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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第二部:『改人戦線』
44/140

第三章:02

6/24投稿分 2/3



・・・



「ハハハハハ! ハハハ、ハハハハハハハハ!!」

「クソッ……!」



慇懃な物腰に反して、癇にさわる笑い声を撒き散らす改人に

ノー・フェイスは歯噛みするばかりだった。



この改人は、ごく短距離の転移能力を持つようだった。

アルカー・アテリスが行う"ライトニング・ムーヴ"は単なる超高速移動。

それに対し、ほんのわずかながら本物のテレポーテーションを

発動できるようだ。



野外や、広い場所ならそこまで脅威ではない。

背後を取られやすいという危険性はあるが、対処の仕方は

いくらでもある。



だが、ここでは。

この狭い施設の中では、この能力は極めて厄介だった。



ノー・フェイスが飛びあがり、カラス天狗改人を捕えようとする。

が、その直前で煙のように掻き消えてしまう。


「ハハハハハハハハ! どうしたかね?

 私はここだ、ここにいる!」


バン、とドアを開けて脇の部屋から改人が飛び出てくる。

苛立ちながらそちらに向き直り、飛び掛るもやはり消えうせる。


「ハハハハハハハハハハハ! ハハハハハ、ハハハ!!」

「チィィッ……!!」 


……なんという疎ましい改人だ。


ノー・フェイスの頭の中には原発施設の構造は叩き込まれている。

が、ここは原子炉に極めて近い位置にある。冷却系のパイプが、

縦横無尽に壁を床を這う。

迂闊に破壊すれば、どんな被害があるかもわからない。


その状況をこの改人は最大限に活かし――ひたすら、ノー・フェイスを

翻弄することに終始していた。



まるで戦う気概が感じられない。とにかく逃げ回り、挑発する。

引き込まれているのはわかるのだが、それを無視して

見逃すというわけにもいかない。


(やり手だな。やり手だが――目的が、見えん)


脳内で考えられる可能性をピックアップし、シミュレートする。

一つ考えられるのは、被爆だ。ノー・フェイスやアルカーを

原子炉付近におびき寄せ、そこで核燃料を露出。


アルカーもノー・フェイスもそれで損害は受けない。

が、高濃度の放射線にさらされた身体は、放射能を帯びかねない。

そうなっては、CETの援護を受けるどころか、人間社会に

戻ることすらままならないだろう。


(それが狙いか?)


しかし、それにしては敵の誘導も消極的だ。

もっと奥へ引き込もうとしてもいいはずだが、外縁をぐるぐると

回るようにノー・フェイスを引きずり回すばかりだ。



そんな憶測をいくつも頭の中に流していると、

改人が奇妙なことを口走る。



「ハハハ……なかなかやるではないか。

 配置していたフェイスも、相当数がやられていたとは」

(……?)



いぶかしむ。

ノー・フェイスが倒したフェイスの数など、たかが知れている。

アルカーの方も、まだ改人はおろかフェイスにすら

遭遇していないらしい。なのに、相当数とは――どういうことだ?



「ハハハハハハハ――ハッ!?」



哄笑が途絶える。

ノー・フェイスをあざ笑っていたその背に、

アルカーが急襲したのだ。



惜しいところで攻撃は外れ、ふたたび改人の姿が見えなくなる。

アルカーと合流し、背をつきあわせて周囲を見渡す。



「ハハハハ……どうやら、アルカー二体が揃ったようだな。

 では、教えるとしよう。この施設には――

 爆弾をしかけてある」

「――ッ!?」



アルカーの緊張が背中から伝わる。

やはり、核燃料の奪取ではなく被爆が目的か?



「逃げ出すも、探し出すも君たちの自由だよ。

 しかし……私たちが、黙って見ていると思わないでくれよ?」



その声はだんだんと遠ざかっていき、気配が消える。

……厄介なことになった。



「桜田、御厨女史! 聞いていたか!?」

『ああ! こちらでも偵察班と警察の爆発物処理班の混成チームを

 待機させていた。彼等を投入し、爆弾の捜索と解除を行わせる!』

「オレたちは、彼らの護衛に徹するべきか」



アルカーと顔をつきあわせ、踵をかえして ふたたび分かれる。

一体どのぐらいの爆弾が仕掛けられているのか、

あと、どれぐらいの時間があるのか。遠隔起動するのか。

なにもわからないまま、探し出さねばならない。



「――アルカーは桜田のチームを! オレは竹屋のチームの

 援護にまわる。奴が現れたら――」

「ああ、無理に追わず追い返す。奴を倒すのは、

 安全を確保してからだな……!」



・・・



「……?」


キー・チは施設内を跳びまわりながら、疑念を抱いていた。

フェイスたちが、いないのだ。


アルカーたちに倒された、というのも違う。それならばフェイスは

躯体が残るはずだ。だが、配置していた場所にはその残骸すら

見当たらない。


「……どういうことだ」


CETの連中に、フェイスを回収するような余裕があったとは思えない。

だとすれば、考えられるのは――フェイスたちが、

自分で持ち場を離れた、ということぐらいだ。


「バカな――?」



ありえない話だ。

自我を手にしたフェイスでさえ、日頃どれだけ改人にバカにされようと

命令には絶対服従する。それが、"戦闘員"である彼らの役目だ。



ましてや、自我を持たないフェイスが命令に背くなど。



「――爆弾はどうした!?」



確かにフェイスたちに命じたはずだ。にもかかわらず、

どこにも爆弾が見つからない。



ふと、背筋がぞっとする。このうすら寒い施設の中で――まるで、

自分ひとり閉じ込められたような錯覚だ。



逆らうはずのないフェイス戦闘員が、命令を履行しなかった。

爆弾を設置せず、持ち場を離れ、いずこかへと消え去った。

これは、つまり――







「ま、そういうことだな」







ばっ、と背後をふりかえった。

こつ、こつ、と硬い音を立てて何者かが歩いてくる。

闇の中から――誰かが、近づいてくる。



「あいつらは帰ったよ」

「なに?」



影に隠れて、その相手が何者なのかわからない。だが、

()()()()というのがフェイスをさすことは理解できる。


「知らなかったか? ウチは定時上がりがモットーでな」

「ふざけるなッ!!」


余裕綽々のその態度にいらだち、声を荒げてしまう。

いや――いらだっているのではない。

焦っているのだ。恐怖しているのだ。



総帥に無断で行った今回の任務。

連れてきたフェイスたちは指揮官である改人に何も言わず、消えた。

――そして、目の前に現れたキー・チの知らない存在。


こいつは――



「お察しのとおりさ」



こつ、こつ、とさらに近づいてくる。

その存在が光のあたる場所に歩み出て――ようやく、その正体が見えた。



「バカ、な――」

「オレは、貴様らの処刑人さ。

 フェイスどもに改人の命令を覆させることができ。

 ――そして()()()()()()()()

 押す権限を持った、貴様らの――上位に位置するもの」

「バカな――」



ありえない。

ありえないことだ。

なぜなら、こいつの姿は――



「今すぐ自壊装置を発動させて、灰にしてやることもできるが――

 それじゃ楽しめまい。少し、遊ぼうじゃないか」

「バカな……ッ!!!」



ああ、ヤク・サ様。

あなた様の危惧は、正しかった。



通信が封鎖されている。

いざというとき、ヤク・サに真実を伝えるため確保していたはずの

秘密回線だ。

それが、一切つながらない。この目の前の存在が、閉じてしまったのだ。



改人を、大幹部である大改人を越える権能をもって。



キー・チは全て理解した。自身の暴走が茶番であり、ヤク・サの企みを

()()は看過しているということも、含めて。



我ら"改人"は――



「――ああああああああああぁぁぁぁッッッ!!!」



キー・チがその存在に襲い掛かる。もはや、こやつを倒すしか道はない。

その鋭い爪が相手に届く瞬間、転移を行い相手の背後に出現する。


転移しても、勢いは失せない。突き出した爪は処刑人のうなじに――




突き刺さらなかった。




相手はキー・チの行動を完全に読みきっており、なんなくその腕をとらえると

あっさりとへし折る。

痛みに呻く間もなく、顎に強烈なニーキックが炸裂する。

天井にたたきつけられ、意識が混濁する。



圧倒的な強さだ。あのアルカーとノー・フェイス、双方を

翻弄さえしたというのに。まったく通用していない。



この処刑人は、強い。改人よりも、間違いなく。

だが、それはありえるはずがない。

ありえるはずが、ないのだ。


なぜなら――



「貴様は――き、貴様は……ッッッ!!!」

「遊びにすらならんかったな」



その声を遮るように降ろされた足がキー・チの頭に踏みつけられ、

踊りに踊らされた哀れな改人は、灰になって消滅した。



・・・



「……まったく。アイツも詰めがあまいと思うね。

 こんな連中、もっとガチガチに縛り付けてしまえばよいものを」


処刑人は足の裏についた灰をこそぎおとしながら、愚痴る。


あの総帥どのも、妙なところで変な義理を見せる。

きっと、せっかく作ったのだから使ってやらねば悪い、と思っているのだ。


「……別に、さっさと廃棄処分にでもしてしまえばいいと思うんだがね」


かかとに体重をのせて方向転換し、歩き去る。まだ、自分が

アルカーたちの前に姿を現すのは時期尚早だ。

万が一とはいえ、ほかの改人に姿を見られても厄介である。



きっと、彼の姿を見て誤解するだろうから。



陰気な仕事だった。もっと楽しめる仕事を、早くやりたいものだ。

改人を瞬殺した処刑人はそんなことを思いながら、その場を立ち去った。



赤い光を一条、その場に残しつつ。



・・・



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