裁かれるのは
(迷惑というレベルでは無かろう……)
篁は己の後継の言葉に呆れつつ、内心でツッコミを入れた。
怒りのままに睨みを効かせる万里から、篁は煙管を受け取り国王達に向き直った。
「ばんり、万里……言葉が乱れておる。どうせなら最後まで取り繕え。
さて、お初にお目にかかる。万里の先祖で1400年冥府で秦広王の補佐官を勤め、この捜査の責任者である小野篁と申す。以後、お見知り置きを。
大母神フローラとの話し合いの末、この100年に渡る拉致監禁虐殺事件の関係者の魂及び身柄は、地球世界の冥府に一旦引き取り、裁判の末地獄で処罰と決まっておる。
今代国王夫婦並びに騎士団長とその部下数名、魔術師長とその部下数名、大司教及びに司祭数名は歴代の召喚者とその関係者と共に拘束・連行する。
今までの召喚によって世界の均衡が崩れつつある為、二度と使用できぬよう魔法陣は破壊する。
また全ての元凶であったアラルコンと東部教会は被害者とその遺族に慰謝料を支払うものとする。
またそれとは別に、加害者とその遺族の財産も全て慰謝料として没収する。
レグルス王子は被害者とし、彼の財産は保証し、かつ慰謝料が支払われる。
宰相は完全に無関係ではないがその罪の軽重から現世に留め、レグルス王子と共に残った家臣をまとめ、アラルコンの後始末をするべし。
此方に拉致され殺された犠牲者の魂魄だが、既に半ば祟り神に変化しつつある為、回収は不可能である。
彼等を形成する三魂七魄の内、二魂四魄は切り離しこの世界に置いていく。
教会とアラルコンは彼等を神として祀り、崇めるべし。」
一方的な通告に、大司教が声をあげた。
「我が女神からならいざ知らず、異端の神に従う道理はない!
今すぐこの縄を解き、我らに膝をつき許しを請えば、寛大な罰で済ましてやるぞ!」
人の身でありながら、神とその補佐官に対して胸を張って主張する大司教に、篁は呆れ果てた。
「篁公、我が世界の大バカ者がとんだご無礼を……。
誠に申し訳ないが、このクズどもの宣告は私が引き継いでよろしいだろうか?
バカの相手は疲れるだろうし、彼らの後始末は双方で行う以上、同じ世界の神がキチンと引導を渡した方が相手も理解するだろう。」
篁に話しかけた美女を見て、大司教はあんぐりと口を開けた。
夕闇の青味のかかった藍色の髪に沈む夕日の金の瞳、夕焼け雲のような二枚の羽ーーー伝説の大母神の使者である熾天使・アリエルであった。
優美で嫋やかな姿で描かれる、慈悲深き大母神の使いとして有名な熾天使であったが、この後に続く言動は優美さと慈悲深さとは最極端にあった。
篁の了承を得ると、アリエルは大司教を容赦なく鞘に収まった槍で殴りつけ靴先きで大司教の顎をあげ、絶対零度の眼差しで睨みつけた。
「何をたわけな事言っている、この自称『神の僕』が。
大母神様と秦広王様の会話聞いてなかったのか?
篁公は『既にこの世界の神と話は付いている』と言っただろうが。
確かに秦広王は異世界の神。しかし彼方の世界の代表としてこの場にいる以上、此方の世界の代表としてこの場におられる女神フローラとは対等にあらせられる。
貴様らは、罪の無い多くの人間の人生を狂わせ、二つの世界に破滅の危機をもたらした大罪人だと言っただろう。
罪深き罪人である人の子が、しかも自称『神の僕』が神の決定に逆らうと?神の使いを罰すると?
どうすればそこまで醜く尊大になれるんだ?とんだ笑い種だな。」
獲物を前にした虎の目でアリエルは罪人どもを睥睨した。
槍の柄頭を謁見の間で唯一残った床に叩きつけると、大理石の床がえぐれ、小さな石の破片が飛んだ。
「今から百年ほど前、アラルコンは食料自給率が低く、餓えに苦しんでいた。
それを解決しようとこの国の上層部と東部教会の大司教は、食料を他国から盗もうと召喚の魔法陣を開発した。
しかし、この魔法陣は世界の次元をも狂わせてしまうものだった。異世界の人間が出てきた時点で止めればいいものを、彼らを奴隷にする為に召喚を続けた為、二つの世界の均衡が崩れ始めたのだ。」
「我が世界の人間は、非業の死を遂げた者はその怒り怨みの深さにより、だいたい六割の確率で悪霊となり祟ります。
死後に家族や親類縁者がちゃんと供養したのなら、それにより魂が鎮まる事もありますがそうでない場合、悪霊となり仇を殺した後も近くにいる者を殺し続けます。
その場合特定の縄張りができ、周りと異なる空間ができてしまうのですよ。
私の子孫達は現世でそのような哀れな魂を浄化し、冥府に送るのを生業としているのですが、この世界ではそんな習慣も存在も無かったのと魂の仕組みがこの世界とは異なる為、この世界の天上界に召される事はなかった。」
「彼らの存在と魔法陣による無茶な召喚により、アラルコン周辺の空間が歪み、地球世界とこちらの世界で異常気象が発生。それにより様々な要因が引き起こり、二つの世界のが破滅しつつあった。
時空の歪みを調査していた時に、彼方からの調査隊に出会えたのは僥倖であった。
異世界人召喚には王家の他に当時関わった魔術師や司祭などの生家が、秘密保持の為代々で関わっている事は調べが付いている。
また各代の関係者の魂は、異世界人が怨霊となり彼等を殺した際因縁の地に縛り付けていた為、此度の旅で異世界人の魂と共に回収した。
それらはアラルコン国王夫妻、プロキオン大司教、リゲル魔術師長、タルボス騎士団長と彼等の部下達と共に、地球世界の地獄で罰を受け罪を贖った後に魂を二つの世界に空いた異次元穴を塞ぐために使い潰す事が、条約で決まっている。」
「お待ちください!何故宰相のみ許されるのですか?彼とてこの召喚に関わっていたのですよ! ?」
冥府の神の補佐官と熾天使の無慈悲な宣告に魔術師長が待ったをかけた。
アリエルは面倒くさそうだったが、今後のことも踏まえ、説明を怠らなかった。
「確かに宰相はこの召喚に関わっていた。しかし彼の家は初代聖女が悪霊化した時に滅んだ当時の宰相の代わりに成り上がった家で、召喚の起源とは無関係だった。
勇者と先代聖女の召喚には彼の先祖は無関係とは言えなかったが、彼等は異世界人の迫害には関わっていない。そもそも異世界人の召喚については彼等は反対していたし、宰相自身は貴様らの中で唯一レグルス王子とバンリに刺客を放っていない。むしろ保護していた。
よってこの事件で彼方の世界の地獄で裁くのは不当と見なし、この国に留め置く。
レグルス王子と共に異世界人の哀れな魂を神と祭り、この世界の立て直しに尽力するがよい。
また、シリウス護衛騎士はこの国の法律で罰せられるのが妥当と見なす。」
縛を解かれた宰相は、アリエル達に深く頭を下げた。
それを見やって秦広王は号令をかけた。
「ーー以上、宣告を終える。者ども、引っ立ていぃっ!」
地獄の獄卒達はこぞって罪人どもを担ぎ上げ、秦広王とその補佐官と万里を警護しながら、次元の向こうに消えていった。
天使の設定は、オリジナルです。
異世界において、という事で了承してください。




