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映し出されるのは 2

*** 二人目の異世界人 ***



かえらなきゃ かえらなきゃ


よなかのえいぎょうちゅうにごうとうにあった ぜんりょくでにげた 

にげたはずなのに おちたさきでつかまって ごうもんされた

かえらなきゃ かえらなきゃ

さちこはまだじゅうろくだ こうたはまだじゅっさいだ

みわこがしんで おれがたいせつにいちにんまえにするとやくそくしたのに

おれがいなくなったら うちにはたよれるおとなはいないのに

かえしてくれ かえしてくれ

いせかいなんてしらない むぎなんてしらない おれにはかんけいない

さちこのたんじょうびだったんだ かえってぷれぜんとをわたすんだ 

こうたももうすぐいわうんだ


かえしてくれ かえしてくれ かえしてくれ



鏡に映る風景が切り替わる。


男は走る鉄の箱に乗っていた。どうやらこれは馬車にあたり、男は馭者らしい。後ろに二人客を乗せ、人気のない公園で下ろそうとしたところ、客に襲いかかられた。

男は傷つきながらも命からがら逃げきったが、踏み出した足の先に魔法陣が現れ、そのまま吸い込まれた。

魔法陣が男を吐き出した先は、先程も見た魔術師の研究所だった。周りには麦の袋や野菜などが転がっていた。

男はそのまま警護の騎士に捕まり、拷問される。

質問の内容とその場にいた魔術師と司祭の会話から察するに、どうやら食料を引き寄せるための魔法陣の実験だったらしい。

男がここが異世界だと気付くと同時に、騎士達と実験をしていた魔術師と司祭は、男が異世界人である事を理解した。

そして口封じも兼ねて、男を生きたまま解剖した。

実験をしていた司祭と魔術師達は、異世界人の男をホルマリン漬けにして王城の一室にサンプルとして飾った

その一ヶ月後から、城の中で内臓をぶちまけた壮年の男が、真夜中に徘徊するようになった。

王城は恐怖で溢れかえった。一人二人と侍女や侍従が次々に辞めていった。

時の国王は魔術師団長と大司教と騎士団長に亡霊の討伐を命じたが、生者の攻撃は一切効かず、亡霊は野放しだった。

仕方なしに魔術師達は男を墓に埋めて葬儀をとり行い、一時事態は沈静化したように見えた。

一年後から時折晴れた日でも突然雷が落ち、たくさんの人が死んだ。

被害者は騎士や教会関係者や魔術師ーーー果てには時の王も命を落とした。

命を落とした者の魂が亡霊に縛られて、王都を徘徊した。

人々は何も分からずただ神の怒りを買ったのだと、王都から出ていった。

やがて王都は廃墟となり、森を含めたその周辺は多くの亡霊がさまよう地となった。




*** 初めて聖女と呼ばれた異世界人 ***



かえして かえして

けっこんしきのとちゅうだったの ゆびわをこうかんするところだったの

これからあのひととしあわせになるとこだったのに 

あのひとをしあわせにするはずだったのに

こんいんとどけにさいんをして ゆびわをこうかんしようとしたら 

いきなりあらわれたひかりにひきずりこまれたの

きがついたらしらないばしょで ゆうれいにおそわれそうになったから 

ひっしでおきょうをとなえたら ゆうれいがみのがしてくれた

そしたらそこにいたがいこくじんたちに せいじょとよばれたの

わけがわからなくて こわくておびえていたら 

しさいさまが ここはいせかいで 

わたしはせいじょとしてしょうかんされたとせつめいされたわ

そしてさっきのまものをたいじしたらかえすとやくそくしてくれた

たいじなんてできないけど くようならできるから こころをこめてくようしたの

ふたりともしずまってくれたわ 

なのになのになのに

かえしてくれなかった

うそだったとすまなそうにいったけど このよにとどめるためだって 

きょうかいのいっしつにとじこめられて へんなくすりをのまされて 

たくさんのおとこにしょうふのようにだかれたわ

おっとがまっているとちゃんとはなしてた けっこんしてるとはなしてた

あいつらは せいじょ(わたし)をかねでうったんだ


ゆるさない ゆるさない ゆるさない



三度鏡の風景が変わる。


白を基調とした明るい祭壇。1組のカップルが司祭らしき人物の立会いのもと、婚姻届に署名している。

そして指輪を交換しようとして向きを変えようとしたら、花嫁は魔法陣に吸い込まれた。

現れた場所は亡霊を討伐しようとしていた真っ最中であった。

どうやら魔術師の一人が、恐怖のあまりがむしゃらに描いた魔法陣で魔物に対抗できるモノを召喚しようとして、誤って花嫁を召喚してしまったようだ。

突然現れた同郷の女性に母国語で話され、亡霊達は怯んで一時心鎮めた。

それを見た討伐隊の面々は、彼女を騙して聖女に祭り上げた。

「魔物を退治すれば帰れる」と彼女に話したが、当然そんな当ては無かった。

花嫁は善良な女性であった。

立ち寄った村々に四輪法を伝え、それにあった植物を探して提供し、紙と便利のいい農具をこの世界で再現し、それらを後の復興に役立てるべく特許という制度を国に働きかけて設けた。

花嫁が召喚されて一年経った。

亡霊達も大人しくなり、そろそろ帰りたいと国に申し出たが良い返事が貰えない。

それどころかアラルコンの貴族との結婚を勧められる始末。

返すというのは嘘だったのかと国王に詰め寄れば、アッサリとそれを認めて側室になれと命令された。

花嫁は憤慨し新都に元からあった東域一の大聖堂に身を寄せたが、客室で薬を盛られ一室に鎖で繋がれた。

とっくの昔にアラルコンと大聖堂とで話がついていたのだ。

有力貴族の男どもが密かに大聖堂に『寄進』し、大聖堂の大司教達は花嫁を寄進の金額順に貴族達に『提供』した。

両手を鎖で繋がれ自由を奪われ、娼婦の如く抱かれ続けた花嫁は絶望を底なき怒りに変え、食を絶った。

枯れ木のように痩せ、花のような(かんばせ)も色褪せると貴族達は花嫁に興味を失い訪れなくなった。

大司教達も食わぬのならと食事を用意する事も、花嫁の世話をする事もなくなった。

花嫁はこの機会を待っていた。最後の力を振り絞り手首に噛み付いて引きちぎり、ベッドの上座の壁にこの国の言葉で遺言を、日本語で後に召喚されるかもしれない異世界人に警告を己の血で書いて事切れた。


『召喚されし日本人よ 決して異世界の者に心許すな

 彼らにとって我々は家畜だ 骨まで利用されるだろう』


残された人々には何が書いてあるかは分からなかった。しかし自分達にとって不都合な事が書いてあるのは間違いないので、大司教達は壁の文字を消そうとした。

しかし作業を行おうとした者は壁に近づけず、突然倒れて死んだ。最初の者が老人だった為、次に20代の若者達に洗浄させようとしたが、全員倒れて死んだ。

壁に近づく者は皆死ぬので、とうとう窓と出入り口を漆喰で塗り籠めて部屋自体を封じた。

花嫁の死体は手首を繋ぎ合わせてミイラにして大聖堂に飾っていたのだが、このような事があったためミイラを焼いて灰にして川に流してはという声が大聖堂の内部からも出たが、既に聖女の聖体目的の参拝者もたくさん来ていたため、そのような意見は却下された。

しかしミイラを展示して一年過ぎた頃、夜の墓場から死者が這い出て歩き回るようになった。

死者達は大聖堂の聖職者を始め新王都の住民を襲い王城まで迫ったので、皆新王都から命からがら脱出した。

生き残ったのは王都の住民の半数にも満たず、大聖堂と取引した貴族の過半数は命を落とした。

新王都は三角州の中にあり、死者は川を越えなかったため橋を落とすだけで事は済んだが、二度も遷都する羽目になったアラルコンは隣国から狙われるようになった。

しかし皮肉な事に亡霊がさまよう地は誰も踏み入る事ができなかったので、彼の地が防波堤になったのと聖女の授けた知識に助けられた事もあり、アラルコンは滅亡を免れた。




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