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12話 地獄の覇者と春の女神


「ほう、地獄の王にして堕天使の長であるこの我を消すと」


 銀髪の青年ルシフェル。

 彼の存在感は、言葉で形容しがたい程の圧力を内包していた。


「口先だけは達者のようだな」


 その目が射ぬくは数多(あまた)の命。

 その翼が羽ばたけば地表の全てを吹き飛ばす。

 その口開けば地獄の使徒すら従える。


 美とカリスマと、崇高な思想を持ち合せた完璧なる存在。

 神々さえ畏怖し、超越しうる存在。



「それにしても、解せぬ」


 直接、言葉を交わせば彼の力がどれほどに強大なものか、肌で感じ取れた。

 今ならわかる。彼は【魔法力(マギアト)】の塊であり、その量は尋常じゃない。これでは全国トップクラスの魔法女子二人を、容易くねじ伏せたのにも納得だ。俺一人でどうこうできるレベルでないと確信できてしまう。


「解せぬな。【欠望因子アンチズム】を持ち得ながら、人が作った社会にすがるなど……貴様ら魔法女子は解せぬ」


 こっちこそわからない事だらけだ。

 だが戸惑っている暇があったら動け。そう自分の意志と身体を叱咤して、【魔法力(マギアト)】を開放する。


 まずはここを離脱だ。

 こんな所で戦いを始めたら、夢来(みらい)の神聖な身体に傷がつく。俺が移動をすれば、奴も追ってくると確信があった。なので背中にぐっと力を込めて天へと飛び立つ。


 全身を風が打ち、みるみる間に地面が遠ざかっていく。

 


「ッッ! これが、空を飛ぶ感覚」


 なんて解放感、なんて自由な羽ばたき。

 ルシフェルから距離をあけた事によって、一瞬だけ心の重圧が解き放たれた。


「――巣立ちを喜ぶ(ひな)鳥のようで滑稽よな」


 底冷えするような声音がすぐ傍で放たれたので、飛翔による高揚感は即座にしぼんだ。声の方角を見れば、ピッタリと俺に並走しながら、ルシフェルが余裕の笑みで俺を見つめている。



「さて、どのようにして遊んでやろうか――」


 お前なんかに夢来(みらい)の笑顔を奪わせない。そう自分を奮い立たせ、ルシフェルに対してすぐさま飛行コースを直角に切り替え突進する。さらに自身に回転を加え、【おとめ座(スピカ)】が持つ力で回転速度を上乗せさせる。そのスピードおよそ、秒速200キロ。


 視界が急にブレ、景色が引き延ばされていく。




「我を楽しませ――――ぺギョッッッ!? ギュギョガッ!?」



 変な雑音が耳に入ったところで回転を止める。


 ルシフェルの美しい肢体、翼、顔を巻き込んだ体当たりは奴を激しく轢き飛ばし、地上に叩き込まれた杭みたく垂直に落とした。


 ズドンッと大地を揺るがし、頭? ちょっと身体がぐちゃぐちゃになっていて判然としないが、ルシフェルは頭っぽい部分から地面に突き刺さって動かない。


 これはもしやチャンス?

 そう見立て、急激に襲ってくる吐き気を抑え込みながら【魔史書(ヒストリカ)】が持つもう一つの能力を開放しようと決める。

 そして、空中で待機したまま口ずさむ。



読み明かすは(リード・)黙約の逆説(アポカリスス)――【おとめ座(スピカ)】」


 文言に反応し、新たな衣装へとドレスチェンジ。

 またスカートかよ、と内心でゲンナリしつつ【魔法力(マギアト)】を開放。



「魔法女子――『冥界凍土の女王ぺルセポネ』――現界」


 体内で力の大幅な増大を感じる。そう、まるで春が芽吹くような生命力に満ちる【魔法力(マギアト)】だ。だが、今回は本来の力を行使はしない。



「母神系譜――」


 何かを召喚するような、他者を呼び覚ますような感覚で【魔法力(マギアト)】をさらに放出する。


「豊穣の女神デメテルの名の下に――――冬来たれ――」


 背後から暖かな、何かに包まれる心地よい感覚を覚えながら口ずさむ。



「冥界の底で氷獄(ひょうごく)に眠れ」


 対象を地面に突き立つルシフェルに調整し、放つ。

 すると即座にルシフェルが凍りつき、さらにそこから凍土が急速に広がり始める。それを目にした俺は慌てて氷化の方向性を上へと調整してゆく。

 気付けば東京スカイツリーにも負けないぐらいの氷柱が、天を分かつようにしてそびえ立っていた。



 これで一件落着、問題な……し、ではない。


 ただ一つ、重要な問題があった。それはわずかな間だけでもと、意志の力で今まで耐え忍び、抑え込んできた衝動。

 

 さ、ん、は、ん、き、か、ん、の限界である。


「おうぇぇぇぇッ」


 うん。

 口からお星さまのようなキラキラが出てきたよ。



「そんな無茶苦茶な……あのルシフェルを、こんな簡単に……」


 星咲の小さな呟きが、冷たく静かな空の下に響いた。






魔史書(ヒストリカ)】紹介



●正義の女神アストライア●


聖邪を判断する天秤の持ち主。

有翼の乙女として表現される事もしばしば。


●おとめ座●


おとめ座の首星(連星)は【真珠星(スピカ)】。

自転速度は秒速200キロメートル。(約200000メートル)

地球は秒速約0,46キロメートル。(約463メートル)。


スピカは物凄い速さで回っている。



●春を芽吹かせる冥界の女王 ぺルセポネ●


【冥界の王ハデス】がぺルセポネに一目惚れをし、冥界へと誘拐してしまう。ぺルセポネの母、【豊穣の女神デメメル】は娘の行方を探すべく、女神の役割を放棄した。すると地上には豊穣の力が失われ、小麦一つ実らない冬枯れの季節となった。


それを見かねた【絶対神ゼウス】が、ハデスにぺルセポネを返すようにと伝える。ぺルセポネが戻ると母デメメルは喜び、再び大地に緑が戻った。


しかし、ぺルセポネは冥界の実を四つ食べていたので、一年に四カ月は冥界の女王として暮らす事になる。その間、豊穣の女神デメメルも役割を放棄してしまうので、地上に冬が訪れるようになった。


ぺルセポネが戻れば緑がもゆる。

そのため芽吹く季節、春の女神とされている。


※諸説あり



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