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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第二部:『改人戦線』
45/140

第三章:03

6/24投稿分 3/3



・・・



「……いったい、どういうことなんだ……」

「ああぁぁぁもう、そりゃ私の方が言いたいわよ!」


茫然と立ち尽くすノー・フェイスに、ヒステリックに頭をかきむしりながら

桜田が怒鳴り返す。周りにいるメンバーもみな、途方にくれるばかりだ。



改人は、原発施設に爆弾を仕掛けたと宣言していた。

だが十時間にもわたる入念なチェックの結果は――爆発物の

設置された痕跡は、なし、というものだった。


誰かが解除した、とかではなくもともと設置されていなかったのだ。

おまけに、フェイスや改人の姿もこつぜんと消えうせていた。



ここがフェイスダウンに襲われた、ということを示す証拠は

わずかながらノー・フェイスが倒したフェイスの残骸のみだ。



つまり――



「――つまり、こういうことか?

 あの改人の言うことやることすべては虚言で。

 奴はただ、我々や世間をかくらんし、やるつもりもない

 爆破テロを匂わして散々振り回し、逃走した、と」


現場にきていた御厨女史が、釈然としない面持ちで結論づける。

釈然とはしないが、どうまとめてもその結論しかない。


「何かの陽動とか――」

「施設の精査も行ったが、全ての機能は正常に稼動。緊急停止装置も

 問題なく発動している。核燃料など、なくなっているものもない。

 どこか、別の場所でフェイスダウンが活動していた痕跡も、

 今のところは見られない」

「マッジで人騒がせしただけってことっすか?」


げんなりとした顔で肩を落としているのは竹屋だ。彼や桜田たちは

この十時間広大な敷地をかけずりまわり、いつフェイスや改人に

襲われるかわからない緊張感の中、爆弾探しに奔走していたのだ。


「……大変だったな」

「ケッ。仮面野郎に労われてもうれしかねぇよ。

 オペレーターちゃんとかに優しくおつかれさま、って

 いわれてぇなあちくしょう!」

「……あまり言いたくないが、プライベートでしつこく

 言い寄らないで欲しい、と頼まれているぞ」

「嘘でしょ本部長!?」


なぜだー! と叫ぶ竹屋は置いておき、げっそりとして

座り込んでいるアルカー……いまは装身を解除している

火之夜のもとに歩み寄る。



「……わけのわからない相手だったな」

「……ああ」



口数が少ない。混乱と疲労が、そうさせているのだろう。

わしわしと髪をかき乱し、とまどった様子を隠せない。



「……不思議なんだ。

 奴はあの時、爆弾をしかけた、と言っていた。

 ――オレには、奴が嘘を言っていたとはどうしても思えない」

「だが、現に――」


火之夜の言葉に反論する。

現に、爆弾は設置さえされていなかったではないか。


「ああ。だから、俺は――ほんとうは、奴は爆弾を

 しかけたつもりでいたんだという気がしてならない。

 ……だが、奴にとって何かのイレギュラーがおきた」

「……イレギュラー?」


少しの間、顔の前で手を組み思い悩むが――すぐに首を振る。

なにも思いつかない、と答えるだけだ。


「わからないさ。俺は御厨のように頭がいいわけでもないしな」

「……一つだけ、考えられることはある」


ちらり、と火之夜が目線をあげその先を促す。


「……今回の行動は、フェイスダウンにとってメリットが見えない。

 それどころか、ここを襲うのは奴らにとってデメリットばかりが大きい。

 ――だから、あの改人より()のものが、作戦を

 無理やりに中止した、という可能性だ」

「じゃあ、今回の作戦自体があの改人一体の独断だと?」


疑わしげに言ってみてから、これまでの改人の言動からして

ありえない、とは言い切れないと気づいたのだろう。渋い顔をして

押し黙る。



「……まだ全貌が明らかになったわけじゃない。

 だが、それが一番しっくりくる答えだと、俺は思う」

「わからなくはない。わからなくはないが、な……」



火之夜は腑に落ちない様子で呟く。

もっとも、気持ちはノー・フェイスも同じだった。



仮に、今回の件が改人の独断だったとしよう。

では――その改人の目的は、なんだったのだ?



・・・



「ヤ、ヤク・サ! きっ、貴様……貴様のところの

 部下は、なんということをしでかしたのだ!」

「知らんな。部下の行動など、いちいち見てられるか」


心の中で自身の命に殉じたキー・チにわびつつ、知らぬ顔を

貫き通すヤク・サ。彼に食って掛かるヤソ・マはあっさりと

それを信じたようだ。



まったく――この俺を本気で戦闘のことしか頭にないと

信じているのだから、この堅物は――



もっともそれはそう見えるように振舞ってきたヤク・サの賜物だ。

それに半分くらいは、間違いでもない。



「アナタねぇ……いくらなんでも、今回のことはそれですまないわよ!?

 総帥は、()()()()()()()()()()()()()()()()からいいものを。

 ただでさえここのところ失墜している権威を、貶めないでくれる!?」

「……」



馬耳東風な様子を装いつつ、さきほどの謁見を思い出す。



懸念していたのは、組織における改人の本当の立ち位置だ。

もしヤク・サが疑念を抱いていたとおり改人が組織にとって

さして重要でないとしたら、今回の件でなんらかの介入をしてくるはず。

改人に対するなんらかの懲罰もありえるだろう――と踏んでいたのだが。



結果は、特になにもなし。

どうやら()()()()()()()()()()()()()|

れ《・》、三大幹部も

ほんの少し小言をもらっただけだ。総帥は鷹揚に許してくれた。



(……俺の、考えすぎだったか)



あらためて考えれば、当然かもしれない。

我々改人を生み出すために膨大なコストが支払われているのだ。

ひとやまいくらのフェイスとは、価値が違う。

そんな多大な労力をはらって作り出した改人を、

ぞんざいに扱うなど――ありえるはずも、なかったか。



(……であれば、キー・チの奴には悪いことをしたか……)



忠実な自身の部下に黙祷をささげる。

もっとも、奴がやられたことだけは想定外だった。


アレはヤク・サにとっても腹心の一人。正面切って戦うならともかく、

逃げに徹すればそうやすやすとやられるはずもないのだが。



(……まあ、勝負は時の運か。ようはツキが悪かったのだろう)



そう結論づける。

思索を終えると、耳からシャットしていたヤク・サとシターテ・ルの

やかましい声が音を取り戻していく。



「――だいたい、『試したいことがある』なんて言っておきながら、

 アナタは何をしたっていうのよ!? 部下にどう命じたか知らないけど、

 あんなことまでヤレって言ったわけ?」

「そんなわけないだろう」


しれっと嘘をつく。キー・チ一人に汚れをひっかぶせるのは心が痛むが。


「俺が命じたのは、アルカーたちが動きづらい施設で戦え、ということだけだ。

 まさかあんな場所を襲うなど、思いもしなかった」

「だったら最初から禁じておかんか!」


ヤク・サがけたたましく怒鳴る。



(まったく、能天気な大幹部どもめ……)



戦闘狂、ヤク・サ。そう見られるよう意識してきた。

――なぜ、そうしてきたかは実のところ自分にも

よくはわかっていない。



だが。



だが、少し思う。

自分は――



(今回のことに限らず、この"フェイスダウン"という組織に

 なんらかの不信感を――最初から。抱いていたのではないか)



……実は、まだ納得しきれてはいない。



改人は、自身の感情や衝動を制御できない。

理性や知性を越えて、それらに従わざるを得ない。




ひょっとしたら、"懐疑"や"邪推"が自分の改人としての資質なのかもしれない。

そもそもが――なぜ、改人はそんな資質を持っているのだろうか。



どうしても――どうしても、疑念は尽きずにヤク・サのなかに

くすぶり続けるのだった――。


・・・




今更ながら、裏設定的余談。


実は、この作中世界では「スーパーマン」は誕生しませんでした。

必然、アメコミヒーローも生まれず、日本においてウルトラマンや仮面ライダーが生まれることもない。

作中で使われる「ヒーロー」という単語には「漫画のような」という意味はなく、

本来の意味どおり「英雄的存在」という形で使われております。


シン・ゴ○ラと同じような話ですね

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