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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第三部:『巡る精霊、交わす胸臆』
68/140

第二章:裏より蘇りし者



・・・



「――"ライトニング・ムーヴ" "サンダーウェブ"!!!」


強引に"力ある言葉(ロゴス)"を同時発動する。

亜光速移動で音速で飛翔する榴弾を越え、御厨たちの前に立ちはだかり

そのままノー・フェイスを中心にして、雷光が蜘蛛の巣のように

幾何学模様を空に描く。



遅れて飛来した榴弾が胸の中心に直撃し、弾頭がつぶれて炸裂する。

流石に衝撃が辛いが、ダメージというほどのダメージでもない。


飛散する破片が、雷の糸に絡め取られ、蒸発していく。

ほとんどは防ぐことができたが――



「……ノー・フェイスッ!!」


いつになく焦燥したアルカーが傍に駆け寄る。

油断なく敵を見据えながら、肩越しにこちらを見やり――



「う……」



――カメラを持った民間人は、無事だ。呻きながらもずるずると

御厨の身体の下から這い出ている。

そして、御厨は――倒れたまま、動かない。



ほとんどの破片は防いだ。だが、たった一枚の金属片が、

彼女の腹に突き刺さっていた。……かなり、深い。



「御厨! 御厨ッ!! 返事をしろ、御厨ッッッ!!」



アルカーが狼狽して叫び呼びかける。だが彼女は答えない。

ノー・フェイスはすぐさま彼女の容態を精査する。


重篤な怪我は、腹部だけだ。だがその破片が動脈を

傷つけている恐れがある。傷口を抑え圧迫止血を行う。

……内蔵を傷つけている恐れもあるが、まずは血を止めねば。



「御くり……ッッッ!」


御厨に手を伸ばそうとしたアルカーが、その腕を翻し

敵の一撃を受け止める。


ぎりぎりと鍔迫り合いをしながらようやく、相手の姿を確認する。



「……ッッッ! キサマァッッッ……!!」

「……」



アルカー。

そう、アルカーだった。敵は、()()()()()()()()


改人ではない。見た目だけ、アルカーに似せた者でもない。

ノー・フェイスの――そしておそらくは、アルカーの中でも、精霊が言っている。



あれは紛れもなく、精霊の力を得たアルカーだ、と。




「……アルカー、奴を引き離してくれ。彼女は下手に動かせない。

 救助班を呼び込まないと……」

「……任せろ。だから……頼む」



これまでに聞いたことないほど切実な声音で言い置き、未知の敵へと

駆け出す。あの謎のアルカーも気にはなるが、まずは彼女を救出せねば。


「う……ノ、ノー・フェイス、か……」

「しゃべるな。血が吹き出る」


かろうじて意識をとりもどしたようだ。視力も戻っていないようだが、

とにかく一刻も早い手当てが必要だ。


「――おい、そこのオマエ。今なら安全だから、救助を呼んでくれ。

 いますぐこの場を離れなければ……」

「い、いや、ちょっと待ってくれ。まだこれからカメラを

 まわさなければ……」

「――なにを言っている?」



面食らっておもわず顔を上げる。だが彼自身もやや混乱していたようだ。

はっとなって頷く。


「あ、ああ。そうだな。そうだ、助けを呼ばなければ。

 す、少し待っていてくれ」



そういって駆け出し――一度戻ってカメラを手に取ると、今度は

本当にこの場から立ち去った。

……人が重傷を負っているのに、カメラなど気にする余裕が

あるというのだろうか。



「……人間は、強欲な、ものだなぁ……」

「しゃべるなと、言っただろう」


苦しげな息の中で、皮肉げに口元を歪ませる御厨。



「そ、その場の感情でリスクや他人への迷惑が見えなくなる。

 ……改人はたしかに、人間だな。

 醜悪な、人間の……ッ、戯画化だよ……」

「……」


なにか思うところがあるのか、あるいは痛みにうなされているのか。

こちらの制止も聞かずに滔々と語り続ける。


流れ出た血の量を推量するに、意識がとびかけているのだ。

このまま気を失えば返って危ない。それを理解して

無理に喋っているのかもしれない。



「わ、私は……時々、思うんだ。改人とは……改人が、無為なことをするのは

 ……そんな人間の、悪癖ばかり、強くなっているのではないかと……」


遠くで、轟音が剣戟のように鳴り響く。

アルカーと錆色のアルカーが、激突しているのだ。



遠めに見ると、アルカーは常に爆炎を吹き上げている。あんな火之夜の姿を

見たことなどない。限度を越えた激昂が、暴走さえ起こしかけているように見える。



(まずいな……)

「……ああ、まず、い。ひ、火之夜は……怒りに、我を忘れてる……

 あ、あれでは……ッ! せ、精霊の力で、自らを焼き焦がし……」

「……怪我人はどこだッ!」



御厨の言葉を遮って怒号が響く。見れば自衛隊の陸士が担架を抱えて走りよる。

彼らを呼び寄せ、御厨の治療を任せる。


「……助かりそうか?」

「わからん、腹の具合を確かめんと……

 幸い、御厨警視の血液型は判明している。すぐに輸血の準備をすすめる」



状況は未だに予断を許さないが、今は彼らに任せるしかない。

まずは、脅威を排除しなければ……



「ノー・フェイス。火之夜を……アルカーを……」

「わかっている。おまえこそ、アイツが戻ってきたときに悲しませるな」



短い言葉にありったけの信頼を押し込め、彼女を安心させようとする。

その様子を確かめる間も惜しんで、アルカーのもとに駆け寄る。



「おおおおぉぉぉぉぉぉぉッッッ!! 貴様、貴様ァァッッ!!!」



……アルカーは鬼と化していた。

あたりかまわず炎を撒き散らし、相手を焼き尽くそうとしている。

だが錆色のアルカーはひらりひらりと避けて、つかまらない。



(消耗を待っている)



冷静に判断する。まずは、こちらのアルカーを抑えなければ。



「――アルカー、落ち着け! 御厨は引き渡した、

 一度態勢を……」

「黙れッ! 奴は、奴をしとめなければ俺はッ……!!」



常ならぬ彼の有様に一瞬気圧されるが、覚悟を決める。



「落ち着けッ!!!」

「――グアッ!!」



右腕で、アルカーをなぐりつける。怯んだアルカーは

逆上しこちらに向き直るが――



「――! おまえ……」



垂れ下がったノー・フェイスの左腕を見て、落ち着きを取り戻す。

……"力ある言葉(ロゴス)"の同時発動は、あまりに負荷が大きすぎる。

内側のフレームが砕け散ったのだ。しばらくは、ものの役にたつまい。



「……すまない、ノー・フェイス」

「いいさ。サポートを頼む」



常の様子を取り戻したアルカーが、こちらの左側に立つ。

ノー・フェイスも彼の激昂ぶりに戸惑うものがあったが、

この様子なら大丈夫だろう。





「……なぁんだ。もう、落ち着いちゃったか」





……今度は、ノー・フェイスが平静を失う番だった。





その見た目とはまるで違い、軽やかに響く()()の声。

それは錆色のアルカーの声だったが――もっと身近に、聞いたことがある。




「バカな……」



ぽつり、と声を漏らす。ありえない。

だが、ノー・フェイスの音響センサーは記憶にある声紋と今の声紋が

ほぼ一致していることを理解していた。




「もっと、怒ればいいのに。憎めばいいのに。

 あの女を攻撃した私を。無駄に邪魔した、あの男を。

 ――守り損ねた、その人造人間をッッッ!!!」




面白がるような声に次第に怒りがこもり、やがて呪うような響きのあと

怨嗟の声そのものへと変貌する。この声がそんな昏い情念に満ちたものになるのは、

初めて聞いた。




この数ヶ月間、毎日のように聞き続けてきた声。

ノー・フェイスにとって……誰よりも、なじみの深い、少女の声だ。





「そうだよ。守れなかったんだよ、そいつは。

 みんなを守るっていうくせに。守れないんだ。守る気もない。

 ――自己満足なだけのくせに、えらそうにするなッッッ!!!」





窺い知れない、底深き憎しみの声がノー・フェイスの耳朶を焼く。

この少女の声がそんなことを言うはずがない。なぜなら、この声は――





「――ホオリ――!!!」

「……ホオリ? 違うよ。私はあの子じゃない。

 私は――アルカー・エリニス。復讐の女神」





錆色のアルカー……"アルカー・エリニス"が両手を広げて嘲笑う。

その腕に世界の全てを包み込み、憎しみと嘲りで押しつぶすかのように。





「私は雷久保ホデリ。父も母も、妹も私を置き去りにして逃げていった。

 そして――オマエもだ、ノー・フェイス。偽りの救世者(ヒーロー)




底知れぬ悪意が、そこに顕現していた。



・・・



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