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今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?  作者: marupon
第五部:『そして至るは英雄譚』
134/140

第三章:02



・・・



暗闇に包まれた回廊を二条の光が照らしていく。

NX-6Lのヘッドライトは睨みつけるような双眼を模したデザインだが。

ふと、今の自分もそんな表情なのだろうかと心の中で独りごちる。


(……)


考えてみればこうして一人でバイクを走らせるのも、ずいぶんと久方ぶりな気がする。

都会の騒音すらない、並列四気筒のエンジン音だけが響き渡る中無心にスロットルを

開いていると、いやおうなく意識は内側へと向かってしまう。



フルフェイスを倒したあの日。

ノー・フェイスが死んだあの日。

ヒュドールに逃げられた、あの日。



長きにわたって戦ってきた首魁を倒したというに、火之矢の心はまるで晴れなかった。

その代償は計り知れないものだったが、いまだ奪われた日常は戻ってこない。

アドバンスド・カインド――ヒュドールに率いられた改人たちが世間を騒がし、

あまつさえ倒したはずのフルフェイスまでもがよみがえってきた。



これでは、アイツはなんのために犠牲になったのだろう。



(――)



一定のリズムを刻む排気音が、次第に脳裏にしみわたっていく。

まるで心臓の鼓動が、思考の波がエンジン音に均されていくかのように一定に沈む。

怒りや焦燥、雑念が静かに抑えつけられていく……。



(――(フルフェイス)は、なぜ戻ってきた?)



そうしてあたりを包む闇のように冷たくなった思考の中に浮かび上がってきた疑問が、

ソレだった。



そうだ。

フルフェイスの目的はあの時、ヘブンワーズ・テラスの決戦で既に聞いた。

そして火之矢の身体を通して伝えられた炎の精霊の言葉により、

奴は己の計画の瓦解を悟った――そのはずではなかったのか?



(いまだに……人類をフェイスと入れ替えようとしている?)



独白してみるが、しっくりこない。そもそも、現時点ではフェイスが

新たに人々を襲ってエモーショナル・データを奪っているという報告はない。



では奴は何のために?



(……こんな益体ないこと(思考)は、アイツの得意分野だったな)



内心苦笑する。自分には向いていないのだ。

だが、こんなことにも頭がまわらないほど思い詰めていたのだろうか。



「……そうして考えると、奴らしくない行動が目立っていたな……」



考えてみれば陣頭にたって自ら行動を起こすなど今までのフルフェイスらしくはない。

いかなる心境の変化があったのだろうか。



「……」



グッ、とアクセルを握る手に力を込める。

兎角、誰かを見つけなければ話にもならない。


ヒュドールか、フルフェイス――そのどちらかがこの回廊の先にいることを祈って、

アルカーはバイクを走らせ続けた。



・・・



「……」



べきっ、と半開きになった隔壁をへし折って中に入る。

今までの場所より闇が深い。それはとりもなおさず広大な空間があることを意味する。



視覚センサーの明度をあげ、周囲を見渡す。

フェイスダウン総帥の視界に入ってきたのは――広い空間に雑多な工具や重機。

そして……



「――見つけたぞ」



一つ、手ごたえを感じて思わずつぶやく。

アルカー、もしくはヒュドールの発見が現時点の最優先事項ではあるが、()()の捜索も

また必要なことの一つだった。



目の前に鎮座する()()の状態をチェックする。

相転移エンジン - GREEN

地表用反重力推進装置 - 4基中3基がダウン。

短距離航行用プラズマジェットエンジン - 稼働するも燃料が不足。

恒星間航行用ハイパードライブ - GREEN

貨物用ステイシスフィールド - 電装エラー。

……



問題はない。

修理やメンテナンスは必要だが、短期間で万全の状態へと持っていけるだろう。

長い間放棄されていた割には上出来だ。



が、ここから動かすことはできないのが難題だった。

とりあえず位置をマーキングしてはあるが、ここへの転移ポータルを繋ぐにまず、

この宙港ドッグのシステムを掌握しなければならない。



(順当にいけば、そこにヒュドールが居る……か?)



自分でくだした結論にやや疑問符をつける。

業腹ではあるが、およそ陰謀やら謀略やら、といった面において自分は

ヒュドールの足元には及ぶまい。なにせくぐってきた年季が違うというものだ。



()()()考えた場所に相手がいるとは、考えにくいのだが……。



「……とはいえ、他にアテがあるわけでもない。

 ここに長居をして変に勘繰られても都合が悪い。

 とりあえずはコントロールセンターを目指――」



やにわに振り向き、暗闇から吶喊してきた物体を受け止める。



(グッ……!)



200kg近い炎の塊。いや、違う。

これは大型バイクに、炎の力を纏わせたものだ――!



「――ぬぅん!」



意志を持つかのようにじりじりと押し込んでくるバイク――NX-6Lを力任せに

横倒しにし、壁へと投げつける。が、その瞬間に自身の横顔に強烈な蹴りが

突き刺さる。



その勢いのまま後方へ飛び退り、威力を少しでも受け流す。

ざりっ、と床を掴んでとまり、そっとはないがをさすると高い熱を放っている。



「――見つけたぞ、フルフェイス」



内心舌打ちをしながら蹴りが飛んできた方向を見やる。

静かに、それでいて力強い足取りで闇から赤い炎が――いや、炎の戦士が姿を見せた。



「――アルカー、か……」

「ヒュドールは――いないようだ、な」



先ほど街中で見た時よりは、幾分か冷静さを取り戻しているようだ。

探していた相手とは言え、できれば彼よりもヒュドールと先に遭い、

そちらを抑えたかった。しかも場所が悪い。



「……悪いが、貴様と遊ぶつもりはない。

 ヒュドールがいるコントロール・センターへ向かうのが先決なのでな……」

「先ほどからお前は()()()を見ていたな。

 お前にとって、必要なモノなのか?」



さらに内心で舌打ちする。観察力を取り戻してもらえたのはありがたいのだが、

よりによって今この場では、困る。



「逃げるなら逃げろ。

 俺はこのデカブツをぶち壊してから、お前の後を追わせてもらう」

「……」



胸裏で嘆息しつつ、諦めてアルカーと正対する。

――こんな形で彼と対峙するのは、いったいいつ以来だろうか。



(……ああ、あの時以来だ、な……)




がしっ、と自身の手首をつかみ、ひねる。

半身を開いて相手に向き直り、その一挙手一挙動に集中する。



再び、アルカーと戦わなければならない時が――来たのだ。



・・・



(……思ったより早く、ぶつかってくれたな)


どろり、と配管から()()()()()ヒュドールはほくそ笑んだ。


水の精霊の力をまとうアルカー・ヒュドールは、自身を液状化させることができる。

何度か彼らの前にも披露した能力なのだが――なかなか意識にいれづらいのだろう。



(……こちらはしばらく、離れた方がよさそうだな)



アルカーはもちろん、フルフェイスもようやくやる気になったようだ。

ここは激戦区となる。万が一にもこちらへと矛先が向かないとも限らない。


それに――まだこの施設を完全に掌握したわけではない。

いやむしろ、アドバンスド・カインドの制圧下にない施設だからこそ罠の場所として

選んだのだ。自分たちの基地の中で、フルフェイスとアルカーにぶつかられては

たまったものではない。



(まずは、コントロール・センターとやらを探すか……)



ずるり、と別の配管へすべりこみ、その場を後にする。

アルカーが勝つか、フルフェイスが勝つか。

いずれにせよ、残った側も無事では済むまい。


(……できれば、アルカーに勝ってほしいものだがな)


フルフェイスに炎の精霊が抑えられるのは、それはそれで望ましくない。

場合によっては戻ってきて介入が必要かもしれないが――しばらくは大丈夫だろう。



まずは、この施設を掌握せねば。



・・・



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