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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第二部:『改人戦線』
36/140

第一章:05

6/20投稿分 1/2



・・・



(オノレ……)

隊長格戦闘員、コマンド・フェイスC189号は歯がゆさを胸におしこみ

哨戒任務についていた。



フェイスダウン内におけるフェイスたちの立場は悪くなる一方だ。

あのいまいましい"改人"どもの跋扈により、フェイス戦闘員は

すべからく奴らから消耗品扱いされている。


もとより、フェイスたちは目的のためになら命をいとわない。

それは自我を得た個体であってもかわることはない。

が、改人の奴らはもっと雑な命令をくだしてくる。

任務に関連があるのか怪しい命令も珍しくはない。



一般の戦闘員たちは感情も自我も薄いためその命令に思うところも無く

唯々諾々と従っている。だが、コマンド・フェイスには

我慢ならないものがあった。


この哨戒任務にでたのも、奴らの命令に従いたくないがために

自主的に外にでてきたのだ。本来なら一般フェイスの任務だ。



(総帥はなにをお考えなのだ)


そう思いつつも、思い当たる節がないわけではないだけに、

暗澹たる気持ちになる。

やはり、フェイスに裏切り者が現れたことが原因なのだろう。


(我々は……お払い箱、なのだろうか)


ぶるりと身震いして恐れをなす。

せめて、()()()が戻られれば――



(……ん……?)

ふと、外部増設センサーに反応があり身を隠す。

数百mほど離れた位置に誰かがいる。――これは……


(――ノー・フェイスか!?)


フェイスが通常備えるセンサーの数十倍の精度をもつセンサーで

相手より先に見つけることができた。

……だがどうやら、相手もこの付近にフェイスダウンの施設が

あることを察知したらしい。


(……ノー・フェイスめ……!)


ふつふつとした怒りがこみ上げてくる。奴さえ離反しなければ、

今の境遇はなかったかもしれない。そう考えればいますぐ

襲い掛かりたくなる衝動にかられる。


が、その衝動をおさえこみ現状を冷静に分析する。

何を見つけたかわからないが、警戒ぶかい態度からかなりの

確信をもって探索していることが覗える。



改人どもが考えた、カルト宗教のふりをして人間を運ぶ、という案。

なにが「人形には思いつかない知的な策」だろうか。

こうもあっさりと嗅ぎつけられるとは。



「……C189よりHQへ緊急連絡。事案D-2が発生。改人およびフェイス部隊へ

 出動を要請する」

苦々しいものをこらえて連絡をいれる。

もはやこの拠点は放棄しなければならない。が、逃走の時間を稼ぐためにも

奴をおさえなければ。……悔しいが、そのためには改人の力が必要だ。


感情を最優先する改人とは違う。フェイスは目的のためには

自身の恐怖も忸怩たる思いも無視して行動できる。それが強みだ。



(だが……ノー・フェイスさえ捕えられれば、我らの地位も

 復権できるやも……しれん)



・・・



『――今、偵察班をその周辺に集めて捜索させている。

 が、さすがにこの樹海だ。捜査は難航することが予想されるうえ、

 敵に察知される可能性も高い。俺は高台から監視し、

 逃走するフェイスたちがいないか確認する。

 おまえは偵察班の護衛にまわってくれ』

「了解」


火之夜との連絡を閉じ、周囲に気を張る。


偵察班は有能だ。桜田を筆頭に、フェイスのセンサーすら欺く

隠密術を身に着けており、そうそう見つかるまい。

が、こういった他に人もいない森の中ではどうしてもその姿は

目だつ。ノー・フェイスは無理に捜索に参加するより

身を潜め味方の動向を探ることにする。



「護衛、よろしくねーノーちゃん。頼りにしてるから」

「…………それは請け負ったが、どこからでてくるんだ、オマエは」


音も無く木の上からするすると降りてくる桜田。

逆さまになって紐につかまり眼前にまで下がってくるが、

今の今までまったく気づかなかった。

……本当に人間なのか、この女。


「実は私は異世界でニンジャをやっていたのでした!

 チートスキル:完全隠密を手にして日本に転生したのです!!」

「……………………………………そうか」

「あによー。もうちょっとノってくれてもいいじゃん?」


口を尖らせて再び木の上へと消えていく。彼女から借りた小説類は

ノー・フェイスにはあまりよくわからない内容ばかりだったが――



(……まあ、とにかく彼女らを信頼して

 待つとするか…………)



・・・



日が頂点に差し掛かる。探索を始めてから二時間が経った頃合だろうか。

ノー・フェイスの音響センサーにわずかな悲鳴が入る。



ザッ、とたちあがり即座に駆け出す。同時に味方への連絡も行う。

それまで静かだった樹海がにわかに騒がしくなる。


(――チッ!)


悲鳴はすぐに聞こえなくなった。


『ノー・フェイスッ! 出たか!』

「獣や何かじゃない。フェイスの仕業だッ!

 オマエはまだ動くなッ! 別働隊を警戒してくれ!」

『わかった!』


後顧の憂いは火之夜――アルカーに任せ、この場は自分でなんとかする。

いや、というよりも――



(偵察員を襲ったということは、奴らもこちらの存在をもっと前に

 認知していたということだ。なら――)



一直線にかけていた足をザッ、と横にスライドさせる。

刹那、一瞬前に居た場所を大きな(すい)が押しつぶす。

――やはり、フェイスは陽動だ。本命は――ノー・フェイス自身だ。



「グブフフフ……よく避けたものだ。人形風情が!」

ザザッ、と犀型改人と猫型改人、さらには猿型改人が

ノー・フェイスを取り囲む。



「ホオリ!」



胸の奥、雷の精霊によって繋がった心でホオリに呼びかけ、

応えた彼女の祈りがノー・フェイスに力を与える。



雷光が全身を這い、有形となって鎧として纏わりつく。

一度腕を滑るように打ち合わせ、仁王のように立ちはだかる。



「獲物だ、獲物だ! 楽しいぜぇ……狩りは、楽しいぜぇ!」

かちり、かちりと長い爪を打ち合わせて舌なめずりをする猫型改人。

猿型改人はくりくりとデカイ目を回すだけで、何も言わない。



「潰す! 圧し潰す!!」

高らかに咆哮し宣言する犀型改人。――三体は、なかなかキツイが。



アルカーたちに連絡を入れると、自身を囲む三体に怯むことなく

にらみかえす。

今回は、あまり時間をかけていられない。アルカーは敵拠点の動きを張り

タイミングを逃さず突入しないとならないのだ。


迎撃に出たフェイスと改人は、ノー・フェイスがなんとかしなければ。



『――おい、ノー・フェイス! 周りに出たフェイスどもは

 こっち(PCP)がなんとかする! おまえはその改人どもを

 どうにかしやがれ!』

「――頼む。が、無理はするな」



竹屋から通信が入る。先日ようやく、ノー・フェイスがもたらした

フェイスダウンの技術により新しい装備が導入された。

まだまだ奴らに対抗できるほどの戦力ではないが、

フェイス戦闘員相手ぐらいなら、戦術で補える程度には向上している。


とはいえ、急いで加勢しなければ。



「……悪いが、時間はかけられん」


ぎりり、と開いた足に力を入れ――"力ある言葉(ロゴス)"で

敵の包囲網を抜ける。


「――シャアッ!」


背後をとって電撃的にカタをつける算段だったが、どうやら選んだ

位置が悪かったらしい。猫型改人は反応速度と俊敏さを強化された

タイプらしく、こちらの動きにもギリギリついてくる。


そのするどい鉤爪をきわどいところでかわし、腕で打ち払う。

だが敵も打ち払われた勢いで回転し、今度は横なぎにしてくる。

しゃがんでなんとかかわしたところに、犀型改人の錘が打ち下ろされる。


「ぐおッ……!」


鈍痛にうめきがでるが、怯んではいられない。

猿型改人も飛び上がって手にした棒で背中を強く打ちぬく。



たまらず地面に倒れふす。矢継ぎ早につきたてられる鉤爪を、

転がって回避し立ち上がる。


(なかなか連携がいい。厄介だな)


――まずは、連携を打ち崩す。



正面には猫型改人と、犀型改人。猿型は見当たらない――

と、そこに後頭部へ強烈な衝撃が加わる。背後に回っていた

猿型改人が、樹上から強襲し棒で打ちつけたのだ。



前方にいる改人たちの方へ押しやられる。彼らは獲物をしとめる

喜びに顔を歪ませながら鉤爪をふりかざし――



「"ライトニング・バースト"」



――準備していた"力ある言葉(ロゴス)"によってノー・フェイスの

全身から発散される雷撃に打たれ硬直する。

連携が厄介なら、最初の一撃は甘んじてうけその後を途切れさせればいい。



彼らが硬直したのはほんの一瞬だろう。だがその隙を逃しはしない。

一回転しながら猫型改人のわき腹にフックを打ち込む。

俊敏さの代償に装甲をうしなった改人は苦悶に呻きながら吹っ飛んでいく。



その間に、次の"力ある言葉(ロゴス)"を発動させる。


「"ジェネレイト・ボルト"」


静かに紡がれた言葉はノー・フェイスの掌中に雷光を発生させ、犀型改人に

その掌を押し付ける。すると――押し付けられた箇所に雷光が移り、

そこから膨大な雷撃が飛び交い犀型改人を拘束する。


「うぎばばばばばばッッッ!!!」


強烈な電気の檻にとらわれ、犀型改人は動けない。長くは持たないが充分だ。



「ウキッキーーー!!」



それまで一言もしゃべらなかった猿型改人が叫ぶ。

樹上を目にも留まらぬ速さでとびまわり、翻弄する。

木の上でなら猫型改人を上回る俊敏さだ。とらえられない。



「キエーーーーーッッッ!!!」

――背後から雄たけびと共に棒が叩き込まれる。その一撃は

正確無比にノー・フェイスの背骨を打ちぬき――掴まれる。



「キキキッ!?」



最初の一撃で、この改人の威力は見定めていた。

一発ではやられることはない。なら、打ち込まれてから捉える。

棒を引き寄せ、頭突きをくわえる。


額を押さえて悶える猿型改人に、必殺の"力ある言葉(ロゴス)"だ。



「――"ボルト・クラック"ッッッ!!」



右腕に雷光が集約していき――掌底打とともに、前方へ解き放たれる。

猿型改人の胸に打ち込まれた掌打が、その内側へと電撃を流し込む。

外から内から電気に焼かれて黒焦げになった改人が――爆散する。



まず、一体。



「――ヌオォオオオオオオオッッッ!!!」



咆哮を上げ犀型改人が拘束をうち破る。流石にジェネレイト・ボルトには

敵を仕留める威力はない。



「――ヒダ・ノッ!」

「おうよッ!!」



ヒダ・ノと呼ばれた猫型改人が犀型改人に飛び乗る。

両手に持った錘を打ちつけ鼓舞し、突進してくる。


まさに犀の突進のごとき勢いのまま錘を振り下ろしてくる改人。

その一撃をなんとか両手で掴みとり圧し留める。



「エモノッ! エモノォォォッッッ!!!」

両手がふさがったその様を見逃すはずもなく、飛び降りた猫型改人が

一回転しながら斬撃をノー・フェイスにくりだす。ざっくりと、

肩口が抉られる。


がくり、と腕から力が抜ける。すぐさま犀型改人はノー・フェイスを

抱きしめ羽交い絞めにする。



厚さ数十cmの鋼板を圧し潰す膂力で抱きとめられ、呻くノー・フェイス。

――しかしこいつら、学習能力にかける。



「"ライトニング・バースト"」



再び電撃が放散される。接触していた分犀型改人に集中していく。

うめくこともできず、腕が固まりノー・フェイスを離してしまう。



「う・お・お・お・お・おぉぉッッッ……!」



動けぬ塊となった犀型改人を持ち上げる。バカみたいな重量だが、

なんとか頭上へ掲げ――猫型改人へ投げつける。



「ヒャァアッ!?」



流石に避けられたが、時間は生み出せた。

投げ飛ばすと同時に頭上へ飛び上がり、"力ある言葉(ロゴス)"で追撃する。



「――"サンダー・フォール"ッッッ!!!」



バリイッ、とあたりをつんざく轟音が鳴り響き、光速のとび蹴りが

犀型改人を貫いた。一瞬の後、雷光と共に消滅する。



あと一体。



ゆっくりとねめつけると、残った猫型改人がうろたえ――

きびすを返して逃走した。



フェイスなら、逃げることのない場面だ。改人はどうも、

自制が利かないところがあるらしい。



「――こちらノー・フェイス。改人一体が逃走を始めた。

 フェイスはこちらで倒すから、偵察班は奴を追ってくれ」



通信を切るとフェイスを求めて走り出す。

身体のあちこちが、痛む。アルカーのように攻撃を受けずに倒せれば

ベストなのだろうが、どうにもノー・フェイスには向いていない。

なら、少しの痛みは堪えて反撃で仕留める。

それがノー・フェイスの戦法だった。



(いささか、効率が悪いがな……)



・・・



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