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FaTuS;転生譚  作者: 元気ハツラツマン
一章 学園へ
1/47

第一話 剛胆無比;異世界転生

✣ ✣ ✣


 夜にはまだ程遠い夕暮れ。

 鳥はわめき、夕日はサヨナラを告げる。

 車通りも多い大通り。歩道には親から子供まで色んな人が歩いている。

「早く来いよ!」

 一人の男子がはしゃぎ、暴れ回っている。

「ちょっと男子〜?はしゃぎ過ぎると死ぬわよ!」

 一人の女子が男子に向かって注意をうながす。周りにいる人達はみんな笑っていた。

「死なねぇよ!それより、楽しく遊ぼうぜ!」

 男子は勢いを止めることなく、周りの人に迷惑をかけながら歩く。

「おい、迷惑かかってんだろ。少しは落ち着け。」

 もう一人の男子が注意すると、男子は少しねたように下を向いた。

「は〜い。」

 そんな男子に全員がまた笑った。

「とにかく、遊び足りないんだったらナクドにでも寄るか?」

 注意を促した男子の提案に女子が手を挙げた。

「それめっちゃ賛成!学校では引き気味なのにこの場になると頭が切れるあんたって最高!」

 手を挙げた女子の言葉に他の女子が少し笑った表情を見せた。

「それって、もしかして告白?」

 それに釣られて他の人達も口を揃える。

 手を挙げた女子は顔を紅くさせ、手を大きく横に振った。

「違うって!これは、いい提案をすることに最高って言っただけで!」

 そんな女子に追い討ちを掛けるように周りの女子が口を揃える。

「「「でもさっき()()()って言ってたよね?」」」

 その言葉に女子は図星を突かれたように耳まで紅くした。

「うっ。そ、それはーー」

 その時だった。

 車の急ブレーキの音が鳴り響き、叫び声が聞こえてきた。

「危ないっ!!」

 その言葉に全員が道路を見た。

 こちらに向かってくる車。そのスピードはかなりのもので、ブレーキを掛けているにしてはかなりのものだった。

勇麗ゆりちゃん!」

 先程まで耳まで紅くしていた女子の名前を大声で呼ぶ女子の声。

 みんなよりも少し前に出ていた勇麗という女子。咄嗟とっさのことで、突撃してくる車に反応出来なかった。

「っ!」

 そこに先程良い提案をした男子が勇麗という女子を突き飛ばし、車への追突を人為じんい的に防いだ。

 だが、にぶい音がなり、電柱に車のぶつかる音。突き飛ばされて地面に尻餅をついた勇麗は前を向いた。

「ちょっ、と、……」

 勇麗は言葉を失った。勇麗の頬に付着した真赤な血液。

 それは他の誰でもない、勇麗をかばった男子のものだった。

「ちょっと!救急車!」

 誰かがそう言って、その場は緊迫した状態に。男子は車と電柱の間に挟まった状態になっていた。

 口から伝い、顎へと流れる血。潰された場所は完全に裂けており、下半身が地面に落ちている。

「ーーあ、んた、どう、して…」

 勇麗は腰を抜かした状態で男子に声をかけた。

 男子は頑張って顔を上げ、勇麗の方向を見た。

「……無事、か。」

 声が枯れたように出にくい。息が抜けるような感覚が男子の唇を震わせる。

「……なんで、なんで庇ったの!」

 こんな状態にも関わらず、勇麗は男子にキレる。

「……男が、女を、、目の前に、居る、女を、庇えなく、て、どう、すんだ、よ…」

 目の光を徐々に小さくしていく男子。勇麗は涙を浮かべながら地面を叩いた。

「あんたなんかに、あんたなんかに、庇って欲しくなんて、無かった。」

 涙の勢いは増すばかり。そこに一台の救急車とパトカーが駆け付けた。

「どういう状態だ!」

 警察官が駆け付けた。しかし、その地獄絵図に言葉を一瞬失った。

 そこへ救急車から降りてきた救急救命士が男子に近づいた。

「……上半身と下半身が引き離れてる。内臓までもが抜けてる。」

 言葉を失う感じで言葉の語尾を小さくしていく救急救命士。

 警察官は察し、勇麗の体を支え、男子の近くに持って行った。

「立てますか?」

 その言葉に勇麗は頷き、警察官から離れた。

 救急救命士は勇麗の方を見るやいなや、立ち上がり、こう告げた。

「気の毒ですが、この男性は無理です。」

 救急救命士の言葉に勇麗は目付きを強め、救急救命士の胸倉むなぐらを掴んだ。

「どうにか、どうにかならないんですか!」

 前後に揺らし、救急救命士に尋問のように問いかける。

 救急救命士は胸倉を掴む勇麗の腕を掴み、顔を横に振った。

「これ以上何をやっても無駄です。」

 男子の目はほぼ閉じかけていた。本の数センチの隙間から世界を見渡していた。

 救急救命士は勇麗の肩に手を置いた。

「人間が最後まで残る機能は耳。つまり聴覚です。何か残したい言葉があれば、今のうちにお告げください。彼の命はもう持ちません。」

 深刻な言葉だった。重たく、そして突如としてやって来たこの状況。

 こうなることなんて誰も予想していなかった。

 勇麗は涙を流しながら男子の近くに向かった。

 男子は薄く笑いかけた。

「……助けてくれて、ありがとう。愛してたよ。ずっと…」

 男子の目は完全に閉じられた。視覚、触覚、嗅覚、味覚、そして聴覚の機能も停止した。

 救急救命士は男子の首元に手を当てた。

「…午後五時二十八分四十六秒。」

 救急救命士は腕時計を見てからそう言った。きっと男子の死亡時刻を正確に測っていたのだろう。

 勇麗は地面に崩れるように座り込んだ。

「…彼は、きっと良いことをしたのでしょう。」

 そう言って警察官は勇麗の肩に手を置いた。

 そして、真っ直ぐ男子の方を指さした。

「見て下さい。あんなにも幸せそうな顔で眠っています。貴女が無事で良かったのでしょう。」

 警察官の親切な言葉に、勇麗は涙を強く流した。

「……ああああ、あぁ、あ、ああああ!」

 泣き崩れた勇麗の背中を警察官はさする。

「他に怪我人が居ないか調べてきます。警察官の方は車の中の人に呼びかけをお願いします。」

 救急救命士の言葉に警察官は立ち上がった。

「分かりました。君、ここは危ないから離れて。」

 警察官は勇麗に肩を貸し、少し離れた場所まで連れていった。

 そこに座り込ませ、警察官はすぐ様事故現場へと走って行った。

 何も声が出なかった。

 勇麗も、その他の誰もが声を、言葉を出さなかった。

 これ程までにみにくく、残酷ざんこくな事故があるのか、と。

 その場にいる全ての人がそう思った。

 その日の夜男子の葬式が開かれた。

 その場には学校の先生や、その場で男子が死んだのを見た人達の両親達も揃っていた。

 男子の夫婦は涙を流しながら写真を見ていた。

「気の毒にな。まだ若いのに。」

 何処からともなくその声が聞こえてくる。

 まだ学生だったのだ。まだ成人にもなっていない若い少年だった。

 勇麗の両親は男子の両親に近づき、一礼した。

「あなた方達のお子さんが、勇麗を救ってくれたことに、感謝申し上げます。」

 勇麗の両親と男子の両親はその後、談話をすることになった。

 勇麗の心には罪悪感が芽生えていた。

 あの場で自分が動けていたら、男子は死ななかったのではないか。

 そう考える自分に少しの憎しみと罪悪感。

 死んだ男子。

 まだ若い十五歳。名前は『蔵峰くらみね りゅう』。


✣ ✣ ✣


 明るい世界。何も見えそうにない光の中で、男子、隴は一人座り込んでいた。

「ここは。」

「あ、気が付いた?」

 少しながら混乱している隴の顔をのぞく女性。容姿端麗な顔立ちと、スラリとした体付き。少し露出が多い服に、綺麗な肌色のロングヘア。

 その女性は隴の前に立った。

「初めまして。私の名前はアテナ・ローギレイン。地球を統べる天使よ。」

 アテナの言葉でもっと状況把握が追いつかなくなった隴は手を頭に当て、唸っていた。

「と、取り敢えず、貴方は日本で死んだ。そこは覚えてる?」

「は、はい。覚えています。」

 先の状況を覚えているかと問いかけられ、隴は混乱混じりの返事を返す。

「覚えているなら良かった。取り敢えず、貴方は死んだ。」

 何度もそう言われて隴は少し悲しくなったのか、下を軽く向いた。

「死んだ者は私の手によって異世界に復活させれるわ。」

 アテナの言葉に隴は一瞬体をビクつかせ、妖艶なる女性の顔を見た。

「……異世界に、復活?」

「えぇ。そうよ。日本で言うなら、″幻想世界″って言う場所ね。」

 そんな夢見な話は聞かなければ損だと隴は思った。

「それに、少し手違いだったのよ。」

「へ?手違い?」

 少し聞き捨てならない言葉が聞こえた。

隴はアテナに聞いた。すると、アテナは頷き、口を開いた。

「えぇ。本来であれば閻魔えんまさんに言われていた『阿藤あとう 勇麗』って子をこっちの世界に呼ばなきゃいけなかったんだけど、貴方が庇っちゃったから。」

 大体話の内容を把握した隴は二度頷いた。

「それで、この件はどうしようかって話をしたら、そちらの方で対処してくれって言われちゃって。だから貴方を異世界へ送るの。これで少しは分かった?」

 アテナの言葉に隴は頷きを返した。

「じゃ、本題に入るわね。貴方はまだ若いから、転生って言っても転移みたいなものにしようと思うの。」

 アテナの言葉に隴は首を傾け、問いかけた。

「転移みたいな転生?」

「えぇ。貴方の世界にある本にもそういう系統のがあるはずよ。」

「え?あ、はい。」

 随分に地球を熟知している。

 隴は顎に手を当てた。

「では、僕はこのままの状態で向こう側へ行く、と?」

「不満?」

「い、いえ。復活出来るんですし、不満ではありませんよ。」

「そう、それは良かった。」

 少し不機嫌に聞いてきたアテナに隴は慌てて手を横に振った。

 その隴にアテナは小笑いし、安堵の表情を浮かべた。

「取り敢えず、今から異世界の説明をさせてもらうわ。」

「分かりました。」

 そう言ってアテナは紙などを出し、一つ一つ綺麗に並べた。

「じゃ、始めるわね。最初に、貴方が転生する異世界の名前は『ガガドラ』。世界の規模は大体地球の十倍程度はあるわ。」

「じゅ、十倍、ですか。」

「その世界には都市の代わりに街があるわ。街と街の距離は意外と遠い時がある。壁で覆われているから、門からじゃないと中には入れないわ。」

「進撃の〇人みたいですね。」

「それはちょっとよく分からないけど、その『ガガドラ』には種族が存在するわ。先ず、人間族、ルビ読みで″ローグロープ″。次に鬼神族、ルビ読みで″ダエモニウム″。次に獣人族、ルビ読みで″ライカンスロープ″。次に妖精族、ルビ読みで″エルフ″よ。次が亜人族、ルビ読みで″エイヒート″。次が翔天族、ルビ読みで″プテンレルス″。これが主に地上にいる種族だと思っていて。」

 この時点で六種族という数。

 覚えるのにも一苦労だろう。

 そこで隴はあることに気づき、アテナに問いかける。

()()()()()()()()()ってことは、地上に居ない種族もいるんですか?」

「えぇ。それが、天神族と魔神族。天神族はルビ読みで″ディーイルンガチェレスタ″。魔神族の方のルビ読みは″ディアヴォル″。この二種族は世界を統べる神みたいな存在だから、地上で見かけることは滅多いないわ。」

『そんな珍しい種族がいるんだな。』

 隴はそんなことを思いながら頷いていた。

「貴方は人間族ローグロープよ。」

 隴は人間として復活するようだ。

「あと、この世界にはモンスターが居るわ。」

「モンスター?」

「誰これ構わず襲い掛かる脅威な存在として狩猟の依頼なんかも出るらしいわ。勿論、報酬もある。」

 そこで隴は一つ気になり、アテナに問いかけた。

「向こうのお金はどう言ったものなんですか?」

「向こうのお金は地球で言うところの紙幣はないの。全て『硬貨』での支払いになるわね。」

 千円札や五千円札と言った紙幣はなく、百円や五百円と言ったコインである硬貨が流通されているようだ。

「種類は銅貨、銀貨、純銀貨、金貨、純金貨の五種類よ。」

「その、純銀貨と純金貨はなんですか?」

「純銀貨は銀貨の中でもとても希少なもの。純金貨も同様よ。銀貨はそこまで高価なものってものじゃないの。集めようとすればすぐに集まるし、流通量が一番多いわ。その銀貨を五百枚で純銀貨一枚と交換出来るわ。それに比べて金貨は価値が高い。手に入れるのにもかなりの苦労を要するわ。だから、純金貨の場合は金貨百枚程度で交換出来る。」

 説明されても少しという顔をしている隴。

 アテナは人差し指を立てた。

「硬貨については向こうで知った方が早いわ。じゃあ、次に『スキル』について話すね?」

 厨二病心をくすぐるその言葉は隴を更に難関のどん底へと落とす。

「スキルは大きくわけて二つあるわ。一つが通常スキル。誰でも取得できる簡単なスキルなどね。」

 隴は先程と同様にアテナに問いかけた。

「誰でも取得出来るっていうことは、誰でも取得出来にくいスキルもあるんじゃないですか?」

「頭が切れるわね。そう。それが『特殊スキル』。その名の通り、通常のスキルとは異なり、少し特殊なスキルなの。この特殊スキルは誰でもが取得出来るスキルじゃないの。言ってしまえばその人だけが手に入れれる便利なスキルね。因みに、その特殊スキルを持っている人が死ねば、自動的にその特殊スキルは次に生まれてくる人に渡り継がれる。特殊スキルが消えることは一生無いの。ここまでは大丈夫?」

 スキルのお陰で少し追いつけた隴。アテナはその事を再度確認し、話を続けた。

「特殊スキルには意識発動と無意識発動に二種類があるわ。意識発動の場合、所持者が祈るか、言葉にその特殊スキル名を出せば、使えるようになるわ。無意識発動の場合、何時いつ発動するか分からないものと、常に発動されているものの二パターンがあるわ。大体は意識発動が多いわね。」

 スキルにも色々あるのだと隴は思っていた。

「じゃ、最後はジョブについて話すわ。」

 言ってしまえば仕事だが、今から隴が向かうのは異世界。仕事という意味ではないだろう。

「その者が使用する武器などに応じて出てくるもの。言ってしまえば個性のようなものね。ジョブは主に十二種類。剣士、槍使い、魔法使い、弓使い、魔女、格闘、生物使い。取り敢えず、この七種類は覚えておいた方がいいわね。で、少し変わったのが、魔導剣士、指示者、魔人、銃使い、契約者の五種類。この五種類はユニークジョブとも言われるわ。一つ一つ説明はいる?」

 アテナに言われて、隴は手を挙げた。

「魔法使いと魔女、魔人の違いってなんですか?」

「そうね。魔法使いは杖を使って魔法を発動させる。魔女は武器の使用が基本的に出来ないの。魔女専用の武器もあるけど、大抵は武器無しで魔法を発動させる。魔人は、全ての魔法を知り尽くした人だけがなれる特殊な魔法使いだと思って。」

 その解説を聞いて、軽く頷く隴。だが、気がかりなことが頭に浮かび、また手を挙げた。

「先程、主にと申しましたか?」

 アテナはそう問いただす隴に頷いた。

「えぇ。言ったわ。そう、この十二種類はあくまで主なジョブ。他に三種類、特殊なジョブがあるわ。一つ目が阿修羅あしゅら。修羅道を歩む者がなれる特殊なジョブよ。武器の力を解放して、三面顔の鬼神の力を得られる。二つ目が魔物使い。生物使いは小さな小竜などしか手なずけられないけど、魔物使いは凶暴な龍も手なずけられるの。三つ目がアサシン。最速で時速百キロ出すことが出来るわ。武器は小刀などの二刀流だけど、速さで敵を翻弄ほんろう出来るのが特徴ね。この三つは最近発見されたジョブなの。だからこのジョブを使っている人は滅多に居ないわ。」

 最近とは言っても、何時見つけられたジョブなのかはよく分からないようだ。

「その中から今決めるんですか?」

「それは貴方に任せるわ。今決めても良いし、向こう側に行ってからにでも決めるわ。でも、剣士や阿修羅が貴方には向いているんじゃない?」

 図星を突かれたような顔をしている隴。アテナは少し微笑んだ。

「……どうしてそう思うんですか?」

「言ったはずよ?私は地球を統べる神だって。大抵の人のことは熟知しているつもりよ。」

 隴はため息をつき、アテナの方向を向いた。

「「気持ち悪いですよ。」」

「でしょ?」

「ッ!?」

 思考を読まれていたのか、全く同じことを口にするアテナ。

「…すみませんが、思考を読むの、やめてもらって良いですか?」

「別に思考を読んだわけじゃないわ。貴方の口癖のようなものでしょ?」

 またも図星を突かれたと言う顔。

 アテナはいじることに面白みを感じたのか。

「と、取り敢えず、転生されるんですよね?」

「えぇ。初期の持ち物として地図とちょっとした食料、それと短刀を持たせておくわ。」

 親切なアテナだが、先程まで人をからかっていた。

 隴は軽く頷き、立ち上がった。

「そろそろ転生させるけど、最後に言い残したことは?」

 アテナに言われて、隴は少し考えた。

 そして、口をゆっくりと開いた。

「取り敢えず、向こう側に行っても会話できるようにするのは辞めてくださいね。」

「…………」

 アテナは黙り込む。不敵な笑みで真っ直ぐ隴のことを見ている。

「あの、何か返事をーー」

 その言葉は途中で途切れた。

「いってらっしゃ〜い!」

 アテナに強制的に転生させられた。

 光が隴を包み、粒となって消えて行った。

 それを確認したアテナは指を鳴らした。すると、そこに椅子が出来た。アテナはその椅子に腰を下ろした。

「取り敢えず、幸運を祈る。少年。」


✣ ✣ ✣


 緑色の草原。澄み渡った空と、空気。少し離れてはいるが、大きな街。空を見上げると、見たことも無い生物が空を飛んでいた。

 隴は強く拳を握り、剣幕を悪くした。

「次会った時ぶちのめす。」

 確実に殴るという決意が見える。

「はぁ、取り敢えず、あの街に行ってみるか。」

 そう言って隴は歩きだそうとした。その時だった。

「キャウアウアウアウア!」

 後ろから奇声を発するモンスターが現れた。隴は後ろを振り向いた。

「もう敵か。今まで人間とは一戦交えることはあったが、モンスターと一戦交えたことは無いな。」

 そう言ってアテナが言っていた短刀を探す。

「お、あった。」

 腰に付けているベルトにつけてあった。

 鞘から短刀を抜く。短刀にしてはやや重い寸延短刀すんのびたんとうやいばが確りしており、かなり磨かれたような後が少し見える。

「おい、本物かよ。」

 木刀の短刀バージョンを隴は想像していたのだが、まさかの本物。

 今まで虫以外 (……)を殺したことが無い隴は、少し引き気味になる。

『くっそ。どうする。本物の刃物なんて久しぶりに持ったぞ。逃げるか。いや、こんな狼みたいな奴から逃げ切れるとは到底思えない。なら戦うか?いや、殺すのはちょっとな。』

 そんなことを考える暇はないと言わんばかりにモンスターは隴に襲いかかった。

 隴はギリギリのところでかわし、距離を取る。

『やばいな。俺は殺す気は無いけど、相手は確実に殺しにかかってきてる。やっぱり、殺るしかないのか。』

 隴は短刀を逆手に持ち替え、構えた。

「キュルルルルル。」

 狼とは思えない鳴き声で隴に威嚇するモンスター。

「殺るしか、ないっ!」

 そう言って隴は一歩足を出したーーのだったが。

「待て。」

 どこからとも無くそう言われ、隴は足を止めた。

「キュラァァァァ!」

 狼が威嚇する方向にいたのは、鎌を持った一人の男だった。

「お前、刃物の扱いに手慣れてないな。そんな奴に″ロキノケット″は倒せねぇよ。」

 そう言って男は狼に近づいた。

「キャキャキャキャ!」

 確実に牙を剥き出しにしているモンスターが男に襲いかかった。

「危ない!」

 隴がそう言った時には、鎌がモンスターの腹を貫いていた。

「大丈夫だ。」

 その場を見ている隴は軽い吐き気に襲われた。モンスターの腹からは赤い血が垂れ流れている。グロくて見てはいけないような気がする。

 男はモンスターの腹からは鎌を抜き、鎌を肩にかけた。

「取り敢えず、ついてこい。街に向かってた最中なんだろ?」

 図星を突かれたような顔。本日三回目である。

 男に言われ、隴はただただついて行く。

「えっと、貴方は?」

 隴が問いかけると、男は足を止め、後ろに振り返った。

の名前はヘルト・ベルト。あの街の副長を務めている。」

 こうして隴の異世界生活が始まった。

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