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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第五部:『そして至るは英雄譚』
135/140

第三章:03

たいへんお待たせしてて申し訳ない……



・・・



「――できる限り、お前とは事を構えたくはなかった」

「居丈高な物言いだな」


にべもなく切って捨てるアルカーに、苦々しいものを抱えつつ一応答える。


「……本心だ。もはや私には、お前と戦う腹積もりはない。

 当面のこちらの目的はお前たちと同じ――ヒュドールの捕縛だ」

「その()()が終わった後の、おまえの()のうちが読めないから言っている。

 ――そう容易く信用してもらえると思っているところが、独善なんだよ」



相手に悟られないよう、内心で深く嘆息する。もっともな言い分だ。

そも、フルフェイスはこれまで無垢な人々をフェイスたちに襲わせ、その感情――

"エモーショナル・データ"を奪い取ってきた張本人だ。

それが今更方針を変えました、もうしません――などと言って、どうして

はいわかりましたと受け入れられるだろうか。



(だが――"信用されない"、ということはこうも堪えるものだったのだな)



ふと自分の苦悩の源泉を悟る。

多少冷静さを取り戻したとはいえ、アルカーは依然厳しく敵意のこもったまなざしを

こちらに投げかけている。不戦を訴える言葉が通じないのも、アルカーのフルフェイスに

対する不信感が根強くあるからだろう。



信用されていれば、言葉だけで事足りた。

信用されていないから、まず拳を交えないとならない。



(……だが、今はアイツとその拳を交えること自体、したくないのだがな……)



独白しながら、無雑作に右腕を頭の側面までもちあげる。

刹那、鈍い音がさく裂して強い衝撃が腕全体を襲う。


ほんのわずかに意識を逸らした瞬間にアルカーは一跳びで間合いを詰め、

廻し蹴りを放ってきたのだ。まるで容赦も隙もない。



が、こちらとてそうそうこともなく虚をつかれるものでもない。

単眼からの視線はアルカーの正面から外さず、右腕の感触だけで相手の

足を捌ききる。



右腕に着弾したアルカーの左脚は、接触した場所を支点にして器用にも

腕を巻き取り、地面へと叩きつけようとしてくる。その動きにはあえて逆らわず、

相手の速度よりわずかに早く腕を下ろし、蛇のようにするりと引き抜く。



アルカーもその動きに対応し、脚の機動を二転三転させ、脇腹、右脚、頭部へと

打ち付けようと狙う。その全ての動きの先を取り、潰していく。



視線も意識も、アルカーの正中線から外さない。この程度の動きは見る必要どころか

気を逸らせることさえなく、読み切ることができる。



ほんのわずかに、アルカーの気配に迷いが出る。

左脚で繰り出した攻防でこちらの意識に乱れを生じさせようとしていたのだろう――

それを察していたからこそ、"読み"だけでアルカーの蹴撃をしのぎきり、

隙を見せなかった。そのことで逆にアルカーにごく些細な隙が生まれる。




それを見逃さず、腹から上に突きあげる形で掌底を打ち付ける。



「ぐおっ……!」



赤い体躯が軽々と宙に浮きあがり、そこにすかさずもう片方の手でも掌底を打ち放つ。

地から足を離した状態では文字通り踏みとどまることもできず、後方へ吹っ飛び

壁面を砕いてめりこみながら、ようやく止まる。



が、すぐに瓦礫を掻き分けて立ち上がってくる。

――これで諦めてくれるようなやわな男ではないことぐらい、わかってはいるが。



(……可能な限り迅速に無力化し、かつ致命傷を与えない。

 これは……なかなかに、骨だな……?)



胸中に辟易した思いがよぎる。

こんな時ばかりは、自身の顔が表情のない仮面であることを感謝せざるをえなかった。



・・・



(くッ……)



がらり、と瓦礫を押しのけて起き上がる。

たいした威力の一撃ではない。その気になれば即座に反撃に移れる程度に加減された

攻撃だった。が、頭にのぼった血を冷えさせるにはちょうどいい塩梅でもあった。



(完全に虚をつかれた……)



互いに小手調べのような攻防ではあった。だが、あそこまでキレイに隙を

撃ち抜かれたのは数えるほどしか記憶にない。



意識が乱れたと言っても、1ミリ秒にさえ届かないような逡巡だ。

だがフルフェイスはまるでその迷いが生じるのを予期していたかのごとく、

完全に掌底をあわせてきた。



(キープ・フェイス以上かもしれん……)



思い出すのは海上で激戦を繰り広げた、最強の"フェイス・アンドロイド"だ。

まがりなりにも撃破こそしたものの、タイマンでの実力で言えばいまだに及ばない

……とさえ感じている。



さすがに(キープ・フェイス)を創り出した存在なだけはある、ということか。



(……。いや……?)



その時、アルカーの胸のうちに言い知れない疑問がわいてきた。

それがなんなのか、うまく形にして把握できない程度の曖昧な違和感だ。



(……なんだ? 言葉にはできないが、以前戦った奴とは何かが……)



視界が灰色の仮面で覆われる。フルフェイスが間合いを詰め、追撃を

繰り出してきたのだと意識するよりも早く、身体が反応する。


後ろに体重をかけた体勢のまま、フルフェイスの胴体めがけて蹴り上げる。

が、それもまるでアルカーの足がそこに持ちあがることを

予期していたかのごとくあっさりと踵を掴み上げ、渾身の力で腰をひねり

真後ろを振り向く。



必然、その動きに合わせアルカーの身体は振り回されて再び投げ飛ばされる。



「そうッ……そう! やられっぱなしというわけにもいくかッ!!!」



だが今度は空中で身をよじり投げ飛ばされた先の壁に()()する。

そのまま壁を踏み台にして蹴り砕き、フルフェイスの元へ飛びかかる。



仁王立ちした相手に激突する直前、《≪力ある言葉(ロゴス)≫》を解き放つ。



「フラカン・リボルバーッ!!!」



本来は高速で回転しつつ炎の廻し蹴りを放つ技だ――が、空中で、

しかも敵に密接した状態では安定して発動させることはできない。



不完全に形成された炎の渦がアルカーとフルフェイス二人を巻き込み、

でたらめにかき混ぜてあらぬ方向へと弾き飛ばす。


双方ともに、大したダメージはない。だが無作為な行動で互いの位置を動かし、

相手の呼吸を乱したかったのだ。




しかし。




「バカなッ!?」




受け身を取って着地し、フルフェイスの位置を確認しようと面をあげたアルカーの目に

映ったのは、両の拳を握り締め、アルカーへと打ち下ろそうとしているフルフェイスの

姿だった。



なすすべもなく、地に叩き伏せられるアルカー。ブレイクダンスの要領で首を起点に

蹴りを放つが、空を切る。



その勢いで飛び跳ね、立ち上がる。見やるとフルフェイスは一度距離をとったようだ。



大したダメージではない。ないが、動揺は強まる。



(今の合わせ方は……俺があそこでフラカン・リボルバーを放つと

 予期していなければ、不可能だ)



全てが見透かされている。まるで徹底的にアルカーの行動パターン、思考パターンを

研究し尽くしているかのように。



アルカーのことを、理解し尽くしているかのように…………。



「……………………」



ぎり、と知らずに握り締めた拳が擦れて音を立てる。

どうにも、一筋縄でいかない相手のようだ。



・・・



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