エピローグ
シリアス崩れます。
「おぉ〜こぉ〜めぇ〜〜!おーさーしーみぃーーーっ!」
少し小さめの茶碗に盛られた白いホカホカのご飯。薄揚げとワカメの味噌汁。
小さく綺麗に区切られた箱に盛られた前菜とお造り。
縁から中心に向かって青から白へ変わるグラデーションの小皿に盛られた鯛のお刺身。
くつくつと煮え始めた小鍋。
切子のガラズのグラスに入っている食前酒。etc.
みちのくのとある温泉の食堂の個室で数々の料理を前にし、万里は悶絶した。すでに半泣きである。
それにつられて兄・一馬ももらい泣きしている。
「あぁ、お食べ。たんとお食べ……本当に、ここまで痩せちゃって(号泣)」
「ごめんねぇ。何日かかるか分からなかったし、私たちも表の仕事があるから長い休みは取れないしで、結局ばんちゃんに全部任せちゃって。」
「アイツらの開ける次元の穴がいつに繋がってるか曖昧だったからねー。
犠牲者の召喚された時期も、こっちじゃここ10年に集中してたけど、向こうじゃバラバラだったし。
向こうの神とこちらとで調整してようやく漕ぎ着けたもんねー。
夏休みで片付いて良かったよ。」
「俺も行けたらよかったのになぁー。」
齢14の最年少の何気ないつぶやきにみんなが目を剥いた。
「何言ってんだよっ!慶彦行かせるくらいなら、俺が仕事辞めてでも行くって!
先祖伝来の神将付けてくれただけでも、恩の字だって。
第一慶彦、中坊だろう!」
「そうだよ。相手に付け込まれないようにする為に、必死で篁公の真似して表情筋固めて、兄さんの真似して相手を論破すんのすっごく大変だったんだよ〜?
元々一人しかあの空間通れなかったんだけど、もし行ったとしても、よっちゃん、人質にされる可能性だってあったんだから。」
「いっそのこと、あたしが現代兵器バリバリ持ってって国ごと滅せれば、どんなに良かったか……」
幼馴染の姉・静の過激な発想に凍りつく子供達。
……やる。現役自衛官の彼女なら絶対やる。
「しず姐、それ、やったらダメなヤツだから。」
「やったら最後、ウチも道連れだから……」
ご飯食べたらもう一回風呂に入り直そう。そう決意する子供組。
一馬は誤魔化すように黙って食前酒を口に運んだ。
「……それはそうと、犠牲者達はお里帰りしたんでしょう?
鈴木佳代子さんは、存在自体消すことになって良かったの?」
その言葉に一馬と静は渋い顔をした。
「本人が望んだ事だからなぁ〜。
綺麗なままの自分を覚えていて欲しかったらしいけど、ミイラ化した遺体を調べれば、何があったか誤魔化しようがなかったからなぁ。
自身が祟り神になって沢山の人を呪って死なせた事は、魂魄を分けた後ではうっすらとしか覚えていないんだけど、自分の身に降りかかった事と罪を犯した自分を知られたくなかったんだと。」
「あんな死に方をすれば、後は本能しか残らなくなるから、しょうがないんだけどねー。
あのバカどもの因果応報だと思うんだけど。
でも、家族には恨みを抱えて生きて欲しくなかったんだって。あと、夫には前を見て生きて欲しかったんだって。」
その言葉にしんみりとなった。あんなに帰りたがっていたのに。
「まあねー。誘拐されて散々タダ働きさせられた挙句、娼婦のように扱われ、最後は飢えた上で憤死して、遺体は見世物なんて、家族には口が裂けても言えないよね……。」
「言えない。あたしだったらアイツらを3回は殺す。もう死んでるけど。」
「結婚式場の人達にも悪い事したよねー。病院もさ。
結婚式場は潰れたままなんでしょう?病院は経営者が代わってさぁ〜。」
「うん、そちらの方にも慰謝料はいったから、安心しなさい。」
弁護士である兄の言葉に万里と慶彦は安堵のため息をこぼす。
しかし慰謝料だけでは解決できない問題もあるのだ。一度失った信用は取り戻すのは大変なのだ。
そして小林七星にいたっては、もう医師に任せるしかない。自分らにできるのは、彼女の回復と社会復帰を祈ることだけである。
自分達は万能ではない。それは嫌という程分かっているのだ。
「うん、あと万里が気にするのは残った夏休みの宿題だけだっ!」
『カンバレーーー』(棒読み)
「それを今言うかぁ〜! ?」
他三人の息の合った声援に凹む万里。
「せっかく国民的アニメのアイテムと同じ機能の異次元リュック貰ったのに、なんで夏休みの宿題、一部忘れてっちゃうのかなぁ〜?」
「受験の赤本とかは忘れなかったのにね……。」
「ここで三日カンヅメになれば大丈夫。あと少しだ。
夏休みもあと五日だ。あと少しだ。
ガンバレー。(棒読み)」
「えぇ、えぇ、がんばりますとも!
まずはお腹がはち切れるまで食べてやるぅ!」
猛然と箸を滑らせる万里を静は慌てて止める。
「待って!ここ、セミバイキングでね、白いご飯はお米が三種類と炊き込みご飯があるの!
味噌汁は二種類だし、おかずもデザートも食べ放題だけど、会食の天ぷらはオーダー式で、最後には牛タンが来るの!
まずは旬菜膳制覇してから、行きましょう!」
「ハイっ!しず姐!」
そういえば、あちらの世界にはお米はなかった。
あとで彼等におにぎりをお供えしよう。
帰れた喜びを噛み締めながら万里はそう思った。
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