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14話 女の子になりたかった絶対美少女

星咲(ほしざき)永留(ながる) 視点です。


 いつから可愛いものに憧れるようになったのか。


 それはいつの間にかボクの一部になっていて、小学校三年生の夏休み、従姉妹の水着をこっそり着たことでハッキリと自覚した。



 ボクは男なのに可愛いものが好きなんだって。



 言いようのない胸の高鳴り、鏡に映る自分を見て何かがカッチリとハマる音が鳴った気がしたんだ。女子モノのひらひらパレオ付きの水着を身につけ、一人ではしゃいだあの夏から何年が経ったかな。

 幸いにして今、ボクは正真正銘の美少女になれている。


「アイドルは死なないッ!」


 自分の信念を口にして、輝こうとする同士を守るためにボクは駆ける。

 倒れてしまった切継(きりつぐ)さんに狙いを定めた、血の雨が、暁の流星群がボクらを空ごと覆い尽くそうとも、アイドルは――死なせない。


「絶対にさせないッ! 読み解くは(リード・)命約の第七章(スエルテ)



魔史書(ヒストリカ)】がボクの魔法力(マギアト)を、ごっそりもっていく感覚に思わず立ちくらんでしまう。

 昨日しすぎ(・・・)ちゃったか、と反省しつつも焦る。このままじゃ【幸福因子(サイリウム)】が枯渇してしまうかもしれない。

 この状態でもし、致命的なダメージを受けてしまったら……。


「【螺旋(らせん)牢獄(ろうごく)】――――境界論(ボーダレス)・アルキメデス」


 それでもボクたちは、人々の希望なのだからその歩みを止めてはならない。

 何度目かの『幻想論者の変革礼装ドレス・オブ・チェンジ』をこなす。


 ボクの魔法力(マギアト)が、ルシフェルが放った黒い球体ごと紅い流星群をぐちゃぐちゃにして押し返す。

 そう、あともう一息、力を込め、全身の力を放出するように踏ん張る。この調子なら退かせることができる、そう判断した時。

 突如として後ろから鋭い声が落とされる。


「余興は存分に楽しめたぞ」


 次いで背中から胸にかけて、気が狂いそうになる激痛が走る。


「か、はっ」


 あぁ――――痛い、痛い、痛い、痛い、痛いぃぃぃ……。

 思考が支離滅裂になりそうなほどの、燃えるような痛みが全身に駆け廻る。手放しそうになる意識をどうにか意志で意識を繋ぎとめる。

 自分の胸から大量に流れ出る【魔法力(マギアト)】を見て、終わってしまったと悟る。


 あぁ――負けてしまった。

 

 ここで倒れるのに悔いはないかな。

 今まで、魔法女子として走り続けてきた日々に悔いはないんだ。



 男として自分を受け入れられないことに苦しんだ小学校時代。


 どうしても女装や女性に憧れて、こっそりとそういう趣味を楽しんでいた中学時代。同性の男友達にドキドキして、恋をしてしまい……街での女装中に偶然その友達に遭遇してしまって……それからイジられ、気味悪がられ、クラスメイトから距離を置かれた。



 そうして中学二年からは学校に行かなくなった。


 家にこもり、ひたすら魔法女子アイドルの動画を見て漁る日々。彼女たちの可憐さが、ボクの光となるのにそう時間はかからなかった。


 それからボクは魔法女子アイドルに夢中になって、前よりも女装の腕を磨いた。化粧も覚えて試行錯誤を繰り返し、いつかは自分もあんな風に可愛くなりたい、そう望むようになった。


 そんな願いと思いを一撃で、一目で砕いたのはあの人。

 豪奢な金髪をなびかせ、自分が世界の中心だと豪語してやまない堂々とした態度。


『私こそが! 輝く星達(アイドル)の中心よ!』


 ボクは本物の美少女、魔法女子アイドルを直接見て思い知った。画面越しで見ると聞くでは大違い、圧倒的な美があったんだ。



『【輝かしき天動説】――魔法女子アリストテレス――現界!』



 どうやったって覆せない、同じ次元に立てない存在を目の当たりにして、今までの自分の努力や行いがバカみたいに思えて絶望したっけ。


 そんなボクにあの人は言った。



『少年は輝かずに終われるのか?』



 どんなに努力しても性別という壁は超えられない。

 それをわかってかわかってないのか、あの人の上から目線に我慢できすに絶叫したのは懐かしい。


『あなたに何がわかる!? 可憐な容姿、女である身体! 最初から全てを持つあなたに何がわかる!?』


『少年は、今()望むものが手に入れられないのだな』


 反抗したボクにあの人は静かに語った。


『少年。人間っていうのは変われる生物なのよ。できない事ができるようになる生物なの』


 当たり前のことを。


『赤子が立って歩くことができるように、な』


 当たり前のことを。


『できない、と決めつけるのは自分自身だ。時間がない、才能がない、苦しいから、どうせやったって結果がでないかも……できない、やらない正当な理由を必死に探し、自分の限界を決めつける。しかし、望みを手にすることができるのは、歩みを止めない者だけだ』


 だけれど、成すには難しいことを語る。

 強い意志を感じさせる金眼は今でもハッキリと覚えている。



『私はそう信じたから、今の私がここにあると思っている』


 アイドルは死なない。

 ボクの中で今もなお、あの人は輝き生き続けている。


『私はたくさんのものを犠牲にして、たくさんの自分を費やして、魔法女子として生きている』


 だから、諦めちゃダメなんだ。


『最初()、私は何もできなかったよ』


 やがて憧憬は尊敬に、そして親愛へと変わった。

 手術もあれば、ホルモン注射だってある。可愛いや美を追求し続ける限り、ボクはボクであり続けることができる。

 そのことに気付かせてくれ、絶望の底から救い上げてくれたのは彼女だった。


 そして、完全無敵だと信じていたあの人が膝を屈した時、アンチとの戦いで敗北しそうになった時。彼女の隣に立ちたいと、ずっと願っていた思いが先代からの継承を獲得した。



魔史書(ヒストリカ)】、それは強い願いを受けとめ現実化する書物。


 魔法(マギアト)によって完全なる女子の身体を手に入れた。女性として生まれ変わったボクは、代わりにかけがえのない人を失った。


 だから、この力を無駄にはできない。

 そう、このままルシフェルに屈して諦めるのは違う。ここでボクが折れてしまえば、この高校生たちは蘇生不可能になってしまう。

 それにあの人から受け継いだ意志を絶やしてはならない。



 継承可能な人材なんて万に一つもありない低確率なのに……こんなピンチの瀬戸際で適合者と巡り合えるなんて奇跡なんだ。


 それなら、この子に託す他ないよね。

 名も知らない少年に、ボクはボクの全てを注ぎこむ。



「『輝かしき天動説アリストテレス』『天体奏者アルキメデス』、ボクたち先駆者が継承の座を君に捧げよう、ボクたちの意志を捧げよう」


継承の魔史書(ゼロ・ヒストリカ)】が創造される瞬間、互いの過去を幻視する。


 そうか……ボクたちは似た者同士だったのか。

 アイドルに焦がれ、羨ましく……憎しみすら抱きながらも魔法女子を愛したボク。

 鈴木君はアイドルに恋をし、幻想を打ち砕かれ憎悪に塗りつぶされ、魔法女子を徹底的に忌避し拒絶した。


 二人が行きついた境地は真逆かもしれない。

 けれど、今はきっと――――



「【夢見る星に願いをウィッシュ・ア・ポン・ア・スター】!」


 鈴木くんが叫ぶのを眺め、ボクは分析をする。

魔史書(ヒストリカ)】には四つのランクがあり、上位であればあるほど使える魔力量が膨大なものとなる。

 鈴木くんが唱えた【魔史書(ヒストリカ)】の自由そうな名称からして……低ランクの『魔法級』か中ランクの『崩壊級』だと予測できる。

 先代やボクより下回るランクに、少しの失望を覚えるけど……魔法女子の力は【魔史書(ヒストリカ)】に全てが左右されるわけでもない。



読み解くは(リード・)黙約の第六説(アポカリファ)――【おとめ座(スピカ)】!」


 続いて鈴木くんが叫んだ内容にボクは驚愕せざるを得なかった。

 彼は確かに【説】と言った。


魔史書(ヒストリカ)】における低ランクの『魔法級』は【項】。

 中ランクの『崩壊級』は【節】。

 そしてボクの高ランク、『偉人級』は【章】。

 さらなる最高ランク、『神話級』のみが許される読解法は【説】。


 彼は確かに今、【説】と認識して文言を唱えたはずだと、わずかに残る共鳴残滓の意識がボクに伝えてくる。



「魔法女子――『正義の女神アストライア』――現界」



 白銀色に輝く長髪は何モノにも染まらない君の強い意志を感じる。

 華奢な体躯、小さすぎる身長は無限の成長と純粋さを示唆してるのかな。


 小学校中学年ぐらいの美少女が、軽やかなミニのフレアスカートをひらめかせ、二枚の羽根を広げる姿はまさに神話の存在に見えるよ。

 彼女が放つ強大な魔法力(マギアト)の波動に、上半身を緩やかにたゆたうブラウス、その首元のリボンが揺れる。

 

 全身、純白。

 真っ白な女神が現界した。

 

 かたくなに白を押し通す彼女の、鈴木くんの姿を見てわかったよ。

 君が星座の名を読んだ理由がわかったよ。


「ボクでも一つの星の力を引き出す事しかできなかったのに……そうか、君は……寂しいんだね」



 君は中学時代にイジメられたトラウマで、他人を信じることができなくなっている。常に言葉の裏や、物事の裏を探る習慣ができている。

 そんな自分が寂しいと感じている。中身が空白であると同時に、誰よりも清廉潔白の世界を望むからこその在り方なのだって。



 本当は人を信じたい。クラス内での孤立、本当は一人ぼっちは辛い。

 誰かを知って誰かと近づいて、もっと繋がりたい。


 寂しい、悲しい、そんな記憶が――

 そんな願いが星、一人一人の輝きを繋いで、星座という力に結びつく。



 可愛くなれるなら死んでもいい。

 ボクの異常な願い、この気持ちを、優しい君なら理解してくれるかもしれない。


 そんな期待が胸の内に灯った。




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