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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第三部:『巡る精霊、交わす胸臆』
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第四章:03



・・・



シターテ・ルは自室でくさっていた。

もはや身体は癒えているのだが、いまだに出撃許可も作戦立案の許諾も

受けられないままなのだ。



(……変と言えば、変ね)



ヤク・サではないが、たしかに言い知れぬ違和感を覚えてはいた。



現在はこの、フェイスダウンの総本拠である"ヘブンワーズ・テラス"で待機している。

名目としてはアルカー、ノー・フェイス戦で負った怪我の療養のため、

そしてしばらくはエリニスにやらせるため……ということだった。



だが、本調子とはいえずとも既に傷は治っているのだ。前回の失態ゆえに

アルカー戦はエリニスに譲らざるをえないだろうが、通常の任務――

フェイス戦闘員に感情を奪わせる作戦には従事してもいいはずだ。


だが、実際はこうしてなにもすることがなくただ無為に過ごしているだけ。

総帥閣下は、何をお考えなのだろうか。



(たんなる謹慎……ということかしら?)



考えてみれば、前回、そして前々回と改人は派手に動きすぎた。

そのことが()()()()不興をかったのかもしれない。




とはいえ、楽観的に考えてはいる。我ら改人こそはフェイスダウンの要。

そしてシターテ・ルたち三大幹部はその改人の頂点に立つものたち。



なればこそ、少々の無軌道さぐらいは許容されるというものだ。



とはいえ、暇だ。

三大幹部の直属の部下、というのも存在している。シターテ・ルの場合

副官としてだけでなく遊び相手として戯れに任命した改人もいた。


せめて彼女を呼び寄せ、話し相手にでもするか。



そう思い立ち部屋の外に出ると――



「ドチラヘ行カレマスカ」

「……なによ、フェイスじゃない。外にいたの?」



横手から話しかけてきたのは見慣れたフェイス戦闘員――無貌のアンドロイドだ。

どうやら、外でずっと待機していたらしい。



「ちょうどいいわ。レイテ・ルを呼んで頂戴。

 今は作戦もないはずだから、向こうも暇してるでしょ」

「申シ訳アリマセン。現在、改人ノ拠点間移動ハ禁ジラレテオリマス」



抑揚なく伝えられたその言葉に驚く。移動できない?



苛立ちを隠すこともなく、フェイスにぶつける。



「なによ、それ。ジェネラルの奴がそんな命令でもだしたの?

 私は大幹部。そんなもの、撤回よ」

「コノ命令ハ大幹部ヨリ上位ノ権限者カラ発令サレテオリマス」

「……総帥閣下が?」



意外に思いたずねるが、返ってきた答えはさらに予想外の答えだった。



「イイエ。総帥閣下デハアリマセン」

「――どういう、こと? 私たち大幹部の上には……総帥ただ一人のみ。

 ほかに上位権限者なんて、いるはずないでしょう!?」

「オ答エデキマセン」



憤激するこちらとは対照的に、ただ機械的に返答するだけのフェイス。

よほど破壊してやりたい衝動をかろうじて抑え、押しのけようとする。



「どきなさい。なら、直接総帥閣下にお会いして尋ねるわ」

「許諾デキマセン」



ぐっ、と押しのけようとする手を無遠慮に掴まれる。

かっとなってはねのけると、フェイスは容易く破壊される。



「――いったいなんなのよ、こいつ!?

 たかがフェイス風情が、無礼にもほどがあるでしょう!?」



憤懣やるかたない思いを抱えながら通路を進もうとすると――




「現在、改人ノ総帥閣下ヘノ謁見ハ許可サレテオリマセン」

「な……」




聞こえてきた無感情な声に慌ててふりむくと、通路の端から無数のフェイスたちが

わらわらと沸いて出てきている。気配を感じまた後ろを向くと、そちらからも

大量のフェイスたちが行く手を阻む。




「……な……

 なによ、これ!?」




混乱して、わめく。

フェイスたちには悪意も敵意もない。感情を持っていない個体だけだ。

だからこそ、彼らの行動には不気味さが伴う。



「――どきなさい、フェイスども!

 私はフェイスダウン最高幹部が一人、シターテ・ルよ!

 私の命令を覆せるのは、総帥閣下だけのはず!!」

「大幹部以上ノ権限者カラノ命令ニヨリ、受理デキマセン」



返ってくる答えはまたその内容だ。一体どういうことなのか。



「なによ、こいつら! 壊れでもしたの!?」

「――いいや、壊れていない。むしろ()()()動いている」



聞きなれた野太い声と、轟音が響くのはほぼ同時だった。

フェイスの群れが豪腕に吹き飛ばされ、ひしゃげてスクラップになる。

その向こうから現れたのは――



「ヤ……ヤク・サ!」

「地上に行くぞ、シターテ・ル。()()()()()()



その鬼型大改人は手招きし、フェイスたちを蹴散らす。


次々と起こる事態に、頭がついていかない。真っ白になった頭で大人しくヤク・サに

ついていくが、はっとなって食いかかる。



「い、一体どういうことよヤク・サ! 何があったというの?

 なんで、こいつら……」

「ここしばらく、改人たちが少しずつ始末されていた」



言い募るこちらに被せ、一方的に伝えるヤク・サ。その言葉の意味を図りかね、

口がまわらない。



「……なにが」

「俺の腹心が命がけで伝えてくれたおかげで、得られた情報だ。

 一般の改人たちは、エリニスの戦闘訓練の相手をさせられ、次々と

 殺されていった」

「な……」



彼の言うことが、理解できなかった。




アルカー・エリニス。地の精霊を宿した人間。


確かに、あれは組織にとって重要な存在なのだろう。

だからといって――たかがその訓練のために、重要な改人たちを

使い潰していると?




「……そ、そんなわけないでしょう!?

 改人は、このフェイスダウンにとって……」

「必要な存在ではなかった。

 ――我々は、時がくれば排除される……そんな程度の存在でしか、

 なかったということだ」



信じがたいことを、ヤク・サがさらりと言う。

その表情を見れば言った本人も認めがたいものがあるのだろう。だが、

はっきりとした確信を持って言い切る。



「……このままここにいれば、我々も始末される。

 とにかく、この本拠地を出るぞ!」



先陣を切るその背中を眺めながら、シターテ・ルはいまだに事態を飲み込めない。

が、その行く手をさえぎるように次々と現れるフェイスの群れ――


いや、実際にこちらを捕縛しようと、不遜にも襲い掛かる彼らの姿を見ては、

ヤク・サの言葉に一抹の真実を認めざるを得ない。



(ど……どういう、ことなの……どうして、私たちがフェイスに襲われる!?

 そ、総帥閣下……我々は……我々、は……)




きたるべき新世界。そこに君臨するは、優良種として生まれ変わった改人たち。

彼女たち改人は総帥よりその言葉を賜り、これまで尽力してきた。



フェイスダウンのすべては、改人を生み出し世界の覇者に据えるためにある。

そう聞かされて、いままで任務をこなしてきたのだ。




それが――時がくれば排除される? 我々が?

……信じられない。信じたく、ない。




だが、エリニスの言葉と態度が思い出される。





(――そう。おまえたちは、私の()()を集めるのが仕事だった。

 それももう終わり。……あとは私が、やる)





アルカー・エリニス。地の精霊。

あんなものが存在するなど、聞かされていなかった。

そして自分たちを明確に見下す、あの少女――




あいつは、私たちより深くフェイスダウンを知っている。




慄然とする。この組織の最高幹部として、君臨していたつもりだった。

だが今更にして、その全貌のほとんどを知らないことに気づいたのだ。



改人や各種装備を作り出した、その超技術の出所は?

総帥は、一体何者なのか?

なぜ、精霊を保有していた?

そして――




――フェイスは誰が作っている?




(……)




シターテ・ルもそれ以上は無駄口を叩かなかった。

襲い来るフェイスを薙ぎ散らし、残る一人の三大幹部――

ヤソ・マのもとに向かう。



「……奴と合流したら、地上のアジトへ向かう」

「……ええ」


今度は口答えせず、従う。

たしかに、ここにいたらマズい。




だが。





(……私たちの中には――自壊装置が、ある)




もし、その装置を起動する"上位権限者"が現れたら。

なすすべもなく、滅ぼされることだろう。



ぶるり、と体が震える。

背筋を伝う恐怖は、改人となってから初めて味わう感触だった――。



・・・



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