ヒロイン←攻略対象←婚約者
「くっそう油断した!!!!!」
叫び声と床を蹴る音が響いた直後、髪を大きく揺らすような風と淡く輝く燐光と共に一人の少女が廊下を駆け抜ける。人形よりも表情のない死んだような顔をしながら短いスカートを翻し、身体強化の魔法を存分に使って必死に彼女は逃げる。俺達はまた始まったなと目を見合わせて溜息をつき、みんな揃って廊下の端へと移動する。このままここに居ると危険だ。
「待ってくれ!君を愛しているんだ!」
「いや、こんな優男より僕の方が君を愛している!」
「ほら、逃げないで俺の腕の中に帰っておいで」
少女から遅れること数秒。三人の少年が廊下を勢いよく駆けていく。少女に嫌がられている事にも全く気付かず輝くような表情で少女を追いかけていく。お互い好かれているのは自分だと信じて疑っていない。こちらもキラキラしたオーラ(身体強化ド派手バージョン)を出しつつ廊下を駆け抜けていく。この人たちは周りのことが見えていないのであの少女が駆けて行った後は避けていないと衝突して大惨事が起こる。初めの頃は何度か接触事故が発生していたのだがもうみんな慣れたもので少女を見た瞬間避けるようになっている。
「お手洗いに行っている間くらいは結界が保つようにしてほしいですわね!」
「タイミングが悪かったようですけれど……こちらの身にもなってほしいですわ。」
「皆さん申し訳ございません。ご迷惑をおかけいたします。」
さらにそれに続いて三人の少女が廊下を駆ける。先ほどの少年三人の婚約者達という名の捕獲部隊だ。彼女達は周囲に謝りながらも高速で廊下を進んでいく。こちらも身体強化を使い普通では出せない速度で廊下を走って行った。
これは学校名物になった追いかけっこである。始めに逃げていた少女は平民出身のロゼッタ嬢。自動で魅了の魔法が発動する特異体質でそれの制御のためこの学園に入学した子だ。
大量の魔道具で魅了魔法を抑制しているのだが、どうやら抑制状態でも相手の魔力が強大な場合は魅了魔法がかかってしまうらしい。その発動条件を満たしている人物がこの学園には八人居る。第二王子、公爵子息、侯爵子息、伯爵子息×2、騎士団長子息、魔法師団長子息、留学中の他国の皇子で計八人だ。普段は魔法除去の結界の使用や魅了防止の魔道具の使用、魔法解除(婚約者が使用)などで被害が出ないように対応しているらしいが時々こうやって上手く処理できない時があるらしい。
その時に男性軍団から逃げたいロゼッタ嬢とロゼッタ嬢の魅了にかかった男性軍団、そして男性軍団のストッパー係となっている婚約者達での仁義無き追いかけっこが始まるのだ。普段は男性軍団と婚約者の仲はみんな良い。この魅了の力がヤバすぎるだけだ。この魔法にかかると問答無用でロゼッタ嬢に好意を持ち、元々好きな人が居たとしても完全に忘却してしまうらしい。ロゼッタ嬢がこの力を悪用しない性格で本当によかったと言わざるを得ない。ちなみになぜロゼッタ嬢がまだ魅了魔法を制御出来ていないかというとだいたい三年で習うレベルだかららしい。ロゼッタ嬢は現在二年になったばかりなので習得しようにも難易度が高くて無理なんだそうだ。
お、そう言ってる間に婚約者達が追いついて魅了を解除したみたいだ。男性軍団が土下座してる。これも毎度の光景だ。ふむふむ。今回の原因は魅了抑制の魔道具の故障でこんな事になったらしい。魔道具も寿命があるから仕方ないな。まあひとまず今回も無事に終わったようでなにより。
以上。乙女ゲームのモブに転生した俺から見た乙女ゲームヒロイン達の様子でした。