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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第四部:『アルカー・テロス ~我はアルファであり、オメガである~』
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第一章:02



・・・



アルカーが駆る、キャンディバーントオレンジに彩られたNX-6Lの前方を、

ヒュドールのXinobi650がひた走る。


海を割いてできた水の道の上を、時速300kmを越える速度で駆ける、

赤と青の二台のバイク。相反する二つの色が、残像を引いて深海へと向かう。



前方を走るヒュドールのバイク、そのバックライトを見つめながらアルカーは

自問自答していた。



(ヒュドール……天津、稚彦。奴の目的とは、何だ?)



相手の言葉をそのまま信じるなら、フェイスダウンに対して何かアクションを

とろうとしていることになるが、真実は定かではない。

ただ、こうもあっさりと重要拠点を晒したことは、確かに不可解だ。



(……ノー・フェイスは、今どうしている?)



ホオリを探しに共に外に出た後、火之夜だけが秘密裡に桜田に呼び出されたため、

彼女のことは彼にまかせきりになっていたが。


正直、敵地に赴くことを考えれば単身では心もとないが、アルカー・エリニスの

存在を考えればホオリを放っておくわけにもいかない。



(……無理に、攻め落とそうと思う必要はない。

 ようは偵察でいい……)



簡単に威力偵察を行い、この基地が簡単に移動可能なものなのかどうか

調べるだけでもいいのだ。逃げ足が早いようなら、その足を

破壊しておく必要があるし、固定されたものならば位置だけ把握して

帰ればいい。



……それに、おそらくあのアルカー・エリニス――ホデリは、ここにいない。

単なるあてずっぽうだが、そう感じていた。


多分、彼女は――自身の妹の方へ向かっているはずだ。

そちらも気にならないではないが、ノー・フェイスに全てを任せる。



こちらの問題としては――まず、目の前のヒュドールだ。

どこまで相手の言を信じていいものか皆目見当がつかないため、

警戒を捨てるわけにはいかない。背後をとられないよう常に注意を

払う必要がある。



続いての問題は、やはり三大改人だろう。

すでに前回の戦闘から大分時間が立っている。傷はいえている、と

判断するのが無難だろう。そうなると、最悪三大改人とヒュドール、

四体がかりが相手になることを想定する必要もある。




こちらに利になる点もなくはない。なんといっても、向かう先は

相手にとって最重要拠点だという点だ。


相手からすれば、多少の被害は考慮しないにしても全力を出せるわけではない。

立ち回り次第では、かなり行動を束縛できるだろう。


以前原子力発電所を押さえられたときはこちらが翻弄されたが、今度は

相手にとって嫌なところに入られることになる。



(……適当に暴れて、適当に破壊する。

 そのうえで相手の出方を見る……というのが、定石か)



無理をするつもりもない。脱出路は常に得ておくべきだ。

そんな思案をめぐらせながら、アクセルを少し戻す。




目的地が近づいたのだ。




前方のヒュドールもわずかに減速している。

さほどの時間もなく――海底基地に、二体のアルカーが足を踏み入れた。



(……?)



ヒュドールはかなり大掛かりな方法でこの基地への道を開いた。

が、それにしては静まり返っている。敵であるアルカーを迎え撃つ様子がない。



「……連中は今、"粛清"に手勢を割いているからな」

「粛清……?」



心中の疑問に答えたのは、ヒュドールだ。彼は何かを投げて寄越した。

迂闊に受け取らず、一度空中へと弾いてから物を見定め、落ちてきたそれを

掴み取った。



小型の通信機だ。耳障りな電子音が響いてくる。

耳もとに近づけると――どうやら、基地内部の喧騒が流れているようだ。



「……なんのつもりだ?」

「おまえたちにとっても、興味深い話が聞けるぞ。

 大人しくつけておけ」



多少の警戒はしつつ、たしかに情報は欲しい。耳にあたる部分には直接つけず、

肩口に挟み込んで傾聴する。



『――何様、か。おまえたちがそれを言うと、滑稽だぞ』

「……!」



聞こえてきたのは何者かと、三大改人の会話だった。




フェイスダウン。フェイス。――総帥、フルフェイス。

それらの名が意味するところ。改人の存在意義。

"改良、人類"。"改悪人類"。




そして――"()()()()"、キープ・フェイス。




一度にこれまでの認識を覆す内容の言葉が垂れ流れてきて、火之夜は混乱した。

かろうじて理解をまとめると――つまり、フェイスダウンという組織にとって、

改人は単なる()()()。だから利用するだけ利用して――不要になったから粛清する。




(……連中も哀れと言えば、哀れだが)




今までの態度から、彼らが心底自身らをフェイスダウンの要と認識していたのは

間違いない。それがこうもあっけなく覆され、不用品として始末されようとは。


彼らが為してきた行為を思えば、同情ばかりもできないが。




が、今は彼らを哀れんでいる場合ではない。問題は、ヒュドールがなぜ

こんなものを聞かせてきたか、ということだが――




「……チィッ!」




迂闊だった。

一瞬ながら、通信に意識を向けていた隙にヒュドールの姿は消えていた。

おそらく、彼の言うところの『野暮用』とやらを、済ませにいったのだろう。




通信機からは、いまだに謎の人物――"キープ・フェイス"と大改人の

会話が続いている。


 

大戦闘員、フェイスアンドロイドのプロトタイプというその存在も

気がかりではあるが――




(今、俺が気にかけるべきことはそれじゃないな)




火之夜なりに推察する。

この通信機をヒュドールがくれて寄越したのは――つまり、こいつらの動向を

チェックしながら状況をかき乱せ、ということだ。


おのずと、ヒュドールの行動も予測が見えてくる。アルカーが起こした混乱をついて

"キープ・フェイス"の裏をかく……おそらくは、そのつもりなのだろう。



裏をかいて何をするつもりなのかは――わからないが。





(……いいだろう)





確かに、こちらにとっても都合は、いい。

体よく囮として利用される形だが……どのみち、やるだけやってさっさと離脱する

腹づもりなのだ。もっとも厄介そうな敵の動きを見張れるのは、ありがたい。




(せいぜい、利用されてやるさ)




ぐっ、とアルカーはバイクのグリップを握り締めた。

海底基地の表面は、なだらかだ。その屋根にバイクごと飛び乗り、全貌を見渡す。





どこから攻めるか――などとは、考えない。

目に付いたものを、適当に燃やし尽くす。




「――"レイン・オブ・ファイア"ッッッ!!!」



愛機のエンジンと共に己を燃やし上げ、加速と同時に破壊の炎を撒き散らす。


さんざん、フェイスダウンどもにはかき乱されてきたのだ。

今度は――こちらが、奴らを混乱に陥れてやる番だ。



・・・



「――こちらの想定どおりに動いてくれたか」



基地を僅かに振るわせる振動に、ヒュドールはひとりごちる。

施設内は広く、彼の駆る大型バイクでも充分に駆け巡れる。



今、アルカーは基地の目立つ箇所を適当に破壊してまわっているはずだ。

傍受している通信からも、キープ・フェイスたちがやや戸惑っている様子が

伝わってくる。


どうやらようやく、海底基地があらわになっていることに気づいたようだ。



(まぁ……そもそも、窓などがあるわけでなし。

 気づけるようで気づけないものだが……)



しかし大海を割るとは、精霊の力はたいしたものだ。

まさに超常現象と呼ぶに相応しい。




今、この手にある力もそうだ。




先日――アルカーから奪い取った奴の力の片鱗。

"命"の精霊たる炎の精霊の、ごく一部の力だ。


ヒュドールの目的を果たすには、まずこの力を行使する必要がある。

その対象物の位置は、既に突き止めている。



(さて……)



通信機に、耳を傾ける。

アルカーの襲撃にキープ・フェイスはジェネラルを動かしたようだ。

大勢のフェイスたちを引きつれ、彼が暴れている箇所へ向かわせている。

自身はそのまま、大改人たちに対峙しているようだ。





目標が手薄になった。





(歯がゆいだろうな、キープ・フェイスよ)



本来なら、彼の力を持ってすれば三大改人などまとめて始末できるはず。

いや、そもそも"スイッチ"を押せば全て片がつく。




だが、三大改人は――総帥が天津に下げ渡す"褒章"だ。

妙なところで義理堅い彼はキープ・フェイスに直接手は下すな、と

厳命しているはずだ。彼からすれば、不承不承というところだろうが。



しかしヒュドールからすれば、時間は充分に稼げているということだ。

その間に――まず、"スイッチ"を奪う。




「改人の自壊装置、その制御中枢――この私が、いただく」



・・・



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