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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第三部:『巡る精霊、交わす胸臆』
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第四章:Go ahead the way that you believe



・・・



ホオリは、戦慄していた。そして打ちのめされていた。



目の前には、累々と倒れる人々の姿がある。ホデリ――

錆色のアルカーの攻撃を受けたのだ。



幸い、ホオリの心から"雷の精霊"が発現し、大部分を防いでくれた。

だが、全てを守りきれず何人かは怪我を負ってしまった。



(リオ……!)



ほんの数時間前に知り合ったばかりの少女。さきほどまでは人を見透かしたような

笑みを浮かべていた彼女が、今は血だまりに伏している。


はやく病院につれていかなければ。


そう心は焦るが、身体は動かない。

怯えているのではない。目の前にいるアルカー……自身の姉が放つ、悪意の波動に

あてられ動くわけにはいかないのだ。



フェイスたちは――明確な目的があった。人間から感情を奪い、自分のモノとする。

だからこそ無意味な破壊や殺戮はしない。目的のために合理的に動く。



彼女は違う。



迂闊に動けば――その死角をついて、周りの人間を容赦なく攻撃するだろう。

そこに意味などない。ただ……そうすれば、ホオリが悲しむから。

そのためだけに、人を傷つけられる。そんな悪意が、むき出しになって

たたずんでいる。



(……ッッ)



その悪意は、心の中に流れ込んでくる。こうして直接対峙することで、

ホデリの胸中が精霊を通じてつながってくるのだ。



ここしばらく、どこからか流れ込んできた昏い感情。その出所がこの

目の前にいる『姉』が抱いていたものだと、いまさらながらに

理解していた。




「……ひどい顔」




冷たく嘲笑う声で、錆色のアルカーがつぶやく。



「おろかだね、ホオリは。自分がしでかしたことのせいで、

 周りの人間が苦しむ。傷つく。いまさら、気づいた?」

「……ッ……そ、それは……」



ぐりっ、と首をまわし、ホデリが感情の読めない複眼でねめつけてくる。



「そのくせ……そのくせ、おまえはいつもいつも助けられる。

 今日だってそうでしょ? その娘たちに、助けられた」



指差すのは倒れふしたリオと、そこにすがりつくミナだ。

ミナはリオの傷口に布を当てて押し付け、茫然としている。



「……どうして、かな。どうして……おまえばかり、みんなに助けられる?

 私は……私はいつも、置いていかれる。誰も――助けてくれないのに!」

「な、なにを……」



問いかけようとして、強烈な洪水のような記憶が心の中に流れ込んでくる。



フェイスダウンによる生体実験。

脱走する両親。

連れられるホオリ。



そして――置いていかれる、ホデリ。



それは姉が抱いてきた闇の記憶なのだろう、とすぐに理解できた。

精霊を通じ、十四年間ぶんの絶望を、ぶつけてきたのだ。


――。




「――オリッ! ホオリッ! だ、だいじょーぶかよッ!?」




――気がつけば、息を荒げ自分の胸を強く抑えていた。

その記憶に込められた、あまりに深い絶望と悪意に、耐えかねたのだ。

ミナが恐怖しながらも必死に呼びかけてくる。




「わかった? 貴女が、どれほど恵まれてきたのか……

 どれほど愛されてきたのか。理解できた?」



くすくすと軽やかに――そしてどこか虚しく、ホデリが笑う。



「フェイスダウンに捕らわれた父と母は、貴女だけを連れて逃げていった。

 置いていかれた私は――"土の精霊"『ベヒーモス』をこの身に宿され、

 実験生物として身体をいじくられ続けた……十四年間もッッッ!!!」


壮絶な告白だった。


ホオリは――今まで、自分の人生はフェイスダウンに奪われたと思っていた。

だが、この姉は。彼女はほんとうに――生まれてから今日までの人生全てを、

フェイスダウンに利用されるだけされつくして、生きてきたと言うのだ。



「精霊を、適合者でない者に強制的に融合させる技術。その確立のために、

 私には色んな人間の感情が注ぎ込まれ続けた。

 ――大抵は、どろどろとした悪意、だけど」

「ね……ねえさ……」

「――姉などと呼ぶなッ!!」




怒号。




ホデリの憤怒が礫となってあたりを飛び交い、雷の精霊がそれを迎え撃つ。


その度に、胸が苦しくなる。力のほとんどは、ノー・フェイスのもとに

宿ったのだ。彼女が発揮できる力など、限られている。




「――貴様にッ! 貴様にとって、私なんて……姉でもなんでも、ないでしょ?

 貴女たちは――貴女の両親は、私なんていらないと、置いていったんだから」

「ち、ちが……」



苦しい息の中で、否定しようとする。


ホオリの知る両親は、優しかった。姉と妹、どちらかだけいればそれでいいなどと

思うはずがない。ただでさえ、フェイスダウンから逃げ出すのは

困難を極めたはずだ。おそらく片方しか連れ出せなかった、ただそれだけのはず。



姉がいらないなどというはずがない。



が、今の彼女には言葉が届きそうにない。憎悪と嘲笑に心が曇り、何者も

受け入れないかたくなさが、伝わってくる。



まるで暴風のようだ。

悪意そのものの信徒、とでも呼ぶべきか。


ホデリがフ、と笑った気がした


「……でも、いいの。私はおかげで力を手に入れた。

 気に食わない何もかもから、奪い取れる力を。

 ――もう、じゅうぶん堪能したでしょ? 助けられることは。

 だから……今度は、失ってみればいい」

「――ッッッ!!」



アルカーの周囲に土くれが舞い始める。

今度は、本気だ。先ほどまでのお遊びではない。

本気で――周囲の人間を轢き殺すつもりだ。



生まれて初めてできた――同年代の、"友達"ごと。




「だ……ダメェェェェェッッッ!!!」




悲しみ。


感情を奪われたホオリに、その思いが強く蘇る。

目の前で仲良くなった相手が殺されようとしているのに、何もできない。

その無力感に打ちひしがれたホオリを見て、ホデリが笑った気がする。



土くれが空を舞い――






「――"ジェネレイト・ボルト"ッッッ!!!」






――空中から影が飛来し、錆色のアルカーに掴みかかる。

そのまま二人を中心に雷光が網となって包み込み、拘束する。




「――ッッッ!!! き、きさまぁぁぁぁぁッッッ!!!」




ホデリが、怨嗟のこもった声で吼える。




ああ。




そうだ。確かに、ホオリはいつも守られてきた。

あのたくましい腕に抱かれ救われたあの夜から。



今も、また。無貌の仮面が、きてくれた。





「――ノー・フェイスッッッ!!!」



・・・



(間に合った、と言っていいものか……)



激しく雷光がはじけるただなかで、ノー・フェイスはうなっていた。



すでに、多くの人々が倒れている。中にはかなりの重傷をおったものも

いるようだ。今、ノー・フェイスがエリニスを抑えている間に

PCPの面々が救助を行っているが……



「……またか。また、あの娘は助けられるのか。

 あの娘ばかりッッッ!!!」

「アルカー・エリニス……いや、ホデリ」



憎しみを搾り出すような声で暴れるエリニス。

その姿はあまりに痛々しいが、今は力づくにでも圧しとどめなければならない。



「……オレは、おまえも助けたい」

「戯言をッッッ!!!!」



ばぎり、と音を立てて抑えた腕に岩石がまとわりつく。

そのまま腕をへし折ろうと圧搾してくる。



「私のことが、憎いでしょう!?

 愚かなガキだと、見下しているはず!

 助けるなんて……そんな気、ないくせに!!」

「……」



この少女の闇は、どれほど深いというのだろうか。

無理もないかもしれない。



彼女は生まれてから十四年間、愛を与えられたことなどないのだ。

フェイスダウンの元で、ただただ実験生物(モルモット)として

扱われる毎日。


彼女には――情など、信じるにたらないものなのだろう。




(どうすれば、いい。

 どうすれば――この少女の、()を救えるのだ)




そうだ。

この少女を真に救うには、フェイスダウンの呪縛を解くだけではダメだ。

その心を、救わねば。

ノー・フェイスには……この哀れな少女を、ただ"敵"として処理することなど

できるはずもなかった。




"力ある言葉(ロゴス)"の効力が切れる。




ばっ、とエリニスから離れ、距離をとる。

既に周囲の避難は完了している。いや――




「……ホオリ!」

「わがまま言って、ごめんね。

 でも――この人の前にだけは、一緒にいさせて」




いまだ幼さの残るその顔に、強い決意を示して宣言するホオリ。

ノー・フェイスは何か言い返そうとして――やめた。




ノー・フェイスには、家族はいない。

なら、彼にはわからない思いが二人の間にはあるのだろう。




竹屋の言葉を思い出す。


自分が知らないまま、全てが終わるのはイヤだ。


彼女も――そうなのかもしれない。

もはやたった一人残された姉の行く末に、自身が関われないのは、

イヤなのだろう。



ぐっ、と無言で彼女の前にたちはだかり、エリニスと対峙する。



いいだろう。

彼女がそうしたいというのなら……そうさせてやろう。




己の役目は、()()()()を守ることだ。

そう自身に定めて、大地を踏みしめた。



・・・



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