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4話 幼女アイドルの選択肢


 一体全体どうなってるんだ。

 急に犯罪思考に染まったクラスメイト。そして唐突に現れたゴスロリ幼女達による殺人。


 まったくこの世界は狂ってるとしか言いようがない。

 なんて、現実逃避をしたところで一向に事態が改善するはずもなく――


「さて、【リハーサル】の目撃者である(ぬし)への処遇じゃが……自衛隊員に指示を仰ぐとするかのぉ」


「待ってくださいお姉ちゃん。この人をどうするか、その判断力も私達は問われてると思うのです。指示なんて聞いてしまったら、減点されちゃいますよ?」


「うむぅ……」


 正直なところ、同じ事を繰り返す毎日にうんざりしてて。

 それでも小さな幸せにしがみつき、自分の気持ちを偽りながら作った【平穏】に身を委ねる。


 まるで自分が薄く引き延ばされ、薄く死んでゆくような生活。

【これから先も同じような日々を続ける、それが人生なのかもしれない】そう芽生えつつあった俺の常識を――


 そんな日常を彼女たちは呆気なく崩していく。



「では【リハーサル】の目撃者であるそこのお兄さん。私に殺されるか、お姉ちゃんに殺されるか、選んでください?」



 人間っていうのは、いつ死ぬか本当にわからないものだ。

 こんな事になるなら、もっと自分のやりたい事をやっておけば良かった。

 激しい後悔が脳裏を埋めつくすなか、ふと天使の笑顔が浮かぶ。それは妹の夢来(みらい)だ。

 生きて妹の夢来(みらい)と一緒にいたい。それに優一達とくだらない会話で盛り上がったりしたい。なんてことのない日常がどれ程大切だったのか、それに気付くと死にたくないという思いが強くなる。


 ビビり過ぎて腰が抜けてしまっていても。

 どんなに情けなく、みっともなくとも……なんとしてもこの場を切り抜けなければ二度と夢来(みらい)に会えなくなってしまう。


 そんな決死の思いに天が応えてくれたのか、一筋の光が落とされた。


「待つのじゃリアよ。こやつは【リスト】にいなかったぞ」

「え、お姉ちゃんは【リスト】に載ってる他の【患者(タゲ)】も覚えてるのですか?」


 幼女姉の方が、まさかの制止をかけてくれたのだ。


「うむ。これぞ年の功じゃ。無駄にリアより歳を取ってないのじゃ」

「私と数秒しか歳の差ないですよね……でもそんなお姉ちゃんの優秀さに、私は感動です」


『それでは』、と心底楽しそうに双子の妹が俺に近付いてくる。

 後ずさりをしても、にこーっと笑いながら接近する幼女からは逃れられない。


「この人、【出禁】にするしかないですね」

「わしらとの思い出禁止(・・・・・)じゃのぉ」


「サクッと記憶を消しちゃいます」

「うむ。ガチ恋勢への対処方法を、【リハーサル】ではこのように活用するのじゃな」


「ではでは、【魔史書(ヒストリカ)】。読み解くは除説(リード・エキスタ)――――」


 双子妹の文言に再び、分厚い書が光り輝く。それに伴って、隣に立つ双子姉から煌めく粒子が漂い始めた。


「【幸福因子(サイリウム)】の散布は任せるのじゃ……」


「叙せ――彼の者の記憶を除せ――」


 双子妹が俺を指差し本の輝きが強まってゆく。

 良く分からないけど、これで命が助かるなら記憶の一部なんて喜んで差し出してやる。


「このお兄さんから、私達に関する記憶をごっそり消し去ってください――」

 

 その声は柔らかな木漏れ日のように暖かく、まるで歌を聞いてるかのように心地よい。

 ふわーっと意識が遠のきそうになる。

 それから気持ちの良い浮遊感を味わって数秒が経てば、朦朧とした意識が完全に戻る――――ただ、それだけだった。

 

 大志(たいし)が暴走し、目の前の双子が殺してしまった事をバッチリと覚えている。



「はじめまして、お兄さん?」

「何度目かの、はじめましてじゃのぉ」


「ヒィッ!」


 反射的に彼女たちにビクついてしまう。

 すると双子は不思議そうに首を傾げて俺を凝視してくる。


「あれ? この人、記憶が消えてないです?」


「どうやらそのようじゃな」


「じゃあこのお兄さん……『絶望因子(ブーイング)』……『欠乏因子(アンチズム)』持ちなのですか?」


「わからぬのぅ」


「どっちにしろ【中二病】の候補で間違いなさそうですね。やっぱりお兄さん。ここでお姉ちゃんに殺されるか、私に殺されるか、選んでください?」


 何のためらいもない無関心な表情が向けられる。


 幼女の冷たい視線と声が、俺の心を貫いた。





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