の方に進み、五人机に案内された。
「こちらにお腰をお掛けください。」
隴達は椅子に腰を掛ける。
「注文がお決まりになりましたらそちらの呼び鈴を押してください。」
店員は最後に一言そう言ってその場を離れた。
「日本と似てるなぁ。」
「え?日本って、何処?」
思わず口を滑らした隴。転生のことは誰にも言わないという約束事だった。だから隴は首を軽く横に振った。
「いや、なんでもない。それより、注文決めるか。」
誤魔化すように品書きに手を伸ばした。
「あ、うん。そ、そうだね。」
戸惑ったロクバは隴に流されるようにそう言った。
「少し思ったのですが、テルムは何故そんなに隴にベタ惚れ何ですか?」
それを聞かれた瞬間、隴は凍りついた。
『戎具なる猫』に懐かれる条件は全てで三つ。人に優しい、人の命を救った、一度死んだ。この三つの条件を満たしていなければ懐かれることは無い。
「……そこは、気にしない方向で。」
そう言うと、ヘレキコードは納得のいっていない顔で頷いた。
「取り敢えず、全員注文決めたか?」
「私まだ〜。」
そう言ってフレアは品書きに手を伸ばし、ものを見た。
全員注文するものを決め、呼び鈴を鳴らして店員を呼んだ。
店員が駆け付け、隴が注文を言った。
その後、全員で食事を済ませ、店を出てこの後の予定について話した。
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「で、この後だけど、みんなで買い物しない?」
そう言うロクバに隴は手を顎に当てた。
「買い物か。服とかか?」
「うん。まぁ、それもあるけど、武器も見に行きたいんだよね。」
「武器?」
全員入学試験で武器は持ち込みになっていた。必ずと言っていい必需品が無いなんてことは、ロクバには無いはずだ。
「実はね、入学試験に持って行った武器は私の専用武器じゃないのよ。」
「と、言うと?」
「親の武器を借りて入学試験に出たんだ。」
試験条件に『自分の専用武器を』とは書いてはなかったが、流石に持っていないというものはなかなかいない。
「親の武器って言うと、神器とかか?」
デウスに教えられた武器種を脳で記憶していた隴は神器の名前が即座に浮かんだ。
「いや、親が使ってる武器は神器じゃなくて妖刀なんだ。」
「え、妖刀?」
その用語を聞いてセレネーが少し驚いた表情で見ていた。
それも無理はない。妖刀は主の体を蝕むのが一般的。
人間が持つのは認められたものだけと言われている。
「私は妖刀を触ったことがなかったから二ヶ月間妖刀で訓練してた。でも、思いのほか体力の消耗が激しくて。武器を自分で選ぼうと思ったの。」
成程と言うように隴は頷いた。妖刀の扱いに長けているものは体力馬鹿と相場が決まっている。
「ま、とにかく武器を見に行くなら早い方がいいだろう。服とかの部類を先に買うのか?武器を先に買うのか?」
隴が問うと、ロクバは直ぐに口を開いた。
「武器を先に買いに行くわ。」
全員反論なしで決まりとなった。
隴、セレネー、フレアの場合は自分の武器(隴の場合は猫)が決まっているので武器選びはなし。
ヘレキコードは今の武器は自分に合っていないらしく、新たに探すという。
「この街なら、いい鍛冶屋がある。」
武器が何処で売っているのか分からなくて、一人の男性に聞くと、親切に教えてくれた。
「それは何処ですか?」
ヘレキコードが聞くと、男性は指を指した。
「あそこの路地を曲がってみろ。多分店の看板が上に吊るされてある。」
「ありがとよ兄弟。」
「気にすんなよ兄弟。同じ街の仲間だ。」
隴と男性は腕を組み合い、意気投合して感謝を述べる。
言われた通りの道に向かう。
「それにしても、よくあんなこと出来るわねあんた。」
フレアにそう言われ、隴は頭を搔いた。
「なんか出来た。」
そう言う隴にフレアはため息をついた。
「あんたってとことん馬鹿ね。」
「なんだと?もっかい言ってみろ!」
「えぇ、何度でも言ってあげるわこの馬鹿!」
「何を〜!?なんなら今ここでお前と決着つけてやっても良いんだぞ!」
「上等よその鼻っ柱切り落としてあげるわ!」
その争いを止めるようにセレネーが地面に足を叩きつけた。
「二人共、やめなさい。」
「「でも此奴が!」」
「や め な さ い っ て 言 っ た わ よ ね ?」
「「……すいませんでした。」」
セレネーの気迫に負けて隴とフレアはセレネーに頭を下げた。
ロクバは苦笑い。ヘレキコードは慣れたのか呆れたのか、ため息をついた。
「と、とにかく、早く行こ。」
勢いを断ち切るようにロクバが口を挟んだ。隴もフレアもこの場はロクバに任せることにした。
人通りが多い道から一気に人通りが少ない道に入った隴達一行。
薄気味悪いが、確かにそこには店があった。
「なんか怖いわね。」
今のフレアの言葉には隴も同意した。
その場は隴が先頭を切り、店のドアを開いた。
「こんなところに来るなんて、お前さん達は物好きなのかい?」
ドアを開いた途端、そう声が聞こえた。
よく見ると、店主がこちらも向かずに何かを整えていた。
ドアの部分にはベルがついており、この音が鳴ることで店への来客がわかる仕組みになっている。
「ここが一番いいって言ってたんでね。」
隴が言うと、店主がこちらを向いた。
「へぇ、そんなことを。嬉しいねぇ。で、武器作成かい?武器購入かい?」
その店主はそう言うと、ロクバが口を開いた。
「武器作成って、武器を作ってくれるんですか?」
一応の敬語。店員は薄ら笑いを浮かべる。
「ワシは元々武器作成専門でね。ここは武器作りと販売の両方をやってる。」
そう言って店主はひとつの武器を取り出した。
「武器購入なら、この武器はどうだ?君には相性がいいはずだ。」
店主は取り出した武器をロクバに渡した。
刀身が確りしている刀。鞘にも軽い装飾が施されている。持たなければわからない柄のフィット感と重量感。
「あの、これは?」
「名刀一文字のひとつ。零刹空だ。」
名刀一文字の中でも実力者が持つと言われている神刀。
「そんな高価なもの私にはとても、」
「なら、一度振ってみるといい。少しついてきなさい。」
店主に連れられて隴達は場所を移動した。
「ここは?」
広い空間に移動した隴達。練習スタジオだろうか、入学試験で見た的が置かれていた。
「ここは特別に設置した練習場だ。武器を購入した者はここで試し使いが出来る。」
そう言って店主はロクバの背を押した。
「その名刀であの的を切ってご覧?」
「でも、私この名刀をまだ買ってないし、それにあの的ってチグリクト鉱石で出来た的ですよね?」
「そうだな。ってことは入学試験に出たのか。その時に使ってた武器、妖刀かい?」
完全なる的中にその場の全員が息を飲み込んだ。
「ーーどうして分かったんですか?」
「君の背中を押した時、軽い身震いを感じた。これは妖刀からなる疲労だ。武器を作るものとしてそれくらいのことは熟知してるよ。」
店主は笑い、もう一度ロクバの背を押した。
「さ、切ってご覧。今の君なら切れるはずだよ。」
そう言われ、ロクバは自信を付けた。
名刀零刹空を握り、的に向かって振った。
「はああ!」
物が切れる音がなり、的が上下で分かれた。
「ほら、切れただろ?」
「凄い。」
自分のことだが、ロクバは驚いていた。
「君は多分Rクラスに入ったんだろ?的にヒビをつけた。」
またも的中させる店主に慣れた全員は少し苦笑いをした。
「誰でもこんな的本来ならば切れるんだ。でも、武器との相性が悪ければ切れない。武器が弾かれたり、折れたりした人は武器との相性が最悪なんだ。切れなかった者は相性が良いとはいえない。的にヒビが入る程度なら武器の性能が高い。切れたなら武器との相性が抜群。こうやって武器との相性で全てが決まる。そこの三人は的を切れたはずだ。」
店主は隴とセレネーとフレアを見てそう言った。尽く的中させる店主に隴達は少し疑問を抱いていた。
「でも、そこの少年は、まだ武器の本質を見極めていない。」
「ーーッ!?」
隴もそのことは自覚していた。だが、そこを指摘してくる辺りやはりこの店主は只者では無い。
「とにかく、武器選びは重要だよ。」
店主は新しい的を出しながらそう言う。
隴はテルムを見た。
見た目はただの猫。でも化けると武器になる。
どう本質を見極めれば良いのか検討もつかない。
「因みに、他に武器を要求してる人は?」
そこでヘレキコードが手を挙げた。
「少しここで待っていてくれないかな。君に合う武器があった気がするんだ。」
そう言って店主はその場を少し離れた。
そこでセレネーが口を開いた。
「なんか、どこかであった気がする。」
その言葉には誤魔化しや嘘はなく、純粋な思いだった。
「あの店主、一体何者なんだ。」
隴がそう呟くと、他のものと頷いたりしていた。やはりみんなもそこは気になるようだ。
「……待たせたね。」
そこに店主が戻ってきた。
店主の手には一本の槍が乗っていた。
「あの、その槍は?」
「魔槍アラドヴァルだ。君には魔槍への相性値が高い。」
「魔槍。…どうして分かるんですか?」
ヘレキコードがそう聞くと、店主は一言こう言った。
「オーラだよ。」
「……オーラ。」
よく分からないが、取り敢えず口に出すヘレキコード。
「君が店に入ってきた時、この武器のオーラと君のオーラが互いに近づきあっていたのを見て思い出したんだ。」
店主はヘレキコードに魔槍アラドヴァルを渡した。
でも、ヘレキコードは気になったことがひとつあった。
「魔槍って高いんですか?」
その言葉にロクバも反応した。名刀零刹空は一文字の中でもかなりの物。純金貨を相当な数要求されてもおかしくはない代物。
「ワシの場合は金目当てで売ってるわけじゃない。その人が本当に大切に、そして本当に欲しているのならそれだけでワシは
嬉しい。だから、今回はお金を払わなくてもいいよ。」
親切すぎる店主にロクバとヘレキコードは深々と頭を下げた。
「「ありがとうございます!」」
武器相性のこと、武器選びのアドバイス、良い武器を貰ったこと、そしてその武器を無料でくれたということに感謝で頭がいっぱいになるロクバとヘレキコード。
店主は頭を搔きながら苦笑いをする。
「感謝なんて、ワシには勿体ないなぁ。」
ロクバとヘレキコードは頭を上げて笑顔を見せた。
「ワシはその笑顔だけで十分だよ。」
そう言って店主は人差し指で鼻下を擦った。
「あの、ひとつ聞きたいことが。」
そこでセレネーが口を開いた。
「なんだい?」
セレネーは一度深呼吸をしてから聞いた。
「私と貴方って、どこかであったことが?」
「……いや、あったことは無いよ。」
最初に間を置いた店主。
その事に何も疑問を抱かず、セレネーは少し頭を下げた。
「変なことを聞いてすいません。」
「大丈夫だよ。きっとその人と顔が似てるだけだから。」
親切と言うよりもとても優しい店主は笑顔でそう返す。
隴達は武器選びを終わらせ、店を出た。
「ありがとうございました。」
ロクバが最後にそう残して外に出た。
店主はドアが閉まるまで手を振り続けた。
ドアが閉まるのを確認し、手を振るのをやめる店主。
そして、カウンターに肘を置いた。
「ま、少しは覚えててくれたってことかな。セレネーは。」
店主は少し微笑み、体を起こした。
「よし。二つ商品置きに空欄が出来たことだし、武器でも作るかな。」
そう言って店主は鉱石を取り出し、武器作りの準備をしていると、ドアが開いた。
「いらっしゃい。武器購入かい?それとも……」
店主はドアの方向を見て言葉を止めた。
「久しぶりだな。」
ドアの方で店主にそう声をかけて手を上げる男性。
「…ワシを呼ばずにこの薄汚い場所に来たってことは、武器作りか?魔神王様。」
店に入ってきたのはデウスだった。
「その呼び方はやめてくれよ。」
デウスがそう言って手をポケットに入れた。
「娘さんはどうだ?」
「…さっきここに来たのに聞くか?」
デウスはその事も分かっていて店に立ち寄ったらしい。
「…随分と成長したな。それと、隴って少年にかなり懐いてる。」
「やはり分かるか。」
デウスも勘づいてはいた。
「お前さんのことは大体憤怒の兄ちゃんから聞いてるよ。」
店主はそう言ってデウスの目を見た。
「魔神王としての仕事より、親と先生の仕事の方が大変なんじゃないのか?」
「まさにその通りだ。」
店主に図星を突かれるデウス。
いつも通りのような反応のデウスに店主はため息をついた。
「で、要求は?」
店主に聞かれて本題を思い出したデウス。
「…霊裓は作れるか?」
その言葉に店主は頭を搔く。
そして、デウスに言葉を発した。
「なら素材を取ってきてくれ。」
その言葉だけを聞けば作れると言っているようなものだ。
「素材か。別にいいが、何を?」
「……終焉龍フィーニスの素材だ。」
デウスはその言葉にため息混じりに頭を搔いた。
「終焉龍か。時間かかるな。どの部位の素材だ?」
「角と尻尾、それと終焉牙の三つを三体分取ってきてくれ。」
「三体分か。金は?」
「純金貨十枚だ。」
「…因みに、成功率は?」
デウスの言葉に店主は一瞬不安な顔を浮かべた。
「五分五分ってところだ。失敗のリスクの方が高いが、それでもやるのか?」
「お前の腕なら作れるだろ。」
そう言ってデウスは背の武器の鞘から抜ける動きを確認した。
「…終焉龍の角、尻尾、終焉牙で良いんだな?」
「それでいい。」
デウスは店の出口に向かった。ドアを開けようとした時、動きを止めた。
「一言言っておく。…セレネーに付く嘘は精々五個程度にしとけよ。」
デウスはそう言って店を出た。
ドアが閉まったのを確かめ、店主はため息をついた。
「余計なお世話だよ。バーサーカー。」
店主はそう言って、先程までしようしていた武器作りを再開した。